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第519回:BDレコーダ自作? アイ・オー「HVT-BCT300S」3点セット

~ 連携してBD書き出しも可能な3波デジタルチューナ ~



■「テレビを買い換えない」という選択

 いよいよアナログ停波が来月に迫ってきた。東日本大震災を受けて、東北3県はアナログ停波延期という話になっているが、それでも放送局側は1年も延長すると放送設備維持負担に耐えられないとして、早期の全面停波を訴えている。

 アナログ停波反対の声は以前からあるが、もはや止めるには遅すぎることもあり、ユーザー側としては粛々と対応を進めていくのみである。おそらく多くの家庭では、すでにメインのテレビ1~2台の買い換えは終了していると思われるが、あとは寝室などに置いた小型のテレビ、あるいは映像入力端子付きのPCモニタをどうする? という話になっているに違いない。いや、単にうちがそうだからなんだが。

 すでに大手スーパーの家電コーナーでも、総務省主導の5,000円チューナーが潤沢に出回っており、とりあえずデジタル放送を受信するだけならなんとかなる。だが欲を言えば録画したい、さらにあわよくばBlu-rayとかにも焼いていきたい。

アイ・オーのメディアプレーヤー機能搭載の3波チューナ「HVT-BCT300S」
 そういうニーズに応えるべく、各メーカーからはワンランク上のデジタルチューナーが発売されている。以前レビューして好評だった東芝「D-TR1」などもその類だが、アイ・オー・データ「HVT-BCT300S」は自社製品を合体させていくことで、最終的にはBDレコーダになるという製品だ。

 アナログ時代には、PC用テレビキャプチャ製品がドーンと売れた時期があったが、デジタル放送の厳しい制約の中で次第に元気が無くなっていった経緯がある。そしてPC向け周辺機器メーカーも、徐々にPCではなく、テレビ周辺機器へのシフトが始まっている。

 そんな中、アイ・オー・データは我々にどんな技を見せてくれるのだろうか。さっそくテストしてみよう。




■黒を基調としたAV機器的ルックス

今回試用する製品3つ。左からPC接続用BDドライブの「BRD-U8DM」、3波チューナの「HVT-BCT300S」、USB HDDの「AVHD-U1.0Q」だ

 今回使用する製品は、まずネットワークメディアプレーヤー機能を備えた3波チューナ「HVT-BCT300S」(以下BCT300S)と、これに繋がる録画用HDD「AVHD-U1.0Q」(1TB)、地デジ記録対応Blu-rayドライブ「BRD-U8DM」の3つである。

 価格は順に22,050円、10,400円、23,205円となっている。合計するともうBDレコーダ買えるよ? という声は聞こえなかったことにして話を先へ進めると、BCT300SとHDDはUSBで直結し、BRD-U8DMはPCに接続。BCT300S+HDDで録画した番組を、ネットワーク経由でPCに繋いだBRD-U8DMへダビングするという仕組みだ。

 まずBCT300SとHDDの組み合わせから見ていこう。チューナ自体は一般的なBlu-rayレコーダの横半分程度。昨今の小型フルセグチューナのサイズを見てしまうと大きく感じるが、いわゆるネットワークメディアプレーヤーに3波チューナが入ったという感じである。


チューナとHDDはデザインが合わせてあり、上に重ねると親子っぽくなるボタン類は必要最小限のものだけ。USB端子とSDカードスロットを備える

 フロントパネルを開けると、電源ボタンやチャンネル切り替えボタンが左側にあり、USB端子、SDカードスロット、B-CASカードスロットが見える。真ん中の穴は、リモコン受光部である。

古いテレビへの接続も視野に入れて、全フォーマットの出力を装備

 前面のUSB端子はビデオカメラやデジカメを接続する際に、テンポラリ的に使用するものだ。SDカード経由で写真を見るという機能もある。

 背面に回ってみよう。アンテナ端子は地上波、衛星ともにスルーが付いている。出力はHDMIもあるが、古いテレビへの接続を考えてアナログコンポジット、D4端子が付いている。音声は光デジタル端子もある。

 背面のUSBは、録画用HDDを接続する。IR(赤外線受信ユニット)端子もあるが、受光器は特に付属していない。LANポートが2つあるのは、ハブとして使えるようになっているからである。


ほぼBDレコーダ付属のリモコン並みの機能を持つ

 リモコンも見ておこう。規模としてはほぼ昨今のデジタルテレビと同じで、メニュー操作用の十字キーや録画番組の再生コントロールボタンがある。テレビ用リモコンとしても使えるようになっており、リモコンコードを変更することで、テレビの電源投入や入力切り替えができるようになる。

 録画用HDDは特に何でも構わないわけだが、いったんBCT300Sに繋いで初期化しないと使えないようになっている。




■ややレガシーなメニュー構成

 BCT300Sのメニューは、おおまかに2つに分かれている。まずリモコンの「メニュー」ボタンを押して出てくるのは、主にテレビ録画周りの機能だけを集めたもの。もう一つ「AVeL」というボタンは、メディアプレーヤーとしてのメニュー類となっている。

「メニュー」ボタンは基本的なテレビ機能へアクセスできるネットワーク機能にもアクセスできる「AVeL」メニュー

 録画番組の再生はAVeLボタンからアクセスするようになっており、録画番組も様々なメディアの一つ、という扱いになっているようだ。録画機能はあくまでもHDDを繋いだ状況でのオプションとなっているのか、このあたりの考え方は通常のレコーダとは違っている。

 続いて番組表を見てみよう。一般的な新聞ラテ欄型とリスト型に切り替えることができる。リスト型は一つのテレビ局を縦方向に高速に閲覧することができるが、ほかの局との関係はわからない。反面BSのWOWOWだけ見るといった、スペシャルな局に対しては役に立つだろう。もう一つ、「現在番組」ボタンでは、今放送中の番組をリスト型で見ることができる。もちろん見たい番組を選択することで、チャンネル切り替えもできる。

一般的となったラテ欄型表示番組表のリスト型表示「現在番組」表示

 番組表から予約録画に至る操作は、普通のレコーダと同じだ。今主流のAVC圧縮録画はできないので、すべてDR録画となる。連ドラ予約のほか、録画時間のカスタマイズにも対応する。ただ、操作感は今どきのテレビやレコーダを触ったことがある人からすれば、若干もっさりしている。番組表を開くとチャンネル欄の左の方から順次出てくるといった感じだ。特に番組表表示中の放送波の切換などは、全部の番組が表示されるまで待ってからでないと、反応しない。このあたりは純粋に、表示処理を行なうプロセッサの性能だろう。

 基本的に1チューナしか装備していないため、2番組録画はできない。地上波とBSなど放送波が違えば大丈夫かなと思ったのだが、こちらも同時予約はできなかった。

予約録画ダイアログ。連ドラ予約や予約の詳細編集も可能録画予約は重複できない


■大がかりな仕掛けのBD録画

 では肝心の、とも言えるBlu-rayへの書き込みをやってみよう。まず事前にBDドライブ「BRD-U8DM」を接続したPCに、ドライブ付属のソフトウェアの中にある「DTCP-IP Disc Recorder Tool」というのをインストールしておく必要がある。もちろんその他にもオーサリングソフトや再生ソフトなども付属しているので、一通り入れておくべきだろう。


チューナからの録画には、DTCP-IP Disc Recorder Toolが必要3つの鍵情報を取得している

右の「HVT-BCT300S」+「AVHD-U1.0Q」で録画した番組を、左のPC+「BRD-U8DM」で書き出すという構成だ

 DTCP-IP Disc Recorder ToolはPCに常駐しており、このBDドライブに対してDTCP-IPでのネットダビング機能を提供することになる。情報画面を見ると、DTCP-IP、AACS、CPRMの3つのデジタル鍵を取得していることがわかる。

 ではチューナの画面に戻って、録画した番組をダビングしてみよう。録画一覧の右下にカラーボタンで「削除」、「ダビング受信」、「ダビング送信」と3つのボタンが表示される。BDに対して録画番組を書き込む場合は「ダビング送信」を選択する。

 するとネット上にあるDTCP-IP対応の映像機器が表示される。ここでは先ほどPCに繋いだBDドライブ1つしか見えていないが、対応のBlu-rayレコーダなどがあれば、ここに一覧で見えるはずである。ダビング先の機器を選択して決定ボタンを押せば、ダビング10ルールに則ったダビングが行なわれる。この時PC側は、ディスク書き込み中の表示に変わる。

録画番組一覧からカラーボタンで機能を選択DTCP-IP対応機器として、PC側のBDドライブが見える

 ダビングにはDRモードをそのまま書き込んでいる事もあり、ほぼ実時間かかる。またチューナ側にも編集機能はないため、本当に録画されたファイルそのままを右から左にコピーするだけだ。またダビング中は予約録画も行なわれず、その間テレビを視聴することもできない。

PC側でも記録中の状況を確認できる

 大山鳴動して鼠一匹的な感じもしないではないが、録画部分をPCから切り離して安定動作するテレパソ的なものという見方もできるのではないかと思う。

 さらに言えばテレビの録画・再生だけでなく、ネットワーク系の機能は従来のメディアプレーヤーを下敷きにしており、DigiOnのDiXiMを搭載。DLNAサーバ/クライアントとして動作する。それ以外にも昨今のレコーダのトレンドを取り入れてTSUTAYA TV、アクトビラにも対応している。

TSUTAYA TV、アクトビラにも対応している今後の拡充を予感させる「アイ・オー・ポータル」

 一緒に並んでいるアイ・オー・ポータルはまだβサービス扱いなので、将来的には違うものになるのかもしれないが、現在はYouTube視聴サービスとなっているようだ。



■総論

 BDレコーダというものがもはや従来のVHSデッキの代わりではなくなり、ホームネットワークのハブ的な存在に変わりつつあるのは、すでにご承知の通りであろう。そんな今を反映して、HVT-BCT300Sは単体のデジタルチューナとしては、かなり機能を詰め込んだものとなっている。

 番組録画機能は比較的シンプルで、物足りないと思われるかもしれないが、HDDを繋いだだけでタダのチューナが録画機に化けるのだから、余ったHDDが転がっているPCユーザーにはお買い得である。しかもPCに依存することなくスタンドアロンで動くという点が、かつてテレパソでOSのトラブルにより録画に失敗した経験がある人なら、評価できるポイントだろう。

 Blu-rayへの録画は、PCを起動しなければならない点で面倒だと思う人には、そもそも向いていないということだろう。常時PCは起動している、という人のためのソリューションである。そういう人が、「BRD-U8DM」を買い足せば、BDに書き出す環境が整うというわけだ。

 ただそれほどPCを起動している人ならば、すでにBDドライブを持っていてもおかしくないわけで、「これからBDを」というターゲットにどれぐらいマッチングするものなのか、よくわからない。もちろんこれらの使い方は、あくまでもサブ機という扱いであって、これ一つを全力で一本勝負ということになると、ちょっと違うような気がする。

 個人的な感想としては、BDドライブもチューナに繋がって、ノンPCで全部できるというのも一つの道なのではないかという気がする。わざわざPCを起動しても、編集もできず単にコピーするだけの保存というのは、トータルのシステムで見たときの難解さ、あるいはマニアックさと言ってもいいかもしれないが、いささか腰砕けである。やはりこれだけできることがシンプルなのであれば、全体もシンプルであるほうがいい。

 しかし、ホームネットワーク内の一員として、PCもようやくDTCP-IPでダビングができる対象になったところまで来たことは、大変感慨深いものがある。思えばデジタル放送が開始され、PC用のDVDドライブが発売されて、ここまで来るのに10年かかった。コピーワンスやダビング10などのDRMがなければとっくの昔に実現できていたことだ。

 メーカー各社の開発陣の努力には素直に敬意を表したいが、ユーザー側からすれば、そうまでして守りたいコンテンツにどれほどの未来があるのかを考えると、いささか暗澹たる気持ちにならざるを得ない。


 

(2011年 6月 8日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]