小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第618回:型破りなビデオカメラ、再び。JVC「GC-P100」
“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
第618回:型破りなビデオカメラ、再び。JVC「GC-P100」
大胆デザインと多彩なタイムコントロール撮影
(2013/6/12 11:34)
物議を醸す“変カメラ”再び
JVCのビデオカメラと言えば、いち早くHDDやメモリ記録を実現したEverioシリーズで人気を博した一方で、最近はものすごい情熱とスピード感をもって“変カメラ”を繰り出してくるメーカーとして盤石の地位を確立しつつあるように思うのは筆者だけだろうか。画像処理エンジン「FALCONBRID」を実用化したあたりから、1080/60p、3D、4K、ネットワークカメラと、動画カメラのトレンドを牽引し続けている。
その中でも記憶に残る“変カメラ”としては、2011年2月に登場した「GC-PX1」がある。どう見てもデジカメなのだが、1080/60p撮影、ハイスピード撮影、静止画高速連写といった機能を持ったビデオカメラである。
今回ご紹介する「GC-P100」は、実質的にはGC-PX1の後継機と呼んでも差し支えないだろう。ただフォルムもコンセプトも改良され、よりプロやハイアマチュア寄りにシフトした作りになったようだ。前作から2年が経過した今、もちろん画質的にも向上が見込める。
すでに発売されており、店頭予想価格は13万円前後。ネットの通販サイトでは一部のネットショップでは、11万7,000円程度で販売するところもあるようだ。今回はどんな驚きが詰まっているのだろうか。さっそく試してみよう。
デジカメの思想を大胆に導入
一番の特徴はやはりそのボディデザインだ。どう見てもビデカメラには見えないが、横方向に液晶がパカッと開くビデオカメラのスタイルをやめて、デジカメのデザインも躊躇なく取り入れて合理化すれば、こうなるだろう。
鏡筒部はマイクロフォーサーズのレンズ程度の太さで、それにボディ部分が接続されている。とは言ってもレンズが外れるわけではなく一体なので、ネオ一眼的な感じだと思っていただければ間違いないだろう。ただホールドの仕方が全く異なっていて、鏡筒部を掴むビデオカメラ方式となる。従ってデジカメに必ずあるような、出っ張ったグリップ部分がない。
特徴的なのは、左手側にある、横に飛び出したコントロール部分。従来の発想ではあり得ない飛び出し具合である。ここには露出用のダイヤルやタイムコントロールのボタンを配置している。とにかく形状が複雑で、意味もなく「なんか強そう」である。
では順にスペックを見ていこう。レンズは、35mm換算でワイド端29.5mm/F1.2、光学10倍のJVC HDレンズ。ズーム倍率は結構組み合わせが複雑で、1080の動画では、ダイナミックズームOFFでは29.5mm~342mmの約11.6倍ズーム。光学の倍率をちょっと超えるのは、レンズのズーム倍率と連動してCMOSの有効画素数を変化させているためだ。デジタルズーム併用のダイナミックズームでは、29.5mm~476mmの約16倍となる。720動画では36.3mm~406mmの約11倍、ダイナミックズーム併用で36.3mm~715mmの約20倍となる。
さらに手ぶれ補正が3段階あり、それぞれでワイド端とテレ端が異なる。ただダイナミックズームを併用したときのテレ端は、手ぶれ補正に関係なく一定だ。また、手ブレ補正機能の「エンハンスドAIS」を使う場合は、ダイナミックズームを切っても入れてもテレ端は同じ画角になる。なお、下表にあるEIS/OISは通常の撮影条件で機能する手ブレ補正、AISは明るいシーンを広角側で撮影する場合に手ブレ補正を強化する機能、エンハンスドAISは、AISよりも補正エリアを拡大させたモードだ。
撮像素子は1/2.3型、1,276万画素だが、動画の有効画素数は最高540万画素、静止画でも最高594万画素しか使っていない。それより外側は手ぶれ補正領域として使われる事になる。したがって実質的な撮像面積は、1/2.3型の半分程度だと考えるべきだろう。
鏡筒部にはマニュアルフォーカスのためのリングがあり、マイク、コールドシューが上部にある。AF/MFの切り換えボタンが撮影者から見て左側にあり、そこから背面に向かって同一線上に並ぶ形で露出用ダイヤル、EXPOSUREボタン、タイムコントロールボタンがある。形は凸凹してるが、操作性はよく考えてある。
ボディ部の上部には、デジカメライクなモード切り換えダイヤルがある。普通は文字がまっすぐ横に向いた位置が選択モード位置になるところだが、本機の場合は一番手前の位置が選択モードとなる。しかしこの位置だと付属のビューファインダを取り付けたときに上から覗き込んでも見えないので、やはり真横が選択位置のほうが良かっただろう。ダイヤル下の赤いリング状の部分は、セルフタイマー時のタイミングを知らせるLEDだ。
液晶モニタは、ミラーレス一眼などで採用が多い、上下にチルトするタイプで、3型46万画素だ。ユニークなのはバッテリとSDカードの位置で、液晶モニタを下に開ききって、その奥のフタを開ける格好でバッテリを装着する。多くのデジカメはグリップの底部から差し込むというスタイルだが、本機の場合グリップ部がないので、こういう位置に差し込むことにしたのだろう。
録画ボタンは親指位置にあり、シーソー式のズームレバーも備えている。ホールド感は前後のバランスが良く、持ちやすい。ズームレバーの位置も丁度よく、操作に無理がない。端子類は左側にマイク、アナログAV/イヤホン、DC INがある。USBとHDMIは、グリップ側にある。ただこの位置だと、HDMI出力を出しながらハンディでの撮影は、何かリグを併用しないと難しくなる。
本機は付属品が多いこともポイントになるだろう。レンズフード、レンズキャップぐらいは標準的だが、液晶モニタ用の折りたたみ式フードがついているのは有り難い。また着脱式のビューファインダも付いている。さらにデジカメでは珍しくないが、ビデオカメラには珍しいショルダーストラップも付属する。形状的にはデジカメとほぼ同じなので、首から下げても違和感はまったくないだろう。
しっとり感のある描画
では実際に撮影してみよう。本機は撮影モードとして、MP4とAVCHDがある。AVCHDはさらにインターレースとプログレッシブの2モードに階層化している。画質モードをまとめると、以下のようになる。
撮影モード | 画質モード | 解像度 | ビットレート | サンプル |
MP4(60p) | MOV 1080p/LPCM | 1920×1080 | 平均35Mbps | PIC_0060.mov (53.1MB) |
MP4 1080p | PIC_0061.mp4 (57.5MB) | |||
MP4 720p | 1280×720 | 平均12Mbps | PIC_0062.mp4 (23.6MB) | |
iFrame 720p | 平均35Mbps | PIC_0063.mp4 (55.6MB) | ||
AVCHD(60i) | XP | 1920×1080 | 平均17Mbps | 00000.mts (26.5MB) |
E | 平均4.8Mbps | 00001.mts (8.1MB) | ||
AVCHD(60p) | 60p | 平均27Mbps | 00002.mts (46MB) |
最高画質はMP4の35Mbpsだが、音声がリニアPCMかAACかで2モードある。リニアPCMモードは、コンテナがMP4ではなくMOVとなる。今回はMOVを中心に撮影しているが、編集サンプルは再生環境を考慮して、音声をAAC 256kbpsでエンコードしている。
JVCのカメラを触るのは久しぶりだが、トップメニューがグラフィカルにカテゴライズされている。撮影モードがダイヤルセレクトになったので、メニューによるオートとマニュアルの切り換えがなくなり、操作体系がすっきりしている。
画質としては、前作PX1の明るめに撮る傾向が収まって、インテリジェントオートでも飛びぎみになることはない。レンズは絞ったほうが解像感がグッと上がるが、エッジが立つような感じではなく、柔らかいながらもしっかりした輪郭の表現となっている。
ボケ味は、有効撮像面積がそれほど大きくないため、デジタル一眼のようにはボケない。絞り羽根の枚数は公表されていないが、見たところ8角形のようだ。ただ、ボケの中心に芯がある、独特のボケ方をする。
撮影中には液晶用のフードがかなり役に立った。昼間でもこれがあれば、まぶしくて見えないという心配はまずないだろう。
一方のビューファインダは、角度が変えられない事もあり、あまり使い出がない。また見え方も0.24型と結構小さく、視点を動かすとカラーブレーキングも発生するので、それほど上質とは言えない。どうしてもビューファインダが必要という人はコダワリを持っているので、オプションでもっと上質のものを投入すべきだろう。
AFの追従性は、前作のPX1同様顔追従モードで撮影してみたところ、大幅に改善されている。顔が外れてもすぐ背景に合わせるのではなく、少し粘ってその位置をキープするので、一度顔がフレームアウトしてまた戻ってくるような状況でも対応できそうだ。
先程も書いたように、手ぶれ補正は「切」もいれて4段階ある。EIS/OISが一般的な手ぶれ補正、AISが広角側のみ強力にしたもの、エンハンスドAISが全域を強力にしたものだ。今回はAISとエンハンスドAISで撮影してみた。
補正量は、空間光学式手ブレ補正のソニー機には及ばないが、自然なブレを残しながら気持ちよく補正する。ただZ軸方向のローテーションは補正しないようだ。
ダイナミックズームのテレ端は、光学ズームとシームレスに繋がってズーミングが可能だ。画質的にも荒れはほとんどわからず、少しエッジが柔らかくなるかな、ぐらいのところに収まっている。これならば常時ONでも問題ないだろう。
ズームの特定の倍率をメモリーできる機能もあるので、光学10倍のところでメモリーしておけば、ワイド端から光学エリアまでのズームを自動化できる。
簡単に設定できるタイムコントロール
今回大きくフィーチャーされた機能が、スローやハイスピード撮影が可能なタイムコントロール機能だ。脇のTIME CONTROLボタンを押すだけで、すぐにフレーム設定モードに入る。ただ、録画設定がAVCHDの場合はタイムラプスしか選択できない。MP4モードでは、タイムラプスのほか、ハイスピード撮影(再生時にスロー)も設定可能になる。
設定は非常に合理的で、標準状態では60fps(1x)になっている。撮影したいfpsを選ぶだけで、そのモードに変化する。標準撮影に戻りたいときは、60fpsを選ぶだけだ。
ハイスピード撮影は5段階あり、設定フレーム数に応じてピクセル数が変わる。120、240、300fpsまでは640×360ピクセル、420、600fpsでは320×176ピクセルとなる。
一方タイムラプスの場合は、1、1/2、1/5、1/10、1/20、1/40、1/80の7段階があり、フルHD解像度での撮影が可能だ。
そのほかユニークな機能として、マーキング機能がある。この中の「GAME」モードでは、録画中に試合の得点をスーパーインポーズする機能がある。ゴールや選手交代といったポイントごとにマーキングできる機能もあり、子どもの試合の記録などにはなかなか便利そうだ。
ただ、サッカーや野球のように得点がめったに入らないスポーツには有効だろうが、バスケットやバレーボールのように、場合によっては短時間のうちにガンガンに得点が入るスポーツでは、得点の入力が追いつかない、というか撮影しながら入力していくのは難しいだろう。
こういうときこそ無線LANによるスマートフォン連携の出番だが、海外向けモデルには無線LANが搭載されているものの、あいにく国内の標準販売モデルには無線LAN機能がない。検索してみたところ、ヤマダ電機の40周年モデルとして販売されている「GC-YJ40」というモデルが、海外向けと同様に無線LANを搭載しており、32GBの内蔵メモリも搭載している。このモデルでは、YJ40向けのアプリを使い、得点を入力できるようだ。
総論
ビデオカメラとしては、形状的にものすごく独特の作りとなっているが、持ってみると思いのほか使いやすく、機能的には全く変なところはない。至極真っ当なカメラである。
JVCはそもそもデジカメを作っていないので、事業部的に写真第一主義みたいなしがらみもなく、デジタル一眼やネオ一眼の構造や考え方を、ビデオカメラ的な割り切りとして素直に導入できるのだろう。
例えば昨今のビデオカメラでは、メモリ内蔵が標準的だが、デジタル一眼でそのようなものはない。「GC-P100」もメモリを内蔵しておらず、その分のコストを切り捨てることができる。
節電という点では、従来型のビデオカメラの構造と違って、液晶モニターを閉じるというアクションがないため、開閉による電源連動機能がない。ビューファインダーとの併用も、お互い何のセンサーも積んでいないので、手動での切り換えである。この点では、普通のビデオカメラよりは若干不利かもしれない。
実撮影時間は約1時間(連続撮影時間約2時間10分)となっており、バッテリーサイズの割には短く感じるが、今回の撮影では特に足りないというほどでもなかった。
どうしてもそのフォルムに注目されがちだが、タイムコントロールなど、機能的にはEverioとはまた違ったグレードのビデオカメラであり、昨今流行りのピクチャーエフェクト的な機能も搭載していない。そうした観点からすると、一般の人に魅力が伝わりにくいかもしれないが、本格派のユーザーならその良さがわかるだろう。
JVC GC-P100 |
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