小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第618回:型破りなビデオカメラ、再び。JVC「GC-P100」

“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第618回:型破りなビデオカメラ、再び。JVC「GC-P100」

大胆デザインと多彩なタイムコントロール撮影

物議を醸す“変カメラ”再び

GC-P100

 JVCのビデオカメラと言えば、いち早くHDDやメモリ記録を実現したEverioシリーズで人気を博した一方で、最近はものすごい情熱とスピード感をもって“変カメラ”を繰り出してくるメーカーとして盤石の地位を確立しつつあるように思うのは筆者だけだろうか。画像処理エンジン「FALCONBRID」を実用化したあたりから、1080/60p、3D、4K、ネットワークカメラと、動画カメラのトレンドを牽引し続けている。

 その中でも記憶に残る“変カメラ”としては、2011年2月に登場した「GC-PX1」がある。どう見てもデジカメなのだが、1080/60p撮影、ハイスピード撮影、静止画高速連写といった機能を持ったビデオカメラである。

 今回ご紹介する「GC-P100」は、実質的にはGC-PX1の後継機と呼んでも差し支えないだろう。ただフォルムもコンセプトも改良され、よりプロやハイアマチュア寄りにシフトした作りになったようだ。前作から2年が経過した今、もちろん画質的にも向上が見込める。

2011年に発売された「GC-PX1」
今回紹介する「GC-P100」

 すでに発売されており、店頭予想価格は13万円前後。ネットの通販サイトでは一部のネットショップでは、11万7,000円程度で販売するところもあるようだ。今回はどんな驚きが詰まっているのだろうか。さっそく試してみよう。

デジカメの思想を大胆に導入

 一番の特徴はやはりそのボディデザインだ。どう見てもビデカメラには見えないが、横方向に液晶がパカッと開くビデオカメラのスタイルをやめて、デジカメのデザインも躊躇なく取り入れて合理化すれば、こうなるだろう。

 鏡筒部はマイクロフォーサーズのレンズ程度の太さで、それにボディ部分が接続されている。とは言ってもレンズが外れるわけではなく一体なので、ネオ一眼的な感じだと思っていただければ間違いないだろう。ただホールドの仕方が全く異なっていて、鏡筒部を掴むビデオカメラ方式となる。従ってデジカメに必ずあるような、出っ張ったグリップ部分がない。

一見するとネオ一眼のように見える
やや細身の鏡筒部が美しいバランスを作り出す

 特徴的なのは、左手側にある、横に飛び出したコントロール部分。従来の発想ではあり得ない飛び出し具合である。ここには露出用のダイヤルやタイムコントロールのボタンを配置している。とにかく形状が複雑で、意味もなく「なんか強そう」である。

 では順にスペックを見ていこう。レンズは、35mm換算でワイド端29.5mm/F1.2、光学10倍のJVC HDレンズ。ズーム倍率は結構組み合わせが複雑で、1080の動画では、ダイナミックズームOFFでは29.5mm~342mmの約11.6倍ズーム。光学の倍率をちょっと超えるのは、レンズのズーム倍率と連動してCMOSの有効画素数を変化させているためだ。デジタルズーム併用のダイナミックズームでは、29.5mm~476mmの約16倍となる。720動画では36.3mm~406mmの約11倍、ダイナミックズーム併用で36.3mm~715mmの約20倍となる。

横に飛び出したコントロール部分
光学10倍のJVC HDレンズ

 さらに手ぶれ補正が3段階あり、それぞれでワイド端とテレ端が異なる。ただダイナミックズームを併用したときのテレ端は、手ぶれ補正に関係なく一定だ。また、手ブレ補正機能の「エンハンスドAIS」を使う場合は、ダイナミックズームを切っても入れてもテレ端は同じ画角になる。なお、下表にあるEIS/OISは通常の撮影条件で機能する手ブレ補正、AISは明るいシーンを広角側で撮影する場合に手ブレ補正を強化する機能、エンハンスドAISは、AISよりも補正エリアを拡大させたモードだ。

手ブレ補正ワイド端テレ端
(光学)
テレ端
(ダイナミック)

29.5mm

342mm

476mm
EIS/OIS


476mm
AIS


476mm
エンハンスドAIS

476mm

476mm

 撮像素子は1/2.3型、1,276万画素だが、動画の有効画素数は最高540万画素、静止画でも最高594万画素しか使っていない。それより外側は手ぶれ補正領域として使われる事になる。したがって実質的な撮像面積は、1/2.3型の半分程度だと考えるべきだろう。

 鏡筒部にはマニュアルフォーカスのためのリングがあり、マイク、コールドシューが上部にある。AF/MFの切り換えボタンが撮影者から見て左側にあり、そこから背面に向かって同一線上に並ぶ形で露出用ダイヤル、EXPOSUREボタン、タイムコントロールボタンがある。形は凸凹してるが、操作性はよく考えてある。

鏡筒部にはマニュアルリングとステレオマイク、コールドシューが
AF/MFボタンや露出ダイヤルは同一線上に並ぶ
モードチェンジはダイヤルで対応

 ボディ部の上部には、デジカメライクなモード切り換えダイヤルがある。普通は文字がまっすぐ横に向いた位置が選択モード位置になるところだが、本機の場合は一番手前の位置が選択モードとなる。しかしこの位置だと付属のビューファインダを取り付けたときに上から覗き込んでも見えないので、やはり真横が選択位置のほうが良かっただろう。ダイヤル下の赤いリング状の部分は、セルフタイマー時のタイミングを知らせるLEDだ。

 液晶モニタは、ミラーレス一眼などで採用が多い、上下にチルトするタイプで、3型46万画素だ。ユニークなのはバッテリとSDカードの位置で、液晶モニタを下に開ききって、その奥のフタを開ける格好でバッテリを装着する。多くのデジカメはグリップの底部から差し込むというスタイルだが、本機の場合グリップ部がないので、こういう位置に差し込むことにしたのだろう。

チルト機能付き液晶モニタ
液晶モニタの奥にバッテリとSDカードスロットが

 録画ボタンは親指位置にあり、シーソー式のズームレバーも備えている。ホールド感は前後のバランスが良く、持ちやすい。ズームレバーの位置も丁度よく、操作に無理がない。端子類は左側にマイク、アナログAV/イヤホン、DC INがある。USBとHDMIは、グリップ側にある。ただこの位置だと、HDMI出力を出しながらハンディでの撮影は、何かリグを併用しないと難しくなる。

シーソー式ズームレバーも搭載
左側の端子類
デジタル系の端子はグリップ側

 本機は付属品が多いこともポイントになるだろう。レンズフード、レンズキャップぐらいは標準的だが、液晶モニタ用の折りたたみ式フードがついているのは有り難い。また着脱式のビューファインダも付いている。さらにデジカメでは珍しくないが、ビデオカメラには珍しいショルダーストラップも付属する。形状的にはデジカメとほぼ同じなので、首から下げても違和感はまったくないだろう。

液晶フードを付けたのは珍しい
着脱式ビューファインダも付属
ビューファインダを装着したところ

しっとり感のある描画

 では実際に撮影してみよう。本機は撮影モードとして、MP4とAVCHDがある。AVCHDはさらにインターレースとプログレッシブの2モードに階層化している。画質モードをまとめると、以下のようになる。

撮影モード画質モード解像度ビットレートサンプル
MP4(60p)MOV 1080p/LPCM1920×1080平均35Mbps
PIC_0060.mov
(53.1MB)
MP4 1080p
PIC_0061.mp4
(57.5MB)
MP4 720p1280×720平均12Mbps
PIC_0062.mp4
(23.6MB)
iFrame 720p平均35Mbps
PIC_0063.mp4
(55.6MB)
AVCHD(60i)XP1920×1080平均17Mbps
00000.mts
(26.5MB)
E平均4.8Mbps
00001.mts
(8.1MB)
AVCHD(60p)60p平均27Mbps
00002.mts
(46MB)

 最高画質はMP4の35Mbpsだが、音声がリニアPCMかAACかで2モードある。リニアPCMモードは、コンテナがMP4ではなくMOVとなる。今回はMOVを中心に撮影しているが、編集サンプルは再生環境を考慮して、音声をAAC 256kbpsでエンコードしている。

トップメニューはアイコンで分類

 JVCのカメラを触るのは久しぶりだが、トップメニューがグラフィカルにカテゴライズされている。撮影モードがダイヤルセレクトになったので、メニューによるオートとマニュアルの切り換えがなくなり、操作体系がすっきりしている。

 画質としては、前作PX1の明るめに撮る傾向が収まって、インテリジェントオートでも飛びぎみになることはない。レンズは絞ったほうが解像感がグッと上がるが、エッジが立つような感じではなく、柔らかいながらもしっかりした輪郭の表現となっている。

明るめの傾向が抑えられ、落ち着いたトーンになった
ワイド側F5.6で撮影
同アングルでF1.2で撮影

 ボケ味は、有効撮像面積がそれほど大きくないため、デジタル一眼のようにはボケない。絞り羽根の枚数は公表されていないが、見たところ8角形のようだ。ただ、ボケの中心に芯がある、独特のボケ方をする。

ボケの中心に芯があるようなボケ方
静止画モードではやや暖色に振る傾向がある
動画撮影サンプル
sample.mp4
(247MB)
※編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
室内撮影サンプル
room.mp4
(84.7MB)
※編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 撮影中には液晶用のフードがかなり役に立った。昼間でもこれがあれば、まぶしくて見えないという心配はまずないだろう。

 一方のビューファインダは、角度が変えられない事もあり、あまり使い出がない。また見え方も0.24型と結構小さく、視点を動かすとカラーブレーキングも発生するので、それほど上質とは言えない。どうしてもビューファインダが必要という人はコダワリを持っているので、オプションでもっと上質のものを投入すべきだろう。

顔認識による追従性も良好
af.mp4
(62.9MB)
※編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 AFの追従性は、前作のPX1同様顔追従モードで撮影してみたところ、大幅に改善されている。顔が外れてもすぐ背景に合わせるのではなく、少し粘ってその位置をキープするので、一度顔がフレームアウトしてまた戻ってくるような状況でも対応できそうだ。

 先程も書いたように、手ぶれ補正は「切」もいれて4段階ある。EIS/OISが一般的な手ぶれ補正、AISが広角側のみ強力にしたもの、エンハンスドAISが全域を強力にしたものだ。今回はAISとエンハンスドAISで撮影してみた。

手ぶれ補正を強くすると画角が狭くなってくる
stab.mp4
(70.2MB)
※編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 補正量は、空間光学式手ブレ補正のソニー機には及ばないが、自然なブレを残しながら気持ちよく補正する。ただZ軸方向のローテーションは補正しないようだ。

 ダイナミックズームのテレ端は、光学ズームとシームレスに繋がってズーミングが可能だ。画質的にも荒れはほとんどわからず、少しエッジが柔らかくなるかな、ぐらいのところに収まっている。これならば常時ONでも問題ないだろう。

光学ズーム10倍
ダイナミックズーム16倍
画面左のMを長押しするとズーム位置を記憶する

 ズームの特定の倍率をメモリーできる機能もあるので、光学10倍のところでメモリーしておけば、ワイド端から光学エリアまでのズームを自動化できる。

簡単に設定できるタイムコントロール

回転型のインターフェースで撮影したfpsを選ぶだけ

 今回大きくフィーチャーされた機能が、スローやハイスピード撮影が可能なタイムコントロール機能だ。脇のTIME CONTROLボタンを押すだけで、すぐにフレーム設定モードに入る。ただ、録画設定がAVCHDの場合はタイムラプスしか選択できない。MP4モードでは、タイムラプスのほか、ハイスピード撮影(再生時にスロー)も設定可能になる。

 設定は非常に合理的で、標準状態では60fps(1x)になっている。撮影したいfpsを選ぶだけで、そのモードに変化する。標準撮影に戻りたいときは、60fpsを選ぶだけだ。

 ハイスピード撮影は5段階あり、設定フレーム数に応じてピクセル数が変わる。120、240、300fpsまでは640×360ピクセル、420、600fpsでは320×176ピクセルとなる。

 一方タイムラプスの場合は、1、1/2、1/5、1/10、1/20、1/40、1/80の7段階があり、フルHD解像度での撮影が可能だ。

ハイスピード撮影のサンプル
slow.mp4
(34.9MB)
※編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
タイムラプス(1/5fps)撮影のサンプル
PIC_0071.mov
(62.7MB)
※編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 そのほかユニークな機能として、マーキング機能がある。この中の「GAME」モードでは、録画中に試合の得点をスーパーインポーズする機能がある。ゴールや選手交代といったポイントごとにマーキングできる機能もあり、子どもの試合の記録などにはなかなか便利そうだ。

スポーツ撮影に便利なマーキング機能
ゲームのスコアをスーパーインポーズする機能も搭載

 ただ、サッカーや野球のように得点がめったに入らないスポーツには有効だろうが、バスケットやバレーボールのように、場合によっては短時間のうちにガンガンに得点が入るスポーツでは、得点の入力が追いつかない、というか撮影しながら入力していくのは難しいだろう。

 こういうときこそ無線LANによるスマートフォン連携の出番だが、海外向けモデルには無線LANが搭載されているものの、あいにく国内の標準販売モデルには無線LAN機能がない。検索してみたところ、ヤマダ電機の40周年モデルとして販売されている「GC-YJ40」というモデルが、海外向けと同様に無線LANを搭載しており、32GBの内蔵メモリも搭載している。このモデルでは、YJ40向けのアプリを使い、得点を入力できるようだ。

総論

 ビデオカメラとしては、形状的にものすごく独特の作りとなっているが、持ってみると思いのほか使いやすく、機能的には全く変なところはない。至極真っ当なカメラである。

 JVCはそもそもデジカメを作っていないので、事業部的に写真第一主義みたいなしがらみもなく、デジタル一眼やネオ一眼の構造や考え方を、ビデオカメラ的な割り切りとして素直に導入できるのだろう。

 例えば昨今のビデオカメラでは、メモリ内蔵が標準的だが、デジタル一眼でそのようなものはない。「GC-P100」もメモリを内蔵しておらず、その分のコストを切り捨てることができる。

 節電という点では、従来型のビデオカメラの構造と違って、液晶モニターを閉じるというアクションがないため、開閉による電源連動機能がない。ビューファインダーとの併用も、お互い何のセンサーも積んでいないので、手動での切り換えである。この点では、普通のビデオカメラよりは若干不利かもしれない。

 実撮影時間は約1時間(連続撮影時間約2時間10分)となっており、バッテリーサイズの割には短く感じるが、今回の撮影では特に足りないというほどでもなかった。

 どうしてもそのフォルムに注目されがちだが、タイムコントロールなど、機能的にはEverioとはまた違ったグレードのビデオカメラであり、昨今流行りのピクチャーエフェクト的な機能も搭載していない。そうした観点からすると、一般の人に魅力が伝わりにくいかもしれないが、本格派のユーザーならその良さがわかるだろう。

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GC-P100

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。