小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第687回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

あの全天球カメラ・THETAがついに動画撮影対応! THETA m15の実力は?

先週に引き続き全天球

 先週はKodakの半球撮影アクションカメラ「SP360」をご紹介したわけだが、今週も似た感じで全天球カメラをご紹介する。リコー「THETA(シータ) m15」だ。

リコー「THETA m15」

 初代リコーTHETAは、昨年11月に発売された全天球撮影デジタルカメラだった。平面に2つの魚眼レンズを背中合わせに貼り付けたようなデザインで、全天球写真を撮影する。それをスマートフォンのアプリでグルグル回して見られるというのが特徴であった。またSNSへのアップロード機能を使うと、自動的に専用サイトへのリンクが貼られ、リンクを辿って誰でもグルグル体験が可能だ。

 かつて写真を全天球グルグル回す技術は、AppleがQuicktime VRという名称で開発を続けていた時期もあったが、すでにオーサリングツールの開発やサポートが打ち切られて10年ぐらいが経過する。そんな中リコーTHETAは、かつてグルグル写真を経験したオッサン達に再び夢と希望を与えるガジェットであったわけだ。

 ただ認知度はそこそこ高かったものの、大ブレイクというところまでには至っていない。カメラそのものはシンプルだが、価格が微妙に高い(実売4万円前後)ことがネックになったのかもしれない。また静止画しか撮れないというところも、不満があったようだ。

 あれから1年が経ち、THETAの次期モデルが発表された。それが「THETA m15」で、動画撮影にも対応した新モデルだ。発売は11月14日、価格も微妙に下がり、すでに通販サイトでは3万円台前半で売るところもあるようだ。また今回は、ホワイト、ピンク、イエロー、ブルーの4色展開となる。

 静止画も動画も撮れる全天球カメラとなったリコーTHETA m15は、どんな使い勝手なのだろうか。早速テストしてみよう。

実に無駄のないボディ

 今回は4色のうち、ホワイトをお借りしている。初代はホワイトのみだったが、塗装も微妙に変わり、汚れが付きにくくなっているという。

動画対応のTHETA m15
両面に魚眼レンズがくっついてる構造

 前モデルを詳しく把握していないが、写真で見比べた限り、デザイン的にはほぼ同じである。m15は上部にマイクを備えている。前モデルにもマイクがあるそうだが、使われていないようだ。サイズや重量などは同じとみていいだろう。

上部にマイク

 両面のレンズは、画角やF値のスペックが公開されていないのだが、まあほぼ半球が撮れる画角×2ということである。撮影距離はレンズ先端から10cm〜無限遠まで。ISO感度は静止画でISO 100〜1600、動画ではISO 100〜400となっている。

レンズは本体から出っ張っている

 撮像素子の情報も公開されていないが、構造的には2セットのレンズの光をプリズムで左右に直角に曲げ、2枚のセンサーで撮影している。

 ボタンは正面にシャッターボタン、横に電源ボタンとWi-Fiボタンがある。普通に電源を入れると静止画モード、Wi-Fiボタンを押しながら電源を入れると動画モードで起動する。つまりモードを切り換えるためには一度電源を切って入れ直す作業が必要という事である。

大きく目立つシャッターボタン
横には電源とWi-Fiのボタンがあるのみ
Wi-Fiボタンを押しながら電源を入れると動画モードで起動する

 現在どっちのモードなのかは、電源LEDでわかるので、見分けるのはそれほど難しくない。青の常時点灯が静止画モード、青の点滅が動画モードだ。

 記録メディアは4GBの内蔵メモリのみで、外部メモリは使用できない。バッテリも内蔵で、底部のUSBポートから充電する。底部には三脚穴があるのみと、シンプルだ。

底部に三脚穴とUSB端子
現時点での専用アプリ。まだ動画には対応していないバージョン

 本体には操作画面はなく、細かい設定はスマートフォンの専用アプリから行なう。なお執筆時点は製品発売前で、アプリがまだ動画機能に対応していないため、静止画機能のみコントロール可能な状態だ。

 動画撮影ファイルはMPEG-4 AVC/H.264のMOVで、ビットレートは12Mbps/VBR。解像度は1,920×960/15fpsである。音声は、モノラル32kHz/16bitのリニアPCM。昨今のデジカメ動画と比較すると、スペック的には約半分といったところである。

 他にも動画では色々と制限があり、まず連続撮影時間は3分。合計記録時間は約40分となっている。ホワイトバランスはオートのみ、また撮影モードも静止画ではシャッター優先やISO優先が可能だが、動画ではオートのみだ。

どんな仕組みなのか

 本連載ではTHETAを扱うのが初めてなので、まずは静止画のほうから試してみたい。静止画モードでは、シャッターボタンを押すか、インターバル撮影をするか、アプリから遠隔でシャッターを押すかの3通りで撮影する事ができる。

 全天球撮影なので、原則撮影者も写り込むのが前提となる。おそらく大半は、腕を伸ばした状態の自分が写り込むことになるわけだ。自分撮りも含めたスナップを撮影したい場合は、とにかく何も考えずその瞬間を空間ごと切り取ることができる。

 写りたくない場合は、三脚などに接地して、遠くからアプリでシャッターを押す事になる。アプリに転送された写真をSNSにアップすると、自動的に専用サイト「theta360.com」に画像がアップされ、そのリンクが書き込まれる。URLをクリックすれば、誰でも360度の写真をグルグル回してみられるというわけだ。

theta360.comにアップしたサンプル静止画。グルグル回して見られる:https://theta360.com/s/Wue

 なお実際に撮影された写真を取り出してみると、下の画像のように、球体にマッピングしやすいよう、正距円筒図法で2つの画像がステッチされている。

実際にファイルに記録された写真

 写真からはつなぎ目はほとんどわからないが、画面の左右1/4ぐらいのところ(左は電柱のあたり、右は電線が伸びているあたり)につなぎ目があるはずだ。右端と左端は1枚の画像の中央で分断してある。

 では動画撮影ではどうか。動画モードで撮影すると、実ファイルは以下のような映像となっている。

m15で撮影された動画ファイル
walk1.mp4(15MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 2つのカメラが撮影した動画を、そのまま2つ横に並べた状態だ。この全体の解像度が1,920×960ドットなので、実際に球体にマッピングして人が見る範囲というのは、低解像度になることが予想される。

 また静止画と違い、本体内でステッチングは行なわれていない。おそらく動画が処理できるほどの画像処理プロセッサが内蔵されていないのだろう。したがって動画のステッチング処理は、専用のPCソフト上で行なうという段取りになっている。

 この専用ソフトもβ版をお借りしてみた。ファイルを読み込ませて出力パスを設定すると、ステッチングしながらMP4ファイルに出力してくれる。

PC用のステッチングアプリ

 先ほどと同じポイントを変換したのが、下の動画である。静止画同様、正距円筒図法でステッチングされているのがわかる。ステッチングの継ぎ目位置も同じだ。

ステッチング後の動画ファイル
walk2.mp4(15MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 PC用のソフトでは、静止画と同じインターフェースで動画のまま、グルグルとどこでも見る事ができる。ズームイン、ズームアウトも可能だ。製品発売後、theta360.comに写真と同じようにアップロードでき、SNSなどで共有可能になるそうだ。この際、動画の容量は5MBまでという制限があり、PC用ソフトにはこの制限に合わせて5MBの動画を切り出す機能も搭載される。

 ただ、今回試した時点ではまだtheta360.comにアップロードできないので、動画状態でグリグリして見る事ができるのはPC用ソフト上のみだ。後ほど、そのPC用ソフトの画面をキャプチャした動画も掲載するので、それで雰囲気を感じて欲しい。

動画撮影の実際

 今回も色々なシーンで動画を撮影してみた。まず前回同様、自転車にマウントしてみた。風の抵抗を考えて、縦方向に固定してみたのだが、色々発見があった。この付け方だと、おそらく一番見たいであろう正面のアングルがステッチされることになる。したがってステッチ部分のズレが気になってしまう。

ハンドルに縦にマウントしてみた
正面が分断されるのはよくなかった(PCアプリの画面再撮)
cycle1.mp4(60MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 静止画ではステッチングのズレは気にならなかったのだが、動画、特に早い動きではローリングシャッター歪みが発生する。この歪み方が2つの撮像素子で揃わないため、つなぎ目がズレるというわけだ。

 まあ考えてみればそれはそうで、2つの映像の右端と左端をステッチするわけだから、どんなに特性を合わせても、ローリングシャッター歪みまで同じ歪み方にはならない。こういう撮影時には、一番見たい面にレンズをしっかり向けて固定したほうが満足できるだろう。

 ハンドル装着では絶対に自分が写ってしまう。自分の姿も記録として残したいのならここでいいかもしれないが、風景を見せたいという場合は、はやりヘルメット装着がいいようだ。ただボディが縦に長いので、ヘルメットに装着するとバカ殿のちょんまげみたいになってしまう。またこれだけ長いと安全性の面でも懸念が生じるため、あまりいい手とは言えないだろう。ヘルメットに付けるなら、Kodak SP360のほうが見た目の奇抜感が少ない。

ヘルメットにも装着できなくはないが……
ヘルメット画像はなかなかいい感じ(PCアプリの画面再撮)
cycle2.mp4(35MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 SP360はハイスピード撮影機能があったので、放り投げる映像を撮ることができたが、THETAにはその機能がない。また外装やレンズをカバーするものも何もないので、空中に放り投げるのは破損の危険もあり、断念した。どちらかと言えば、アウトドア派はSP360、インドア派はTHETA m15という選択になりそうだ。

 一つ面白い使い方として、1脚に取り付けて木の中に突っ込んでみた。木を下から見上げることはあっても、木の中から見た視点はなかなかない。昔木登りをしたときの視点というのはこんな感じだったなぁと、感慨深く感じる。最近は木登りする子供もすっかり見なくなり、木を登るという行為自体ほとんど見かけなくなった今、なかなか新鮮なビジュアルである。

木の中に突っ込んで撮影
tree.mp4(38MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

総論

 先週のSP360でかなり心揺れた人も多かっただろう。多くの人は、THETAの動画を確認してから、と思ったに違いない。

 実際に2週にかけて両者を撮り比べてみる事になったわけだが、THETAのポイントは“手軽さ”だろう。特に何かを用意するでもなく、手で持ってピッと押せばそこら辺がまんべんなく記録できる、そしてそれを後からインタラクティブにみんなが見るというコンセプトである。

 ただ画質的にはそれほど解像感はなく、フレームレートも15fpsしかなく、連続で3分しか撮影できない。さらにはマウントアクセサリもなく、防水・防滴・防塵といった作りでもないため、アウトドアでアクションを撮るという使い方は想定していない作りである。やはり初期のコンセプトのままで、動画にも対応したという流れで捉えた方がよさそうだ。

 一方SP360は、そもそもアクションカムとして開発されていることもあり、THETAとはまるで逆の特性を持っている。元々デジカメなのか、元々カムコーダなのか、それで方向性が大きく分かれることになったようだ。

 両製品がほぼ同時期に出るというのは偶然の一致だろうが、この年末、360度動画がちょっと盛り上がりそうな感じになってきた。これからクリスマスのイルミネーションなど、撮ってみたい環境が増えてくる。

 アイデアを活かした面白い作品がどんどん投下されることを期待したい。

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THETA m15

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。