小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第731回:異次元の高感度カメラ、本体収録で4Kシーンに再度殴り込み!? ソニー「α7S II」

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第731回:異次元の高感度カメラ、本体収録で4Kシーンに再度殴り込み!? ソニー「α7S II」

あのα7S再び

 ソニーの初代α7Sが映像業界で世界的に注目を集めたのは、2014年4月のNABのことであった。スチルカメラとしては高感度撮影に振ったセンサーを搭載しているというのがウリだったが、NABは本来映像機器展なので、4K撮影ができるというところに注目が集まった。

α7S II

 しかし本体では4Kで収録できないということで、ATOMOSのような外部レコーダにも同時に注目が集まるようになったわけだ。日本でも筆者の周りでは、4Kカメラとしてα7Sを見ている層が圧倒的に多いわけだが、本体収録ができないところがネックになって、なかなか導入には至っていなかった。

 しかし今年9月にアムステルダムで開催された、ヨーロッパ向けの映像機材展「IBC2015」で後継機「α7S II」が発表になり、ついに本体収録が可能ということで、再び4Kカメラとしてそのスペックに期待する熱い声が集まった。ただ日本国内では、本体のみで42万円前後と発表されると同時に、その熱もいっぺんに冷めたところではある。現在ネットでは実売38万円弱といったところであるが、初代が実売20万円程度だったので、この価格の衝撃は大きかった。

 しかし、最高ISO感度409600で4K撮影可能というカメラは、他にはない。特殊なニーズとしては、高くても十分に意義はある。9月には先に高画素モデルのα7R IIをレビューしたところだが、ようやくα7S IIの方もお借りすることができた。

 35mmフルサイズで全画素読み出し可能な4Kカメラ、α7S IIの映像を実際に見てみよう。

デザインはマークIIシリーズ共通

 では早速デザインを……と行きたいところだが、実はカメラボディのデザインは、今年から発売されているα7 IIシリーズでほぼ共通だ。フランジバックの短いEマウントにフルサイズセンサーを搭載したところは同じだが、初代よりも若干大型になり、グリップ部が大きくなっている。ミラーレスとしては大型で、普通のデジタル一眼レフとあまり変わらないサイズとなった。

ミラーレスだがサイズ感としてはとしては一眼レフ並
グリップ部の作りが初代とはかなり違う

 また前モデルでは、トップカバー・フロントカバー・内部フレームがマグネシウム合金だったが、今回はリアカバーもマグネシウムになっている。堅牢性という点ではかなり上がったと言えるだろう。

 他のシリーズでも同様だが、正面から見えるエンブレムは「α7S」のみで、背面のみ「α7S II」の表記がある。初代とはボディの形が違うので、分かる人には分かるのだが、やはり購入者としては、40万円も出して買ったカメラが初代と同じエンブレムで「ああ、ただのSか」と思われるのは、がっかりポイントだろう。

マークIIの印は背面のみ
左側面に端子類が集中
右側にSDカードスロット

 センサーは1,220万画素のフルサイズCMOSのExmorで、7R IIのような裏面照射ではない。さらに言えばセンサー自体は初代の7Sに搭載されたものと同じだ。光学ローパスフィルタも付いており、その点でも高解像度に振った作りではないことがうかがえる。あえて画素数を落として、感度の方に振ったセンサーなのである。

Eマウントながらフルサイズのセンサーを搭載

 この画素数の少なさゆえに、35mmフルサイズの面積で全画素読み出しによる4K撮影ができる。この点画素が多い7R IIでは、フルサイズでは画素加算読み出ししかできず、全画素読み出しはAPS-Cサイズでしかできなかった。

 画像処理エンジンは「BIONZ X」で、これによりボディ内での4K記録が実現した。最高がXAVC Sで100Mbps/30fpsとなるが、100Mbpsで撮影するには、SDXCのUHS-I Class3のカードが必要だ。

フォーマット解像度フレームレートビットレート
XAVC S 4K3,840×2,16030100Mbps
60Mbps
24100Mbps
60Mbps
XAVC S HD1,920×1,0806050Mbps
3050Mbps
2450Mbps
120100Mbps
AVCHD1,920×1,0806028Mbps
60i24Mbps
17Mbps
2424Mbps
17Mbps
MP41,920×1,0806028Mbps
3016Mbps
1,280×720306Mbps

 なおHD撮影時には画素が余ることになるが、それでも画素加算読み出しをせず全画素読み出しを行い、そのあと縮小処理を行うので、一般的なデジタルカメラのHD記録よりも、より高解像度で記録できる。

録画ボタンは相変わらず小さいまま

 センサー部での進化点は、ボディ内5軸手振れ補正が付いたことだ。レンズ側に手振れ補正機能が付いている場合は、両方が役割を分担する。具体的には、レンズ側がピッチとヨーを補正し、センサー側でX,Yとロール補正を行なう。

 ファインダは0.5型で、およそ236万ドットのOLED。視野率100%で倍率は0.78倍となっている。液晶モニタは3型で、約123万画素。マークIIからは縦方向のチルトができるようになっている。

ファインダはより高精細に
液晶はチルトも可能

納得の暗部特性

 では早速撮影してみよう。今回お借りしたレンズは、Zeiss 35mm/F2.8の「SEL35F28Z」と、標準ズームレンズの28~70mm/F3.5-5.6の「SEL2870」の2本である。

 7S IIの魅力といえば、やはり高感度センサーを使った夜間撮影である。前モデルの7Sの時は、本体記録がHDしかできなかったが、今回は4Kで撮影してみた。レンズはSEL35F28Zで、絞りはF8、シャッタースピード1/60に固定し、ISO感度を順に2倍にあげていった。そもそも夜間撮影でF8はありえないのだが、ここまで絞らないと最高感度で白とびして絵が見えないのである。

 撮影場所は川の両端の道に街灯があり、道の上なら人の顔がわかる程度には明るいが、川の上は肉眼でもかなり暗い。土手に草が生えているのは認識できるが、川の方はどういった地形なのかは見えない程度だ。

ISO感度を100から順に2倍ずつ上げていく
ISO-Zooma HD.mov(158MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 ISO 1600あたりから地形の全容がわかってくるが、目には見えないものが見えてくるというのは、カメラならではの面白さである。最高まで上げればさすがに絵として破綻してしまうが、ISO 25600あたりでもS/Nとしては悪くない。粒子感は増してくるが、ノイズとしてランダムに動き回らないので不快感はない。このあたりはBIONZ XのNRのアルゴリズムの上手さだろう。

 7R IIでも同様の夜間撮影をしたことがあるが、この時はAPS-Cサイズでの読み出しならばS/Nは確保できたが、フルサイズでは辛いものがあった。7S IIはフルサイズで高感度撮影ができるため、レンズ性能をフルに発揮できるというメリットがある。

 住宅街でも撮影してみた。こちらは民家の近くに街灯がポツリとある程度で、川の近くはほぼ真っ暗である。それでも雰囲気を残しつつ、きちんと映像として成立する明るさで撮影できている。通常これだけ暗いと、肉眼でも色味がほとんど感じられないが、映像ではきちんと暗いなりに濃い色味が出ている。

遠くに街灯しかない川の下流側で撮影。肉眼では2m先の人の顔も見えない程度だ
肉眼と同じぐらいの明るさで撮影すると、この程度
これだけの暗さで強い色味の感じがそのまま出ているのはすごい
夜間撮影の4K動画サンプル
night-4K.mov(168MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 夜間、照明なしの街灯りだけで4K撮影できるカメラとして、ドキュメンタリーやドラマなどでも活用できそうだ。

フルサイズ全画素読み出しの高解像度が楽しめる

 一方昼間での撮影は、あいにくの曇天ではあったが、逆に感度が高いカメラでは光量がない方が使いやすい。光が綺麗に回って、なんだかスタジオ撮影したような絵になっている。

バキッとした解像感が魅力
日中撮影の4K動画サンプル
Day-4K.mov(161MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 AFは7R IIと違ってコントラストAFのみだが、AF枠が従来の25点から169点に増えた。中央部のAF枠が細分化されているので、ピンポイントを選んでフォーカスを合わせることができる。特に動画撮影では三脚を使用するケースがほとんどだと思うので、狙ったポイントがファインダー内で動かないため(被写体が動けば別だが)、AFに対する不安はない。

 手振れ補正は、今回光学手振れ補正付きのレンズ、SEL2870のワイド端でテストした。手持ちで止まっていればそれなりに動画でも安定するが、歩くと縦方向の衝撃までは吸収できない。最近はデジタル一眼用のジンバルも価格が下がってきているので、そういうものを併用するといいだろう。

手振れ補正ありなしの比較
stab-Zooma HD.mov(59MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 7R IIになくて7S IIにある機能が、S-Log3の対応だ。そもそもLogとは、ビデオのように輝度に対してリニアな特性を持つガンマと違い、ネガフィルムのラティチュードを目指して、対数(log)カーブのような特性のガンマカーブである。

ピクチャープロファイルでS-Log3まで対応

 ハリウッドでは1995年ごろから、ネガフィルムをデジタルスキャンして10bitのデータとして扱うワークフローが導入された。Kodakが開発した「Cineon」というシステムである。これはフィルムからデジタルスキャンする際に、ネガフィルムのラティチュードを正確に写し取るため、対数カーブのようなガンマカーブでデジタル化する。Cineonシステムそのものは、今は使われていないが、このワークフローで使われていたガンマカーブやファイルフォーマットは、今でも標準的なフォーマットの一つとして使われている。

 そこから時代が進みデジタルで直接撮影する時代になっても、フィルム時代と同じようなラティチュードを確保するため、各メーカーが様々な収録ガンマカーブを開発している。S-Log3は2013年からソニー製のデジタルシネマ用カメラに対して実装されたカーブで、S-Log2よりもさらにネガフィルムのラティチュードに近づけたものとなっている。したがって、ネガフィルムがベースとなっているCineonのワークフローとも親和性が高い。

 筆者もLogカーブのままの映像を見る機会はあまりないので、S-Log2とS-Log3で比較撮影してみた。S-Log2に比べると、S-Log3の方が暗部への偏りが少なく、カーブとしては中間部分がより寝かされている様子がわかる。

モードサンプル
リニア
S-log2
S-Log3

 ただこのガンマカーブでは、人間の目にはコントラストが低すぎて絵柄としてよく見えない。通常は外部モニタを使って、標準LUTを当ててカーブをHTDV標準の「Rec.709」に戻してモニタリングするものだが、7S IIでは本体の液晶モニタにLUTを当てて、Rec.709相当の見え方にする機能が搭載された。これも7R IIにはない機能で、よりデジタルシネマへ寄せた作りであることがわかる。

モニターのガンマ設定が変えられる

 ただ、4Kの映像をしっかりモニタリングするには3インチでは小さすぎるので、あくまでも撮影者が構図を確認するためのものと考えたほうがいいだろう。

 なおせっかくなので、Log収録した映像をDaVinci Resolveを使って簡単な実験をしてみた。それぞれ標準LUTを当てたものに対し、ゲインを+30%と-30%に設定してみた。標準LUT状態ではあまり違いはないが、ゲインをいじるとそれぞれにコントラストや色の乗り方に違いが出てくるのが見て取れる。

スタンダード+30%-30%
S-Log2
S-Log3

 これはS-Log2より3のほうが優れているということではなく、カラーグレーディングシステムによってどっちが作業しやすいかというだけの話なので、その点は誤解のないようにお願いしたい。ただCineonワークフローはもう20年ぐらい運用されてきた実績があるので、S-Log3のほうが向いているシステムが世の中には多く存在するのは事実である。

総論

 静止画のカメラとしては、高解像度に振ったα7R IIか、高感度に振ったα7S IIかと言う選択になるわけだが、4K動画カメラとして見た場合には、昼でも夜でもS/Nがいい全画素読み出しがフルサイズでできるα7S IIのほうが一歩リードではある。

 ただ逆にα7S IIでは、4K撮影時はセンサーの読み出し範囲をAPS-Cサイズにできないので、ちょっとテレ側にシフトしたいという使い方ができないことになる。まあレンズをいっぱい用意すれば解決するのだが、ちょっとしたエクステンダー的に使える機能が7S IIにはないという点を覚えておけばいいだろう。

 今回センサーが変わらなかったのは残念だが、その代わりボディ内に手振れ補正が付いた。ただ手持ちでの撮影が多い静止画では大きなポイントかもしれないが、動画撮影で使えるほどの補正力はないので、あまり進化を感じないところではある。

 もっとも、4Kが本体収録できるようになったのは大きなポイントだ。またS-Log3の対応や、モニターにLUTが当てられる機能まで付いたことは、デジタルシネマユースを考えてのことだろう。デジタル一眼の4K撮影では、ソニーは他社から半年~1年程度出遅れているところから、よりプロフェッショナルユースを意識して差別化を図ったということかもしれない。

 価格が本体のみで約40万円という点、しかも静止画のカメラとしてはそれほど高解像度ではないという点では、特殊すぎて個人で購入するのはなかなか悩むカメラではある。だが高感度撮影が必要なプロから業務ユースでは、ほかに代わるものがないため、導入するところは多いだろう。

 こういった尖った性能の製品が出てくると、カメラ市場も俄然活気付いてくる。フルサイズのデジタル一眼はまだまだ面白くなりそうだ。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。