小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1047回
センサー&ディスプレイ大型化。シングルレンズモードが凄い、Insta360 X3
2022年9月9日 00:00
もうディスプレイ標準時代へ?
先週は360度カメラのリコー「THRETA X」を取り上げたところだが、今回は同じく360度カメラで名を上げ、アクションカメラやジンバルカメラなど多方面へ製品を展開するInsta360の新製品を取り上げる。
「Insta360 X3」は9月8日に発表されたばかりで、形状や名称から2020年に発売された「Insta360 ONE X2」の後継モデルと考えて良さそうだ。同日発売で、価格は68,000円。「ONE」の名称は合体分離できるアクションカムシリーズへ譲り、一体型360度カメラはXシリーズという整理だろう。
ONE X及びX2には円形の小型ディスプレイが付いていたが、今回のX3にはさらに大型化したディスプレイを備えている。Insta360 ONE Xは2018年発売で、シリーズとしては足かけ4年という事になるが、方向性としては奇しくもリコー「THRETA X」と似たようなところにたどり着いたことになる。
もちろんそれだけでなく、センサーも改良され、新モードも搭載と、盛りだくさんの内容となっている。早速テストしてみよう。
なお撮影時にはまだファームウェアが最終ではなく、画質や操作性の面で製品版とは若干違いがあるかもしれない点をお断わりしておく。
ボディサイズそのままに大画面化
Insta360 Xシリーズのポイントは、360度カメラとして前後2つのカメラを搭載しながら、アクションカメラ的な構造を持つところである。レンズが出っ張っているので、レンズ保護フィルターは別売されているが、本体のみで水深10mまでの防水機能を備えている。
X3になってディスプレイが大型化しても、ボディサイズは以前とそれほど変わっていない。リコーTHETA Xと比較しても、似たような構造ながら小型を維持できている。
センサーサイズは、これまで先行機種では非公開だったが、今回は1/2インチセンサーに大型化したという。前モデルはそれ以下だったという事だろう。撮影解像度は、静止画で7,200万画素、動画で5.7Kだが、360度全体でこの画素数なので、実際にはその一部をトリミングして書き出すことになる。
注目のディスプレイは2.29インチのタッチ式で、強化ガラスでカバーされている。画面両端がゆるくカーブしているが、これはカバーガラスがカーブしているだけで、ディスプレイ自体がカーブしているわけではない。
元々小型ながら設定用ディスプレイはあったシリーズなので、スマートフォンと連携できない場合でもモードや設定変更はできた。今回さらにプレビューも大きな画面で見られるようになり、撮影時や撮影後の確認もやりやすくなった。
X3では、レンズの片側だけ使用する「シングルレンズ」モードが強化されたことで、本体ボタンも変更されている。以前は録画ボタンが中央に1つだけ大きく付けられていたが、今回は画面下の左側に小さく配置された。右側はカメラモード変更ボタンで、360度、シングル外カメラ、シングル内カメラに切り替えできる。
本体左側にはUSB-C端子、バッテリー挿入口がある。記録メディアはmicroSDカードで、バッテリーをはずした内部にスロットがある。内蔵メモリーは搭載しない。
本体右側には電源ボタンとクイックメニューボタンがある。クイックメニューは、お気に入りの撮影モードを登録しておき、一発で呼び出せる機能だ。電源ボタンの上にあるのは、内蔵スピーカーだ。
マイクは左右に1対あるのに加え、正面にはレンズ下、背面にはボタンの間と、合計4つ備えている。これらのマイクを使って集音特性が変えられる。音声収録モードには、「方向性強調」、「風切り音低減」、「ステレオ」の3モードがある。これはあとでテストしてみよう。
製品には本体カバーも同梱されている。レンズが飛び出しているので、充電時にはカバーをしておきたいところだが、上手い具合にカバーに穴が開けられており、ここから充電ケーブルを差し込むことができる。こうした細かい配所はかつて日本企業のお家芸であったが、中国メーカーもどんどん気配りが追いついて来ているのを感じる。
完成された撮影モード
ではさっそく撮影してみよう。前段でも少し触れたところだが、本機はレンズ片側だけを使う「シングルレンズ」モードを大きくフィーチャーしたのがポイントである。ただ撮影モードとしては、360度とシングルレンズではできることが違っている。ここで一覧でまとめてみた。
- | 360度 | シングルレンズ |
写真 | ○ | ○ |
HDR写真 | ○ | × |
動画 | ○ | ○ |
アクティブHDR(動画) | ○ | × |
タイムラプス | ○ | × |
タイムシフト | ○ | × |
バレットタイム | ○ | × |
ループ録画 | ○ | ○ |
スターラプス | ○ | × |
バースト | ○ | × |
インターバル | ○ | × |
ミーモード | × | ○ |
こうしてみると、HDRが使えるのは360度のみ、また時間圧縮系が使えるのも360度のみ、ということになる。逆にシングルレンズのみしかできないモードは、「ミーモード」のみとなる。
モード切り換えは画面の横スワイプで行なうが、切り替えに若干時間がかかる。ほとんどは1秒程度だが、タイムラプスから写真といった特定の組み合わせでは2~3秒かかる。また動画の録画開始は、録画ボタンを押して実際に撮影が開始されるまで2~3秒待たされる。Vlog的なレポート撮影などでは、録画開始を確認しないと、しゃべり出しの頭が撮れてないといったことが起こるだろう。こうしたレスポンスという意味では、先週のリコーTHETA Xに軍配が上がる。
まず360度撮影での標準(SDR)とHDRの違いから確認してみる。本機のHDRは、10bit HDRの方ではなく、写真で行なわれているような多重露出画像を合成して得られる方のHDRである。
2つのモードを比較してみると、SDRは高コントラストではあるものの、逆光下の樹木はかなり暗く、太陽付近も白潰れの面積が大きい。一方HDRは全体的に発色がよく、逆光下の樹木もディテールがよく見える。また太陽も白飛び部分が少なく、雲のディテールもよく表現できている。できれば常時HDRで撮影したいところだ。
手ブレ補正では、自転車のハンドルに固定してみた。実際にはショックアブソーバーも何もないのでカメラはかなり振動しているが、補正にはまったく問題なく、綺麗にブレを抑えている。一方歩行での撮影は、まだ若干歩行感は残すものの、カメラの水平維持機能の能力が高く、面白い映像が撮影できる。
久しぶりにバレットモードも試してみた。このモードはInsta360のお家芸のような機能で、かなり初期の頃からサポートしているが、久しぶりにやってみるとやはり面白い。センサーが高解像度になったことで、切り出し画像のディテールも上がり、よりダイナミックな映像が得られるようになっている。
音声収録に関しては、前出のように本機には4方向にマイクがあり、集音モードも3つある。それぞれの違いをテストしてみた。
今回はあまり風がなかったので、風切り低減の威力があまり感じられなかったが、かなり高域特性が落ちるため、しゃべりの収録にはあまり向かないと思われる。指向性は前も後ろも関係ないようで、違いはわからなかった。
「ステレオ」は文字通り左右のマイクを活かした集音が可能だ。音声の明瞭感はかなり上がることから、通常はこのモードで撮影すればいいのではないだろうか。
方向性強調モードは、カメラの前後に指向性を持たせることで、しゃべりの収録に使いやすくしたモードである。前後のマイクをテストしているが、聞いた限りでは前も後ろも同じように聞こえるはずである。ただレベルメーターを見る限りでは、若干後ろ側(ディスプレイがある側)のほうが指向性が高いようにも思える。
いわゆるアクションカメラと言われる文脈のカメラは、音声収録にあまり力を入れてこなかったところがあるが、2年ぐらい前からVlog向けとして、しゃべりの収録に対応できるよう機能強化されてきている。本機もその傾向にあるということだろう。
機能強化されたシングルレンズモード
X3では、シングルレンズと背面ディスプレイを使って、アクションカメラ的な撮影もできることを訴求している。動画撮影ではHDRが使えないのは残念だが、そのかわり手ブレ補正モードが2種類利用できる。
デフォルトFOVは、カメラ内手ブレ補正を利用する通常モードで、最大4Kでの撮影が可能。一方FOV Plusは2.7Kにはなるものの、170度の広い画角で撮影可能で、手ブレ補正と水平維持はスマホアプリもしくはPC用Instta360 Studioで行なう。手ブレおよび水平情報はメタデータとして録っておき、あとからソフトウェアで演算させるという方法論である。
自転車へのハンドルマウントでテストしてみたところ、デフォルトFOVでは手ブレ補正はそこそこ効果があるものの、水平維持はほぼ機能していないようで、カーブ時のバンクの様子がよくわかる映像になっている。
一方FOV Plusでは、後処理で何を補正するかが選択できる。補正なし、手ブレ補正のみ、手ブレ補正と水平維持の3タイプで書き出してみた。画角が広く取れる割には補正の効果も高く、かなり有用であることがわかった。
映像自体もデフォルトFOVより発色が良くなり、若干HDRっぽいトーンになっている。書き出しも最高2,720×1,530で書き出せるので、HD解像度に落とす場合はトリミングも可能だ。これまでどうせ前面しか使う予定がなくても、しかたなく自分の顔も写り込んでいたわけだが、シングルレンズモードはその点でも心理的な負担がない。
もう1つ、シングルレンズモードでしか使えない、「ミーモード」をテストしてみよう。これはスマホなどでよくある自撮り棒的な撮影ができるモードだ。普通は自撮りするときに、カメラを自分の方に向くよう角度を付ける必要があるが、このモードの場合、棒に対してまっすぐに本機を取り付けるだけで、自動的に自撮りモードっぽくなる。すなわち、カメラの斜め下方向が中心になるよう、切り出し方向がセットされるわけだ。
自撮り棒がカメラの真下になるので、棒全体が消えてしまうというのが面白い。まるでドローンが併走しているかのような映像が撮影できる。
タイムラプスも高解像度に
コマ撮りを行なうタイムラプス機能も、センサーの大型化により高解像度化している。本機のタイムラプスは、静止画の連番ではなく動画ファイルとしてまとめられる。ただし独自形式なので、展開するにはスマホアプリかPC用Insta360 Studioが必要となる。また発売に合わせて、Adobe Premiere Proで読み込み可能になるプラグインも提供される予定だ。
タイムラプスの解像度は、8Kと5.7Kが選択できる。切り出しで使用することを考えれば、8Kで撮影しておくべきだろう。そうすればかなり狭角に切り出しても、一定の解像度が得られることになる。
今回は夕景を撮影してみたが、日没までかなり明るく撮影できた。最後のフレームまでかなり明るいが、実際にはもう日が暮れて手元もあまり見えないぐらいの暗さである。
もう1つ、スターラプスも短時間だがテストしてみた。短時間といっても、実際には30分ぐらい撮影したのだが、動画にすると1秒足らずである。インターバル時間は手動では設定できないようで、明るさに応じて露光時間が決まり、それに応じて撮影間隔も決まるようだ。撮影した現場では、およそ1分で1枚の撮影間隔となっている。
時間は午後8時半ぐらいであたりは真っ暗だが、長時間露光のために高SNで昼間のように撮影できている。中央に太陽のように見えるのは、月だ。あいにく天候が悪く星が見えないのが残念だったが、山でキャンプでもした際に一晩撮影すると、かなりいい絵が撮れるのではないだろうか。
総論
今回360度カメラとして、リコーTHETA XとInsta360 X3を連続で評価したが、それぞれに狙っているポイントが違うと感じた。リコーTHETA Xはモード数などやれることが少ないが、動作にもたつきがなく、あまり機器やカメラに詳しくない業務ユーザーでも迷うことなく、安心して使えるようになっている。
一方Insta360 X3は、モード切り替えに多少もたつきが感じられるものの、幅広いコンシューマユーザーが楽しめるように多くのモードが搭載されており、アプリ側でも多彩な機能を提供することで、大きなコミュニティを作ろうとしているのがわかる。
双方とも大型ディスプレイを搭載するに至ったが、やはりカメラだけで設定からプレビューまで完結したいというニーズが高かったものと思われる。実際両カメラとも撮影まではスマホいらずとなっており、これまで撮影時には両手が塞がってしまっていた状況からすると、だいぶ手軽に撮影できるようになっている。
Insta360 X3は360度撮影によるバレットモードや、底部の消失点を上手く使ったソリューションを展開しており、またシングルレンズモードを搭載することで、これ1台でアクションカメラ的な撮影から自撮りまで、オールインワンでこなせるようになっている。
360度カメラはVR文脈で広く認知されたが、実際にカメラを買う人は一部の好事家に限られていた。だが本機はオールマイティに使えるので、「スマホ以外にもう1台持って行くカメラ」というポジションに上手く滑り込めるのではないだろうか。