小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第771回 ドライブレコーダがアクションカメラに!? あのASUSからユニークな「RECO Sync」

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ドライブレコーダがアクションカメラに!? あのASUSからユニークな「RECO Sync」

「気がつけばASUSだらけ」の世界?

 '90年代半ばのパソコン自作ブームを現役で通過した人間にとって、ASUSは“オーバークロック対応マザーボードのメーカー”だったりする。2007年以降のネットブックブームは、ASUSの「EeePC」から始まった。小型Androidタブレットの火付け役となった初代Nexus 7も、ASUS製だった。

ASUS「RECO Sync Car and Portable Cam」

 現在スマートフォンの「ZenFone」、スマートウォッチの「ZenWatch」などモバイル系でも人気商品を次々と繰り出しており、年齢層によって様々な顔を持つ企業に成長した。そんなASUSがカメラにも進出したと聞くと、驚く人も多いのではないだろうか。

 8月に発売された「RECO Sync Car and Portable Cam」(以下RECO Sync)は、ドライブレコーダとアクションカムの1台2役となるカメラだ。価格はオープンだが、ネットでは3万円台前半といったところである。実は昨年すでに小型のドライブレコーダを製品化しており、それに続いて2機種目という事になる。

 ドライブレコーダは、低価格から高価格まで幅広い製品群があり、誰でも後付けで取り付けられるという事で人気が高まっている分野だ。日本ではカーAV用品に強いケンウッドを筆頭に、ユピテル、パイオニアなど、数多くのメーカーが沢山の製品をリリースしている。もちろんIT系の台湾、中国メーカーの参入も多い。

 そんな中、ASUSの作るカメラとは、どういうものだろうか。早速試してみよう。

「レンズだけカメラ」の新提案

 ドライブレコーダは、正面にカメラ、背面に液晶画面を備えるものが多い。基本的には車のエンジン(実際にはシガーソケットなどからの電源供給)と連動して自動的に録画が始まる、スタンドアロンのカメラだ。

 一方ASUSのRECO Syncは、ルックス的にも仕組み的にも、ソニーの「レンズスタイルカメラ」を彷彿とさせる。ミラーレスカメラの交換レンズぐらいのサイズで、液晶画面やUIはワイヤレスでスマホに飛ばすという製品だ。ドライブレコーダとして見れば、大型の製品と言えるだろう。

レンズスタイルカメラやミラーレスカメラの交換レンズのようにも見える

 レンズは広角150度、F1.8という明るいレンズを採用している。フィルター径は58mmで、一眼レンズ用のフィルターも付けられる。標準ではレンズプロテクターが付属している。

58mm径のプロテクターが付いている
レンズは150度/F1.8

 撮像素子はソニー製のCMOSで、画素数などは公開されていない。静止画を撮影しても1,920×1,080止まりなので、それほど高画素のものではなさそうだ。

 ボタンや端子類はすべて鏡筒部に付けられている。電源ボタンのほか、緊急録画ボタンと動画撮影ボタンがある。緊急録画の方は、ループレコーディングで上書きされないようになっている。

 取り付け用のねじ穴は一般的な三脚ネジである6mmで、いろんなものに固定できる。ただしmicroSDカードスロットがねじ穴の隣にあるので、取り付けてしまったらSDカードの交換はまずできないだろう。衝撃を受けてもメディアが飛び出さないという点では、うまい工夫と言えるかもしれない。

 側面にはUSB端子が2つある。microUSBの方は充電やPC接続用で、miniUSBのほうはGPSユニットを取り付けるためのものだ。

電源ボタンを押すとWi-Fiも連動してONになる
通常の録画ボタンと、緊急録画用のボタン
取り付け用三脚ネジとmicroUSBスロット
充電用とGPSユニット用は端子が違う

 GPSユニットを取り付けると、動画と一緒に位置情報も記録できるようになるので、あとで動画と共にドライブコースを確認する事もできる。

GPSユニットも同梱

 電源ケーブルとして長いUSBケーブルが付属しており、シガーソケットからUSBに変換するためのプラグが付属する。GPSユニットはカメラから電源を取るので、単に繋ぐだけでOKだ。

ケーブルとアクセサリ類
シガーソケットプラグも付属
付属の車載用マウント
設定と録画モニターを行なう「ASUS RECO」

 本体には最小限のボタンしかなく、液晶画面もないので、設定変更やモニタリング はすべてスマートフォンのアプリ「ASUS RECO」から行なう。動作モードとしては、通電しただけで自動で録画を開始するドライブレコーダモードと、自分の意志で録画ボタンを押して撮影するポータブルモードの2つがある。車に取り付けておくときはドライブモード、取り外してアクションカメラとして使う時はポータブルモードに切り換えるわけだ。

必要にして十分な機能

 ではまずドライブレコーダモードから試してみよう。このモードでは、USB経由で電源が供給されれば自動的に録画モードになるのだが、アプリから設定が色々できる。

 まず録画解像度だが、1920×1080/30Pか1280×720/30Pが選択できる。ドライブレコーダとしての一般的な機能としては、カメラ内のモーションセンサーにて衝撃を検知した際に自動録画したり、動体検知をしてカメラ内に動くものが映った際に自動録画する機能がある。

動作モードは2つ
画質モードはなく、録画解像度の切り換えがあるのみ

 また本機はWi-Fiでスマホと繋がっている場合に、カメラがセンサーで緊急事態だと判断すれば、自動で誰かにSMSのメッセージを発信したり、ASUSのクラウドに録画ファイルを自動的にバックアップする機能もある。RECO Syncの購入特典として、500GBのクラウドストレージが1年間無料で使えるのだ。このあたりは、スタンドアロンのドライブレコーダにはない機能だ。

 ただクラウドへの自動バックアップをしようと、アプリからクラウドストレージにログインを試みたが、何度やってもできなかった。ブラウザでは同じIDとパスワードでログインできるので、アプリ側の不具合と思われる。

クラウド利用の購入特典が付いてくる
iPhone用アプリからはどうやってもログインできなかった

 付属のマウントホルダでフロントガラスに貼り付け、ケーブルが邪魔にならないよう隙間に押し込んで入って、シガーソケットまで引っぱる。GPSユニットには両面テープがなかったので、手持ちの両面テープでダッシュボード上に仮止めした。

 取り付け位置は、運転席から見てバックミラーの背後になるあたりだ。モニターがついているタイプだと、運転席から本体が見えないこの位置には取り付けないが、モニターがないので気楽である。

付属のマウントホルダーで取り付け
モニターがないので運転席から見えなくても問題ない

 カメラアングルや水平は、スマートフォンのモニター画面を見ながら行なう。ただ運転中は画面を見ていられないし、スマートフォンにずっとプレビュー画面を映していても無駄だ。日常的に使う場合、毎回運転する度にスマホとWi-Fi接続してアプリを立ち上げて……とやるのはどう考えても手間なので、通常はカメラに任せっぱなしになるのではないだろうか。ただそうなると、スマホとの接続が必要な緊急時のSMS発信や自動バックアップ機能は働かない事になる。アイデアとしては面白いが、その辺が果たして実用的かどうかは疑問が残るところである。

 本機で録画した動画(1,920×1,080)は8Mbps/VBRのMP4だが、1分、3分、5分単位でファイルを分けるよう設定できる。メモリーカードが一杯になると、古いファイルから順次消しながらのループレコーディングになるので、こういう細かいファイル分けが必要なのだろうが、必要なシーンを見つけるのはちょっと面倒だ。またサムネイル用として、同時に576×320/15fpsの動画も記録される。

 フルHDの動画は8Mbpsなので、解像度はそれほどでもないが、30p記録ということもあり、動画を止めれば対向車のナンバーも読み取れる。画角も十分に広く、ドライブレコーダとしては十分な映像だろう。手ぶれ補正はないが、普通の道なら車のサスペンションもあるので、それほどガクガクした絵にはならない。

ドライブレコーダモードで撮影した動画
drive.mov(77.77MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 設定で「日時表示」にチェックを入れておくと、画像内に日時が焼き込まれる。GPSユニットも繋いでおけば、緯度経度の情報も同時に焼き込まれる。

 ドライブレコーダの動画をあとからチェックするには、Windows用の専用ソフト「Media Player」を使うと楽しい。記録したSDカードをこのソフトに読み込ませると、GPS情報を元にした走行コースと速度、加速度センサーによるGの変化を見ることができる。またファイルが細かく別れていても、1つのファイルの再生が終われば自動的に次を再生するので、全体のルートも確認できる。

付属ソフトの「Media Player」で地図情報も参照できる

アクションカメラとしてはどうか

 続いてポータブルモードに切り換えて、アクションカメラとして使ってみよう。前にも述べたが、固定には一般的な三脚ねじ穴があるので、市販の固定器具が使える。いつものようにソニー製のハンドルマウントを使って、自転車に固定してみた。

ソニー製のハンドルマウントを使って装着
ヘルメットにもマウントできる

 センサーの読み出し速度はそこそこ早く、ローリングシャッター歪みは少ない。ただやはり手ぶれ補正がないので、細かい振動が吸収しきれず、画質的には木々の細かい部分の破綻が大きい。ポータブルモードもビットレートは8Mbpsで同じなのだが、アクションカメラとしての用途を考えたら、2倍から3倍ぐらいのビットレートは欲しいところだ。ハンドルではなくヘルメットにも装着してみたが、それほど振動面で違いはなかった。

ポータブルモードでの動画
portable.mov(76.06MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 ドライブレコーダとして設置する場合はつり下げだが、ハンドルマウントなどに取り付ける場合は上下が逆になる。だが本機は内蔵の加速度センサーを使って上下を判定できるので、撮影画面の上下反転は自動で行なえる。ただし激しい振動があった場合、加速度センサーが上下の判定を誤り、瞬間的に映像がひっくり返るという現象が起こった。せめて録画中は上下判定をやめるようにしたほうがよかったのではないだろうか。

 ポータブルモードでは、動画撮影以外にも静止画撮影やバースト(連写)モード、タイムラプス撮影ができる。静止画はまずまずの解像感ではあるのだが、画像サイズが1,920×1,080しかなく、今どきのアクションカメラとしては物足りない。150度という広角で撮れるというメリットはあるが、画質的にはおそらく皆さんが持っているスマホの方が、綺麗だろう。

 フォーカスも固定なので、草花のアップを撮ってもフォーカスが合わない。このカメラでわざわざ静止画を撮影するメリットはあまりないと言える。

近景も撮ってみたが、レンズ前40cmぐらいまではフォーカスが合わない

 タイムラプスの間隔は、5秒ごと、30秒ごと、1分ごとの3段階から選択できる。撮影されるのは1,920×1,080の連番静止だ。使い出のある10秒ごと、15秒ごとぐらいの選択肢も欲しいところだ。

5秒間隔で撮影した静止画を動画にまとめた
laps.mov(12.07MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

総論

 ASUS製ドライブレコーダ第2弾は、スマホ連携による緊急対応に特徴がある製品だ。ただしその機能を使うには、カメラとスマホがWi-Fiで接続される必要がある。毎回の運転時に、スマホとWi-Fi接続が確立できるだろうか。家の車庫ならまだスマホが家庭内のWi-Fiを掴んでいる可能性は十分あり、手動で切り換える必要があるだろう。走り出して電波が届かなくなれば、勝手にRECO Syncと接続するかもしれないが、それも確実とは言えない。

 本機のようなカメラにSIMが刺さるようになれば、また全然違った可能性が出てくるはずだ。スマホメーカーでもあるASUSがドライブレコーダに参入するのであれば、それぐらいは期待したいところである。

 車から取り外してアクションカメラとして使う、という提案はなかなか面白いが、この画質であれば、今どきのスマホのほうが全然綺麗に撮れる。アクションカメラとして使わせるなら、手ぶれ補正は欲しいところだし、ビットレートももっと欲しい。

 そもそもスマホと接続しないとモード切り換えもできないので、ユーザーはスマホも確実に持っているはずだ。取り外せても結局は画質でスマホに負けるのであれば、わざわざ取り外してこのカメラで撮影するメリットは少ない。ここぞというスポーツの瞬間を撮影するというよりも、広角レンズを活かし、自転車に取り付けて車のドライブレコーダと同じように、旅の風景を長時間撮影しておくという使い方の方がいいだろう。

 ドライブレコーダとしては、スマホアプリで設定を細かく変更できるので、設定はしやすい。スタンドアロンのドライブレコーダでは、細かい設定を小さい画面と妙なUIで格闘しなければならないことから考えれば、スマホアプリで設定という方向性はアリだ。

 今後も引き続き、ASUSらしいとんがった機能とコンセプトでドライブレコーダ業界も盛り上げていって欲しいと思う。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。