“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
第592回:4Kやネット配信、止まらない映像制作イノベーション
~Inter BEE 2012開幕。ネット放送向けスイッチャーも~
■4K or Live!
今年も残すところ約50日、映像業界の締めくくりとして、またInterBEEの季節がやってきた。11月14日から16日までの3日間、幕張メッセにて開催される、国内最大の映像機器展示会だ。
近年のテーマは3D、そしてサブ的なテーマでの4Kという感じだったが、今年の大きなテーマとしてはいよいよ本当に4Kがやってくる、という感じだろうか。これまで一部シネマカメラが対応、ワークフローも映画クラスだったものが、来年前半にはそろそろ放送向けのソリューションが揃う。地上波では無理だが、衛星放送ではキラーソリューションになりうるとして、意欲的のようだ。
さらに、年を重ねるごとにだんだん熱くなっていくのが、“ライブ”の世界である。生放送、生中継、生配信など、速報性のあるものだけでなく、集中して短時間で人数を集めてワッとやってしまう映像コンテンツ制作手法が、放送の黎明期から一周回って、今まさに新鮮な手法として注目を集めている。
■4Kへ逃げるソニー
製品発表自体は事前に行なわれていたが、ソニーは4K対応のカメラとして、CineAltaの「PMW-F55」と「PMW-F5」を会場で展示した。詳細は既に掲載されているが、スーパー35mm、総画素1,160万画素のイメージセンサーを搭載し、別売のRAWレコーダ「AXS-R5」を使って16bit リニアRAWで、4K(4,096×2,160ドット)撮影が可能。モジュラーデザインを採用している。
PMW-F55 | 30型/4Kの液晶マスモニ「PVM-X300」 |
XAVCの概要 |
もちろんこれは注目製品なのだが、これに採用される4K対応の新オープンフォーマット、「XAVC」にも注目しておきたい。フォーマットとしての詳細は既報の通りで、4K/4,096×2,160ドット、60フレーム/秒までの高解像度映像を、MPEG-4 AVC/H.264で圧縮。3,840×2,160ドットやフルHD、プロキシデータもサポートするものだ。
既に編集ソリューションメーカーから多数の賛同を得たとして、ブースではその対応状況も一堂に展示した。現状、多くのソフトウェアでは、ソニー開発のプラグインで対応という格好だが、普及タイミングに合わせてネイティブ対応してくるだろう。
XAVCに賛同している14社 |
Appleの「Final Cut Pro X」では、ソニー製をプラグインでXAVCに対応。ただプラグイン側でまた4Kのインポートをサポートしていない。Grass Valleyの「EDIUS Pro」では、6.5をベースにXAVCネイティブ対応したスペシャルバージョンを展示。こちらは4Kまで対応するが、正式なリリース時期は未定だ。
Adobe「Premiere Pro CS6」は、roviのTotalCodeをプラグインとして組み込むことでXAVCをサポートしているが、ネイティブ対応する予定もあるようだ。Avid「Media Composer」は、今後対応予定だが、現状はまだ動いていなかった。
プラグインでXAVCに対応したApple Final Cut Pro X | ネイティブ対応を準備中のEDIUS Pro |
なお、XAVCフォーマットについて、ソニーはプレスカンファレンスで「コンシューマにも対応する」と明言している。時期は未定だが、フォーマット自体はHD解像度から2K、4Kをサポートするので、規格上で行き詰まりを見せるAVCHDから案外早く切り替わるかもしれない。
6000シリーズの後継、MVS-6530 |
個人的に興味深いのは、久々にスイッチャーの新シリーズがでたことだ。MVS-6520/30は、低価格路線のライブ/プロダクション兼用スイッチャー。30が3ME、20が2ME仕様である。
各ME段に4キーヤー、DSK(Down Stream Keyer)も4つ。内蔵DME(Digital Multi Effect)の機能を落とすことで、本体価格を抑えた。本体+コンパネで、6520が約740万円、6530が約1,200万円程度だという。DME機能としては、キーヤーの1と3にリサイザーと呼ばれる簡易DME機能を装備。6520は2MEなのでリサイザーは4だが、6530のほうは3ME分+DSK2つにリサイザーが入っているので、トータル8となる。三次元DMEはオプションボードの追加で対応する。
低価格な2MEスイッチャー「MVS-3000」 |
MVS-3000は、さらに機能を省いて低価格化したモデルで、シンプルな2MEながら、8キーヤー、4リサイザーを搭載。ただしDMEのオプションボードは入れられない。価格は370万円程度になるという。
どちらかといえば新興国をターゲットとしたモデルだが、完全ハードウェアベースのスイッチャーとして、十分な機能のコントロールパネルが標準装備なのが強みだろう。ただ従来のMVS-8000シリーズ、7000シリーズと違い、ユーザーが自由にパネルレイアウトを変更できない。このあたりがコストダウンのキーポイントでもあるだろう。
■8MEの化け物、Newtek TriCaster 8000
NewtekのTriCaster 8000 |
今年のNABで初めてお目見えしたNewtekのTriCaster 8000が、ようやく日本でじっくり触れる機会を得た。最初見たときは、コンパネの充実度に驚いたものだが、内容的には従来の製品とかなり変わっている。
従来のTriCasterは、バーチャルスタジオコントローラ+1MEスイッチャーのような構成で、実はスイッチャー経験者にはわかりにくかった。だが今回の8000は、ME列を模したバーチャルコントローラ8つと最終段にP/P列といった具合に、大型スイッチャーの経験者からすると非常にわかりやすくなっている。
ME列とはいうが、実は従来通りのMEモードと、4チャンネルレイヤーモードの切り換えができる。以前Grass ValleyのModel 4000だったか、MEスイッチャーにもレイヤースイッチャーにもモードチェンジできるものがあったが、ああいうイメージである。
上段のME列を8つのDELEGATEボタンで切り換えていく |
MEモードでは、A/Bバスの切り換え+4キーヤー構成。レイヤーモードは、メニュー的にはエフェクトモードと呼ぶべきなのだろうが、これはABCD列の4レイヤーがME段として1まとまりになるという考え方だ。ただ、コントロールパネルとしては1ME+P/P列分しかなく、ME列のところに8つ分が折りたたまれているような状態なので、かなり頭を使うシステムだ。
カメラなどの映像ソースとしてのクロスポイントは8つしかないので、そんなに8MEもいらないのではないかと思われがちだが、ライブスイッチャーであることを考えれば、いろんなバーチャルセットを8つ仕込んだ状態で保持しておける。そう考えれば、非常に贅沢なシステムだ。映像ソースとしてはその他に、ネットワーク経由のストリーム2入力、内蔵ディスクレコーダ2系統、静止画グラフィックス2系統、フレームバッファ1系統がある。
マウス操作で細かい設定を行なう |
バーチャルセットも新しくなり、従来ズームしかできなかったが、ズームした状態でパンなどの動きもできるようになった。さらにマクロを使えば、操作した状態を記録し、あとでそのアクションを再生できる。
キーフレームを仕込んでタイムライン化できるスイッチャーは過去にいくつもあったが、操作をリアルタイムでレコーディングし、あとでそのままのタイミングで再度プレイバックするというのは、いかにもIT機器っぽい。
本体は4Uサイズ |
合成も新しく、リアルタイムでのトラッキング機能が付いた。これは、特定のカラーパターンに対して、はめ込み画像を追従させる機能だ。従来は編集作業としてトラッキングデータを生成し、合成するのが普通だったが、これがリアルタイムでできるのはすごい。
10年前は数億円したという機器が、昨今では手頃な価格で手に入るようになってきているわけだが、ことTriCaster 8000に関しては、過去にこんな規模のスイッチャーはなかった。価格としても機能としても、過去のものとは比較しようがないレベルに到達した。
■ローランド
HDMI対応小型ライブスイッチャー「V-40HD」 |
ブロードキャストではなく、ネット放送に強い機材で確固たる地位を築きつつあるのが、ローランドだ。新製品の「V-40HD」は、まさに待望とも言えるHDMI入力に対応した小型スイッチャー。
すでにHDMI対応の先行製品としては、BlackMagic Designの「ATEMシリーズ」と、Television Studioがある。だが価格の割には構成があまりにも本格的過ぎるので、スイッチャーの経験者には使いやすい反面、経験がない人にはさっぱり使い方がわからないという弱点がある。
一方ローランドのスイッチャー群は、従来のブロードキャスト用スイッチャーの構成にこだわらず、思い切った簡素化や割り切りがされており、未経験者でもパネルの表示を見ながら練習すれば使えるようになるところがポイントだ。
入力は4系統で、HDMI以外にもRGB、コンポーネント、コンポジット入力にも切り替え可能。キーヤーはDSKしかないが、クロマキーも備えている。またHDMIでは1080/60p入力にも対応した。
さらにHDMIにエンベデッドされているオーディオにも対応し、さらに別系統でオーディオ入力を2系統備えている。これらのオーディオはプログラムのHDMI出力にエンベデッドされるので、ライブ配信や収録といった機材が簡易化できる。
またローランドは映像のマルチフォーマットコンバーターも以前から手がけており、放送局を始めポストプロダクションや撮影会社などにも多く入っている。今回は新製品として、3タイプの小型コンバーターシリーズをリリースした。
新製品のミニコンバータ3種。デザイン的には同じ |
「VC-1-SH」は、SDI to HDMIのコンバータ。「VC-1-HS」はそれとは逆の、HDMI to SDIのコンバータだ。従来この手のシンプル、コンパクト、低価格なコンバータは、AJA、BlackMagic Design、Glass Valley、Mirandaといったメーカーがひしめき合っている激戦区だ。
そもそもコンバータはエフェクターではないので、特色を出すのが難しい分野である。しかしその中でVC-1-DLは、SDIとHDMIの双方向変換(切り換え)が可能なだけでなく、映像と音声のディレイを追加した。それぞれ4.5フレームまでのディレイ量を備えている。
設定変更は側面のディップスイッチで |
音声のディレイは珍しくないが、実際多くのライブの現場では、音が遅れるケースも多い。音は空中に出てきただけで、距離が離れればそれだけですぐに遅延が発生する。これに対して映像は光なので、ほとんどディレイがない。これのタイミングを合わせるには、映像をディレイさせるしかないわけだが、これまではそのような用途に使える機器がなかった。
設定は本体脇のディップスイッチで変更可能で、細かい調整はPCとUSB接続し、専用ユーティリティで調整できる。電源は専用ACアダプタで9V駆動だが、内部的には5V~20Vぐらいまでの変動には耐えるという。ただしメーカー保証外となるため、バッテリー駆動などは自己責任で試していただきたい。
■総論
まだ初日しか見て回っていないため情報が偏っていて申し訳ないが、InterBEEは以前のようにテレビ放送関係者御用達のショーから、映像関係者なら何かしらひっかかるものがあるショーに変貌しつつある。尖った専門性の高いものから、意外に汎用性の高いものまで、細かいところを見ていくと思わぬ発見がある。
少し前まで、日本の映像業界は世界、特に米国の動向とシンクロしようとあがいているようなところがあったが、昨年ぐらいから開き直って日本独自の製品や映像文化にフォーカスした製品が増えてきた。いよいよ日本から、独自の映像トレンドを発信していく番になったのかもしれない。