“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語” |
第508回:業務ユース対応のハイエンド機、キヤノン「XA10」~ カメラマンのサブ機、ディレクターカメラに最適 ~ |
■コンシューマからの出世機
カムコーダの業務用機には、いくつかの流れがある。1つは最初っからプロ仕様に設計・開発されたもので、主にデジタルシネマ用途、テレビ局用途のもの、もう1つはコンシューマ機をハイエンド仕様に仕上げていくものだ。ソニーはそのあたりを上手く使い分けており、Cine Alta F35や、XDCAM HD422シリーズのようなものが前者、HDR-A1J、HXR-MC50Jのようなものが後者である。さらにその間を繋ぐ製品として、コンシューマ事業部が設計した業務用機といったものがあり、それが全体の層の厚さとなっている。
キヤノンのコンシューマハイエンド機「HF Sシリーズ」はプロにも画質面で高く評価されてきたが、いかんせん完全にコンシューマ機なので、プロ用の周辺機器と合わないといった問題があり、本格的に使ってみようという動きにはなかなかならなかった。HF S21あたりは、「これでいいからプロ仕様のがほしい」という意見も多かったようだ。
XA10 | iVIS HF G10 |
今回取り上げる「XA10」(実売20万円程度)は、コンシューマ機「iVIS HF G10」(実売13万円程度)を業務用にシフトさせた製品である。カメラの仕様はほとんど同じだが、ハンドルユニットを装備することで、XLR入力、赤外線撮影モードが使えるようになる。専用機能以外のレビュー部分は、G10と同じだと思って貰って構わないだろう。
キヤノンとしては初めての試みとなるコンシューマ機からの出世モデル、XA10の実力を早速テストしてみよう。
■ シンプルで扱いやすいボディ
まずボディだが、コンシューマ機から見ればやや大ぶりで、ハンドル部を除けばHF S21よりちょっと大きいぐらいである。ただしレンズや撮像素子が、業務用となっている。
ハンドル部分は着脱式 | ハンドル、レンズフードを外してHF S21と比較 |
レンズは30.4mm~304mm(35mm判換算)の光学10倍ズームレンズで、昨年発表された業務用機、XF105/100と同じものだ。絞りは8角形の虹彩絞りという点も同じである。レンズフードも標準で付属する。
XF105に付いていたデジタルテレコンは、1.5倍、3倍、6倍と3段階が選べたが、本機では2倍のみとなっている。鏡筒部にはマニュアルフォーカス用のリングを備えており、その後ろに内蔵マイクがある。
レンズはXF105と同じ | 鏡筒部にはフォーカスリングも備える |
撮像素子もXF105に搭載されたものと同じ1/3型207万画素CMOSセンサーで、単板式。そもそもは最上位モデルのXF305用に開発されたセンサーだ。ポイントは4つある。
- 高解像度の静止画を撮ることをあきらめて画素数をあえて下げ、一つ一つのセルサイズを大きくすることで感度を上げた
- 裏面照射ではないものの、そのかわり基板層を薄膜化することで対抗
- オンチップレンズの曲率を上げて、より多くの光を取り込める
- フォトダイオードの体積を上げて、広ダイナミックレンジを実現
高解像度静止画撮影機能がないため、写真モードに切り替えるというアクションがない。撮影中でもいつでも、液晶画面上にあるPHOTOボタンをタッチするとHD解像度の静止画が撮影できるというスタイルだ。
記録モードはAVCHDで、5段階。フレームレートは60i、PF30、PF24、24Pに変更可能。内蔵メモリは64GBとなっている。
モード | 解像度 | ビットレート | サンプル |
---|---|---|---|
MXP | 1,920×1,080 | 24Mbps | 00024.MTS(27.6MB) |
FXP | 17Mbps | 00025.MTS(19.9MB) | |
XP+ | 1,440×1,080 | 12Mbps | 00026.MTS(15.0MB) |
SP | 7Mbps | 00027.MTS(10.5MB) | |
LP | 5Mbps | 00028.MTS(8.48MB) |
液晶モニタは3.5型92.2万ドットのタッチパネルで、ビューファインダは0.24型26万ドットとなっている。液晶モニタの横にはAF/MFとPOWERED ISの切り替えボタンがあるが、この2つは設定で別の機能に割り当てが可能。割り当て機能としては、強制逆光補正、フェイスオンリーAF、シナリオモード、ビデオスナップ、優先WB、赤外ライト、オーディオ出力CHに変更が可能だ。
液晶内側には、2つのSDカードスロット、赤外線モードスイッチなどがある。アナログAV出力の端子もここだ。
液晶モニタの横に2つのユーザーボタン | 液晶内側のスロット類 |
背面は、バッテリスロットの脇にカスタムボタンとダイヤルがある。こちらはシャッタースピード、絞り、AGC、露出制御に切り替えが可能。モード切替はAUTO、マニュアル、CINEMAモードの3切り替えで、ここはHF M41と同じだ。miniHDMIとUSB、リモート端子は、グリップ部分にある。
肝心のハンドル部分だが、前方をコールドシューに差し込み、後ろをネジで留めるというスタイル。電気的な結線は後部のコネクタ部分を経由して行なわれるため、外部マイクを使っても別途結線などは必要ない。
背面にカスタムボタンとダイヤル | モードスイッチは3切り替え | グリップ部の下にHDMIなどのデジタル系端子がある |
後部のジョイント部分にコネクタがある | 外部マイクの切り替えスイッチ部分 | 裏側のコネクタ部分 |
ハンドル上部にもズームレバーとスタート/ストップボタンがある |
またハンドル上部にはズームレバーとスタート/ストップボタンもあり、業務用機と同じになっている。またハンドル上部にもアクセサリーシューもあるが、これもコールドシューとなっている。
■ プロで通用する十分な画質
細かい枝もはっきりわかる |
では実際に撮影してみよう。今回はXF105との差を比較する意味で、前回のレビューと同じ1080/60iで撮影している。なお今回使用した外部マイクは、Rolandの「CS-50」である。
さすがにレンズと撮像素子が業務機のものと同じということで、映像的にはかなりテイストが近い。遠景の木々の解像感は高ビットレートで4:2:2記録のXFシリーズのほうが上だが、これぐらい撮れればディレクターカメラとしては十分だろう。
紫の発色も正確で、かなり気をつけて色味のチューニングをしていることが伺える。エッジは堅すぎず柔らかすぎず、レンズの質がよく出ている。
ボケは八角形だけあって、破綻はない。ただ日中の昼間では開放までは開けられず、F4以上になってしまうので、あまりボケないのが難点だ。
微妙な発色も正確 | ポートレートモードでは柔らかい描画 |
エッジも堅すぎず柔らかすぎず、ちょうどいい | ボケはかなり円形に近い |
内部にグラデーションNDが入っているが、F4以上になると自動的に入るようだ。しかし開放で撮りたい場合もあるので、マニュアルでグラデーションNDが調整できたら面白いカメラになったことだろう。
sample.M2TS(174MB) | room.M2TS(58.6MB) | |
屋外撮影サンプル | 室内撮影サンプル。AGCリミットは12dBに設定 | |
編集部注:EDIUS Pro5.5でネイティブ編集し、キヤノンのAVCHDフォーマットのプリセットの最高画質で出力しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい |
focus.M2TS(58.7MB) |
フェイスキャッチとフォーカス追従の比較 |
編集部注:EDIUS Pro5.5でネイティブ編集し、キヤノンのAVCHDフォーマットのプリセットの最高画質で出力しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい |
AFが違った場合は、MFにしなくてもフォーカスリングを回せば微調整が可能だ。XF305の時はフォーカスリングで合わせ直しても、手を離すとまた外測センサーで検知したところに引き戻されていたが、本機の場合はマニュアルで合わせたあたりで止まっている。このあたりも改善が進んでいる。
ちなみに外測センサーは、この春モデルHF M41などに搭載された新タイプではなく、XFシリーズと同世代のものだ。従って設計のスタートは、春モデルよりも先行して行なわれたのではないかと想像する。
MFにした場合、液晶画面が拡大されてフォーカスアシスト表示となる。しかしビューファインダも同時に点灯している場合は、ビューファインダのほうは拡大表示ができないようだ。液晶モニタを閉じれば拡大表示するので、画像を拡大する機能が1系統しかないのかもしれない。
zoom.M2TS(48.2MB) |
等速レバーの設定比較。デフォルトではリニアだが、スロースタート・スローエンドにも設定可能 |
編集部注:EDIUS Pro5.5でネイティブ編集し、キヤノンのAVCHDフォーマットのプリセットの最高画質で出力しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい |
カメラマンのサブ機、あるいはスポーツ・報道用途を考えると、このフォーカスリングはズーム機能と切り替えできるようにして欲しかったという声も上がってくるかもしれない。筆者のようにのんびりしたものしか撮ってない人間にはあまりマストではないが、すばやい構図決めには必要な機能である。
現状ズームレバーは、民生機ライクな横スライド型がバリアブル、ハンドル部のシーソー型は等速である。ただ等速レバーに関しては、ズームのスロースタート・スローエンド機能が付いているので、じっくりズームするぶんには、コンシューマ機よりも使い勝手はいいはずだ。
残念なのは、マイクユニットが近いために、ハンドル部のズームレバーを離す時にカチッと音がしてしまうところである。ある程度のクリック感は必要であるにしても、もう少し静音のスイッチを採用して欲しかった。
音声振り分け設定が間違えやすい |
外部マイクのアサインに関して、設定がわかりにくい部分がある。左右の音をch1、Ch2に振るためには、「CH1 CH1」という設定を選ぶ。左右の音をミックスしてモノラルでch1、ch2に収録するときは、「CH1/CH2 CH1/CH2」という表示を選ぶ。筆者のように報道でモノラル収録を経験している人間にとっては、「CH1 CH1」と書かれると、Lch本線のみの1chモノラル収録をイメージしてしまう。
音声のモニターに関しては、アナログAV端子がヘッドホン兼用になるので問題ないが、いかんせん液晶モニタの内側にあるので、ヘッドホンを挿したままで液晶が閉じられない。L字型のコネクタなら、液晶画面にぶつかりつつもなんとかスタンバイモードになる程度には閉じられるのだが、こういった「業務ユースならあり得ない」部分があるというのは、コンシューマから上がってきたカメラでは仕方がない部分かもしれない。
またこのように液晶を閉じておいて、次に開いて電源が入ったときには、ヘッドホンからガサッという大きなノイズが発生する。おそらく設計者はこういう使い方は物理的にないものとして、テストしていないのではないかと思われる。
■ 総論
今回はやや早めの総論であるが、映像的にはHFシリーズで培ってきたエンコードの質の良さを継承しつつ、光学系に業務用に開発したものを合体させた、ハイブリッド機であることがわかる。
ファームウェア的にはほとんどコンシューマ機と同じものが載っており、あまり業務用機という感じはしない。難しくはないが、プロの場合はかえってコンシューマ機を扱ったことがないという人も少なくないので、戸惑う人もあるかもしれない。
ディレクターカメラとしては、シネマルックフィルターは演出上使えるかもしれないが、シナリオモードやタッチデコレーションはまず使わないと思われるので、隠せるようにしてもよかったように思う。
ハードウェアとしてはハンドルが付いたことで、大幅にローアングル撮影での利便性が向上しており、カメラを持ってどんどん突っ込んでいくという撮り方が可能だ。これはプロ仕様に限らず、コンシューマでもハンドル付きのものがあってもいいのではないかと思う。
波形モニタ表示はマニュアル露出設定時のみ |
マニュアル撮影に関しては、マニュアルモードによる露出調整でのみ、波形モニタ表示を出すことができる。ただこのモード表示を閉じてしまうと一緒に波形モニタ表示がなくなってしまう。ここは常時表示させておく機能が欲しいところだ。
また絞り優先、シャッタースピード優先モードでは、波形モニタ表示が出せない。一応露出オーバー・アンダーのときは絞り値などのパラメータが点滅するのだが、あとはゼブラぐらいしか露出を見る方法がない。
このあたりは絞りもシャッタースピードもばらばらに動く設計のXFシリーズと違って、AV、TVといったモードを持つHFシリーズの設計に無理矢理波形モニタ表示を突っ込んだような感じで、使い勝手としてはぎくしゃくした感じが残る。
なるべく絞りを開けて深度を稼いで、という撮り方には限界があるが、ディレクターカメラと割り切ってしまえば、フルオートおまかせで問題なく撮れるカメラに仕上がっている。特に外測センサーによるAF性能と、画面タッチによるフォーカス追従で、かなりの場面はしのげるだろう。画質としても破綻はなく、発色も素直な絵が出ている。
今回の震災をきっかけに、ネットの映像ジャーナリズムがテレビと同じぐらいの影響力を持つように変わってきている。そうした現場でも、安定した画質とそつのないオート、コンパクトなボディにXLR入力付きということで、小回りのきくカメラとして重宝されることだろう。
【お詫びと訂正】一部サンプル動画について、「EDIUS Pro5.5でスマートレンダリングで出力」と説明しておりましたが、正しくは、EDIUS Pro5.5でネイティブ編集し、キヤノンのAVCHDフォーマットのプリセットの最高画質で出力しています。お詫びして訂正します。(2011年4月11日)