小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第762回 マイクロフォーサーズ+4Kで揺れないRAW撮影! DJI Osmo RAW

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

マイクロフォーサーズ+4Kで揺れないRAW撮影! DJI Osmo RAW

マイクロフォーサーズ + スタビライザー?

 ドローンで安定した映像を撮影するためのカメラジンバル技術を応用し、コンパクトなジンバルカメラとしてまとめ上げた「Osmo」は、ストリートや展示会のレポート動画で一定の評価を得たのではないかと思っている。

DJI Osmo RAW

 もちろん、このような製品はなにもOsmoだけでなく、GoProと組み合わせる中国製ジンバルは、山のようにある。しかしそれらは今一つブレイクには繋がっておらず、Osmoの一人勝ちになっているのは、やはり製品として綺麗にオールインワンでまとまっている強さだろう。

 そんなOsmoだが、4月17日に新しいシステム「DJI Osmo RAW」を発表した。Osmoのハンドル部分にマイクロフォーサーズマウントのカメラユニット、さらにはRAW収録に対応したSSDユニットを組み合わせ、4Kシネマ撮影に対応したものだ。以前からマイクロフォーサーズのカメラヘッドである「Zenmuse X5」は存在したが、SSDユニットも付属する新しいカメラヘッドが「Zenmuse X5R」という事になる。

 マイクロフォーサーズのプロ用カメラもいくつかあるが、ジンバルと組み合わせるには軽量なデジタル一眼にするか、あとは大型カメラが乗せられるステディカム、グライドカムを投入する必要がある。Osmo RAW(Osmo+X5R)は第3の選択肢になり得るのだろうか。

 さっそくテストしてみよう。

モノとしてはかなり大仰

Osmo RAWの全体

 Osmo RAWは、Osmoのハンドル部分にX5Rを取り付けたものとなる。X5Rは、マイクロフォーサーズのカメラヘッドにジンバル部、その根元にSSDスロット部を備えた画像処理エンジンが一体となったユニットである。

 エンジン部分は平たいがかなり面積があり、Osmoのハンドルに取り付けると大仰で変な感じだ。元々X5Rは空撮用ドローン「Inspire 1」に搭載できるように設計されているため、こんなに平たい形なのだ。Osmoに取り付けるとロゴが逆さまになるが、これはInspire 1に取り付けた場合、下向きにカメラをつり下げるスタイルで搭載するからである。

カメラ部とジンバル、プロセッサ部からなるX5R
プロセッサ部には2つのファンを装備
空撮用ドローン「Inspire 1」にX5Rを取り付けたところ

 まずカメラ部分から見てみよう。センサーは有効画素数1,600Mピクセルの4/3インチセンサーで、最大解像度は4,608×3,456。シャッタースピードは電子式で、8秒から1/8000秒まで対応する。

マイクロフォーサーズマウントを採用し、レンズ交換に対応する

 撮影可能な動画解像度とフレームレートは以下のようになっている。

モード解像度フレームレート
UHD4,096×2,16024p
3,840×2,16030p
FHD1,920×1,08024/30/48/60p

 なおX5RではMOV、またはMP4と同時に、JPEG LosslessのCinemaDNG記録ができる。ビットレートはMOV/MP4では60MbpsのVBR、CinemaDNGでは平均1.7Gbps、最高2.4Gbpsとなっている。

 画像処理エンジン部分は、右手側に専用SSDを差し込むスロット、反対側にはmicroSDカードを差し込むスロットがある。CinemaDNGはSSDに、MOV/MP4はSDカードに記録される。

専用SSD
側面からSSDを挿入するが、かなり出っ張る

 実はX5Rは、微妙にジンバルのモーター部分が邪魔して、Osmoのハンドルには直接付けられない。これをかわすためのジョイントパーツ「Osmo X5アダプター」が必要だ。

X5Rは直接Osmoのハンドルには取り付けられない
別売のOsmo X5アダプターが必要

 アダプターには、スマホのホルダーアームを移設するための金具も付いている。写真では元の位置のままだが、実際には取り付け直す必要がある。ネジが2カ所にあるが、もう一つはフォローフォーカスユニットを取り付けるためのものだ。

2つの金具は、スマホホルダーとフォローフォーカスを固定するためのもの

 またオプションとして、ドローンのPhantomシリーズのバッテリーをOsmoに接続できるアダプターもお借りした。底蓋の交換が必要ではあるが、大容量バッテリーでドライブすることができるので、長時間の撮影には必須である。

Phantomのバッテリーが流用できるアダプター
底部のフタを交換する必要がある
大容量バッテリーが使える

 さてレンズだが、DJI純正のレンズは15mm/F1.7の単焦点しかない。マニュアルリング部にはゴムカバーがかけられているが、中は絞りとフォーカスリングがある。またサイドにはAF/MFの切り換えスイッチがある。

DJI純正の単焦点レンズ
ゴムカバーの中には絞りとフォーカスリングが

 マウントがマイクロフォーサーズなので、細身のレンズであれば取り付けは可能だ。ただし重量バランスが問題になる。使用可能なレンズは以下のようになっている。

  • Panasonic Lumix 15mm f/1.7 *
  • Olympus M. ED 12mm f/2.0
  • Olympus M.Zuiko 17mm f/1.8 *
  • Olympus M.Zuiko ED 14-42mm f/3.5-5.6 EZ *(写真撮影のみ)
  • Olympus M.Zuiko 25mm f1.8
  • Olympus M.Zuiko 45mm f1.8(写真撮影のみ)
     (*のレンズはバランスウエイトが必要)

 試しに、編集部にあったパナソニックの「G VARIO 12-32/F3.5-5.6」を装着したところ、そのままでも装着できたが、同じくパナソニックの「G 14mm/F2.5」は軽すぎてバランスが取れなかった。バランスウエイトがあれば良かったのだろうが、あいにくそこまでの用意はしてなかったので、断念した。

Panasonic G VARIO 12-32/F3.5-5.6も装着できた

 ジンバルのアームが両サイドからレンズを支えるスタイルなので、鏡筒部が太いズームレンズは物理的に取り付けることができない。どのみちジンバルが駆動している間はズームリングも触れないので、基本的には単焦点レンズで使うものと思った方がいいだろう。

Osmoに近い操作性

 では実際に撮影である。とは言うものの、これだけ合体ロボみたいになったカメラというのは、見た目にもかなり大仰だ。人とすれ違えば、まず二度見されるレベルである。重量も純正レンズとiPhone 6まで装着したら、1,180gぐらいになる。さらにPhantom用別バッテリーが365gあるので、総重量1.5kgといったところだ。

 起動すると、画像処理エンジン部分にある2つのファンがかなり大きな音でうなる。音声の同録は厳しそうだ。別途離れた場所に外部マイクを用意した方がいいだろう。

 撮影のモニタリングおよび設定は、「DJI Go」というアプリで行なう。元々はPhantomでの撮影をサポートするためのアプリだ。Wi-Fiでスマホと接続し、アプリを起動するとカメラ映像がモニタリングできる。

撮影アプリのDJI Go

 カメラとしては、フルオート、シャッター優先、絞り優先、マニュアルモードが使える。またカラープロファイルとしてはD-Logをはじめ、10種類が使える。ただこのプロファイルは、MOV/MP4にだけ適応される。

カラープロファイルも設定可能
プロファイルサンプル
D-Log
D-Cinelike
None
Art
Black & White
Vivid
Beach
Dream
Classic
Nostalgia

 一方CinemaDNG記録側は、カラープロファイル設定に関係なくすべてD-Logで収録される。同時収録は特に設定はないが、SSDをさしておけば勝手に収録されるようだ。仮にMOV/MP4は不要だとしても、microSDカードが入っていないとCinemaDNGも収録できない。

 まずは純正レンズで試してみたが、フォーサーズで焦点距離15mmということは、35mm換算で30mmだ。画角にして72度である。ノーマルのOsmo(Osmo+Zenmuse X3)は20mmで画角にすると94度、一般的なアクションカムは120度ぐらいあるので、比較的狭い画角でスタビライズの効いた映像は、ちょっと新鮮だ。

このぐらいの画角のスタビライズの映像は新鮮

 実写とモニターのディレイは10フレームぐらいある。ゆっくりした動きなら問題ないが、速い動きはモニターを見ながらの操作だと行き過ぎる傾向がある。スマホ画面を長押しして、画面上のドラッグでパン・チルトができる点などは、従来のOsimo(X3)と同じだ。ただジンバルを動かしてパンチルトするより、実際にカメラの方を動かした方が、柔らかい動きが撮れる。

 ちょっと気になったのが、AFである。画面タッチでオートフォーカスになるのだが、動画撮影中に常時AFが動き続けるわけではない。小型カメラヘッドであるX3と違い、フォーサーズだと被写界深度が浅くもできるので、被写体との距離が変わる撮影では注意が必要だ。特にモニターがiPhone程度の小型のものでは、フォーカスが本当に合ってるかどうか、目視では判断できない。きちんと確認するのであれば、9インチiPadぐらいは必要だろう。

 バッテリーはOsmoで使用していた、グリップ内に格納できるスティック状のものも使える。だがセンサーも大型、ジンバルも大型、さらには画層処理プロセッサやSSDまで動かすとなると、相当な電力となる。試しにフル充電状態から撮影してみたが、つけっぱなしではおよそ20分程度しか保たなかった。

 一方Phantomのバッテリーが使えるオプションを使用すると、かなり保つ。1時間ほどつけっぱなしで撮影してみたが、バッテリー残量の1目盛りぐらいしか減らなかった。長時間の撮影では、外部バッテリーは必須だろう。ただPhantomバッテリーとの接続部分が非常に抜けやすいので、何か別の給電方法も欲しいところだ。

 また長時間電源を入れっぱなしにしていると、ハンドル部がかなり熱くなる。火傷するほどでもないが、重量もそこそこあり、汗で滑りやすくなるので、夏場はイボ付き軍手のようなものを使った方がいいかもしれない。

さすがプロ用、十分な画質

 では画質評価である。MOV/MP4での4K撮影は、「D-Cinelike」プロファイルで撮影した。iPhoneでモニターしたときは高コントラストでなかなか良いように見えたのだが、改めてテレビモニターで見てみると、色乗りがずいぶんべったりしている。あまりカラープロファイルには期待せず、Noneあたりで撮影した方が無難だろう。

D-Cinelikeでは色味がべったりするところも

 ビットレートは60Mbpsで、4Kカメラではよくあるビットレートだ。アクションカムだと映像のブレが激しく、そこにビットレートが食われてしまうが、さすがにジンバルで安定している事もあり、画質的にはまずまずだ。ただ岩肌のような低コントラストのディテール部分は十分に表現できておらず、エンコーダの苦手な部分が見て取れる。

岩肌のような部分はディテール不足か

 歩きながらの撮影では、縦方向の動きは吸収できないため、どうしても歩行感が出る。X3であれば、縦方向の衝撃を吸収するZ-Axisを併用することで、歩行感は押さえられる。一方X5Rぐらいの重さになるとZ-Axis的な機構を加えるのは難しいだろう。

D-Cinelikeで撮影したMOVファイルによるサンプル
sample_4k.mov(221MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 では同時録画されているCinemaDNGのほうを見てみよう。X5RにはSSDのUSBリーダーが付いている。筆者宅のMac Miniに接続しても、ファイルシステムの違いからOS上では何も収録されていないように見える。

 CinemaDNGのファイルを扱うには、DJIから提供されている「CineLight」というソフトウェアが必要だ。これ通じてSSD内部のファイルにアクセスする。CineLightは、カラーグレーディングとカットの切り出し、編集用ファイルへの書き出しをサポートするソフトだ。

カラーグレーディングとファイル変換を行なうCineLight

 ファイルを選択すると、中央にクリップの内容が表示される。右側のCalibrationsというところでカラーグレーディングを行なっていく。

 撮影されたファイルはD-Logなので、そのままでは人間の目には低コントラストに見える。まずはカラースペースを選択して、いわゆるLUT(Look Up Table)を当てる作業を行なう。ビデオの標準であるRec709のほか、sRGB、AdobeRGB、ProPhotoといったカラースペースに変換できる。

 カラーグレーディング機能としてはそれほど高くはなく、色温度、ティント、露出など、一般的な項目が並ぶ。そのほかガンマカーブの調整、ノイズリダクション、シャープネスといった調整ができる。

グレーディングとしてはややパラメータ不足か

 これで色を整えたら、編集用ファイルにエクスポートする。Adobe DNGやTIFFの連番ファイルのほか、AppleのProResはフルサポートだ。

必要なフォーマットに変換したのち、編集アプリで編集を行なう

 ただし変換には大変なCPUパワーが必要だ。2.6GHzデュアルコアIntel Core i5程度のマシンでは、15秒のファイルを書き出すのに2~3時間かかる。本来ならばMacProなどで作業するようなシロモノなので、今回はCinemaDNGで収録した動画サンプルの掲載は、数カットのみとさせて頂く。

RAW撮影したものをRec709で書き出したサンプル
raw_4k.mov(120MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 画質的にはさすがに文句のない仕上がりである。読者にご覧頂いているのは記事掲載のためにエンコードしてしまったもので、画質がご確認できるかわからないが、オリジナルのファイルではエンコードに起因する画質劣化はない。

 撮影日は昼間でそこそこ天気も良かったので、ノイズリダクションの必要はなかったが、シャープネス調整も加えていけば、かなりしっかりした絵にできる。デジタル一眼でもなかなかLosslessのRAWで撮れるカメラはないので、その点でも貴重な存在と言えるだろう。

 ただ自動露出の追従性がかなりおおざっぱだったりもするので、手持ちでわーっと撮るようなカメラワークではなく、何度もリハーサルしてマニュアルで露出を固定した上での撮影がベストということになるだろう。そこはシネマ撮影のノウハウが必要な部分である。

総論

 オリジナルのOsmo(X3)は実売8万円弱なのでアマチュアでも買える価格だが、X5Rはオフィシャルショップで486,000円(税込)もする高級ユニットだ。当然アマチュアが気軽に買えるものではなく、多くはプロの撮影でInspire 1に搭載するというのが普通だろう。そこをあえてコンシューマ機のOsmoと組み合わせ、プロ用手持ちジンバルとしたのが面白い。なお、RAW撮影はできないが、4K撮影できるマイクロフォーサーズマウントの「X5」であれば296,800円(税込)だ。

 「コンパクトなジンバルシステム」と言いたいところだが、実はSSD挿入部分がかなり出っ張るので、それほど小型とも言いづらい形状ではある。ただ、片手で持てるジンバルシステムでCinemaDNGによるRAW撮影可能なオールインワンシステムというのは他になく、その点ではユニークな存在だ。レンズが限られるのが多少難ありだが、手持ちで面白いアングルから攻めていけるカメラとして、業界でもう少し認知度が上がってもいいだろう。

 ドローンでも撮影し、手持ちでも撮影する会社やカメラマンが導入するのがもっとも元が取れるのだろうが、なかなかそういうところは少ないかもしれない。ドローンの技術がカメラ撮影に転用され始めた事で、以前よりも確実に業務とコンシューマの境目が、技術的に滲んできたことは間違いなさそうだ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。