匠のサウンド百景
イヤフォンやDAPの試聴、バンドを演っている人にもオススメの3曲! by アユート 堀氏
2017年8月30日 07:30
匠のサウンド百景とは?
オーディオ/ビジュアル機器を手がけるメーカーや業界の人達も、1人の音楽ファン! そんな“中の人達”に、個人的に気に入っている音楽、試聴などで業務にも活用しているソフトを紹介してもらいます。
Astell&Kernの代理店をやっております、アユートの広報・マーケティング担当の堀と申します。多分にもれず、私も雑食的にいろんなジャンルの曲を聴いている音楽ファンですので、今回いろいろ考えたんですけど、オーディオ定番な曲というよりかは、個人の趣味丸出しで原稿を書いていこうかなと思っております。
今回取り上げる楽曲(e-onkyo music)
・(No One Knows Me)Like the Piano(Sampha/Processより)
・Feel Like Makin' Love(マリーナ・ショウ/Who Is This Bitch, Anyway?より)
・Take 1
(勝井祐二、山本精一、フェルナンド・カブサッキ他/Izumi:Buenos Aires Session Vol.#2より)
Sampha/(No One Knows Me)Like the Piano
UK出身のR&Bシンガー“サンファ”が2017年にリリースしたこの楽曲、ラジオで流れていたのを耳にしたのが最初ですが、長期間調律をしていない、いわゆるホンキートンクなピアノが印象的で、切截と歌いあげる独特のハスキーボイスと、大好きなジェイムスブレイクの登場以来、普遍化したとも言える、ソウルにエレクトロニカ要素を導入した感じも気に入って、アルバムを購入しました。フジロック2017のステージも観て来ましたよ。
……ピアノって再生機器のクオリティで音の太さが変わるけど、この曲のホンキートンクなピアノの音の揺れに、ちゃんと生ピアノらしい音の太さが加わらないと、曲全体の印象が変わってくるんですよね。歌詞の世界観をより深く感じるには、久しく手入れがされていなかったアップライトピアノであって欲しいし。そう聴こえて欲しいし。
音数の少ないミニマルなサウンドも聴き所の一つですね。リヴァーブをたっぷり含んだエレクトリックパーカッションや、シンセによるベースとストリングスが、主役のピアノと歌を引き立てる様に重なって、現在進行形のR&Bへと昇華します。空間系エフェクトを通した電子音が織り成すサウンドステージをどう再生できるかで、曲への没入感も変わってくるかと思います。
昨今のポップミュージックは、この曲のようなミディアムバラード調の楽曲も含め、多くがエレクトロニカ要素を導入しています。これら楽曲の魅力を最大限引き出すには再生機器に空間表現の能力と低域の再生能力の両立が必要だなと、改めて思う今日この頃なのです。
マリーナ・ショウ/Feel Like Makin' Love
1975年にBlue Noteよりリリースされた歴史的名盤「WHO IS THIS BITCH, ANYWAY?」からの一曲です。どの曲も素晴らしいのですが、わたしにとってのレアグルーブと言ったら、なんといってもこの曲につきますね。
リズム隊がチャック・レイニーとハーヴィー・メイソンっていう時点で素晴らしい演奏は約束されたのも同然ですが、みんな大好きデヴィッド・T・ウォーカーとラリー・カールトンのツインギターによる、超絶色っぽいバッキングが、粘っこいリズムの上に乗っかって、ラリー・ナッシュの奏でるこれまたアダルトなエレピが全体をアーバンにまとめ上げるという、本当に素晴らしい演奏なんですね。
プレイヤー全員が各々どんな演奏をして、どんな風に絡み合っているのか、しっかりと聴き届けたくなるのです。もともと超高音質な録音という訳では無かったのですが、2014年に24bit化されたリマスター音源は、驚きを持って彼らの演奏を堪能させてくれるものになっていました。
……まず、デヴィッド・T・ウォーカーとラリー・カールトンが弾くギターのサウンドが、かつて以上に各々の個性を再現しています。ショートスケールのフルアコと、セミアコのギターサウンドの違い。例えばセンターブロックの有無による異なる音色の質感であるとか、二人のギターを弾く時のタッチの違いなんかを、しっかりと描き分けています。個人的には、イントロでデヴィッド・Tが弦を強く弾いた時のスプリングリヴァーブの質感も、明度を持って耳に届くのでぞくぞくします(笑)。イヤホンとかDAPとか試聴する時、まずはこのギターのニュアンスを確認することから始める事が多いですね。
次にこの曲のグルーヴの源であるリズム隊ですが、まずチャック・レイニーのふくよかで跳ねるようなベースとハーヴィー・メイソンのバスドラが、低音楽器の豊かさを失わずにしっかりと分離した形で、有機的な動きを聴かせてくれます。その上でハイハットやスネア、幾つかのタムとシンバルが一つのドラムセットとして、絶妙なバランスでグルーヴを形成していく様を確認できます。曲が進むにつれて、音数が増えていきグルーヴが増していくのですが、全ての楽器が比較的ドライに、自然なサウンドで録音されているので、各プレイヤーがどのような演奏で曲を盛り上げていくのか、例えばハイハットの踏み込み具合なんかもしっかり確認できます。
このアルバムは最新の高音質録音とは異なり、ダイナミックレンジが広い訳でも、超低音が入っている訳でも、はたまた立体的なサウンドステージを観せてくれる訳でもありません。手練れのグルーブマスター達がどんな素晴らしいプレイをしているのか、スタジオでどんな音を出しているのか、分かりやすい形で聴かせてくれる音源だと思います。何より音楽が素晴らしい。何千回聴いても未だに興奮する演奏。楽器経験者とかバンドを演っている方とか、お勧めしたい音源です。
勝井祐二、山本精一、フェルナンド・カブサッキ他/ Take 1
1995年に結成された日本のダンスミュージックバンドROVOの創立メンバーである、ヴァイオリニスト勝井祐二氏と、ギタリスト山本精一氏がブエノスアイレスを訪れ、4人の地元ミュージシャンと行なったスタジオフリーセッションからの1曲です。
2006年に「Izumi:Buenos Aires Session Vol.#2」としてCD化されたのですが、まこともって即興演奏とは信じがたいほどの素晴らしい音楽を聴くことができます。しかも踊れる飛べる。「パーリーだぜ、うぇーい」じゃなくて、狭くて暗い店で目をつぶって頭ゆすってる感じ。ほとんど一発録りとの事なんですけど、スタジオの空気感が丸ごと録れてる感じがすごい。想像なんですけどね、リミッターとかコンプとか最低限しか使ってないんじゃないかって思いますよこの臨場感。特に冒頭のパーカッションなんかは、オーディオ的に再生するには難しい部類に入ると思います。
レスポンスの速さやダイナミックレンジの広さとか、アタックに付随してくる響きとか低音を含んだ余韻とか、再生機器のクォリティが高ければ高いほど、このフリーセッションに没入できるはずです。元々ROVOが好きだったからこそ出会うことができた10年以上前のアルバムですが、はまってます私。
まだまだご紹介したい楽曲がいくつもあるのですが、文字数すでにオーバーしてしまい……。
もし、どなたかが何かのご参考になったのであれば幸いの限りです。最後までお付き合いいただきありがとうございました!