“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語” |
■ 1年ぶりに帰ってきた!
FinePix REAL 3D W3 |
今回の3Dブームは一過性のものではないという意見も聞かれるが、これまでの3Dブームと決定的に違うところは、3Dを作るための技術が広く公開され、またコンシューマでも実際に撮影・製作機材が登場しているところである。
これまでの3Dは一方的に大手メディアから供給されるものであったわけだが、コンテンツが揃わない、あるいは安易なコンテンツが氾濫して飽きられた、という過去がある。しかし自分で作れるとなれば、コツコツとやり続ける人が出てくるわけで、「3Dは特別なものではない」という第一歩が踏み出せる。
自分で作る3D映像を推進するメーカーの一つが、富士フイルムである。丁度1年前に「FinePix REAL 3D W1」を発売し、「もう出たのか」と業界を驚かせたのも記憶に新しいところだが、この夏に後継機種が発売される。「FinePix REAL 3D W3」(以下W3)がそれだ。W2というモデルはないようなので、W1→W3という進化である。店頭予想価格は48,000円となっているが、すでにネットでは4万円を切る価格で売るところもあるようだ。
前作から1年、他社から対抗機種が出てこないのは、まったく準備してなかったからなのか、それとも静観しているからなのか。今のところ1カメラで3D動画が撮影できるコンシューマ機は、この富士フイルムのREAL 3Dシリーズと、パナソニックが販売を開始する「HDC-TM750/650」+ オプション3Dコンバージョンレンズ、レッツ・コーポレーションの「3Dsunday pocket HD camera」ぐらいしかないようだ。
例によってデジカメなのに動画しか撮らないという本コーナー、今回は新たに720/24Pの撮影にも対応したというW3の実力を、早速試してみよう。
■ 操作性がアップした新デザイン
高さが低くなり、横に長いカメラという印象 |
前作のW1は、ツヤありピッカピカの黒だったので指紋が気になるボディだったが、今回のW3ではマットブラックになっており、ピカピカ感が後退して落ち着いた風貌になった。サイズ的には若干縦方向が短くなり、横にスッと長い感じの綺麗なカメラとなっている。
レンズカバーと電源が連動するのは前作と同じだ。今回はカバーに指がかりのための突起がデザインされており、開けやすくなった。カバーを開けると2つのレンズが出てくる。また電源投入後、7秒間ぐらい前面の3Dの文字が青く光る。
レンズ周りの設計は前作とほぼ同じだが、左右のレンズ間は75mmと少し狭くなった |
レンズは35mm換算で35mm~105mmと、スペック的には変わっていない。ただ今回は3Dの撮影では、オート視差調整の最短距離が38cmまで撮影できるようになった。前作は約60cmだったので、かなり精度が上がっている。
撮影モード | ワイド端 | テレ端 |
動画 | ||
静止画(4:3) | 35mm | 105mm |
3D録画フォーマットは、HD、VGA、QVGAの3モードとなった。圧縮フォーマットは独自フォーマットの3D-AVIだが、中味はMotion JPEGコーデックのAVIを2ストリームまとめたもののようだ。また音声のサンプリングレートが変更になっており、今回は48kHz/16ibtのリニアPCMとなった。前回は11kHzだったので音がギスギスしていたが、普通に聴ける音になった。
モード | 解像度 | fps | サンプル |
HD | 1,280×720 | 24p | dscf9991.avi(71.8MB) |
VGA | 640×480 | 30p | dscf9994.avi(28.6MB) |
QVGA | 320×240 | 30p | dscf9995.avi(18.0MB) |
編集部注:「むっちゃんのステレオワールド」で公開されている「ステレオムービープレーヤー」での再生を確認していますが、再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
背面はかなり大きく変わっている。前作はモニターを中央にして、左右にボタンが並ぶというゲーム機っぽいデザインだったが、今回は液晶を3.5型と大型化し、ボタン類は右に寄せて普通のデジカメと同じスタイルになった。ズームレバーはシャッターの周りに配置するなど、操作性も一般的なデジカメに近い。視差調整のレバーも上部にある。
背面は普通のデジカメ+3D機能といったデザイン | ズームレバーもリング状に変更 | 視差調整レバーはボディ上部に |
モード選択はダイヤル式となり、以前からのFine Pixと操作性は同じになった。ただこれらは静止画のためのモードであり、動画撮影時にはホワイトバランスや露出などはフルオートになる。動画撮影は、動画ボタンを押して動画撮影モードにしたあと、シャッターボタンで撮影である。2Dと3Dの切換は、一番下の3Dボタンだ。
液晶モニタは、今回から微細な凸レンズを表面に並べたシートを貼る、レンチキュラー方式を採用した。この方式は裸眼立体視を実現する方法として、以前から技術展示会などでサンプルを見てきたが、ここまで微細にできるようになっていたとは知らなかった。当然肉眼では凸レンズなどは見えず、高コントラストな裸眼3D表示を可能にしている。
コネクタ類は、右側にある。USB/アナログAV端子のほか、新たにミニHDMI端子が付けられ、3D対応テレビなどにダイレクトに接続できるようになっている。その代わり、前モデルにあったACアダプタからの給電はできなくなった。
底部にはバッテリとSDカードスロットがある。バッテリは前作のNP-95から薄型のNP-50に変更された。そのぶん撮影時間は短くなるようだ。
ミニHDMI端子を新たに装備 | バッテリがより薄型のものに変更されている |
■ 液晶のデキにビックリ!
dsf9928.avi(77.8MB) |
オート視差調整で十分な3D効果が得られる(オリジナルファイル) |
編集部注:「むっちゃんのステレオワールド」で公開されている「ステレオムービープレーヤー」での再生を確認していますが、再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
液晶の視野角に関しては、左右方向はそれほど広くないが、上下方向はかなりの角度まで3Dに見える。バリアングルではないモニタだが、ローアングル、ハイアングル撮影には便利だ。
撮影時の視差調整については、以前からオートモードを搭載していたが、今回はだいぶその精度が上がってきた。以前は結局手動で調整しないとうまく立体に見えないケースがあったが、今回は手動で調整する必要は無かった。極端な近距離の場合は、オートではいかんともしがたい状況になるが、そんなケースでは手動で調整しても最適な視差にすることは難しい。今回のオート視差調整は、かなり信頼に足る機能となっている。
オート視差調整は、シャッター半押しによるAFと連動している。AFが決まると同時に、視差調整も完了するといった感じだ。被写体との距離によって視差が決まるので、横幅は結構まちまちである。これは撮影される動画自体は1,280×720ドットではあるものの、左右が重なっている部分が少なくなればそれだけ横幅が短く表示されてしまう、ということである。
動画撮影中には、いくつかの制限がある。ズームが効かないのは以前と同じで、撮影開始前に画角を決めるためにズームを使う、といった感じだ。また動画撮影中は、AFや視差も自動追従しない。したがって撮影中に被写体との距離が変わるような撮影は、撮り終わりでは条件が合わなくなっているということもあり得る。
ただ今回の撮影では、晴天でかなりの光量があり被写界深度はかなり深くなっているため、ほとんどパンフォーカスのような状況である。今動画撮影ではボケ足がキーポイントとなっているが、3Dに関しては逆に深度が深いほうがメリットがある。
ゆっくり動かせばAEは追従する(オリジナルファイル) | 歩いてくる被写体でも、深度が深いのであまり問題なく撮れる(オリジナルファイル) |
編集部注:「むっちゃんのステレオワールド」で公開されている「ステレオムービープレーヤー」での再生を確認していますが、再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
相変わらず手ぶれ補正は備えていないので、歩きながらのショットはあまり得意ではない。しかし720pでは24コマ撮影になるので、ブレたコマがあんまり細かく写らないこともあって、そこそこ見られる絵である。また撮像素子がCCDなので、ローリングシャッター歪みがないことも幸いしている。
ただしサンプルを見てもわかるように、一応ゆっくりとAEは追従できるのだが、日向と日陰を歩きながら通り過ぎるぐらいのスピードだと、追いつけない。自動でどこまでも追従することはそれほど期待していないが、せめて動画でもある程度マニュアルで露出が決められると良かった。
撮像素子がCCDな点では、スミアが結構出る。最近の家庭用ビデオカメラは完全にCMOSだけになってしまったので、スミアの映像というのは久しぶりに見たような気がする。光源入れ込みの撮影には注意が必要だ。
動画では色味もなにも決められないのだが、発色が若干強めにチューニングしてあるように見える。たしかに3D映像としてのプレミアム感という意味では、ビビッドな発色が好まれるかもしれないが、木々の緑が若干嘘っぽい色になっているのが気になった。
手ぶれ補正がないわりには歩きながらでも安定してみられる(オリジナルファイル) | スミアは割と出やすいほうだろう(オリジナルファイル) |
編集部注:「むっちゃんのステレオワールド」で公開されている「ステレオムービープレーヤー」での再生を確認していますが、再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。 |
■ いかんともしがたいアウトプット
次に再生環境をチェックしてみよう。当たり前の話だが、W3で撮影した動画の再生にもっとも適しているのは、W3本体である。レンズカバーが電源と連動しているが、再生だけしたい場合は背面の再生ボタンを長押しすると、レンズカバーを閉じたままで電源を入れる事ができる。
撮影された動画は、フル画面からやや小さめのサムネイル表示になるが、面白いのはこの小さなサムネイル状態であっても、ちゃんと3D表示になっているところだ。見たい動画を選んで十字キーの下方向を押すと、全画面で再生される。撮影ファイルは内部的に左右別々のストリームになっているので、再生時にも左右の視度調整ができる。撮影時だけでなく、撮影後もいろいろ調整してみることで、立体感の見え方などを研究することができる。
撮影後も視差調整ができる |
一年前は3Dファイルを編集することもままならなかったが、徐々に環境が整ってきた。プロ用としては、After Effects、Final Cut Pro、Motionなどで使用できる「Stereo 3D Toolbox 2」がある。フルバージョンは165,270円するので、趣味でやる人にはハードルが高すぎるだろう。
先日発売が開始された「Roxio Creator 2011」は、3Dの編集やオーサリングに対応したライティングソフトだ。こちらは11,550円と、コンシューマ用として納得できる価格である。しかしながら対応しているのは旧W1フォーマットだけで、まだ出たばかりのW3オリジナルの720p方式には対応していないようだ。
動画の画質としては、やはりMotion JPEG圧縮の効率の悪さが目立ち、S/Nは今どきの動画としてはかなり悪いほうだ。ただ3DにしてW3上で見ると、適度に縮小されてS/Nの悪さは感じない。良くも悪くも、本体の液晶ディスプレイにかなり最適化されたファイルフォーマットである。HDMI出力も付いたことから、大型テレビへの3D出力を視野に入れているはずだが、画質に関しては早い時期にMP4系のコーデックに移行すべきだろう。
■ 総論
こういった3Dモノの難点は、実機を手にしていないと全然すごさが伝わらないという点である。3D対応テレビも発売されたとはいえ、普及率としてはまだまだサンプルを見られる人は少ないだろう。
昨年までは富士フイルムも紙ベースの3D写真を中心に考えていたようだが、今回はサイトの構成などを見ると、3D動画にフォーカスしてきたのかな、と思われる。今再生環境として先行しているのはテレビであり、3Dの静止画であっても、実際にはテレビで見るのが一番の近道となっている。
オート視差調整の精度が上がったことで、撮影はほとんどオートでいけるようになったのは大きな前進だ。さらに搭載された液晶モニタの3D表示がすばらしい。こればかりは現物を見て貰わないとわからないので、ぜひ店頭などで試してみて欲しい。その一方で、記録フォーマットがMotion JPEGベースなので、外部出力したときの画質的がそれほど評価できないのが残念である。
正直W3は、評価が分かれるカメラだと思う。これまでデジカメやデジタルビデオというのは、民生機なのにここまで、みたいな画質や機能を搭載してきたことで、非常に高いレベルを維持してきた。しかしW3で撮れる3D動画は、本体で見るぶんにはいいが、出力すると画質的には全然ダメなので、正直使い道がない。
ただ元々QV10から始まった現在のデジカメブームも、QV10そのものの画質が受けたわけではなく、それがもたらす可能性にみんなが気づいた、というところからスタートしたわけである。W3もそのスタート地点に立つカメラなのかどうかは、皆さんの評価にお任せしたい。