小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第686回:アイデア浮かべば買っとけ! 360度×214度の半球撮影アクションカメラ「Kodak SP360」
第686回:アイデア浮かべば買っとけ! 360度×214度の半球撮影アクションカメラ「Kodak SP360」
(2014/11/5 10:06)
アクションカメラに新星
ビデオカメラでは、もはやアクションカメラしか売れてないと言っても過言ではない昨今である。端から見れば「どれも同じようなものだろう」と感じられるかもしれないが、これらはターゲットが明確な専用機なので、細かいスペックでその現場にハマるかハマらないかが決まる。人気不人気の差はあれど、オールマイティのアクションカメラというのは存在しない。
ということは、まだまだ開拓できていないニーズも当然存在するわけで、その一端が全天球カメラではないかと思われる。全天球カメラと言えばリコーの「THETA」がよく知られるところだが、初期型は静止画撮影のみ。一部の人がタイムラプスに利用してきた実績はあるが、11月14日に発売される新モデル「THETA m15」は、正式に動画撮影にも対応するという。
全天球カメラは、既存のカメラをXYZ 3方向にマウントすることで撮影するというシステムも存在する。自分の周り全部を撮るというニーズは、特殊用途ではあるが結構前から存在するのである。
さてそんな全天球カメラだが、あのKodakから全天球には少し足りないが、周囲360度、上下角214度、半天球とも言えるアクションカメラ「PIXPRO SP360(以下SP360)」が登場する。リコーTHETAと違ってアクションカメラなので、当然、防塵防滴防水耐衝撃だ。
Kodakと言えば1880年創業の老舗であり、イーストマン・コダックとして写真用フィルムや印画紙、一時期はカメラも製造していたメーカーだが、2012年には米国で連邦破産法11章(チャプター11:日本の民事再生法に相当)を申請し、経営破綻した。Kodakブランドは2013年に、コンシューマ事業について米国JK Imaging社とブランドライセンス契約を提携しており、今回の製品もその流れで、JK Imagingの製品がKadakブランドで発売されるものだ。
日本では、JK ImagingのKodakブランド商品の独占販売権をマスプロ電工が取得している関係で、この製品もマスプロ電工から発売される。販売ルートは、エディオン、キタムラ、ケーズデンキ、コジマ、ビックカメラ、ヨドバシカメラだ。11月21日発売予定で、直販価格は41,500円。このユニークな半天球カメラSP360を、さっそくテストしてみよう。
想像したよりも小型
SP360は製品発表が結構早かったので、すでに写真などで形はご存じの方もあると思うが、実際に手にしてみると写真で見るよりもずいぶん小型だ。完全に手乗りサイズ、体積としてはGoProと同じぐらいだろう。ボディの高さが若干あり、半ドーム状のレンズも背が高いが、レンズ径が大きいぶん、ボディのコンパクトさが目立つ。Kodakのロゴが入っているためか、フィルムの箱のようにも見える。
まずレンズだが、35mm換算で8.25mm/F2.8の超広角レンズ。当然そのまま撮れば周囲が歪むが、それを面白く見せる工夫が随所にちりばめられている。
レンズの一番外側はカバーガラスで、レンズ本体はその中にある。ボディのみでIPX5相当の防滴、IP6X相当の防塵性能を備えている。
水中撮影は別途防水ケースに入れる必要がある。この場合は、カバーガラスを外して取り付けるようになっている。カバーガラスを保護するためのキャップもあり、さらにキャリングポーチまであるので、レンズが出っ張っていても破損の心配はなさそうだ。レンズ下にはステレオマイクがあり、音声も拾える。
センサーは1/2.33型の裏面照射型CMOSで、総画素数は約1,752万画素、有効画素数1,636万画素。静止画は最大で3,264×3,264ピクセルの1:1、動画は最大で1,920×1,080/30pか、1,440×1,440/30pとなる。コーデックはH.264で、ビットレートは16Mbps弱のVBR。
撮影画素数 | フレームレート |
1,920×1,080 | 30fps |
1,440×1,440 | 30fps |
1,072×1,072 | 30fps |
1,280×960 | 50/30fps |
1,280×720 | 60/30fps |
848×480 | 60fps |
840×480 | 120fps |
3,264×3,264(1:1) |
2,592×1,944(4:3) |
1,920×1,080(16:9) |
操作部は電源とモード切り換え兼用ボタン、下はメニューボタンだ。右の大きなボタンは録画ボタンだが、メニュー操作時は決定ボタンも兼用する。メニュー操作時は電源とメニューボタンが上下キーも兼用となるので、操作体系としては多少めんどくさい。
メニューディスプレイは短辺にあり、本体設定が確認できる。ただ文字ではなく、数字以外はすべてアイコンで表示されるので、あらかじめアイコンの意味を覚えておく必要がある。
反対側には三脚穴とmicroUSB、HDMIマイクロ端子がある。microSDカードスロットはその下だ。底部はバッテリの蓋になっており、底面積いっぱいにバッテリが格納される。バッテリは充電器も付属するが、本体充電も可能だ。
続いてアクセサリ類も見てみよう。初物としてはかなりの種類のアクセサリーが存在する。カメラ本体とは別に全部入りをフルセットで購入するというスタイルだが、個別販売も予定しているという。価格はまだ未定だそうだが、全部セットで実売22,000円~23,000円のイメージだ。
主だったところを挙げていくと、固定用の標準ケースと水中用防水ケースは構造的にはかなり近い。防水ケースは水深60mまで対応している。それらを吸盤や両面テープ張りのマウントに装着、角度を設定するというスタイルだ。自転車用のマウントも揃っている。
一方本体の三脚ネジを利用して直接固定するためのアクセサリも充実しており、ヘルメット装着用ユニットやクリップもある。これだけあれば、おそらく付けられない場所はないだろう。
各モードを試すが、撮影される動画は同じ!?
SP360は単体でも動作するが、モニターがないため、多くの場合はWi-Fiでスマートフォンと接続し、アプリでモニターするほうがメリットがあるだろう。現時点ではまだ本体が発売されていないが、アプリはすでにダウンロードできるようになっている。今回はiOS用アプリでテストしている。
本機は超広角のため、映像としては魚眼レンズのように円形で撮影されることになる。だがそれでは見たいところも見られないので、複数の表示モードを備えている。
まず基本となるのがドーム型。スマートフォン側に半球状にマッピングされた映像が表示され、指の操作で自由に回転することができる。
パノラマ型は横に長く展開したもの、上下二段型は、パノラマ型を半分に切って上下に並べたものだ。2人で向かい合った時などに便利だろう。リング型は映像を円筒形にマッピングしたもので、これも指で自由に角度や位置を変えてみることができる。
アプリおよび本体には以上のようなモードがあるのだが、撮影される映像はすべて同じで、いわゆる円形のフィッシュアイタイプの絵として撮影されているに過ぎない。それを“どのように見るかで”モードが色々あるというわけだ。これらのモードでは、撮影解像度は1,440×1,440か、1,072×1,072の2タイプしか選択できない。
実際に自転車に装着して撮影してみた。各モードごとにアプリ上の表示は変わるが、撮影される映像はすべて同じである。Wi-Fiで繋がっていれば、撮影後の映像もワイヤレスで各モードのスタイルのまま確認することができる。またスマートフォンに動画をダウンロードすれば、スマホだけで独立して映像を再生できる。
さらに、Webから無料でDLできるPC用アプリも用意されている。このアプリを使うと、いろんなモードで表示させたものを、再レンダリングして動画ファイルとして書き出すことができる。
見る人が自分でインタラクティブに視点を変えられるわけではないので、面白みは半減するが、作り手が見せたいように見せる、逆に見せたくないところは見せないように動画が作れる点ではメリットがある。
今まで紹介したのは円形撮影は「ROUNDモード」と呼ばれているが、もう一つ、SP360には一般的なカメラに近い、平面モードとでも呼ぶべき「FRONTモード」がある。これは前方240度の映像を、4:3、もしくは16:9で撮影するモードだ。ハイスピード撮影はこのモードしかできない。撮影された映像も、円形ではなく歪み補正されたトリミング映像になる。
FRONTモードで撮影された映像は、あとから他のビューモードには変更できないが、専用アプリなしで他の人に見せる、あるいは自分が見直すための映像としては使いやすい。画角もかなり広角なので、普通のアクションカメラとしても使う事ができる。またこのモードでは水平・垂直がスマホ画面上で確認できるので、装着時の水平合わせも楽である。
いろんな装着方法をテスト
アクセサリが豊富なこともあって、色々なところに置いたり装着してみたりしてしてみた。まずこれまでのアクションカメラのように、自転車のハンドルに装着したわけだが、これは半分ぐらい自分が写ってしまい、残りは空なので、肝心の正面の風景や、後方の景色などがあまり撮影できない。多くの自転車乗りは、自分の走行姿よりも風景のほうを撮りたいはずなので、ROUNDモードでのハンドル装着はあまり有効でない。
次にヘルメットに固定して、正面に向けてみた。これはフィッシュアイ撮影でも平面撮影でも、どちらも効果的だった。
本機には電子手ぶれ補正が入っているが、正直フィッシュアイ画像では補正が効いているのかどうなのかよくわからない。一方平面モードでは広角なカメラと同じなので、補正の様子はわかりやすいはずだが、ここまで広角だとブレがあってもほとんど問題にならない。
そこで、リュックの肩紐にクリップ状のホルダーでカメラを固定し、歩行を撮影してみた。カメラの高さも重量もそこそこあり、歩行のたびに揺れることは揺れるのだが、広角なのと手ぶれ補正がよく効くのか、それほど不快な映像にはならなかった。
何かの取材で施設を案内してもらう時とか、展示会での説明などを記録するには、十分な用途だろう。横撮影もいいが、縦撮りもなかなか面白い。広角ならではの面白みがある。
タイムラプス撮影機能は、1秒、2秒、5秒、10秒、30秒、60秒の設定が可能だ。今回は60秒でバッテリが切れるまで撮影してみたが、およそ4時間ほど撮影できることがわかった。一般的なデジカメと比べても、かなり保ちはいいほうだろう。またUSBでの外部電源供給もできるので、モバイルバッテリを併用すれば、相当長時間の撮影が可能だ。
続いて水中撮影を行なってみた。ホワイトバランスに水中モードがあり、色味も自然だ。室内で金魚とドジョウが入っている水槽にも沈めてみたが、沈めたままで撮影モードが変更できないので、取り出して再生するまで結果がわからない。水中ではちょっと沈めただけでWi-Fiでの通信が切れるので、遠隔で操作ができないのである。
続いてハイスピード撮影をテストしてみた。せっかくの耐衝撃構造なので、安全のために水中用ケースに入れ、空中に放り投げてみた。
カメラが早く回転してしまうと何が何だかわからないが、上手く低回転で投げると、ラジコンヘリを飛ばさなくても瞬間的に空撮ができる。とりあえず上がどうなってるか見たいだけ、みたいな時には、これだけ広角で回転していれば大抵は全域写ってるので、便利かもしれない。
静止画に連写モードもあるので、静止画でも放り投げてみたが、ボタンを押した瞬間すぐに連写が始まるため、放り投げるのが間に合わない。やはり動画でやるほうが確実だ。
なお今回はテストしていないが、ループ撮影モードもある。これはUSBからの給電と連動して自動で録画状態に入るので、ドライブレコーダ代わりに使う事もできる。動体検知撮影機能も搭載し、いろんな点でぬかりなしだ。これまでのアクションカメラをよく研究して作られているのがわかる。
総論
FRONTモードはフルHDだが、ROUNDモードで撮影された動画は解像度が1,440×1,440ドットしかなく、さらに見たい部分というのは結果的にそこからの切り出しになるため、人がちゃんと見られる範囲の解像度はそれほど高くない。したがって、スマホの画面や、Webの動画共有サービス経由で楽しむというのが基本になる。
構造としては防水防滴防塵とかなり強固で、アクセサリも十分な種類がある。これまでのアクションカメラ同様、いろんなところに取り付けて撮影できるのもポイントだ。
リコーのTHETAはWeb上で自在に操作できるサービスにアップロードすることで、誰でも同じ“グルグル体験”ができるが、SP360にはそのような仕掛けがない。反面PC用アプリではユーザーが指定した角度で切り出した動画を出力可能で、インタラクティブ性は落ちるものの、狙った作品を作りやすいというメリットはある。
個人的に使うぶんには、家族で食事しているところを撮ったり、ドライブの車内を撮ったりするだけで、結構楽しい。インターバル撮影機能もあるので、日々の記録としても楽しく使えるだろう。
これまで、ここまでコンパクトで半球が動画撮影できるカメラは無かっただけに、アイデア次第で色々な使い方が考えられる。何にも思いつかない人にとっては、何が面白いのかさっぱりわからないカメラだが、クリエイターやイノベイターと呼ばれる人たちには、たまらないカメラであろう。