西田宗千佳の
― RandomTracking

「震災後」に家電に求められる「省エネ」

~テレビに見る消費電力低下の実際~


 3月11日の東北地方太平洋沖地震以降、被災地の方々は大変な生活を強いられている。それとは比べものにならないとはいえ、筆者を含むそうでない土地に住む人々も、様々な負担に直面しながら生活を営む日々が続いている。

 なかでも深刻なものは、「電気」だ。関東地区など東京電力管内でご存じのように「計画停電」が始まっており、今後、東北電力管内でも計画停電が実施される見込みだ。そのため「節電」が必要になっている。

 節電は、ひとりひとりができる復興への協力であり、大切なことであることに異論はない。いくつものウェブサイトには節電方法の情報が公開されており、その内容に従って日々実行している、という人も少なくないはずだ。筆者もその一人である。

 だが、本当にこのままでいいのだろうか? 大画面テレビやレコーダなどの家電を、いつまでも「敵」にしていていいのだろうか? あえてここでは、長期的なことを考えた話をしていきたいと思う。


■ 10年で劇的に変化した「テレビの消費電力」

 復興はマラソンだ、と言われる。筆者は災害問題の専門家ではないので、そのマラソンがどのくらい続くかはわからない。でも、2週間や1カ月の話ではないことは、容易に理解できる。

 そこで疑問がある。ほんとうに我々は、ストイックな節電をずっと続けていけるのだろうか? 生活スタイルを変える契機である、という意見もあるだろうが、できる範囲とできない範囲がある。

 そもそも少なくとも現時点において、東北電力・東京電力管区以外は、厳しい節電を強いられているわけではない。それらの地域と節電地域で生活スタイルを大きく変える、というのも(長期的には)不自然だし、非節電地域が萎縮するようでは誰のためにもならない。

 だとすればどうすべきなのか? 利用する家電そのものを変えていくべき、というのが筆者の結論だ。普通に使ってもある程度省エネが見込める、もしくはオフピークが見込める家電へと切り替えをすすめていくのが大切、ということになる。

シャープAQUOSの最新モデル「LC-32V5」

 その第一歩となるのは、今の家電の省エネ能力を再確認するところだ。特にここで、一例として注目したいのが「テレビ」である。

 電力不足が叫ばれて以降、消費電力が大きい家電の代表格であるテレビは、あまり旗色が良くなかった。確かに、ピュアオーディオ機器の一部を除くと、テレビはAV家電の中でもっとも消費電力が大きい機器である。

 だが他方で、販売時期によって消費電力の差が大きいのも、テレビの特徴といえる。

 図1は、シャープが2001年以降に発売した液晶テレビのうち、30~32型のものの定格消費電力をまとめたものである。140W以上で推移していたものが、2010年になって一気に80W近く削減されていることがわかる(2008年のデータがないが、これはご提供いただいた情報の欠損によるもの。全体の傾向をつかむためのものと考え、ご了承いただきたい)。


【図1】シャープ提供のデータに基づき比較したもの。30型から32型の液晶テレビの定格消費電力(カタログ値)を比較したもの。2010年に大きく削減されている傾向がわかる

 同じデータを別の形で見てみよう。図2は、130Wをしきい値として「それ以下の消費電力で使える最大のインチ数」を示したものだ。2010年までは、20型と26型の間をいったりきたりしていたものが、2010年にいきなり40型までジャンプアップする。

【図2】同じデータを、「130W以内で買える、最大のサイズの製品」で見たもの。2009年までは26型までだったが、現在は40型もOKになった
2009年モデルのソニー「BRAVIA KDL-46V5」

 別メーカーの例でも見て見よう。

 図3は、ソニーが2009年に「BRAVIA KDL-46V5」を発表した際に発表した資料に、筆者が2010年、2011年の46型モデル(性能/価格面でも同等クラスのもの)の消費電力の変化をグラフ化したものである。こちらの場合、2000年のデータは36型ブラウン管のものであり、2001年から2007年までのデータも抜けているため、あくまで「傾向を掴む」ものと考えてほしい。

 やはりこちらも、2009年から消費電力が大幅に下がり、130W以下へと変化している。

【図3】ソニーの「46型モデル」を例に、2001年から2011年までの消費電力を比較。2009年以降、消費電力が大幅に下がった
パナソニックの最新プラズマVIERA「TH-P42VT3」

 パナソニックのプラズマについても傾向は似ている。細かな経年のデータを得ることはできなかったが、最新の「フル・ブラックパネルII」搭載モデルの場合、年間消費電力量は非搭載モデルに対し約28%削減されているという(42V型モデルの場合)。


 


■ 消費電力を変えたのは「エコポイント」と「LEDバックライト」の力

 なぜこのように大きな差が生まれはじめているのか? 理由は2つある。

 一つは、エコポイントの導入だ。2009年、エコポイントの導入時に、その指標として使われたのが「年間消費電力量(kWh/年)」。エコポイント対象か否かの判断には、年間消費電力量が、国が定めた省エネ基準値に対する「達成度」をどれだけ満たしたかによって「星」が付けられることとなった。メーカーとしても「5つ星」「4つ星」といった評価は大きな目標となり、省エネ化が進んだ。

 ここで大きな追い風となったのが、二つめの要素である「LEDバックライトの普及」である。現在、多くの液晶テレビはLEDバックライトを使っている。そもそもLEDはCCFLに比べ消費電力が低い傾向にあるが、同様に大きいのが「消せる」ことにある。

 CCFLは蛍光灯と同様、完全消灯してから再度点灯するまでにタイムラグがある。そのため、輝度を落とすことはできても、完全に電力供給を切ることが難しい。高画質化のための「ローカルディミング(部分駆動)」は、これができるから可能になったことではあるが、消灯できるということは、それだけ消費電力が下がるということにもなる。

 さらにいえば、ブラウン管とLEDの差も「消せる」ことにある。大昔のテレビは、画面が映るまでにかなり時間がかかったが、 その時間を短くできた一つの理由は、ブラウン管にずっとある程度の電流を供給し続け、「完全には電源を切らない」ことにある。これがブラウン管時代の「待機電力」の正体だ。

 そのため、ブラウン管テレビは待機電力が大きい。筆者の手元にある資料では、1997年発売の30型前後の製品の場合、おおむね3W前後の待機電力を必要としていた。それに対し、最新のLEDバックライト採用テレビの場合、0.1W程度にまで削減されている。

 プラズマは、その仕組み上、LEDバックライトのように電力をカットするのが難しかったが、パナソニックは2010年モデルより、予備発光なしで発光できる「ブラックパネル」を採用するなどで消費電力のカットに成功した。この技術の導入には、パナソニックへと合流した、旧パイオニアのプラズマディスプレイ開発部隊の技術による貢献も大きいという。待機電力も、液晶テレビと同様に0.1Wになっている。

 エコポイントの導入に伴い新技術が登場することで大幅に省エネ性能が上がり、メーカー間の競争が加速されて消費電力がまた下がる、というポジティブなスパイラルが生まれたことが、テレビの消費電力を10年間で大きく変えたのである。

 もちろん、カタログに記載された数字を単純に信じるのは難しい面もある。

 2010年以降、大型テレビでは出荷時の「画質設定」が変わっている。それまでは、輝度が高く、店頭で広く使われている「ダイナミックモード」で出荷されることが多かったが、省エネ基準が出荷時設定で決まることとなったため、一般家庭の利用水準に合わせた、輝度の低い「スタンダードモード」に変わってきている。ディスプレイ輝度は消費電力に大きな影響を与えるため、この変化はある程度消費電力の低下に寄与しているはずだ。設定を変えてしまえば結局消費電力は上がるわけで、技術的な変化とはいえない。

 それでも、このことには意味があるはずだ。多くの家庭では、テレビを出荷時設定のまま使う。画質モード設定のインテリジェント化は、2008年にパイオニアが先鞭をつけたものではあるが、その後主要メーカーが追いかけ、「特別なことをしなくても消費電力を下げられる」ものになりつつある。


■ エコポイント後も「エコ重視」に舵を切れ! 課題は「高性能化」とのせめぎ合い

 今、古いテレビを使っている人は、ぜひ今後、テレビの買い換えを検討してほしい。省エネに貢献できるだけでなく、消費を刺激し、経済を回す一助となる。

 エコポイントはもうすぐ終わる。だが、電力不足が生み出した流れは、各メーカーの商品企画を「さらなるエコ重視」へ向けさせる効果を持っているはずだ。この傾向はテレビだけでは終わらず、白物家電も含め、すべての家電に必要とされる視点となる。もしかするとオフピークの発想も組み込み、「深夜電力で内部バッテリに充電、ピークタイムはバッテリで動く家電」だって登場してくるかも知れない。

 ここで、さきほどのグラフをもう一度見ていただきたい。

 グラフは単純な下り坂ではなく、時折ジャンプアップしている。これは、テレビの高機能化が消費電力低下を抑制する働きがあるためである。特に現在、テレビは大きな岐路にある。放送だけでなく、IP系の機能を備えた「スマートTV化」の流れである。スマートTV化すると、テレビ内のプロセッサに必要とされる能力は高まる。

 低消費電力と高機能のバランスをいかにとるのか。これが、2011年、2012年に、家電メーカーにとって大きな課題となるだろう。

 また、これまで我々は、低価格化と省電力化の効果を「より大きなサイズが買える」理由にしてきた。私もそうお勧めしてきた。だが、その発想はもう変えるべき時なのだろう。市場でもサイズの大型化はそろそろ頭打ちだ。「同じサイズならより省エネ」が、これからあるべき考え方になる。

(2011年 3月 24日)


= 西田宗千佳 = 1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]