小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1124回
わはははなんだこれ。低音ドッコンドッコンのソニー「ULT POWER SOUND」全部試す
2024年5月8日 07:30
低音重視がトレンド化!?
オーディオ製品が、好調を通り越して自由すぎる展開になってきている。従来通りひたすら音質を高めていこうという試みを続行しながら、空間オーディオやオープンイヤーなど「新しい聞かせ方」がどんどん生まれている。リスナー側もHi-Fiってなんですか? ぐらいの世代が中心となって、好きな音質で好きなスタイルで聴く、音を作り替えることに躊躇のない時代に突入したと言える。
ソニーが新しく展開する「ULT POWER SOUND」シリーズも、そんな自由なサウンドという流れに乗るものだと考えられる。「アリーナの最前列に飛び込んだようなサウンドが楽しめる」という新シリーズは、まず米国で発表された。
ソニーは元々ワールドワイド向けには、パーティ向けの大型スピーカー商品を以前から数多く展開しているが、これまではあまり日本では販売されてこなかった。現行商品では、「SRS-XV800」ぐらいではないだろうか。
そもそも低音重視モデルとしては以前からXBシリーズがあったが、今回の「ULT POWER SOUND」シリーズは、最大サイズの「ULT TOWER 10」以外は日本でも発売されることが決まった。
今回は国内で展開される中型の「ULT FIELD 7」、ポータブルサイズの「ULT FIELD 1」、ワイヤレスヘッドフォンの「ULT WEAR」を全部お借りできた。特徴は、ULTボタンを押すと低音がアホみたいに出ることだ。低音好きにはたまらん3製品を、早速聴いていこう。
中型といいつつ十分デカい「ULT FIELD 7」
今回発売される3製品のうち、もっとも発売日が遅いのが「ULT FIELD 7」だ。日本では5月24日の発売で、執筆時点ではまだ発売前である。オープンプライスではあるが、店頭予想価格は66,000円前後。このサイズでこの価格なら、まあまあ安いのではないかと思わせる。
形状としては横幅512mm、直径224mmの円筒形で、中央部がゆるく絞られている。バッテリーを内蔵し、重量は約6.3kg。両脇にハンドルが付いている。カラーはブラックのみ。
内蔵ドライバーは、ウーファー×2とツイーター×2の、ステレオ2WAY。ツイーター径は46mmで、ツイーターと言いつつも中音域までカバーする、広帯域タイプである。ウーファー径は114×114mmの矩形コーンで、搭載面積を稼いでいる。
全部のスピーカーが正面向きに取り付けられており、両サイドはパッシブラジエータになっている。ボディ全体としてはIP67等級の防水・防塵性能プラス、サビに強い防錆対応となっている。海辺での使用を想定したものだろう。
さらに音場最適化技術を搭載し、周囲のノイズを検知して自動的にサウンドを最適化するという。また横向きだけでなく、縦置きにも対応する。取っ手部分が空いているので、縦置きしてもパッシブラジエータが塞がれるわけではない。
天板にボタンがあり、特徴的なULTボタンは一番右だ。カラーLEDが仕込まれており、左右のパッシブラジエータ廻りにあるLEDと同期して様々なパターンで光る。ただし両サイドの凹みにあるだけなので、ディスコチックにビカビカ光るわけではない。
BluetoothはSBC、AAC、LDACに対応。バッテリー持続時間は30時間となっている。
背面端子も面白い。充電はメガネケーブルによるAC接続。標準ジャックのマイク・ギター入力端子があり、再生中の音楽に合わせて歌ったりセッションできたりする機能がある。カラオケ的に使えるわけだが、外部入力にはエコーもかけられるようだ。キーコントロール機能もあり、音域に合わせることもできる。
コントロールアプリは「Music Center」が対応する。Sound EffectのCUSTOMを選ぶと、7バンドのEQが使える。
では、早速音を聴いてみよう。今回はベースとドラムがドコドコいう楽曲ということで、往年の名作であるピーター・ガブリエルの『So』を聴いてみる。
ULT OFFではほぼノーマル状態の音が聴けるわけだが、ボディの割には軽い音というか、明瞭感は高いが低域バランスは割と普通のサウンドである。ULTモードには1と2があり、1は「深い音域をより強調」とある。
ULT1では、トニー・レビンのベースのうねりがしっかり強調され、ボディサイズから期待されるサウンドが飛び出してくる。かといって低域で他の部分がマスキングされたりクリップされたりということはなく、一般的にデカいスピーカーで聴いた時と変わりないバランスだ。ベースのグリッサンドが耳につく音域もあるが、ディープな低音が楽しめるモードだ。
一方ULT2は、「パワー感を強調」とある。これに切り替えると、低域と共にバスドラのアタックも前面に出てきて、ドスドスというパワー感を感じる。これはかなり音源を選ぶサウンドだ。メタルなど低音が連続するタイプの楽曲は、低域に引っぱられすぎて鬱陶しい感じに聞こえる。それよりは低音の歯切れのいい、ファンクのような楽曲のほうが効果がわかりやすい。
中高域は別スピーカーになっているため、低音によって音が潰れてしまう感じはない。ただ、左右のステレオ感という点では、左右のドライバの位置以上の広がりがあるわけではなく、こじんまりした感じに聞こえるのは残念だ。広がり感よりも低域の求心感を重視したという事だろう。
どんな手を使ってるのか「ULT FIELD 1」
「ULT FIELD 1」は、「ULT FIELD 7」と同じデザインテイストで設計されている。ただし7と比べると円筒ではなく、角柱に近い。すでに発売開始されており、ソニーストア価格は19,800円。カラーは4色で、ホワイト、ブラック、ネイビー、オレンジがある。今回はブラックをお借りしている。
外寸は横幅206mm、奥行き76mm、高さ77mmとなっているが、1mmしか違わないので横から見ると縦横はほぼ同じに見える。
内部には約83×42mm径のウーファー1基と、16mm径ツイーター×1基を備えた、モノラルスピーカーである。従来機同様、2台でステレオペアにもできる。
重量は650gで、吊り下げ用のストラップが標準で付属する。これも7同様、両脇にパッシブラジエーターを備えており、縦置きにも対応する。ただし、ULT Field 7のような両脇のLEDは内蔵していない。IP67等級の防水・防塵と、防錆機能搭載は同じだ。さらにこちらは衝撃に強いショックプルーフも追加されている。お風呂スピーカーとしても活躍しそうだ。
背面の端子は、USB-C端子のみ。BluetoothはSBC、AAC、LDACに対応で、バッテリー持続時間は12時間となっている。
コントロールアプリは同じくMusic Center。ただしEQは3バンドとなる。
本機のULTはモードが1つしかなく、ONかOFFかの選択となる。OFFでは少し前のBluetoothスピーカーといった感じのサウンドで、手堅くまとまっているが若干腰が高いというか、低域は若干不足感を感じる。昔ならもうワンサイズ大きくないと、低音は期待できなかったタイプだ。
それがULTをONにすると、表情が一変する。なんじゃこりゃ、というレベルで低音がドッコンドッコン出てくる。とても全長20cm程度の小型Bluetoothスピーカーから出ているとは思えない。左右のパッシブラジエーターを指で触れると、痺れるぐらい激しく振動している。それだけ内部で空気をガンガンに押してるということであり、搭載のウーファとアンプが相当いい仕事をしているのがわかる。
サブウーファのような、本当に下からせり上がるような重低音まではもう一歩届かない感じはあるが、このサイズ感を考えれば十分満足できる。ステレオではないのが惜しいところだが、この全長でステレオスピーカーにしても効果が薄いだろうから、ステレオにこだわるなら2台買ってステレオペアで使うべきなのだろう。
意外にハイエンド、「ULT WEAR」
今回発売のULTシリーズで唯一のヘッドフォンタイプが「ULT WEAR」だ。これまで低音重視モデルは若年層にウケがいいというところから、「Extra Bass」シリーズは比較的低価格で展開してきたが、本機は店頭予想価格33,000円前後と、なかなかのお値段。
昨今は若年層でもヘッドフォンにはお金をかける人が増えたこともあり、ULTシリーズの登場で「Extra Bass」は終了となる。Extra Bassはイヤフォン主体のシリーズだったので、ULTシリーズでそのうちイヤフォンも出るという事だろう。
カラーはブラック、オフホワイト、フォレストグレーの3色で、今回はブラックをお借りしている。
価格が高いのも当然で、内容的には「WH-1000XM5」などにも搭載されている統合プロセッサー「V1」を搭載、ノイズキャンセリングも備え、360 Reality Audio認定も取得、ヘッドトラッキングも対応ということで、かなりハイエンド寄りの製品だ。
BluetoothはSBC、AAC、LDACに対応するが、ハイレゾ対応ではない。その代わりガッツリ低音が出るというコンセプトのようだ。
搭載ドライバは40mmで、新開発の専用品。ULTモードはULT FIELD 7と同じ、1と2の2タイプを搭載する。右ハウジングはタッチセンサーとなっており、ボリュームや曲送りにも対応。重量は255gと、WH-1000XM5とほぼ同じで軽量だ。連続再生時間はNC ONで最大30時間、OFFで最大50時間となっている。
装着感は非常にソフトで、イヤーパッドやハウジングの質感も高い。本機の方がカラバリがあるのがポイントだが、質感はWH-1000XM5と遜色ない出来だ。
コントロールアプリは「Headphones Connect」で、アダプティブサウンドコントロールやプリセットEQなどは従来製品と同様に使用できる。EQ設定を見る限り、ULTとCLEAR BASSはそれぞれが独立して動くようだ。
さて肝心の音だが、ULT OFFの状態でも結構低音の再生能力は高く、普通に聴くぶんにはOFFで十分良好である。このあたりはスピーカータイプとは違う。ULT1にセットすると、低音域がドーンと膨らんで、全体的に「モッ」とした圧を感じる音になる。「ズーン」という低音を期待したのだが、若干持ち上げ範囲が高い印象だ。
ULT 2にすると、低音部分が「ブーン」と唸るようなサウンドになり、楽曲『Red Rain』では低音部が何をやっているのかよくわからなくなる。もう少しキレがあると良かったのだろうが、ちょっとやり過ぎかなと思う。まあアルバム『So』事態がやり過ぎ感のあるアルバムなのでちょっと極端な例で聴きすぎたかもしれない。
元々低音過多ではない普通の楽曲を再生すると、ようやく本製品の意図するところがわかる。低音のバスドラムのあたりをズーンと沈ませて聴かせるサウンドを狙っているようだ。確かに口径45cmぐらいのサブウーファの近くで聴いているような感覚になる。元々低音が強いEDMのような楽曲では、わけがわからなくなるぐらい低音が出るので、楽曲に応じて使い分けるべきだろう。
総論
従来オーディオ製品は、価格が上がるほど原音忠実主義となり、妙に低音や高音が出る変わった特性のものは敬遠されてきたものである。
だがワイヤレスイヤフォン・ヘッドフォンではスマホアプリでEQが変えられたり、複数のサウンドモードを搭載するのが当たり前になっていった。その結果、好みの音を自由につくって楽しむことは当然となり、ULTシリーズのように変わった特徴を持つものも、高付加価値商品としてきちんと作られるようになった、という事だろう。
特にBluetoothスピーカーは、十分に普及はしたものの機能やデザイン、個性は次第に頭打ちになってきたところだが、音でもう一度個性を付けるということでマンネリ化を打破しようという動きが出てきている。ソニーやJBLといった老舗メーカーがその先陣を切る格好になっているのは、オールドファンにとっても頼もしい限りだ。
リスナーの動向として、低音重視の傾向はすでに10年前の「SRS-X9」の頃から目立ち始めていた。ちょうどハイレゾが立ちあがった時期と重なっており、ダンスミュージック(EDM)の一般化とも重なる。こうした複数の流れが合流した結果、昨今の低音が出て当たり前の時代へと結実したと言える。
ストレス解消のために、あえて低音ドコドコで聴くという人も多いという。そうした「発散」対応シリーズがULT、という解釈もできそうだ。