西田宗千佳のRandomTracking

WWDC2013基調講演詳報【OS X・新Mac編】

「デザイン刷新」で攻めるアップル

会場となったMoscone Center West

 今年も、アップル関連製品についての開発者会議「World Wide Developers Conference(WWDC)」が、アメリカ・サンフランシスコで開催される。初日・6月10日午前(現地時間)に開かれた基調講演の模様を詳報する。

 なお、内容が多岐に渡るため、発表内容を前半・後半に分け、2つの記事でご紹介する。前半は概要と、主に「OS X」と「新Mac」について振れる。また、発表されたハードウェアの主な仕様などは、すでにリリースを元にした記事が掲載されているので、本記事で仕様の詳細な説明は省く。

 ティム・クックCEO体制になり、スマートフォン/タブレットの市場も安定期を迎えた今、アップルの戦略も「迷走」「手詰まり」といったキーワードで語られることが少なくない。筆者は、その論に単純に同意するものではないが、2013年、アップルがある程度大胆な施策を採る必然性に迫られていることは間違いない。それは、新ハードなのか、OS・サービス上での施策なのか。「読みづらい」という意味では、今年のWWDCほど読みづらい年はない、と感じている。

 一方で発表されるものがわからないか、というとそうでもない。スタート前より、会場には「X」、「7」のロゴが踊る。アップルのOSである「Mac OS X」と「iOS」の新バージョンを示したワードだ。元々今回のWWDCでは、新OSの発表については告知されていたから、これは驚くに値しない。

会場内の垂れ幕には、「X」「7」の文字。2つの主要OSのアップデートをアピールしていた。基調講演前には黒布で隠された垂れ幕もあったが、こちらも結局中身は「iOS7」と「次期OS X」のものだった

 問題はその先になにがあるか、だ。それが気になったのは、デベロッパーやプレス関係者だけではないのだろう。会場には、孫正義氏やアル・ゴア元副大統領などの姿もみかけられた。

 果たして、ティム・クックCEOはなにを語るのか。

 今回の基調講演は、そうした緊張の中から始まった。

会場には、ソフトバンクの孫正義氏の姿も。ティム・クックCEOと談笑する一幕も。
現在アップルの社外取締役を勤める、アル・ゴア元副大統領も来場

アップル・エコシステムの堅調さをアピール、「デザイン」で次代をリード?!

 今年のキーノートは、アップルの姿勢を示すビデオから始まった。内容は、デザインの力をイメージさせるアーティスティックなものだ。そして、最後には「Design by Apple in California」。「カリフォルニアでデザインされた製品」であることのアピールが、WWDC全体の一つのメッセージにといえた。おそらく、ここでいう「デザイン」とは、美観の点だけを指しているのではない。ハード・ソフト両面の「設計」「構想」も含むのだろう。そうした部分で他社より優れているし先を行っている……。いきなり結論めいているが、それこそ、今回WWDCでアップルが訴えたかったことだろう。そして次に問題になるのは、当然、ユーザーやデベロッパーがそれをどう受け止めるか、である。

基調講演中、何度も登場した「Design by Apple in California」の文字。アップルの差別化点であり、拠り所として使われているような印象を受けた
壇上で説明を行なう、アップルのティム・クックCEO。CEOとしては二度目のWWDCとなる

 そして登場したティム・クックCEOの説明は、WWDCに参加したデベロッパーへの謝辞(これは毎年のことだ)と、そのビジネスを支えるアップルのリテールストアやプラットフォームとしての堅調さをアピールするところからスタートしている。特に大きいのは、iOSの堅調さ。100億ドルをデベロッパーに還元したことが発表されたが、昨年のWWDCでは「50億ドル」だったことを思えば、1年で規模は一気に倍になった計算になる。この点については、iOSのアプリダウンロード数がAndroidなどより圧倒的に多く、市場の74%を占めていることが、大きく影響している。同様の主張は後ほども出てくるが、要は「iOSは有料のアプリ市場がきちんと回っている」ことをアピールする狙いがあるわけだ。

開発者への売り上げ還元額は「100億ドル」を突破。1年で50億ドル増え、規模拡大が加速している

 そして、クックCEOから紹介されたのが、AI・ロボティクスデバイスを扱うスタートアップ企業である「Anki」だ。今回、デベロッパーとして壇上に招かれたのは同社だけだったので、かなり破格な扱いである。

 同社は現在、iOSでコントロールするロボット・ミニカーを使ったゲームを開発している。ただし、通常の「iOSラジコンカー」とは異なる。Ankiのボリス・ソフマンCEOは、次のように語った。

「これはiOSをリモコンにするのでなく、思考する『ブレイン』にする。iOSの力を現実のオブジェクトに持ち込み、まずはゲーミングデバイスにするものです」

 実際このアプリでは、車を制御して走らせつつ、外界を認識してゲーム化する。「Weapons Enabled!」と言うと、車の武装が「オン」になり、ビデオゲームのように、ライバル車を撃ち倒してレースが進む。実際に弾が出ているわけではなく、弾が出たことにして、各車の挙動を制御し、「撃たれたように動かして」いるのだ。

 こうした、アプリ+周辺ハードウェアで構成される製品の市場は急速に広がっており、アメリカの家電量販店ではアプリ+アクセサリーで「アップセサリー」などという呼称が使われているほど。画面だけで終わらない、その高度な一例として、Ankiを紹介したのは面白いやり方だ。

デベロッパーとして唯一壇上に上がった、Ankiのボリス・ソフマンCEO
iOS側を「頭脳」として、いままでにないインテリジェントな制御を行い、実際にマットの上を走らせるミニカーであるのに、ビデオゲームのような高度な動きを実現していた

新Mac OSは「Mavericks」、ハードに合わせてさらなる最適化をすすめる

5年の間に、Macは100%の成長を見せたが、Windowsは18%しか成長していない。アップルがこのところ毎年引用するデータだが、勢いに変化がないことは事実

 次に発表されたのはMacintosh関連だ。

「iMacは全米No.1のデスクトップであり、MacBookは全米No.1のノートPC。ノートPCの未来を決定づけた製品だ」

 クックCEOがその後に引用したのは、過去5年間での市場の伸びである。一般的なWindows PCが18%しか成長していないのに対し、Macは100%(すなわち倍)に伸びている。元々のパイの大きさを無視して比較するのは少々アンフェアではあるが、それでも、Macそのものに勢いがあり、市場が健全に伸びていることは間違いない。同様に、新OSの普及率も話題にする。

最新のOS X「Mountain Lion」は、リリースから半年で35%程度利用されているが、Windows 8は5%にも満たない、とチクリ

「OS Xの最新バージョン、Mountain Lionはすでに全Macの35%で使われている。それに対して、Windows 8は少々苦戦しているようだね」

 クックCEOの皮肉はちょっとキツイし、これも同一比較は難しい題材といえるが、Windows 8に比べ、OS Xはスムーズに最新バージョンが導入されており、その価値がハードの価値に繋がっているのも、やはり確かなことではある。

 そこで、プレゼンは「OS X 新バージョン」のターンに入る。クックCEOからバトンを受け取ったのは、ソフトウェアエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントのクレイグ・フェデリギ氏だ。

アップル・ソフトウェアエンジニアリング担当シニアバイスプレジデント クレイグ・フェデリギ氏。今回は主にOS XとiOS7の発表を担当した

「OS Xはこれまで9つのバージョンを提供してきたが、次の10年に向けて、新しいバージョンを用意しないといけない」

 そういってまず画面に現れたのが、「OS X Sea Lion」(アシカ)。

 もちろんこれは冗談。これまでネコ科の動物のコードネームが続いてきたが、そろそろネタ切れ。「Lion」だから……ということで出てきたのがSea Lion。実は前日に、筆者周りでもそういう冗談を言っていたので、「おおお」と思ったのは事実。でも、フェデリギ氏の顔を見れば、ジョークだというのが見えてくる。

Mountaion Lionに続く、次のOS Xは「Sea Lion(アシカ)」!……というのは冗談。「ネコ科」の伝統は今回で終わりらしい

「これからは、カリフォルニア州にちなむテーマをつけることにした」

 そういって紹介されたのが、次なるOS Xの愛称である「Mavericks(マーベリックス)」だ。Mavericksは、北カリフォルニアにあるサーフィンが盛んな場所だそうで、壁紙も波がモチーフとなっている。価格などはまだ未公表だが、リリース時期は「今秋」。デベロッパー向けにはベータ版が11日から配布開始となった。

次期OS X「Mavericks」。発売は今秋の予定。

 そしてそこからは、Mavericksの新機能が紹介された。

 まず紹介されたのは、ファイル整理の効率化につながる2つの機能、「Finderのタブ化」と「タグベースファイル管理」だ。

 ファイル管理に使うFinder(WindowsでいうところのExploror)は、複数のウィンドウが広がりがちで、画面が乱雑になる。そこで、ウェブブラウザと同じくタブベースでの管理を可能にすることで、不必要なウィンドウが増えることを防止する。考え方もシンプルだから、多くの人に歓迎されるだろう。

Finder画面の上の方に注目。ウェブブラウザーと同じように「タブ」に対応、複数のウインドウを整理しやすくなった

 それに比べると、タグベース管理はちょっと説明が必要かも知れない。Mavericksでは、ファイル保存のダイヤログに、ファイル名に加え、ファイルの属性を示す「タグ」をつけられるようになる。これは、1ファイルに複数つけることも可能だ。ファイルにつけたタグは、Finderウィンドウの左に一覧表示される。ここをクリックすると、フォルダーなどを無視して「そのタグがついたファイル」の一覧が表示可能になる。要はこれ、フォルダー単位での管理を越えて、タスクベースでの管理を行おう、という考え方。同じファイルが複数のプロジェクトにまたがるような場合、管理がより容易になる。他のOSやファイル管理システムでも見られる方向性だが、Mavericksでは本格的に導入されることになった。

ファイル名の他に「タグ」をつけてファイル整理できるようになった。フォルダーにわけなくとも、タグで必要なファイルを一覧できる

 正常進化といえるのは、マルチディスプレイ機能の強化だろう。ここのところ、OS Xでは「各アプリの全画面表示」機能がが強化されてきた。ノート型では有利な変更であるものの、主にデスクトップ型で、複数のディスプレイを配置して使う人々には使いにくくなり、評判が良くなかった。しかしMavericksからは、全画面表示も各ディスプレイ毎に独立して、問題なく操作できるよう修正が加えられた。また、Apple TVを使ってマックの画面を表示する「AirPlay」機能とも連携するため、テレビを「一時的なMacBookのマルチディスプレイとして使う」なんてこともできる。従来、AirPlayはディスプレイのミラーリング用途が中心だったので、これはうれしい改善だ。

マルチディスプレイ対応が大幅改善。全画面モードの使い勝手が「あるべき姿」になった
「Apple TV」にマックの画面を映す「AirPlay」機能を併用し、テレビを一時的に「マルチディスプレイ」にすることも可能に

 ここまでの修正は、作業環境の快適さを改善するもので、ある意味デベロッパーの作業効率を高めるもの、ともいえる。

 それに対し、ここから紹介するMavericksの新機能は、ハードの能力を生かしたり、iOSとの連携を強化するためのものだ。

 まず、省電力機能。

「プロセッサーは、非常に短い単位の時間で見ると、動いていない時間がたくさんある」

 フェデリギ氏はそう説明する。現在のプロセッサーは、そうした微細な制御によって消費電力を抑えているのだが、Mavericksでは、その特性をより強く生かす。省電力制御の見直しをして、そうした極小時間内での省電力制御にあわせて積極的に動作を抑えることで、「CPUが働く時間を72%減らす」(フェデリギ氏)という。この仕組みは、後述する新MacBook Airをはじめとした、インテルの新プロセッサー「第4世代Core iシリーズ(通称Haswell)」が採用した省電力機能との相性が良い。これはあくまで私見だが、新MacBook Airのバッテリー動作時間の長さは、ある程度Mavericksの存在を前提にしているのでは……とも思える。

CPUの細かい「待ち時間」を活用することで、CPUの処理負荷を72%削減することも可能になるという

 また、GPU側の制御を高度化することで、画面上での「本当の負荷」に応じた消費電力に合わせることが可能になった。例えば、高度なアニメーション処理を伴うウェブが表示されている時は、当然処理負荷はあがる。しかし、同じウェブを開いたままで、「その上に別のウィンドウが被さっていて、すべて隠れている」時はどうだろう? 従来は表示している時と同様の負荷が発生していた。

 だがMavericksでは、表示されていない時には負荷を下げる。アニメーションしているウィンドウが一部だけでも表示されている時は負荷が発生するが、そうでない時は負荷を発生させないようになっているのだ。一見当たり前に思えるが、GPU負荷を監視しつつ全体の調停をとらないと、こうした動作は難しい。

アニメーション表示がなされているウェブブラウザーと、右端のパフォーマンスメーターに注目。ウィンドウはいっさい閉じていないが、負荷の大きいアニメ表示が実際に行われている時だけ、パフォーマンスメーターの負荷が上がっている

 処理負荷の軽減・動作の高速化という意味では、ウェブブラウザーSafariの改善も大きい。JavaScriptの動作速度がさらに上がっており、ウェブアプリの動作が快適になっているはずだ。

 そのことと無関係ではない、新しいサービスも公開されている。それが「iWorks for iCloud」だ。iCloudはアップルのクラウドサービス。iOS機器との連携だけでなく、メールやカレンダーなどをウェブアプリで提供する、という役割も担っているが、今後そこに、アップルのオフィスアプリ群である「iWorks」も加わる。

 ワープロの「Pages」、表計算の「Numbers」、プレゼンソフトの「Keynote」ともに、ほぼフル機能のままウェブアプリケーションとなり、ウェブブラウザー上で動作するようになった。動作が高速化したSafariで快適に動くのはもちろんだが、GoogleのChromeやマイクロソフトのInternet Explorer(IE9以上)でも動作するため、Windows上でこれらのアプリを使いたい人にも注目だろう。「iWorks for iCloud」は、今年中にオープンベータテストが開始される予定となっている。

iWorksが「iCloud上」のサービスになり、ウェブブラウザの中で動作。Macはもちろん、インターネットエクスプローラーやChromeなど、Windowsの上でも動く

 なおSafariについては、このほかにも非常に多くの機能追加が行われているし、OS X側の機能変更についても、まだ紹介していない部分がある。だがあえて、それらレポート後半「iOS」のパートで解説することとしたい。なぜなら、両者はiCloudを介して密接につながっており、どちらかだけを切り離すのは適切でないと感じるからである。

MacBook Airはバッテリー動作時間が大幅伸長、しかし「Retina化」はお預け

 OSが発表されたら、次はハード。WWDCでのハードの発表のハイライトとして用意されたのは、もちろん「新Mac」だ。WWDCはデベロッパーのためのイベントなので、このところ「新iPhone」でなく「新Mac」お披露目の場として使われることが多くなっている。詳細は次の原稿に譲るが、iOS次期バージョンは「秋」なので、新iPhoneや新iPadは秋までお預けだろう。

ワールドワイドマーケティング担当シニアバイスプレジデント、フィリップ・シラー氏。今回の出番は、ハードウェア製品としてのMacのアピールだった。

 ワールドワイドマーケティング担当シニアバイスプレジデント、フィリップ・シラー氏は、まず最初にMacBook Airの説明からスタートした。薄くて軽く、「The Ultimate everyday notebook」(究極の「毎日使うノートパソコン」)としてアピールされるMacBook Airだが、今回の新モデルでは、さらにその方向性が強くなった。「All-day Battery Life」、すなわち「一日中使える」バッテリー動作時間を手に入れたからである。

「これまで、11インチは5時間・13インチは7時間の動作時間だったが、これからは、11インチが9時間、13インチはなんと12時間になる」

 シラー氏はそう説明した。秘密は、インテルの第四世代Core iシリーズプロセッサー(Haswell)の採用だ。Haswellは主に待機時の消費電力を大幅に下げることで、システム全体の消費電力を劇的に下げている。新MacBook Airは、Haswellの特性に合わせて再設計されたことで、バッテリ動作時間をのばすことに成功した。

新MacBook Airは、デザインやディスプレイ解像度こそ変わっていないが、バッテリー動作時間が5時間>9時間(11インチ)、7時間>12時間(13インチ)と大幅に伸びた
MacBook Airのラインナップ。デザイン・形・価格構成ともに大きな変更はない

 ただし、新しいMacBook Airの変更点はそのくらいである。デザインはまったく変わらず、ディスプレイの解像度も変わらない。巷では「MacBook Airの高解像度化」(俗に言うRetina化)が期待されていたようだが、それは果たせなかった。そういう観点で見れば「おとなしい」変化だ。

 ただ、アップルのこの選択は間違いとも言いかねる。複数のPCメーカー関係者は、「パソコン用のIGZOパネルは、スマートフォン用と相当に特性が異なる。解像度はあがるが、消費電力はそう劇的に下がらない。高解像度化の代償として、バッテリー動作時間は大幅に下がる」と証言している。そうすると、MacBook AirをRetina化した場合、バッテリー動作時間は延びない・もしくは短くなる可能性が高い。アップルとしては、MacBook Airのユーザーにより望まれているのは「バッテリー動作時間の長さ」だ、と割り切った、ということなのだろう。また、Haswell搭載のUltarbookの多くが価格を上げているのに対し、MacBook Airはそうでもない。日本では為替の関係もあり若干値上がりしたが、それでも、最廉価モデルは10万円を切る。この「お手軽さ」を手放すのもむずかしかったのだろう。MacBook Airは、そういうコンサバな製品だ、ということが再確認できたともいえる。

無線LANアクセスポイント兼バックアップ装置「AirMac Extreme」新モデル。中身同様、デザインが大幅に変わった

 スペック上の変化で注目すべき点を挙げるとすれば、無線LAN規格が「IEEE 802.11ac」になっていることだろう。日本でも周辺機器としては登場しはじめたが、内蔵製品はまだ少ない。同時に無線LANアクセスポイント兼バックアップソリューションである「AirMac Extreme」も登場した。アップルとしては、これ以降の製品は「基本802。11ac」で推すつもりなのだろう。

年末発売「MacPro」を「ちら見せ」、4K、3画面で同時編集

 アップルは、ベータテストが必要なOSなどをのぞき、発売まで数カ月以上かかる製品を発表することは、基本的にしない会社だ。だが今回、その方針を破った。

年末発売予定のプロ向けマック「MacPro」をチラ見せ。拡張カード類を使わなくなり、サイズが大幅に縮小。だがプロセッサー類は相当にパワフルだ

「ここだけの特別なお披露目だ」

 シラー氏がそう言って公開したのが、プロ向けラインの新モデル「MacPro」である。MacProのボディデザインは2006年以降変化していない「長生き」製品だったが、ついに変化の時がやってきた。

 MacProの発売は年内を予定しており、まだ半年近く時間がある。こうしたタイミングで異例の発表を行なったのは、ここがWWDCで「デベロッパーには興味がある」題材であること、ライバルがあまりおらず、買い控えなどの影響を考慮する必然性が少ないことなどが理由だろう。

 中身はもちろん、この時期に合わせたパワフルなものだ。「4K」映像作成ニーズの高まりを考慮してか、4Kパネル3枚を同時につかって作業が行なえる。

新MacProでは、「4K」のディスプレイを3つ同時に扱い、作業ができる

 内蔵ストレージはHDDではなくフラッシュストレージで、こちらも速度重視。おそらく、内蔵ストレージを「作業領域」として使う設計思想で、保管用ファイルは外部接続のHDDへ蓄積する……という発想だろう。CPUは取り外し不可だが、メモリとGPUは交換可能。内部には拡張カード類を差す場所はなく、すべて、新高速インターフェースである「Thunderbolt 2」経由で拡張する。

 いままでとは相当に方法論の異なる使い方を強いられそうだが、「作業毎に、ファイルも含め最適な環境を用意する」、プロのオペレーター・クリエーター的な用途を強く指向した、いままでの「ハイエンドパソコン」とは違う方向を向いた製品だと感じる。

 内部に拡張領域を用意しなくて良くなった分、ボディはかなりコンパクト。デザイン的にもサイズ的にも、「ポット」や「空気清浄機」のようで、良くも悪くも「パソコン」っぽくはない。

基調講演後、会場外でMacProの実機が展示された。煙突的なエアフローを、マザーボードが囲むような設計。コネクター類は背面にまとまっているが、本体をくるりと回しやすく設計されているので、抜き差しの問題は少ないという

 では、こうしたMacを使い、どんなアプリやサービスを作るのか?

 その新たな基盤として発表されたのが、次世代iOS「iOS7」だ。基調講演後半の記事では、iOS7とそのサービスを軸に、次なるアップルの狙いを探ってみたい。

西田 宗千佳