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4K BRAVIA X9500B/X9200Bから見るソニーの「ハイクオリティ4K戦略」

 日本の4Kテレビにて、もっとも高いシェアであるのはソニーだ。特に2013年には、4K全体の7割のシェアをとったこともあるほど。テレビ事業再建の中で、4Kへのシフトを強く推し進めるソニー。その中で、どのような商品性・画質構成を考えているのだろうか?

4K BRAVIA「X9200A」。エッジ型部分駆動の4K液晶を採用。デザイン面も、BRAVIAのイメージを担うモデルでもある

 今回は、ソニーの4Kテレビ商品企画者と開発者に、「2014年のソニーのテレビ」が狙ったものを聞いた。取材にお答えいただいたのは、商品企画担当のソニー・ホームエンタテインメント&サウンド事業本部 企画マーケティング部門 TV&Video商品企画部 企画第一課 統括課長の廣田秀郎氏、画質担当のTV事業部 商品設計2部 設計3課 エンジニアリングマネージャーの勝義浩氏、音質担当のホームエンタテインメント&サウンド事業本部 V&S事業部 音質設計部 3課 アコースティックエンジニアの楠治人氏の3名だ。

 特に今回は、4Kモデルでも上位機種にあたる「X9500Bシリーズ」および「X9200Bシリーズ」を中心にお話を伺った。

左から、商品企画担当のソニー・ホームエンタテインメント&サウンド事業本部 企画マーケティング部門 TV&Video商品企画部 企画第一課 統括課長の廣田秀郎氏、ホームエンタテインメント&サウンド事業本部 V&S事業部 音質設計部 3課 アコースティックエンジニアの楠治人氏、TV事業部 商品設計2部 設計3課 エンジニアリングマネージャーの勝義浩氏

「部分駆動」についての蓄積を生かして「光の表現」にこだわる

 4Kの最大の特徴は「精細感」だ。だが、それは当然のことであり、すでに単純にアピールする時期は過ぎている。2012年から4Kの本格展開をしたソニーとしても、精細感の次のレベルの訴求がカギ、と見ている。

商品企画担当の廣田氏

廣田氏(以下敬称略):4Kの精細感により、今までは見えなかった画質で「見える」ようになる、というのが魅力でしたが、昨年はさらに、そこに「色」の要素を加えました。きめ細やかな要素+色のあざやかさで、奥行き感や臨場感が高まったことが、ご好評をいただいた要因だと考えています。

 今年の強化は、そこに「光の表現力」を付け加えることです。同じ色でも、今まで表現できなかったきらめき・陰影・コントラストが再現できるようになることで、画質は大きく変わります。今年はそこを軸にしたいと考えました。店頭デモなどでも、光の表現力がわかりやすいよう、ピンスポットのステージの映像や、太陽のきらめきがわかるような映像を用意しています。光の表現力を、絵の価値として伝えられるものにならないか、と考えてのことです。

 同社は「X9500B」「X9200B」に「X-tended Dynamic Range」(XDR)と呼ばれる技術を搭載している。特に直下型LEDバックライトを採用したX9500B向けでは、「X-tended Dynamic Range PRO」と名付けている。

 XDRでは、映像とバックライト両方に処理を加えることで、映像の明るい部分に電力を集中し、暗部と明部のコントラスト差をより高める役割を果たす。カタログ内では、「画面全体を白色とした場合との比較」という形で、X9200Bの場合、明るい部分に2倍の電力を集中し、「XDR PRO」搭載のX9500Bの場合、3倍の電力を集中する、としている。いわゆる「ハイダイナミックレンジ(HDR)再現」技術の一つだ。

 その結果今年の4K BRAVIAは、特に明暗のコントラストがはっきりした映像の表現力が高まっている。例えば、映画「ゼロ・グラビティ」のように、宇宙空間に微細な星がきらめくシーンが多い映像では、圧倒的なリアリティが実現できる。4Kの精細感とXDRのコントラスト感がマッチしやすい、X9500BおよびX9200Bに最適なコンテンツといえそうだ。もちろんそういう極端なシーンだけでなく、通常の映像でも効果はある。若干暗い山の稜線のような部分の表現や、彫りの深い顔のディテールなどでは、XDRの効果がうまく現れる。明るい部分の「明るさ」という点では、他社製品と極端な差があるわけではないと思うが、暗い部分の沈みこみや、そこでのディテールの再現性については、正直今期の製品でトップだ。なにより「明るくなっても暗いところが引きずられてつぶれない」「暗いシーンでもディテールに違和感がない」という2点を評価したい。そういう意味では、我々の頭の中にある「液晶っぽい映像」とは異なる、といってもいいだろう。

 こうした画質は、どうやって生まれたのだろう? 主にBRAVIAのバックライト技術を担当している勝氏は次のように説明する。

バックライト技術など画質担当の勝氏

勝:もちろん、コントラストの調整と再現は、ある範囲の中で、いままでもやっていたことではあります。LEDバックライトの部分駆動により、「黒を黒く」することができます。結果、あまった電力を明るい部分に回す、というのがXDRの基本的な考え方です。画質表現のための「武器が増えた」と考えていただければいいと思います。

 LEDバックライトの部分駆動は、もちろん昨年も行なっていたことです。それがなぜ今年のモデルから大きく進化できたか、ということなんですが……。要は「考え方のブレイクスルー」に到達した、ということなんです。

 明るい部分に電力を回す、という考え方は、2年前の「HX950」でも「インテリジェントピーク」という名称でやっていました。その時は、明るさは出るものの、トレードオフとして、レンジ感を大きく広げることはできませんでした。そこで今回、黒さを保ちつつ明るさを拡大できるようになったのがブレイクスルーなんです。

 それがなぜできるようなったか、ということは、ある意味、コロンブスの卵みたいなもので、実は技術的に大変なことをしているわけではないのですが、今まで経験を積み重ねてきたからこそ実現できた、と考えています。

 バックライトの調整によるダイナミックレンジ再現は、多くのメーカーが試みているものだ。ただし一般には、よりバックライトの分割数を増やせる上に輝度も高めやすい「直下型LEDバックライト」が有利だ。事実、ソニーも最上位機種であるX9500Bでは直下型を採用している。そういった事情もあり、エッジ型分割駆動を採用した製品はダイナミックレンジが狭いのでは……と言われることが多い。しかし、勝氏は「必ずしもそうとは言えない」と話す。

勝:確かに、スペックチャート的には直下型の方がいいでしょう。ただ、直下型といっても、LEDが背面に2次元的に配列されていることだけを示しているもので、それによって部分駆動の効果がどれだけあるかを読み取るのは難しいです。実際問題、日本メーカーだけでなく海外メーカーも「直下型」をウリにしつつありますが、同じ直下型でも、パフォーマンスのレベルの差はかなりあります。

 同様に、エッジ型にもパフォーマンスの差はかなりあるんです。むしろ直下とエッジを比較して、エッジの方が良いという場合だってあります。

 弊社はエッジライトであっても、十分なパフォーマンスが出るアルゴリズムを持っています。輝度方向に振るということは、なにをやらないといけないかというと、どれだけバックライト側で、輝度に回せるだけの消費電力を稼げるか、ということです。より独立して、光っているところとそうでないところを大きく動かせるか、ということが重要なのですが、それが意外に難しいのです。どうしてもエラーが出やすいので、海外メーカーの場合、駆動状況を抑えているところもあるようです。

 部分駆動は言葉で言うと「明るいところはつけて暗いところは暗く」ということなんですが、それだけではバックライトが暗くなります。例えば、信号レベルを50%にすると、画面輝度は25%になってしまうんです。部分駆動の基本的な考え方では、そうした場合、液晶の開度を100%まで上げます。バックライトを下げた上で液晶を開けて、元の明るさにすることが基本です。ということは、常にバックライトと液晶を同期させないといけないわけですが、その精度が難しいんです。それをどこまでコントロールできるかがポイントです。

 弊社では、2008年発売の「XR1」で、RGB LEDの部分駆動バックライトを採用しましたが、それ以来、脈々と蓄積してきたことによって、このパフォーマンスを上げられるようになってきました。

 実際、エッジ型を採用している「X9200B」も、XDRによるダイナミックレンジ拡大の効果はかなり高い。少なくとも、昨年モデルである「X9200A」とは一見して違いが分かるくらいのクオリティアップが図られている。ソニーとしては、X9200BとX9500Bの違いを「コントラスト、きらめき感に差があり、9500の方が懐が広い」(勝氏)と説明している。

 4Kでは液晶側の精細感が増したため、バックライトのコントロールにはより正確さが求められる。勝氏も「2Kでは許容された範囲でも、4Kでは画質を台無しにするものになってしまう」と話す。

勝:精細感は画素同士の輝度差で決まりますが、バックライト側のコントラストが拡大したということは、精細感・解像度感の見え方も変わりますし、色も変わります。そうした要素を融合し、トータルで美しい、臨場感のある設計を目指します。コントラスト側の拡大により、去年までとはまた違う、色・解像度側での調整も必要になりました。

 そうした総合的な画質向上の試みの結果が、今年の「X9500B」「X9200B」の画質につながっている、といえそうだ。

より「テレビ」にふさわしい音響を目指したX9200B

 4Kテレビにおいて、ソニーがアピールするもう一つのポイントが「音」だ。テレビ事業トップの今村昌志氏は、以前筆者の問いにこう答えている。

「我々には、いい絵にはいい音が必要だ、というポリシーがある。4Kで画質が上がったのであれば、それにふさわしい音質が実現出来なければ、お客様の満足は得られない」

 そうした考え方から、特に2012年末以降の4Kモデルでは、テレビの音質を強化する方向にある。その象徴といえるのが、2013年モデルの「X9200A」だった。左右に巨大なスピーカーのついたルックスは、いかにも音がよさそうであり、4K BRAVIAのアイデンティティの一つになっている。今年の「X9200B」も、そのデザインと音質に関するポリシーを引き継いでいる。音質面の開発を担当した楠氏は、X9200Aと9200Bの両方を手がけている。

X9200Bシリーズの音質を担当する楠氏

楠:X9200「A」の時には、まずああいう形ですから、「自然」であること、絵に対して音が自然に出ることをに気を配りました。音の高さや左右の動きなどが、画面に合わせて忠実に再現することを目指しました。

 発売後、音質には一定の評価をいただけてありがたかったのですが、他方で、「これだけ立派なスピーカーなのだから、5.1chでのサラウンドや、サブウーファーの組み込みも目指して欲しい」というお声もいただきました。

 X9200Bでは、「人の声」が聞きやすくなった、ということが大きく違います。そして、低域用のスピーカーが前についたので、位相感もアップしています。声と低域の改善に注力しました。また、サラウンドソースについても、ダイレクトに5.1chのソースを受け入れるようになりました。

 では実際にどう違うのか? 筆者の聞いた感触でいえば、「よりテレビに適したスピーカーになったが、音楽表現もリッチになった」という印象だ。元々X9200Aは、テレビの横にスピーカーがついていることから、画面と音の位置が揃っていた。だが低音が弱く、音としても見た目に比べ弱めで、特に、音楽ではなく「映画向け」としては不満を感じた。映画ソースを入力した際、センターがどうしても弱く感じて、セリフが聞き取りづらくなりやすかった。

 だがX9200Bでは、そうした弱さがはっきりと払拭されている。カジュアルに映画を見る際でも満足感は高くなったし、一般的な音楽を聴く場合にも、低域から中域にかけての「太さ」が好ましいものになった。音については、店頭などで理想的な環境で試すのが映像よりも難しいだろうから、9200Aからの改善点を体感いただくのは厳しいかもしれない。しかし、AとBの差は映像の進化と同様にはっきりしており、好感を持てる。高音質になった、というよりも「テレビに求められるハイクオリティなビルドインスピーカー」として、ようやく納得いくバランスに到達した、という印象だ。

左が13年モデル「X9200A」の、右が14年モデル「X9200B」のスピーカー。明瞭さが向上し、すっきりした聞き心地になった。

 そのために今回、X9200Bに向けての改善点は「非常に多い」と楠氏は言う。

 見た目ですぐに分かるのは、メインスピーカーの素材が変わったことだ。9200Aではポリプロピレン製だったが、9200Bではグラスファイバーを雲母で強化した素材に変わった。グラスファイバーの格子模様が目立つが、音としては決してトリッキーな変化ではない。音圧・音離れ・明瞭さの点で、素材の変化はプラスだ。

 9200Aでは背面にあったサブウーファーが前面にきたため、見た目上、スピーカーは「3列」になったように見える。低音の発する方向を前面に統一することで、かなり聞きやすい、不自然さのない音になったと感じる。

 また、アンプ回りの回路も大きく変わっている。9200Aではテレビ系の回路とまとめられ、独立した基板ではなかったが、9200Bでは独立基板になった。それに合わせ、電解コンデンサー・パワーアンプIC・コイルに音質向上に寄与する、よりハイクラスなパーツが使われるようになった。これらの改良は、主に低音の伸びと解像感につながっている。

「X9200B」の音声系基板。X9200Aで得た知見が多く盛り込まれ、高音質化を目指した様々な改善が行なわれている

 また、9200Aでは、マルチチャンネルのソースが入ってきた時、一度2chにダウンミックスしてから再びマルチチャンネルのバーチャルサラウンド処理を行なっていたため、どうしてもロスが大きかった。だが9200Bでは全工程をマルチチャンネルソースのまま処理し、最後にバーチャルサラウンド化する。これは音をより忠実に再生し、定位移動感を充実させるためにプラスだ。

 これだけの変更を行なうには、当然かなりのコストがかかる。サウンドバーなどが売れていることも考えると、テレビにそこまでの「音質改善コスト」をかけるメーカーはなかなかないような気もするし、それが直接的に大きな売り上げになるのか、という疑問もある。だが、ソニーがテレビについて「音も良くなければならない」と本気で考えており、X9200シリーズをその象徴と考えていることが分かる。

 ソニーはX9500B・X9200Bで、非常にハイクオリティな製品を作った。昨年モデルに比べた満足度向上という意味では、他社以上といえるかも知れない。

 他方で、両モデルは価格も高い。X9500Bは65型モデルの実売価格が80万円以上、X9200Bも55型で40万円程度だ。もうワンランク下位にあたる「X8500B」は他社機種並の水準になるが、クオリティ面での満足度では、やはり上位2モデルの方が上でお勧めできる。

 4Kはまだハイエンドだが、ソニーは特に「クオリティ重視・上位モデル重視」の方向性にある。その結果、今期のシェアはおそらく下がるだろう。しかし、ソニーもそのこととは当然承知している。

 徹底したハイクオリティ路線が実を結ぶかどうか。そして、消費者にその価値がきちんと伝わるかどうか。

 ソニーの今年の4Kは、そこにすべてがかかっているといえそうだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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