小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第652回:黄色端子時代の終わりを告げるローランド「VR-3EX」
“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”
第652回:黄色端子時代の終わりを告げるローランド「VR-3EX」
ネット配信向け低価格ライブスイッチャーがHDMI対応に
(2014/2/26 10:30)
あのVR-3の後継モデル登場
インターネットの生中継が本格的に“ビジネス”の領域に入っていたのは、2010年頃のことだった。その年の11月にInterBEEで登場したローランドの「VR-5」は、ネット中継にもフィットする小型AVミキサーだったが、録画とかいろいろ出来過ぎるが故に、ネット放送だけに注目するといらない機能や足りない機能もあり、若干ちぐはぐな印象もあった。それでも50万円前後という価格でありながら、かなり売れたようだ。
翌年2011年に同じくInterBEEで発表された「VR-3」は、大胆に低価格化し、機能をネット放送にフォーカスしたところが受けて、これもヒット作となった。筆者もたまにVR-3を使って放送するが、画も音も全部これに突っ込めばなんとかなってしまうオールインワン性は、ほかにはない特徴である。
ただ、いかんせん映像入力がアナログコンポジットしかない点は、だんだん辛くなってきた。ビデオカメラでは未だアナログ出力を備えるものは多いが、デジタル機器を繋ぐ時に苦労する。また特殊なカメラを使いたい場合はHDMIしかないといった状況も出てきて、VR-3もそろそろ限界に近づきつつあるのも事実である。
そんなことからHDMI対応のVR-3後継モデルが待たれていたところだが、以前からチラ見せしてきた後継機「VR-3EX」が2月10日から発売を開始した。価格は207,900円だが、通販サイトでは19万円弱で売るところもあるようだ。
ポイントはなんと言っても、HDMIが4系統使えるというところである。同じくHDMI 4系統使えるスイッチャーとしてはBlackmagic Designの「ATEM Television Studio」が108,800円ではあるものの、オーディオは別系統で用意しなければならない。その点では、画音オールインワンになっているVR-3EXの強みがある。
すでにVR-3が販売完了になっている現在、多くのユーザーが乗り換えていくと思われるVR-3EXの実力を、さっそく試してみよう。
十分コンパクトなボディ
では早速スペックを見てみよう。スイッチャーで何ができるかは、入出力端子類を見るとすぐわかる。コンパネをチラと見たらすぐさま裏側を覗き込むのが玄人なので、展示会などの時に「こいつできる」と思わせるテクニックとして活用していただきたい。
まず映像入力だが、VIDEO INとして4系統、それぞれアナログコンポジットとHDMIを切り換えで使用できる。ポイントは解像度が480p(PAL圏では576p)に限定されることだ。ただし入力の4番目のみスケーラーが入っており、RGBやアナログコンポーネント入力が使えるほか、最高1080/60pまでの入力が可能で、480pに変換して対応できる。
入力端子選択は、挿してある方優先というわけではなく、IN/OUT SETUPからグラフィカルに選択してゆく。このため、両方を挿しっぱなしにしておいて、番組途中でコンパネから入力切り換えということもできる。
オーディオ入力は、HDMIのエンベデッドオーディオも当然使えるが、側面に4つのXLR入力がある点はVR-3譲りだ。さらにアナログ入力として、RCA端子がステレオで2ch、ステレオミニ端子で同じく2ch、合計すると12系統の音声入力が使える。HDMIを1系統に付き2chだとすると16ch、さらに本体内蔵のステレオマイクもあるので、合計18chミキサーという事になる。ただパンポットが使えるのは1~4chのみなので、それ以降のチャンネルの定位は入ってきたままの成り行きという事になる。
出力は、映像プログラム出力がHDMIとアナログコンポジット、RGB/アナログコンポーネントとなっている。出力解像度は、下は640×480から上は1,920×1,200まで選択できる。プレビューはHDMIのみで、480/60p固定だ。オーディオ出力はアナログRCAが1ペア1系統。USB端子からは、ネット放送用のストリーム出力が得られる。こちらの解像度は720×480固定のMotion JPEGとなる。
なお本機では、HDCP対応モードにも変更することができる。これはBlu-ray/DVDプレーヤーやゲーム機などからのHDCP付き出力もスイッチングできるようにする機能だ。ただしこのモードに変更すると、プログラムアウトのアナログ系出力はカットされ、HDMIオンリーとなる。この機能は、V-800HDやVR-50HDといったHDMI対応製品にはすでに付いていた機能だ。
パネル部を見てみよう。VE-3に比べて奥行きは同じ203mmだが、フェーダーが増えたことやKeyボタンが増えたことなどから、横幅が4cm程度広くなって345mmとなっている。
映像ブロックは右側で、4系統のセレクトボタンにトランジションがかけられるのは、前作同様だ。ただワイプのパターンが前作の8から大幅に増えており、全部で250種類となっている。単純なワイプ以外にも、縮小拡大やストレッチなど、いわゆるDVEワイプも各種内蔵している。
合成部分は、前モデルではPinPと2画面のSPLIT、KEYが一緒でどれか1つを選択するスタイルだったが、今回はKEYが独立したので、PinPやSPLITと同時にKEYが使えるようになった。またSPLITも2画面だけでなく、4画面のQUADが増えている。
また映像にリアルタイムエフェクトがかけられる、VIDEO FXが追加された。 効果は11種類で、2種類の効果をつまみの左右割り付けて、掛かり具合を調整できる。真ん中がOFFだ。
今回のパネルでは、トランジションにしてもビデオエフェクトにしても、つまみの横にSETUPボタンがあるので、設定がわかりやすくなっている。すべてMENUの中から掘っていかないとたどり着けないようなインターフェースは、コストダウンにはなるだろうが、何がどこにあるのかわかりにくいため、たまにしか使わないレンタル機材として扱う場合には苦労する。この点が解消されたのは大きい変化だ。
続いて音声ブロックを見てみよう。XLR入力の4系統が実質的にメイン入力となっており、ゲインやEQのつまみが並ぶ。これもそれぞれにSETUPボタンが付けられており、チャンネルごとにすぐ設定にアクセスできるのは便利だ。
内部にはパンポットや内蔵リバーブへのエフェクトセンドがあるほか、コンプレッサーとノイズゲートも備えている。また3バンドのEQは、HIとLOは周波数が、MIDは周波数とQが変更できるようになっており、かなり高機能だ。またゲインやフェーダーの値も数値で出てくるので、左右の設定はきっちり同じにしたいという「きちんとさん」にも満足の配慮である。
5~8chまでのアナログステレオ入力は、コンプレッサーとノイズゲートがないので、BGMなどのオーディオ機器を繋ぐのが妥当だ。3バンドEQはあるので、そこそこ音はいじれるようになっている。
HDMI入力は、4つのつまみで入力レベルを決める。SETUPは4つを切換で設定するようまとめられており、あくまでも補助的な音声ラインと考えておくべきだろう。なおスイッチングした映像の音声のみを出力する「Audio Follow」機能もある。スイッチングに合わせてカメラマイクだけ薄く混ぜるといったミキシングも可能だ。
内蔵モニターは、320×240のタッチパネルで、画面の下には各チャンネルのレベルメーターが表示される。表示は簡易的ではあるが、音声入力の管理もこれでできるようになった。
底部はかなり厚みのあるウレタン製の足が取り付けられている。これは本体内蔵マイクで音を拾う際に、机の音が伝わらないようにという配慮だろう。
課題が多いHDMI入力
ではさっそく使ってみよう。まずHDMI入力ソースだが、一般的なビデオカメラであれば、繋いだ相手に応じて自動的に出力解像度を切り換える。今回はキヤノンの「HF G10」をメインカメラとして繋いでいるが、VR-3EXから「480pしか受けられませんよ」というステータスを受信すればG10側が480pで出力してくるので、そのまま繋がる。
問題は、VR-3EXがそのまま受けられない特殊な相手を繋いだときだ。ソニーのアクションカム「HDR-AS15」のHDMI出力を繋いでみたところ、カメラ側の解像度を480に変更しても、アスペクト比がおかしい。これはAS15が480pでは4:3の映像出力しか出せず、VR-3EX側はそれを16:9画角だと思って受けているからであろう。
入力4にはスケーラーが入っているので、AS15をここに繋げば正常なアスペクト比で入力できる。だが、この入力はできればPCやタブレットのHDMI出力など、融通が利かない相手に対してとっておきたいところだ。あまり特殊なカメラは1~3番にはうまく繋がらないかもしれないので、事前のテストは必須だろう。
PCやタブレットの出力は、主にPowerPointやPDFのようなプレゼン資料を出したり、あるいはテロップを出したいといった時に使われる事が多い。だがそれは静止画で代用できる部分も多い。
問題なくHDMIが出力できる静止画出力機が何かないかなと家の中を探したところ、バッファローが出している「おもいでばこ」が利用できると気がついた。これは元々テレビに繋いで、内蔵HDDに蓄積した写真を家族で楽しもうというタイプの製品だが、HDMI出力がテレビ向けに作られているため、480解像度でも16:9アスペクトで出力できる。つまりHDMI 1~3番に直接入力できるわけだ。
資料やテロップを16:9のJPEG(非プログレッシブ)化して、おもいでばこに転送しておけば、簡易的なテロッパーとして利用できる。コントローラの画面が消えるまで1秒ほどかかるが、そこさえ我慢できればなかなか便利だ。これはストレージも内蔵している製品だが、以前流行ったネットワークメディアプレーヤー的な製品でも同じようなことはできるはずだ。
Keyは、左に回すとクロマキー、右に回すとルミナンスキーになるという、ローランドお得意のインターフェースだ。ルミナンスキーは抜く映像をBlackかWhiteを選択できる。通常はBlackを使用するが、インバートしたい場合はWhiteを選ぶということである。キーレベルのほかに、メニュー内でキーエッジも調整できるようになっている。輪郭を柔らかく抜きたいときに利用するといいだろう。
クロマキーでは、抜くカラーをBlueかGreenから選択するのみで、色位相の微妙な調整はできない。実写でクロマキーバックの人物を綺麗に抜くならもうすこし高度なクロマキーヤーが必要だが、色つきのテロップを抜くような使い方なら綺麗に合成できるだろう。
VIDEO FXは、ソラリゼーション系のエフェクトが多く、効果としては割とオーソドックスに見える。ただ2種類をつまみ一つで行ったり来たりできるので、リアルタイムでの効果としてはバリエーションが多いように見えるところがミソだ。
総論
VR-3EXのポイントはもちろん、イマドキの事情に合わせてHDMI対応になったことだと言えるが、内容的にはVR-3の2倍から3倍ぐらい機能が増えている。VR-3ではすでに物足りなくなっている配信者にも、十分手応えのある作りになっている。
操作性の面ではSETUPボタンがあちこちにあり、必要な位置から必要な機能が呼び出せるようになったことで、これまでも存在したがアクセスするのが大変であまり使われなかった機能にも、手が伸びるようになった。オペレーションはかなり楽になるはずだ。
またイマドキの機能として、PCをUSBでつなぎ、ソフトウェアからスイッチングやミキシングをコントロールするソフトウェアも公開されている。ファームウェアのアップデートなどもこのソフトから可能だ。
ユーザーメモリーも4つ本体に覚えさせられるほか、アプリ側でもセッティングがセーブ・ロードできるなど、複数の現場で使い回す際の利便性も上がっている。さらに以前からVRシリーズ用として、「Video Capture for VR」というPCで録画録音もできるソフトがあるが、これにも対応している。
一般的には“VR-3のHDMI対応版”といった単純な評価がされそうな本機だが、VR-3で評価が高かった部分を残しつつ、内部的にはもっと上位クラス相当の機能を入れこんだところがポイントだ。ただスケーラーが入力4番にしかないという部分で、低価格化したという事だろう。
そのハンデをいかに工夫でカバーし、面白い事ができるかは、ユーザーの知恵にかかっている。
ローランド VR-3EX |
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