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PS4値下げの背景は? PS VRへの期待は? SCEアンドリュー・ハウス社長に聞く

 SCEは9月15日、東京ゲームショウを前にプレスカンファレンスを開催し、今年から来年にかけての発売タイトル紹介と、PlayStation 4(PS4)の値下げ、新サービスの国内開始なども発表した。

 日本では苦戦が伝えられてきたPS4の現状はどうか? そして、Project Morpheus改め「PlayStation VR」や、新サービス「PlayStation Now」の勝算はどうなのか? ソニー・コンピュータエンタテインメントのアンドリュー・ハウス社長兼CEOに聞いた。

SCE アンドリュー・ハウス 社長兼CEO

日本市場は「3つの施策」で攻める

−PS4の展開については、昨年以上に積極的だったと感じます。日本市場の状況と、今後の戦略について教えてください。

ハウス社長(以下敬称略):おっしゃる通りです。これはどちらかといえば感想ですが……、クリエイターの方々のプレゼンテーションを聞いていて、いよいよPS4ならではのソフトが出てくるようになったのだな、と思いました。我々にとっては健全で、良い動きだと思います。タイトル数も大事ですが、それぞれ魅力があり、買いたいと思うタイトルが多く発表され、その点を嬉しく思っています。

東京ゲームショウSCEブースはPlayStaion 4が中心

 いつも申し上げていますように、このビジネスは「モメンタム(勢い)」が非常に大事です。素晴らしいソフトが集まっている今こそ、我々がコストダウンのために頑張った部分を、ユーザーの方々にご提供したい、と考えました。それに、東京ゲームショウのニュースバリューも高めたい、と思いましたからね。

 主にこの3つが理由で、値下げしたPS4でチャレンジするにはいい時期ではないか、と考えたわけです。

 最後のポイントとして、日本のチームが作ったテレビキャンペーンCMも、とてもよくできていると思います。私は元マーケッターですから、部下から見れば厳しい先生かもしれません(笑)。その分皆苦労はしたと思うのですが、今回はとてもいい。

 なぜなら、これまでのゲームに対するコミュニケーションのトーンとは変わっているからです。もう一度日本のユーザーに、自ら「ゲームの魅力はなんだろう」と考えてもらいたいのです。「ハマる」という深い体験はいいのですが、一方、ゲームの強みとして、現実でできないことがゲームではできる、ということもあります。そのシンプルさを、一度はゲームを離れてしまった人たちも含めて、思い出してもらいたいんです。

PS4新CM「できないことが、できるって、最高だ。」篇

--欧米で濃いゲーマー向けにPS4が爆発的なヒットを記録した一方、日本市場の状況として、「ゲームをする」ことへの積極性がなかなか見られなかった。その状況は、どう変わっていくと考えていますか?

ハウス:幾つかの戦略は用意しています。もちろん、すべてが成功するとは限らないのですが。

 一つは、従来通り「いいコンテンツが集まれば、ユーザーの楽しみは増える」というものです。これはコアです。

 もう一つ、そこで「PlayStation VR」(PS VR)が大きな役割を果たすと思っています。なぜなら、自分自身、ライトゲーマーであるアンディ・ハウスとしても、VRを体験した時、複雑な操作性でない、分かりやすい・楽しいゲームを提案できます。もちろんコアユーザーのVRへの興味は大きく、ぜひ購入して欲しいと思っているし、購入していただけると確信していますが、それ以外の、ゲームから離れている人やゲーム初体験の人々に、(VRを)全然違うメディアとして感じていただきたいんです。

PlayStation VR

 最後の一つが、PlayStation Now(PS Now)です。クローズドベータテストには、我々社内の人間が驚くほどのユーザーが集まりました。なぜか、という点について、仮説を立てて考えているのですが……。

 人々はゲームを買う時、ゲーム機とゲームの購入をする時、ある程度お金をかけたので、その分、時間を用意しなくてはならない、と感じているようなのです。ストリーミングであれば、ユーザーさんがより手軽な価格で、便利にバリアーなく楽しむことができます。

PS4でPS Nowを起動させたところ

 これらは同時に全て動いていて、日本のお客様に一番響くのが何かは断言できないのですが、私は、どれかは確実に響く、と思っています。

-- PS Nowの価格帯決定の理由を教えてください。短期レンタルは200円からと安価である一方、サブスクリプションモデルは1カ月間2,315円からと、それなりの価格です。

ハウス:1カ月間2,315円は安くはない、とおっしゃいますが、別の計算もあります。100タイトル以上が遊び放題でこの値段、と考えてください。新品のゲームソフト、もしくは中古ソフトを購入することと比べても、圧倒的にお手軽です。100タイトル買えば、中古でも大変な値段になります。

BRAVIAでPS Nowを動作させたデモ

 まずアメリカで導入し、その際に、価格について色々なトライアルを行ないました。アメリカのユーザーの声を聞くと、圧倒的に「サブスクリプション」支持なんです。月に20ドルなら納得感がある、と言われていて、自信を持っています。アメリカでは、サブスクリプション導入後、ユーザーの声は圧倒的に「これを待っていた!」というものでした。「単品レンタルもいいが、サブスクリプションの遊び放題を!」という声が多いのです。Netflix(ネットフリックス)があそこまで成功している国だからでしょうか。我々はそういう言い方はしていませんが、ユーザーからは「Netflix of Games」とも言われます。

 日本では(単品)レンタルビデオの市場が大きいので、同じように単品レンタルモデルが伸びるのか、サブスクリプションに移行してしまうのか、どちらが響くのかは、これからの状況次第かと思います。

VRに必須の「Light Valve Moment」

--PS VRは、どうしてもコアユーザー向けで難しいもの、という印象を持たれがちです。SCEとしては、むしろゲームをシンプルにするもの、として期待しているのですか?

ハウス:コア向けもシンプルなものも、両方大事です。バランスは取らないといけません。今回の東京ゲームショウのデモのラインナップも、バラエティに富んでいます。

 全くの新カテゴリーですから、可能性をどう示すかが重要です。

--VRをいかに「普通の市場」に持ってくるかが、非常に大きなチャレンジです。

ハウス:おっしゃる通り。「トライアル」が極めて多い。そこが大事です。

 しかし、中でも重要なのは……日本語ではなんていうんだろう……。英語だと「Light Valve Moment」が重要なんですよ。ある体験をした瞬間に、頭に電球が「ピカッ」と点くような時ですね。VRには必ずある瞬間です。

PlayStation VRを体験

 SCE社長として適切なコメントではないかもしれないのですが(苦笑)、私は初期には、社内でもVRにはかなり懐疑的な人間だったのです。

 しかし、「The London Heist」というコンテンツの開発初期版を試した時に、まさに「Light Valve Moment」がやってきたんです。「これならやりたい! 売れる!」と確信できました。

 今でも鮮明に覚えているんですが、デモが終わった時、手に持っていたPlayStation Moveコントローラーを、「空中に置いた」んです。映像の中ではそこに机があったからなんですが、実際の空間には、もちろん何もない(笑)

「ああ、こんなに騙されてしまった!」と衝撃を受けました。これがVRなんですよ!

 そういう瞬間を、なるべく多くの人に感じてもらうことが、我々の仕事だと思っています。だからこそ、東京ゲームショウだけでなく、地方の人々にも、できるだけ、PS VRを体験してもらうための準備を進めています。

 そこから口コミを作るのが次の段階です。

--それは、まだ家庭用ゲーム機がない時、それを普及させる過程で起きたことそのものですね。

ハウス:そうです、おっしゃる通りです。もちろん、困難はたくさんあるのですが、我々は20年、ずっとチャレンジしてきた会社ですからね。やります。

-- 正式名称が「PlayStation VR」になった理由はなんですか? 「Morpheusはかっこよかったからそのままでもいいのに」という声もあります。

ハウス:もちろん、そういう考え方もありますね。自分自身は、けっこう早い段階から「この名前じゃないか」とは思っていました。

 いいブランディングには2種類あると考えます。発想をいかして「飛んだ」名前をつけて、価値は後からつけていく、というパターンと、簡単で誰にもわかり易い名前、というパターンです。今回なぜ後者を採ったのか、というと、VRが全く新カテゴリーであるからこそ、できるだけ認知度が高い単語、VRとPlayStationの組み合わせで、という結論になったのです。

「ローカライズ」がアジア市場を開拓する

--現状、Vitaの市場はいかがですか?

ハウス:日本とアジアについては、きわめて堅調な市場だと思います。

 特に、日本のデベロッパーの方々の見方も変わってきて、「日本市場でもビジネスになるが、アジア市場もさらに大きな可能性を持っている、と考えるようになりました。

 そうしたビジネスチャンスがあることを評価して、我々にも反応が返ってきています。

--特にアジア市場は、どのくらい重要度を増しているのでしょうか。

ハウス:アジアの特徴として、唯一、「欧米のコンテンツも日本のコンテンツも響く市場」である、ということです。時に、日本の開発者の方々との交流が大事だと思います。

 我々の中でのアジアの重みが高くなった、というだけでなく、アジアからの利益が増えているということは、ゲームベンダーの皆様には大事なことです。

 しかし、全体のビジネスでいえば、まだ大きいわけではありません。

 若干脱線しますが、私、先週ドバイへ出張に行ったんです。ドバイ市場は、「これから」ではなく「もう現実」、という段階です。PS3の立ち上げに比べ、3倍のペースで伸びています。担当者は「この市場は『Imagine』(仮想)じゃなく『Imaged』(考えた)ものだ」って強調しています。アジアも何年か経過すれば、ドバイのような市場になる可能性があります。

 鍵は「ローカライズ」です。それを丹念にやることが成功の近道です。20年前にはありえない状況です。ドバイもそうでした。まずOSをアラビア語対応し、それを現地の人々が評価してくれました。しかも、表示だけでなく検索など大変な部分までローカライズします。それが、その市場に対するプラットフォーマーのコミットにあたります。

 幸い、Electronic Artsも同時に「ローカライズ」の大切さに気づいたため、初めてサッカーゲーム「FIFA」の中にアラブのチームを入れたのです。

 そうした行動を、ゲームメーカーとプラットフォーマが共同で行なうことで、市場はさらに大きくなりますし、アジアにも同じ現象を期待しています。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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