小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第663回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

4Kで撮影、“推しメン”を切り出す「Take Out Live」

野口五郎考案! 「でんぱ組」ライブを持ち帰り配信

新たな4Kソリューション登場

でんぱ組武道館ライブのリハーサル風景

 4Kという技術を一つのフォーマットとして考えた場合、4Kで撮影し、4Kで編集し、それを4Kのままで視聴者まで届けるということを意味する。しかし4Kを“高解像度技術”として考えた場合には、全く別の使い方が産まれることになる。今回はそういう例を取材することができたので、ご紹介したい。

 グレイトフル・デッドというアメリカのバンドをご存じだろうか。彼らはユニークなマーケティングで知られる。ライブの際に、録音や録画を自由にしたのである。これを1970年代から実践しており、ライブチケットはあっという間に完売するという。

 このようにコンサートに行ったとき、当日の音源や映像を持って帰れるなら買う、という人は相当数あるように思う。だが自分で録音する以外の方法では、なかなか難しかった。

 このようなやり方を日本流にアレンジした結果、「公式のライブ映像お持ち帰り」という方法論になる。コンサートの音源あるいは映像のダウンロード権をQRコードとして販売し、購入者はスマートフォンを使ってそれを読み取り、動画をダウンロードする。これは歌手の野口五郎氏が特許を取得したアイデア(特許第 4859882号)で、それをフォネックス・コミュニケーションズという会社が「Take Out Live」という名称で昨年から事業化している。

 今回は、アイドルグループ「でんぱ組.inc」(以下でんぱ組)が5月6日に日本武道館で行なったライブの、Tale Out Live収録現場にお邪魔した。

4Kで効率化した撮影システム

 でんぱ組は、メンバー6人で構成される。ファンにはそれぞれの“推しメン”(一推しのメンバー)がいるので、Take Out Liveでは、6人それぞれがアップになっている映像を個別に制作し、それぞれのファン向けに販売する。

 普通に考えれば、6人それぞれのアップを撮影するには、カメラ6台にそれぞれ人が付いて、動きをフォローしなければならないが、これはグループにメンバーが増えれば増えるほど大変になっていく。例えばグループによっては46人とか48人とか、あるいは48人の組がいくつも同時に出るとなれば、もうそれぞれにカメラを用意すること自体が現実的ではない。

 そこでTake Out Liveでは、4Kカメラを使ってグループショットを撮影しておき、あとは編集で個別にメンバーを切り出すという方法論を実践している。Take Out Liveで配信される動画解像度は、720×404ドット。ビットレートは4〜5Mbpsだという。4Kの解像度からすれば、縦横1/5以下なので、切り出しの映像でも十分な解像度が確保できる。

 武道館はご存じのように八角形のホールで、通常は1階の競技場を中心に周囲をぐるっと観客席が取り囲む。今回はステージを八角形の1辺に寄せて設営し、1階、2階、3階に観客を収容する。1階はオールスタンディングだ。

 このステージの真向かいの辺に、カメラ撮影ブースがある。今回はDVD向けの収録もあるので、その分のカメラは20台ぐらいあるのだが、Take Out Live用の4Kカメラは、3台だけである。つまり、かなり出来上がった会場にTake Out Liveを追加することになっても、そのために結構な場所を空けてくれといった交渉が必要なく、最小限のスペースと機材で実現できる。またカメラもほぼFIXで済むため、細かいオペレーションが必要ないのもポイントだ。

メインカメラは1階だが、観客が肩車などしてカメラに被ってしまう可能性も考慮して、サブカメラを2階に設置している。カメラはどちらもソニーのPMW-F55だ。レンズはPLマウントのソニー製単焦点レンズで、55mm、85mm、135mmを曲に応じて付け替える。今回配信するのはオープニングと、後半の2曲だけなので、レンズ交換も時間的に余裕がある。

1階に設置されたPMW-F55
2階席はこのアングルから
メインカメラと編集を担当する齋藤槙治氏(左)、サブカメラを担当するTBSテックス 呉 敬訓(オ キョンフン)氏

 ステージまでは結構距離があるので、135mmのレンズでもステージ上段全体が丁度入るぐらいの画角になっていた。さらに左右の花道まで含めた広い絵は、別途1階に設置されたXDCAMメモリーカムコーダー「PXW-Z100」で撮影する。

ステージは上段と下段に別れている
135mmレンズによる画角(プレビュー用モニターを撮影)
本番収録中

 撮影時のフレームレートは24pで、単焦点レンズの絞りはF5.6。ステージの奥から手前の移動では多少のフォーカスフォローが必要になるものの、レンズの一番解像度の高いところを使うというこだわりである。

実際に使ってみる

 ではこのTake Out Live利用の流れを追ってみよう。まずスマートフォンに、Take Out Liveの専用アプリをインストールしておく(iOS/Android対応/無料)。ライブ映像をダウンロードするためには、QRコードが書かれたカードを1,000円で購入する。これは当日、グッズ販売用のコーナーで買うことができる。

Take Out Live専用アプリを準備
QRコードのカードは会場外のグッズコーナーで販売

 メンバーそれぞれの6枚と、全員がまんべんなく収録されたディレクターズカット版などで、全8種類ある。カードもそれぞれにTake Out Liveのみのオリジナル写真が付けられており、カードそのものにもブロマイド的な価値を持たせている。

 背面にQRコードが印刷されており、これを専用アプリで読み込むと、ダウンロード可能な動画一覧が表示される。ライブ当日は、ウエルカムメッセージとサンクスメッセージのみダウンロード可能だったが、5月14日ごろからライブ当日の2曲が配信された。

メンバー6人分のカード。写真はこのカードのみのオリジナル
ダウンロード可能なコンテンツが表示される

 この方法のメリットは、ユーザーとの紐付けは何も行なわれず、ダウンロードの権利はスマートフォンなどのモバイル端末と紐付けされる。従って、ライブ映像を抜き出して転売するといったことはできない。この点は、いろんな穴が存在するPCではできなかったことで、スマートフォンに絞ったから可能になったサービスといえるだろう。

 なお、一度使用したQRコードは、すでにサーバ側で端末情報と紐付けされているので、別の端末でQRコードを読み込んでも、ダウンロードすることはできない。

 ユーザーがスマートフォンを機種変した場合には、権利の移動が必要になる。この仕組みは現在まだ実装されていないが、権利をサーバに戻してもう一度再ダウンロードできるような仕組みを現在構想中だという。

 本番前の客入れ時間中に、配信事業者であるフォネックス・コミュニケーションズ事業部長の長久保 正洋氏に、立ち話で少しだけお話しを伺うことができた。

 単にライブ動画を売るだけなら、eコマースを組み合わせれば完全にネットだけで完結できる。だが敢えてそれをやらないという。なぜならば、ライブ会場だけでしか販売しないという限定感が必要だからだ。これにカードの写真自体の価値が加わり、その2つの組み合わせによって購入が促進される。ライブ映像はまずイベントありきなので、そこへの付加価値を高めていくことで、イベント会社、タレントサイド、観客がWin-Winの関係になる。

 現在Take Out Liveは、タレント事務所や広告代理店が、プロモーションあるいはグッズ物販の一環として発注するというB2B2Cのビジネスだが、将来的にはライブ映像を売りたい人が直接販売できるような、B2Cのツールに育てたいという。

 仕組みとしては、QRコードは発行ソフトとプリンタがあればどこでも出力できるので、物理コストはゼロに近い。今後はコンビニでの販売といった協力体制も築いていくという。

即時性と完成度のバランス

動画は個別にダウンロードする

 今回はサンプルとして何枚かカードを頂いたので、実際にiPhone 5を使ってTake Out Liveを試してみた。専用アプリからQRコードを撮影すると、すぐにダウンロード可能な動画一覧が表示される。見たい動画は個別にダウンロードしていく。

 せっかく購入したものなので、ユーザーはどっちみち全部ダウンロードすると思うのだが、いっぺんにダウンロードする仕組みも欲しいところだ。

 画面を横向きにすると、ライブ動画は少し上下が黒で埋められるが、ほぼフル画面で鑑賞することができる。推しメンの顔のアップがずっと続くのかと思ったが、結構速いテンポでグループショットや引きの絵が挿入されており、思った以上にきちんと編集してある感がある。元は3台のカメラとは思えない画角のバリエーションだ。

 切り出し範囲の変化による、ズームインやズームアウトも多用されている。メンバーは結構動き回るので、フォローするのは大変だが、激しい移動の場合はその子が見切れない範囲のグループショットで、直線的な移動は切り出し範囲の移動によるフォローもある。

 撮影・編集を担当する齋藤 槙治氏にお話しを伺った際、以前同グループの川崎クラブチッタでのライブでテストした際に、「横方向へのフォローは残像感が出るので使わないことになった」と伺ったのだが、拝見した動画では横方向の移動も使われていたものの、特に残像感は感じなかった。解決方法が見つかったのかもしれない。

 今後の課題としては、メンバーのウエストショットからバストショットにかけては、ピクセル等倍よりも拡大することになるため、やや甘い感じがする。引き絵は縮小するためにかなり高い解像感が得られるだけに、寄り引きの解像感の差が気になった。ただ、プロ目線ではそう感じるというだけで、一般の方は気になるほどではないだろう。今後カメラが8K化すれば、この問題は解決するかもしれない。

 また、各メンバーの切り出しも、現時点では完全に手作業なので、編集するにもある程度時間がかかる。本来ならば、1曲ぐらいはライブが終わって帰りの電車の中で楽しめるぐらいがいいのだろうが、メンバーの数が多いほど編集に時間がかかる。ただここは顔認識による自動化など、アルゴリズムによってある程度の効率化は可能なようにも思える。

 もっとも、自動切り出ししたものが絵的に使える構図なのかという微妙な問題もあり、ある程度は自動で追ってくれて、細かいところは手動で直せるみたいなツールが必要になるのだろう。

 もしくは、ジョイスティックなどのコントローラを使って、リアルタイムで切り出し範囲を決めるツールがあれば、かなり効率化できると思われる。実はこの手のリアルタイムコントローラは、日本ならではだと思うが、アダルトビデオのモザイク入れの効率化のためにすでに実用化されている。そういうものを流用することも可能だろう。

 結局のところこのシステムの有用性は、動画配信のスピード感と、動画の完成度をどのぐらいのバランスでやっていくかというところに集約される。最初はざっと編集したバージョンで、後々ちゃんとした動画に差し替え、みたいなことでもいいように思う。そのあたりは今後事例を積み重ねていくことで、いい方法論を見つけていくことになるだろう。

 皆さんも今後、何かのライブでTake Out Liveを見かけたときは、買ってみてその進化具合を確認してみると楽しいだろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。