西田宗千佳の
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ソニーエリクソンの意欲作「Xperia arc」をチェック

~カメラ性能や操作感は大幅に向上。音質も良好~


Xperia arc SO-01C。写真は「Midnight Blue」モデル

 昨年末から、携帯電話の新製品はスマートフォン一色といっていい状況にある。今春の新製品も、それぞれに力の入った良いものが多い。

 今回はその中でも、ソニー・エリクソンが開発した「Xperia arc」(以下arc)のレビューをお届けする。日本ではNTTドコモが「SO-01C」として3月24日より販売を開始している。

 この機種を選んだのは、個人的に購入したということもあるが、昨年の本連載で、前モデルにあたる「Xperia SO-01B」(日本での名称。海外ではXperia X10として販売。以下X10)のレビューをお届けしているからだ。

 ソニー・エリクソンは、1年間でどれだけ完成度を上げることができたのだろうか? X10や、ライバルであるアップルのiPhone 4とも比較しつつ、arcの実力を確かめてみた。



■ 大柄だが「アーク状」だから持ちやすい。コネクタ位置などには疑問も

 今回使ったarcは、NTTドコモが販売する「日本モデル」ではあるが、そもそもarcは世界で(ほぼ)同じ仕様の製品を販売する「グローバルモデル」であり、日本独自の機能はほとんどない。目立つ違いは、日本のみ「Sakura Pink」カラーが用意されていることくらいだろうか。筆者が使っているのは濃紺とシルバーのグラデーションになっている「Midnight Blue」モデルだ。

 arcは4.2型/854×480ドットという、かなり大きなディスプレイを採用しているため、スマートフォンの中では明らかに大柄な製品だ。iPhone 4も、初めて使った人は「大きい」という印象を持つことの多い製品だが、arcはさらにその上を行く。

 他方、薄さはかなりのもので、最薄部8.7mm、最厚部10.9mmとなっている。とはいうものの、これもiPhone 4の9.3mm、NECカシオのMEDIASの最薄部7.7mm、最厚部8.7mmに比べると厚い。arcを実際に触ったのは、1月のCESで展示された時だったが、その時の印象も「薄いが大きい」というものだった。


iPhone 4とサイズを比較。縦横ともにひとまわり大きくなっている。ディスプレイサイズに比べると、横幅の差は小さい背面。プラカバーで覆われており、取り外すとバッテリー・SIMスロット・microSDHCカードスロットが現れる。microSDカードは、バッテリーを外さないと交換できない構造だ

 だが、実際に使ってみるとその印象はかなり変わる。それは、ボディが一様な板ではなく「アーチ状」になっているためだ。特にこれが効くのは、耳にあてて電話をする時。手にぴったりと合うような感じになるため、実際の数字よりも薄く感じ、持ちやすい。

arcを手で持つと、アーチ状のカーブに手がフィットする。特に通話する時に持ちやすい構造だ

 iPhoneの登場以降、多くの携帯電話は「板状でディスプレイを大きくとった形状」に収斂しており、デザインが画一化している印象を受ける。arcもその流れに乗った製品ではあるが、「手に添う形状」へ工夫を加えていくことで、多少なりともいままでと違うものを作ろう、という意欲が見られる。

 他方、デザイン面で見て、すべての部分ですばらしいかというとそうでもない。特に問題はボタンやコネクタの配置だ。

 他のスマートフォン同様、電源供給はPC接続用のmicroUSB端子で併用する形なのだが、この位置が悪い。本体右側面上部にあるので、充電時、テーブル上などでとても座りが良くないのだ。

 ヘッドホン端子も同様に、本体左側上部になる。刺しやすい場所ではあるが、真横にコネクタが飛び出すことになるので、ポケットの中などへの収まりは悪い。

 上部にある電源ボタンはかなり小さく、正直押しづらい。円状になっているが、少し横に広げるなどして、もう少し押しやすいものになっていると良かったのだけれど。


本体右側。上部にmicroUSBコネクタが、その下に音量調整ボタンがある。USBコネクターのすぐ上は、通話を示すLED。本体下部には小さいがデジカメ機能用シャッターボタンがある本体左面。一番上にヘッドホンマイク端子がある。通常の3.5mm径上面。上(本体ディスプレイ面から見ると左)に電源ボタンが、下(右)にカバーで覆われたmicroHDMIコネクタがある


■ カメラの性能は「スマートフォンとしては抜群」。自然な発色、圧倒的な暗所性能

 ハードウエア面で見た特徴の一つが、デジカメ機能用の撮像素子に「Exmor R for mobile」のブランド名がつけられたソニー製の裏面照射型CMOSセンサー(約810万画素)が採用されている点だ。

 実際撮影してみると、その能力に驚く。レンズの問題もあってか、さすがに「コンパクトデジカメ並」というわけにはいかない。とはいえ、発色も自然で、起動も速くて「ケータイ内蔵のデジカメ」としては優秀な部類だと思う。iPhone 4のように、領域によって色が異なるようなことももちろんない。このサンプルは、旧Xperia(X10)のレビューと同じ場所で撮影しているので、そちらともぜひ比較していただきたい。X10のデジカメ機能は、当時としてはそれなりのものであり、iPhone 3GSよりは優秀だと思ったのだが、iPhone 4などに比べるとやはり弱い。arcはさらに良くなっており、好印象だ。

写真撮影アプリ。操作方法や機能はX10と大きな変化はない。撮影可能になるまでの時間は2秒半から3秒といったところで、そこそこ速い

【静止画サンプル(すべてオート設定で撮影)】

arc 8Marc 6Marc 2M
arc 2M(16:9)【参考】iPhone 4
白い壁をarc(左)とiPhone 4 (右)で撮影。色の一様さ、周辺部の歪みのなさともに、arcの方が確実に良い

 より効果が大きいのは、周囲が暗く、撮影条件が悪い場所である。このサンプルは、節電のために街灯が3分の1に減らされた街中で撮影したもの。iPhone 4では街灯だけが目立ってしまったり、まったく写っていなかったりしたものが、arcではそれなりにきちんとした写真になっている。この傾向は、照明がしっかりしていない屋内などでプラスに働くはずだ。

Xperia arc
iPhone 4

 動画についても機能アップしている。X10では映像コーデックにMPEG-4、音声コーデックにAACを採用していた。解像度も800×480ドットまでだったが、2010年11月にAndroid 2.1へのアップデートとともに、1,280×720ドットでの記録に対応した。

 arcは、映像コーデックがMPEG-4 AVC/H.264に変わり、解像度が1,280×720ドット(720p)まで。圧縮率が高めになっているせいもあってか、ディテールはかなりつぶれ気味だが、X10に比べると発色がずいぶん自然になり、進化がはっきりと感じられる。

Xperia arc(720p)[12MB]Xperia arc(WVGA)[4.27MB]Xperia arc(VGA)[4.40MB]
Xperia arc(QVGA)[1.59MB]【参考】iPhone 4(720p)[20.9MB]


■ 動作は非常に快適、Timescapeは後退。音質はX10、iPhoneに比べ大幅改善

 ソフト面に目を移してみよう。

arcメイン画面。アイコン配置などは筆者の好みに並べ替えてあるが、大きなカスタマイズはしていない

 OSのバージョンは「Gigerbread」こと「2.3」。日本で容易に手に入るスマートフォンとしては、現状唯一の「2.3」採用機となる。この数字がどうこうというよりも、注目すべきは「とても動作が快適である」という点になるだろう。

 あくまで筆者の体感ではあるが、arcは現状販売されているAndroid採用スマートフォンの中で、1、2を争うほど動作が素早い。アプリ起動や切り替えなどでのもたつきもほとんど感じられなかった。もちろん、メモリ不足で動作が遅くなる時などもあるが、特に「2.1」以前のバージョンで動作しているものと比較すると、メモリ管理が改善されているためか、顕著なメモリ不足も起こりづらくなっている。タスク管理アプリを別途インストールしなくても、さほど大きな不満を感じないほどだ。

 ソニー・エリクソンは、X10で「OSのバージョンアップ」に苦しまされてきた。Androidが急速に機能アップしていく中、メーカーとしての開発姿勢を組み立てるのは並大抵のことではなかっただろう。だが、HTCやサムスン電子、LG電子などのライバルに伍していくには、最新バージョンにキャッチアップする姿勢を示すことが重要。arcを「2.3」で出荷したのは、そういった意気込みからくるものだろう。

 ソニー・エリクソン独自のUI改善も行なわれている。

 ユニークなのは、ホーム画面上のアイコンを「フォルダ管理」できる点だろう。同じフォルダに入れたいアイコンを重ねると、フォルダが作られるようになっている。iPhoneとほぼ同じ操作方法、といっていい。

 XperiaならではのUIであった「Timescape」は健在だが、その位置づけは大幅に後退している。以前は「自分がXperia内に入れたメディア、通話、ソーシャルメディアをタイムライン上で統合する」ことを目的としていたが、arcのそれはTwitterなどのソーシャルメディアを統合するもの、へと機能ダウンした。よりシンプルにして使いやすく、という配慮だろう。だが逆に、こうなってしまうと単なる「SNSブラウザー」であり、面白味がずいぶんと失われた印象が否めない。Twitterを見るなら、もっとシンプルで良いアプリがあるので、そちらを使った方がいい。


iPhoneチックな「アイコンのフォルダ管理」に対応。アプリのショートカットをたくさん並べて使いたい人にSNSの状況をタイムラインで管理する「Timescape」。X10での意欲的な設計があまり評価されなかったせいか、少々おとなしいものにトーンダウンしている

 単独アプリに変わった一方で、機能・操作性ともに向上したのがメディア系機能だ。

 音楽プレーヤーは、シンプルだが使い勝手が良い。Timescapeと連携する機能であった「∞(インフィニット)ボタン」は、アーティスト名からYouTubeを検索、ビデオクリップを表示する機能に変わっている。

標準の音楽プレイヤー。横画面で表示しているが、もちろん縦でも利用可能。「∞」ボタンを押すと、再生中楽曲のアーティスト名をキーに、YouTubeを検索する「∞」ボタンを押した時の画面。同じアーティストのビデオクリップを楽しみたい時に有効だ
画面上方のウィジェットが、音楽再生コントロール用のもの。内部に小さな「泡」が見えるが、これは音楽のピークメーター的な役割をしている音楽プレイヤーに搭載されたイコライザー機能。10のジャンルがプリセットされていて、そこから音の傾向を選んで使う

 音楽プレーヤー機能はウィジェットとも連携していて、アプリを呼び出すことなく曲の切り替えなどもできる。再生中にウィジェットをよく見ると、ピークメーターのように小さな「泡」状のものが流れる演出まで行なわれている。

 音質は非常に良い。付属ヘッドホン(arc、iPhone 4それぞれ)とShure SE535、ソニーMDR-EX600で聞き比べたが、傾向は同じ。iPhone 4やiPod nanoなどに比べ解像感がはっきりと分かるほど高く、聞きやすい。標準設定では少々低音よりだが、気になるならイコライザーで調整もできる。この点は、X10にはなかった要素だ。プリセットによる変更のみだが、音が割れたりひずんだりもしない。ただ、高音質を謳う「ウォークマンX」に比べると劣るが、価格帯や製品の位置づけを考えると十分納得できる範囲である。

 メディア系でもう一つの新機能は「メディアサーバー」機能。いわゆるDLNAサーバーで、同じLAN内にあるクライアントで、arc内の映像・音楽・写真を見られる、というものだ。arcにはmicroHDMI端子もあり、大型画面でarc内の写真などを楽しむにはそちらを使ってもいい。

 だがやはり、ケーブルがないこと、操作が楽になることなど、DLNAを使うメリットは数多くある。arcで見られるファイルを転送するというシンプルな機能なので、トランスコードなどはできない。しかし、arcで撮影したものを楽しむ、という用途なら、これで十分だ。


メディアサーバー機能。特に難しい設定はなく、「オン」にすれば、内部にあるメディアファイルを簡単に共有できるPS3をDLNAクライアントとして、arcにアクセスしてみた。一般的なサーバーと、動作速度も操作感も変わらない


■ 「Android」の熟成を感じさせる製品。「ネット配信」の弱さが現状の欠点

 arcは、思った以上に完成度の高いスマートフォンである。X10の時には、マルチタッチへの対応や動作のぎこちなさなど、いくつかの「エクスキューズ」が必要となる製品だな、という印象が強かった。あの当時としてはしょうがない部分があったが、特に2010年後半以降、商品としての魅力がかなり薄くなっていた。

 最大のライバルであるiPhone 4は、カメラやアンテナなどにいくつかの疑問を抱えた商品であったが、それでも、動作速度やディスプレイ品質、デザインなどの点で、他に負けない強い魅力を維持し続けている。

 ソニー・エリクソンは、相当に努力したのだろう。arcは動作速度、タッチセンサー感度、持ちやすさなどの点で、非常に高い完成度になっている。音質・画質の点でもはっきりと進歩しており、「今度はなかなか魅力が薄くなることはないのではないか」という印象を強くうける。実は、ちょっとソフトの安定度に疑問を感じるところもある。購入からの1週間で、音楽再生中などに3度ほどいきなり再起動してしまったのだ。このあたりは、アップデートで改善していってくれることを強く期待したい。

 もちろん、arcにも弱点はある。一つは、ワンセグやおサイフケータイといった「日本的機能」に対応していないことだ。ただ、すでにこれらの機能を搭載したarcの姉妹機は開発中であり、夏までに登場するものと見られている。厚みや持ちやすさなどの点がトレードオフになると思われるが、選択できるのはいいことだ。

 もう一つは「ネット配信」の弱みだ。arcは標準で「mora Touch」のアプリをプレインストールしているし、着うた系サービスのスマートフォン対応も進んでいる。電子書籍も同様だ。だが、iTunes Storeのラインナップと使いやすさには及ばない。アプリも、Androidならではの自由さは大きな魅力だが、内容の濃さと勢いでは、まだまだApp Storeの方が上と感じる。

 ここは簡単には変わっていかないだろう。ソニーが海外で展開している定額式音楽サービス「Music Unlimited」を日本でも展開してくれれば、多少は変わってくるかも知れない。

 Androidである、ということを認め、その価値を前向きに捉えていけば、arcはとても良い製品である。Androidそのものの完成度向上と、ソニー・エリクソンのハード開発能力の両方がかみ合った製品と感じる。うまくネット配信でビジネス価値を求めるなら、そろそろAndroid上で「自由度が高くて使いやすいサービス」を広く展開する時期に入っているはず。各社の努力に期待したくなる端末である。各社がこのレベルで切磋琢磨していくと、スマートフォンが「特別」である時代は、すぐに過ぎ去るのではないだろうか。

(2011年 4月 1日)


= 西田宗千佳 = 1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]