小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第664回:ウェアラブル4K、パナソニック「HX-A500」を試す
第664回:ウェアラブル4K、パナソニック「HX-A500」を試す
最安の4K?! ユニークな“紐付き”のメリットとは
(2014/5/28 10:00)
最安の4Kカメラ?!
6月2日からいよいよ4Kの試験放送開始ということで、放送業界では4Kに対する様々な実験や検証が活発になってきた。衛星放送だけでなく、地上波でも4Kの伝送実験が進められている。
一方コンシューマでも、4Kカメラが徐々に現実的になってきた。ビデオカメラではソニー「FDR-AX100」が、ミラーレスではパナソニック「DMC-GH4」がそれぞれ販売を開始した。これらは4K/30pまで撮影できる。
一方アクションカムでは、昨年にGoPro HERO3+Black Editionが4K/15fpsでの撮影を実現しており、4Kが撮影可能な動画カメラとしては最も低価格かつ最小であった。ただ15fpsしかないということで、あまり4Kでは使われていないようだ。
パナソニック「HX-A500」(以下A500)は、4Kが撮影可能なアクションカムとして、今年のCESでモックアップ展示されたものの、詳しいスペックがわからなかった。今年3月にヨーロッパで正式に発表されたときは4K/25fpsとアナウンスされたが、いわゆるNTSC圏向けの仕様では30fpsで撮影可能という事がわかった。
6月12日発売予定で、店頭予想価格は42,000円前後。ネットの通販サイトでは既に40,000円強といったところで、4KカメラとしてはGoProよりも低価格となった。
さてパナソニックのHXシリーズと言えば、すでにHDバージョンの「HX-A100」が販売されている。カメラ部と本体部が分かれているスタイルで、車やバイクなど、何かに取り付けるというよりも、体に取り付けるウェアラブルという文脈で製品化された経緯がある。A500もその路線を継承しつつ、機能強化を果たしたモデルという位置づけだ。なお、HX-A100も併売される。
アクションカムは、国内外で参入するメーカーも多く、まさに有象無象の製品ひしめくジャンルなのだが、他の製品にないこのスタイルで、4Kはどう活かされるのだろうか。さっそくテストしてみよう。
モニター付きが新しい
A500にはオレンジ(D)とグレー(H)の2色がある。今回はグレーをお借りしている。A100と大きく違うのは、4K撮影の可否もあるのだが、ボディでの最大の違いは、本体部分にモニタがあるかどうかというところだろう。これまでアクションカムで標準でモニターが付いているのは、JVCのADIXXIONシリーズぐらいで、あとはオプションで付けられるもの、Wi-Fi経由でスマートフォンで見るものが主流である。
A500はカメラヘッドとモニタ部が分離していることで、きちんとした角度でコマ落ちやディレイなく、カメラ映像をモニターしながら撮れるというところがポイントになる。
ではまずカメラ部から見ていこう。撮像素子は1/2.3型MOSで、総画素数1,276万画素、有効画素数は1080/30p時903万画素とあるが、4K撮影時の画素数は不明である。3,840×2,160は約830万画素なので、おそらく4K時はドット・バイ・ドットではないかと推測する。HDワイドモード撮影に比べると4Kでは少し画角が狭くなる事からも、それが伺える。
レンズはF2.8の単焦点で、画角は最大約160度。最短撮像距離は約50cmとあるが、実際にはもっと寄っても実用には耐える。
本体右側面にマイク、真下にはカメラの角度を示すポッチが出ている。ケーブル側にギヤ溝があり、ホルダに対してはここで引っかかるようになっている。
本体へは70cmのケーブルで繋がっているが、ケーブルの着脱はできない。従って断線したらメーカー修理という事になるだろう。
本体は一昔前のMP3プレーヤーといった感じで、厚みは結構ある。なお本体部とカメラ部は、IPX8(水深3mに30分)の防水機能となっている。
モニタは1.5型で約11万画素の液晶だ。フロントには操作用の十字キーほか、電源、RECボタンがある。側面の蓋を開けると、microSDカードスロットとMicroUSB端子、リセットボタンがある。
バッテリは本体はめ込みで、ユーザーでは交換はできない。USB給電による動作はできるが、蓋が開けっ放しになってしまうので、記録メディアが飛び出す恐れもあり、激しい動きのある場所での給電は難しい。
固定用アクセサリ類も、A100から新しくなっている。付属のヘッドマウントは、後ろからはめ込むカチューシャ的な構造となり、着脱は楽だ。激しい動きの場合は、額のほうに回すゴムベルトも付属する。本体のほうは、腕に固定するアームバンドが付属している。
それ以外は別売となるが、リュックの肩ひも部分に挟み込めたり、ポーチのように単体で肩掛けもできる「マルチベルト」、本体をいろんなところにくくりつけられる「マルチケース」、カメラをどこにでも挟んでおける「クリップマウント」などが新しく販売される。
解像感が高く、良好な画質
ではさっそく撮影してみよう。撮影モードは、通常撮影のほか、スローモーション、ループ記録、写真撮影モードの4つがある。注目は4K撮影であるが、手ぶれ補正や傾き補正といった機能は、撮影モードで若干制限がある。
解像度 | fps | 手ぶれ/傾き補正 |
3,840×2,160 | 30p | × |
1,920×1,080 | 60p | × |
1,920×1,080 | 30p | ○ |
1,280×720 | 60p | × |
1,280×720 | 30p | ○ |
848×480 | 30p | ○ |
なお、本機には画角モードとして、ワイドとスタンダードの2つがあるが、4Kではスタンダードがなく、ワイドのみである。また他の解像度でも、ブレ補正と傾き補正が使えるのはスタンダードのみで、ワイドモードでは使えなくなる。補正に必要な画素数がとれないからだろう。
またスローモーションモードの解像度とフレームレートは以下のようになっている。
解像度 | 撮影時fps | スロー速度 |
1,920×1,080 | 60fps | 1/2 |
1,280×720 | 120fps | 1/4 |
848×480 | 240fps | 1/8 |
自転車に取り付けて撮影してみた。4K動画はMP4の約50Mbpsで撮影される。解像感も高く、結構細い線もしっかり出ている。またローリングシャッター歪みもほとんど気にならない。ただ絵作り的にはかなりビデオ的なので、シネマのような色の濃いしっとりした感じではない。
激しいスポーツには30pでは厳しいのではないかと思ったが、シャッタースピードが結構速いようで、各フレームともかなりしっかり写っているため、コマが少ない感じはしない。ただ、やはりブレ補正は欲しいところだ。4Kともなればディスプレイする画面も大きいので、ブレが大きいと映像酔いを起こす可能性が高まるからである。
紐付きのメリットは何かなと考えた結果、カメラヘッドだけ一脚に取り付けて、高い位置や低い位置で撮影してみた。Wi-Fi経由でモニターできるアクションカムでもできないことはないのだが、撮影中の絵がコマ落ちやディレイなくきちんとモニターできるので、カメラをどこに向けるといった操作がやりやすい。
水中撮影では、他のカメラだとカメラ本体ごと水中に入らないといけないので、モニターができなくなる。Wi-Fiは水中では電波の減衰が激しいので、スマートフォンを併用したモニタリングでは、カメラを5cm沈めただけで絵が途切れてしまう。
その点、紐付きのA500は、カメラを沈めてもきちんとモニターができるし、本体を沈める必要がないので、撮影者まで一緒に水の中に入る必要がない。ただ欲を言えば、こういった撮影ではもうすこしケーブルが長いほうが良かった。防水ではなかなか難しいかもしれないが、長いケーブルに交換ができるとさらに良かっただろう。
きちんとモニターできるのが本機の重要なポイントなはずだが、仕様としての難点もある。録画中であっても、何も操作をしないと30秒でモニターが自動的にOFFになってしまうのだ。セットアップメニューで液晶パワーセーブをOFFにしても、録画中は無関係で消えてしまう。
これはダメだ。たとえバッテリーを消費してでも、撮影中にきちんと絵を見るためにヒモ付きで本体別にしたのではないのか。本機の一番重要なポイントを、自ら放棄してしまっている。
パナソニックは2009年に、カメラヘッド分離型の「POVCAM」を製品化している。この手のカメラは、ソニーのまめカムのほうが有名だが、実はPOVCAMのほうが製品発表は早かった。ただ実際の発売はまめカムのほうが早かったため、一気に話題を持って行かれた。
ケーブル着脱式で、もちろん撮影しながらモニターもできる機器だったのだが、このようなプロ機のノウハウが新製品に全く生かせていないのはいかにも残念だ。ファームウェアのアップデートなどで、改善して欲しい。
分離型をどう活かせるか
本機は一般的なアクションカムと違い、ウェアラブルという点にメリットがある。もちろん一体型の製品も、ヘルメットなどには付けられるのだが、生身の頭に付ける場合、カメラが大きいので結構大げさな事になってしまう。
だがA500はカメラヘッドが小型で軽量なので、あまりおおげさでなく装着が可能だ。登山やトレッキングのようなゆっくりとしたペースでの撮影には、頭部への負担も少ない。
またリュックにも装着できるため、あまり“撮影している感”を出さずに撮影して回ることが可能だ。このあたりはプライバシーとのバランスにはなるのだが、被写体に警戒心を持たれないルックスになるのは重要である。
またカメラ部が円筒形なので、装着パーツを工夫しなくても、横向きに固定といったことも簡単だ。画角は狭くなるが、傾き補正と組み合わせれば、かなり安定した映像が撮影できるだろう。
本体の固定方法だが、現時点で発売されているケースは、どれもベルクロを使ってどこかに縛り付けるタイプばかりである。それもある意味便利ではあるのだが、本体の裏面に三脚穴があるとか、三脚穴の付いたケースがあるだけで一般的なカメラ固定具が使えるようになるので、汎用性が上がるはずだ。装着される側は、カメラが2個付くような準備だけしておけばいいので、現場での装着も段取りが楽になる。
一方本体が分かれているデメリットもある。ちょっとした手持ち撮影では、カメラと本体でどうしても両手が塞がってしまうので、撮影者も何かを操作するよという時が大変だ。カメラと本体が一体化できて、ちょっとした撮影ではそのまま持ち出して撮れるようなケースも欲しいところである。
また本体での再生は、最後に撮影したクリップの先頭5秒間しか見られない。アクションカムは再生機能を持たないものもあるが、全くできないならともかく、5秒に限定する意味がわからない。せっかくモニターがあるのに、現場で確認するにはスマートフォンから見るしかないというのも、おかしな話だ。
実用的な4KノートPC登場
今回は4K編集用PCとして、東芝から世界初4K液晶パネルを搭載した「dynabook T954」をお借りした。15.6型/3,840×2,160ドットのIGZO液晶「Clear SuperView LED」を搭載し、液晶のタッチ操作にも対応する。
CPUは、Core i7-4700HQ(2.40GHz)でメモリは8GB、GPUはRadeon R9 M265X、HDDとNANDフラッシュメモリを合わせたハイブリッドHDD 1TBを搭載している。またHDMI端子から、4K/30pまでの出力も可能だ。店頭予想価格は22万円前後となっており、きちんとキャリブレーションされた4Kのディスプレイまで付いて、4K編集できるWindowsマシンとして考えれば、かなり安い。
A500で撮影したクリップをそのまま再生してみたが、全画面表示でもコマ落ちなしで再生される。4K収録の現場確認用ツールとしても使えそうだ。
動画編集ソフトとしては「Corel VideoStudio X6」と「Loilo Scope2」がバンドルされている。今回は、いつものように別途EDIUS Pro 7をインストールして編集してみた。
ところがディスプレイ解像度が高すぎるため、メニューやアイコンが小さすぎて見えない。Windows標準のUIを使っていれば、OSの機能で拡大表示できるのだが、EDIUSは独自UIを使っているため、この設定が反映されない。EDIUSは映像素材としては4Kが扱えるのだが、PCディスプレイ自体が4Kになることはまだ想定されていないようだ。
仕方がないので、HDMIでモニターをもう一つ繋ぎ、EDIUSはそちらの画面で操作した。フルスクリーンプレビュー画面を本体ディスプレイに設定したかったのだが、EDIUS側が本体の4Kディスプレイをセカンドスクリーンとして認識しないようなので、最終レンダリングしたファイルを単独で再生して確認した。
表示に関しては編集ソフト側の対応待ちになるものの、このマシンのパワーなら4K/30pの映像がネイティブフォーマットのままで十分に編集が可能だった。4K編集時は底部右側が熱くなるので、膝の上での操作はお勧めしないが、据え置きで使えば問題ない。
総論
今回は4K撮影をメインに行なってみたが、ウエラブルカメラとして装着の自由度が高い反面、他のアクションカムとはかなり使い勝手が違う。手軽に人に装着できるという特性から、危険でスピード感のあるアクションを撮影するというより、もっとゆっくりした撮影に向いている印象だ。
4Kと60pでは手ブレ補正が効かないため、そう感じるということもある。またバッテリーが交換できないため、長時間の撮影にも向かない。
ただ現時点では、アクションカムとして、他の4Kカメラと合わせられるフレームレートで撮影が可能な、初めてのカメラでもある。アクションカムにはプロ機も民生機もないので、プロの現場でも投入される事だろう。特にラジコンヘリによる空撮では、これまで4Kともなれば相当大型の機体を使わないとカメラが持ち上がらなかったので、この小型と軽さは朗報だ。
4Kという技術をどう捌いていくか、“コンシューマで現実的なところ”はこれから見極めていかなければならないわけだが、A500はその「とりあえず実験してみる」という部分にちょうど上手くハマるカメラと言えるかもしれない。
パナソニック HX-A500 |
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