“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第549回:コンシューマの動画はどこへ向かうのか

~CES取材から垣間見えるトレンド~


■大変化の兆しが見えてきた2012年

 先週のCESレポートはいかがだっただろうか。毎年恒例のイベントとはいえ、今回は特に世界の家電業界地図が大きく塗り替えられたことを、肌で感じることができたイベントだったのではないかと思う。

 今回も動画撮影を中心としたクリエイティブ製品を中心に取材してきたわけだが、CESの“コデラ的まとめ”として、デイリーのレポートの中では入れられなかった話と、取材全般を通じて感じた新しい動画の潮流について、考察してみたい。




■保存から共有へ向かうカムコーダ

 今年も国内外のAVCHDカメラ、MP4カメラを作っているメーカーを数多く取材した。技術的進化点はいろいろあるが、今年殆どのメーカーが一斉に同じ機能を搭載した。カメラ本体に、無線LANを積むということである。昨年の記事を振り返ってみたが、Bluetoothを搭載するカメラはあっても、いわゆるAVCHDカメラに無線LANを積むというカメラはなかった。

無線LAN搭載のライブストリーミング対応MP4カメラ、Bloggie Live

 ただ、できることや実装の温度差は各メーカーごとに違いがある。取材順にポイントをまとめると、ソニーはハンディカムラインナップではなく、MP4カメラのBloggieのほうに搭載した。

 そもそもBloggieとは、ハンディカムを買うまでもないライトユーザーに対して動画の楽しみを提供するブランドで、ネットとの親和性を高めるためにMP4を採用してきた。高画質ではないがフルHDが撮れたり、3Dが撮れたり、360度パノラマが撮れたりと、動画で遊ぶ機能が低価格で手に入る。

 Bloggie Liveは無線LAN機能を使ってどこかのアクセスポイントやモバイルルータに接続すると、そこからカメラ本体のみでライブストリーミングが可能だ。配信先はQikに限られるが、Twitterとの連動やチャット機能もあり、できることはUstreamとそれほど変わりはない。

 今回のBloggie Liveは、米国向けに商品企画されたもので、日本での発売は予定していないという。普通ならそれでも買って帰ってレビューなどしたいところだが、無線機能が日本の電波法に定められた技術基準に適合しているかどうかの申請をしていないので、日本で使うと電波法違反になってしまうのが残念だ。

 このあたりはタブレットなどでも同じ問題が起こっており、あとから承認をとってソフトウェアで「技適マーク」が表示できればよいというところまで規制緩和されている。

 パナソニックは、今年発売が確定した製品では無線LAN対応はないが、プロトタイプとしてウェアラブルビデオカメラを出展していた。耳かけ型の小型カメラで、スマートフォンを使って制御とモニターを行なう。試作機で撮影された映像も展示されており、このカメラをスキー場に持っていったり、パーティでビールかぶったりしているので、簡易的な防水機能も搭載するようだ。


パナソニックが参考出展してウェアラブルカメラスマートフォンでモニタリングとコントロールを行なう
LUMIXの無線LANモデルも参考出展

 もっとヘビーデューティーな使い方としてプロがよく使っている「GoPro」という製品があるが、それをもっとスマートにしたような用途になるだろう。またコンパクトデジカメのLUMIXも同じように無線LAN機能を搭載し、スマートフォンでコントロールするタイプの試作機も展示されていた。

 こちらのほうはクリアケースでカバーされているわけでもなく自由に触れるようになっていたので、発売も近いのかもしれない。いずれにしても、コントロールをスマホに渡す、撮ったものをスマホに渡すというコンセプトのようだ。

 JVCは2010年という早い時期からカムコーダにBluetoothを搭載し、携帯用のワイヤレスマイクが使えるといった製品を出してきたが、今年の無線LAN搭載ソリューションを最も積極的に推進しているように見えた。


JVCは米国向けにハイエンドモデルにも無線LANを搭載

 米国向けモデルは、全ラインナップで無線LANありモデルを発売する。動体検知または顔認識により写真を自動撮影し、メール添付で送る、ビデオメッセージをメール添付で送る、スマートフォンとダイレクト接続して動画や写真を送る、といった機能を実装する。撮影自体はAVCHDで行ない、実際に送る段階でカメラ内でMP4の低解像度版を自動生成するという方式だ。

 一方日本では、無線LAN搭載モデルは低価格ラインナップに限られるようだ。というのも、日本のマーケットでは無線LAN搭載のような新機軸よりも、ハイエンドモデルでは内蔵メモリ容量が多いといったことがポイントになるため、上位モデルは米国モデルよりも内蔵メモリを増やす代わりに無線LANを搭載せず、価格を調整するようだ。日本の市場は、保守的なカムコーダの利用法がまだ主流であるということが浮き彫りになった格好だ。

無線LANのリモートカメラも参考出展

 さらに開発中の製品では、完全に無線LANによってリモート制御するカメラを展示していた。監視カメラの世界では以前からこの手の製品はあるが、ある場所に固定するのではなく、テンポラリ的に置くリモートカメラである。そのためバッテリで駆動するようになっているし、SDカードでフルHD動画も記録できる。中身的には完全にカムコーダだ。

 さらにそこからマルチカメラでネット中継もできるように考えているとのこと。ただ撮影機能としては最初からMP4など低ビットレートで撮らず、連番のJPEGを送るという変則的な方式になっている。これを製品にどうまとめていくか、注目だ。


キヤノンの無線LAN内蔵モデルHF M52

 一方キヤノンも無線LANモデルを上位モデルも含め、幅広くラインナップ(HF M52/M50/R32/R30)している。さらにAVCHDではなく、MP4で直接録画するというモードを付けることで、タブレットなどの製品で直接動画ファイルを扱えるようにしているのが特徴だ。

 一方でライブカメラとして直接生放送するようなソリューションは持たず、いったん録画したファイルを無線LANで転送するスタイルだ。さらにDLNA対応テレビから無線LAN経由で直接映像を見られるなど、カメラをサーバ化するというアプローチである。




■今年いよいよ「解」が変わる

 これらの動きから分析できる傾向がいくつかある。1つは、米国向けではすでにアマチュアビデオは、保存するものからシェアするものへと変わってきたということだ。家族の記録であっても、ただ黙ってお父さんがしまっておくだけでは意味がない。最終的な保存先をクラウドに設定し、家族や親戚、友達などに広くシェアして、多くの人の記憶に残すということが最終目的に設定されている。

PS3のパワーでビュンビュン動く写真・動画管理ソフトPlayMemories Studio。PlayMemories Onlineへのアクセス機能も備えている

 そういう意味では、今回無線LANとは直接関係しないものの、ソニーの「PlayMemories Online」は、ソニー自身でシェアのためのクラウドサービスを立ち上げるという作業である。実はソニーは、2000年という早い時期に「イメージステーション」という写真・動画共有サービスを立ち上げた経験もある。カメラ、テレビ、タブレット、ゲームなど多くのプラットフォームを持つ同社が、クラウドサービスを中心にどのようなシナジー効果が発揮できるのか、注目して行きたい。

 2つめは、ビデオ映像は必ずしも高解像度のハイビジョンでなくてもいいという考え方だ。ワイヤード接続であれば高ビットレートな動画が転送できるが、ワイヤレス伝送になれば、高画質だが巨大なファイルよりも、解像度を下げてでもハンドリングが良いほうがメリットがある。そもそもこれだけブロードバンド回線が各家庭に普及している国は日本と韓国を除けばそんなにないわけで、クラウドに上げるためにも、ファイルは小さいほうがいい。


JPEG連番という軽いファイルで動画を伝送するJVCの戦略日本では未発売の東芝「CAMILEO AIR10」。無線LAN搭載でUstreamへ直接配信もできる

 このあたりは、未だカムコーダ選びの第一ポイントとして画質が筆頭に上がる日本の市場と、誰にでも扱えてネットにバンバン上げられるFlipVideo的なものが大ヒットする米国市場の差が垣間見える。

 3つめは、AVCHDフォーマットってどうなの? という疑問符が出てきたということだ。今民生機ではほとんど共通フォーマットと言ってもいいAVCHDだが、元々はBlu-rayが普及する以前、DVDにHD映像を書き込むための中間フォーマットとして生まれてきた。

 しかし今やカムコーダの記録メディアは光ディスクではなくメモリになり、HD映像をDVDに直書きする必要はなくなった。またBlu-rayと互換性のあるファイルストラクチャーであることもウリの一つだったが、映像の保存先はどうもBlu-rayではなくなりそうな気配だ。

独立したMP4録画モードをもたせたキヤノン

 編集することを考えても、本来はBlu-rayのファイルストラクチャ内にある様々なメタデータが活用できればいいのだが、そういう利便性は積極的に活用されていない。むしろ下手にいじると整合性が取れなくなって読み込めなくなるといったデメリットもあり、PCで扱うには非常に扱いづらいフォーマットになってしまっている。

 それなら最初からMP4の生ファイルを書いていったほうがメリットがある。特にハンドリングを考えるならば、Apple製品がMP4しか再生できない点は大きい。少なくともスマートフォン、タブレット、音楽プレーヤー市場でそれぞれ約半分のシェアを持つ製品群を無視する方がどうかしている。




■なぜ今無線LANか

 各メーカーがBluetoothではなく、なぜ無線LANに一斉に舵を切ったのか。そこには様々な思惑がある。まずBluetoothには多くの対応アクセサリがあるものの、意外にカムコーダと組み合わせて便利に使えるものは少ない。

 ファイル転送も可能だが、速度が出ない。また基本的には1対1で繋がるものなので、繋がる相手も1台の機器に限られてしまう。伝送距離の短さも問題だ。

 さらにBluetoothのライセンス料、チップの消費電力の高さもメーカーにとってはネックだ。映像を扱うには、Bluetoothはデータ規模が小さすぎるのだ。

 もう一つの方向性としては、HDMIのワイヤレス規格「Wireless HD」を採用するという線もあるが、これが意外に「来なかった」こともあるだろう。いわゆるアダプタ的な製品はいくつか日本にも入ってきているが、組み込みには至っていない。

 そもそも日本の家庭には、米国のリビングのようにテレビだけが5mも離れた遠くにあるという状況がない。だいたいテレビの下にBDプレーヤーもゲーム機も置いてあり、そんなもん線でつないどきゃ十分なんである。

 米国にも安いアダプタがいくつかあるが、それらは日本に並行輸入できない。理由は前段でも述べたように、総務省の認可を受けて技適マークが貼ってないと、違法になるからだ。現時点では、ワイヤレスになるだけで大がかり過ぎるのである。

 これに対して無線LANは、フルHDの映像をリアルタイムで伝送できるほどの帯域を保証することは難しいが、時間をかけてファイル転送するか、SD解像度以下であればリアルタイムで送る事ができる。ライブストリーミングは確実に送るというより、実時間で何となく送れてればいいというベストエフォートで十分なのである。ここで考え方が大きく転換した。

 カメラに無線LAN機能を追加できるという点で、Eye-Fiはベンチャーにしては破格に成功した例だ。正にこれが下地を作ったと言っていい。カメラメーカーの中にはEye-Fi対応を謳うところもあるが、なぜうちが最初に思いつかなかったのか、あるいはまだ小さいうちに買収できなかったのか、心中穏やかではなかっただろう。

 ただEye-Fiにも弱点がないわけではない。できることはただひたすらファイル転送するだけだし、転送先の変更など一部の設定は、いったんカードをPCに挿して、直接設定をカードに送り込むしかない。

 このCESで東芝が発表したFlash Airは、SDカードに無線LAN機能を搭載するWireless LAN SD規格に準拠したものだ。できることはEye-Fiと変わらないように見えるが、コントロールはカメラ側に持たせるところが違っている。つまりカメラオリジナルの無線LAN機能を搭載することができるわけで、メーカーにとってはメリットが大きい。

 ソフトウェアを開発して組み込むぐらいなら無線LANチップも入れ込んだ方が早いのではないか、と思われるかもしれないが、実装コストを事実上ユーザー側に投げることができるので、コスト削減になる。

 また、たびたび説明しているが、無線LANを搭載すれば機器ごとに世界各国の電波法の認可を個別に通さなければならないという事務的なコストがかさむ。いっぽう無線LANチップをカードに積んでしまえば、カードだけ認証を通せばいいので、機器が個別に認証を取る手間とコストがいらなくなる。今後低価格製品には、Wireless LAN SD搭載が進んでいくだろう。



■総論

 数年前になるが、筆者はカムコーダがいつまでもテレビ放送規格にしばられる必要はないのではないか、というコラムを書いたことがある。テレビがフラットパネルになり、インターレース表示など不要になったのに、カムコーダはいつまでも60iだったことに違和感を感じたのだ。

 最近はAVCHD 2.0で60pをサポートしたが、これは事実上テレビ放送規格を越えたことになる。さらに考えを進めれば、カメラメーカーからは、カムコーダの映像の最終出力はいつまでもテレビ直結じゃないだろうという方向に動き出したとも言える。

 映像はクラウドにあげて、タブレットやスマートフォンで、場所・時間に制約を受けず見られたほうがいい。家庭内に閉じなくていいという考え方だ。カムコーダだけでなく、今後はデジカメメーカーもこの方向に進むだろう。ただこれは、ソニーやパナソニックなどテレビ事業を抱えるメーカーにとってはなかなか痛い選択で、そう簡単には割り切れない。おそらく今後はテレビもクラウドの中に入れて、より自社製品での囲い込みを強化するはずだ。

 カムコーダは、実は非常にコンサバな商品である。未だに入卒シーズン、運動会シーズンに販売のピークが来る。だがいつまでもそれでは、なだらかな右肩下がりは止められない。そろそろSD解像度のカメラから買い換え需要が来るはず、とメーカーは見込むが、スマートフォンのカメラの画質が上がってくれば、「ビデオカメラは買い換えない」という判断も十分あり得る。ITに強い人ほど、「そんな時代じゃない」と考えるだろう。

PolaroidのSmart CameraことSC1630。無線LAN機能も備えている実はデジカメなのにAndroidをまるごと積んだバケモノ

 そこに対していかにITとの親和性も持たせ、違う商品に化けることができるか。ここでイノベーションが起こせなければ、カムコーダ事業部そのものがなくなってしまう可能性もある中で、各メーカーの苦悩は続く。

(2012年 1月 18日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。

[Reported by 小寺信良]