■ 実は人気の「テレビ録画」
インターネットの影響によりテレビ離れが指摘されて久しいわけだが、実はそれはごく一部がクローズアップされた結果に過ぎないと思っている。つまり、テレビを見なくなった、というユーザーの発言だけを抽出すれば一見そのような傾向があるように思えるが、実際に当コラムのページビュー人気ランキングを見ると、レコーダやチューナの記事がかなり上位に食い込んでくる。
テレビ録画に関心がある層は、従来型のレコーダで十分と感じている保守派と、レコーダ以外の新しいデバイスや方法論を探したい革新派に分かれている。従来型レコーダのリリースがほぼ年に1回程度となり、参入メーカーも半減した現在、逆に革新派と言われるところが次第に面白くなってきているのは確かだ。
現在スタンドアロンのデジタルテレビチューナで人気があるのは、やはり値段が安いこともあってかピクセラや、アイ・オー・データ機器、バッファローなどPC周辺機器メーカーである。イオンなどの家電売り場を覗くと、5,000~10,000円程度のデジタルテレビチューナが大量にブリスターパックで吊るされている。案外このジャンルは競争が激しいようだ。
そんな中、東芝からスタンドアロンの3波チューナが登場し、注目を集めている。価格はオープンだが、ネットでは2万円台前半で、それほど安いほうではない。それでも注目を集めているのは、やはり単にデジタル放送が見られるだけではない、プラスアルファがあるからである。
密かに人気を集める東芝D-TR1の実力を早速テストしてみよう。
■ シンプルな薄型ながら実は……
高さを抑えたシンプルなデザイン |
いわゆる5,000円チューナーには、小型ではあるものの格好にスマートさが欠けるものも少なからずあって、いかにも場当たり的にパッチ当てました感が漂ってしまうのだが、D-TR1はさすがにそこそこの値段するだけあって、なかなか見た目もスマートだ。
高さが3.3cmしかないので、テレビとテレビ足の間に潜り込ませたり、テレビ台の隙間に突っ込んだりできる。こういう後付け機器は、多少面積はあっても、薄型のほうが助かるケースが多い。AV・IT機器の世界では、「薄い」ということがすでに「一つの機能」として成立する。これに続くメーカーも、さらなる薄型化をめざしてほしいものである。
D-TR1の特徴をざっとまとめると、地上波、BS、CS110度の3波チューナで、背面のUSB端子にHDDを接続することでテレビ録画も可能。さらにSDカードにはワンセグも録画可能という、単なる地デジ対策に留まらないチューナである。本機はREGZAブランドであり、レコーダのVARDIAブランドではないところも、製品の方向性を表わしている。
正面には、電源、チャンネル切り換え、放送波切り換えのほか、録画状態を示すLED、SDカードスロットがあるのみだ。本体はチューナとしての必要最小限の機能がマニュアル操作できるだけである。
背面は地デジとBS/CS110度のRF入力。映像出力としては、アナログコンポジットAV、D3端子、HDMI端子がある。そのほか、LAN、USBポートも備えている。
B-CASカードスロットは右側 | 出力系はシンプルながら、充実のデジタル系端子群 |
リモコンも見てみよう。テレビのほうのREGZAリモコンと比較するとよくわかるが、BSのチャンネルボタンがないほか、録画・再生系の操作ボタンがないため、いくぶん短くなっている。ただ、その場で録画が開始できるよう、録画ボタンだけは付けられている。
十字キー周辺のボタン類も一見少なく見えるが、実は4隅にボタンが付けられており、ボタン数が減っているわけではない。録画番組の再生時には、この十字キーがスキップや早送りなどの操作キーとなる。
またテレビのREGZAリモコンにはない「見るナビ」ボタンがあるのも、やはり録画を意識して作られた製品であることがわかる。
小型ながら十分な機能を備えるリモコン | テレビ用REGZAのリモコンと比較 |
■ 最新REGZAと同レベルの録画機能
D-TR1の利用想定としては、やはりデジタルチューナのないテレビに対しての拡張という用途が考えられる。本機にはHDMI端子もあるが、ここは敢えてD端子とアナログオーディオで接続してみた。なお、本機のD端子では、1080i信号のみ出力できる。
D端子が登場したのは2000年頃のことで、地デジの放送開始が2003年だから、地デジチューナ非搭載のD端子装備テレビは4年間ぐらい販売されたはずである。またこのときPC用モニタでも、D端子装備のものが登場している。案外繋がるディスプレイは多いはずだ。
初期設定の様子は通常のテレビやレコーダの設定と大して変わらないので細かいところは省くが、画面アスペクトで4:3が選べたり、番組表の文字サイズが数段階選べるなど、低解像度用を意識した機能がある。今回はフルHD解像度を持つREGZAに接続しているが、1080iが受けられるディスプレイであれば、D端子接続であっても最小の文字で十分認識可能だ。あとはテレビと視聴場所の距離で文字サイズを上げていく、という使い方になるだろう。
文字を最小にした状態の番組表 | 文字を最大にした状態の番組表 |
番組表は、基本的にはREGZAのそれと全く同じである。同時表示のチャンネル数は、6チャンネルか7チャンネルのみが選択できる。録画予約は、録画したい番組に移動して「決定ボタン」を押すだけである。
番組予約画面。地デジの場合はワンセグもSDカードに記録できる |
表示される番組指定予約画面では、フルセグをUSB HDDに記録するか、ワンセグをSDカードに記録するかをチェックボックスで選択する。もちろん両方記録することも可能だ。画質モード設定はなく、フルセグは常にTSモードで録画する。
ワンセグは暗号化されたSDビデオとして記録されるので、ワンセグ付きケータイで再生可能だ。逆に言えば、ケータイへの持ち出しを前提に考えているユーザーにとっては、ワンセグ録画専用機として使うという方法もある。
ただしHDDに録画したフルセグからSDカードにワンセグ相当の映像をコピーする機能はなく、ワンセグを録画したいなら録画時間までにSDカードをスロットに装着しておく必要がある。また当然ながらBS、CSにはワンセグ部分がないので、予約時にはワンセグのところがグレーアウトする。
連ドラ設定画面。追跡時間を指定できる |
連ドラ設定も見ていこう。これは毎週録画に相当する機能だが、「追跡基準」のところで放送時間に幅を持たせることができるため、特番やスポーツ延長で放送時間がずれても、追従することができる。
また上書き録画は、前回の番組を消して新しい番組を記録するので、録画容量が節約できるというメリットがある。
HDD全体の自動削除機能も使える |
しかしその一方で、「USBハードディスク設定」として、「自動削除」も設定することができる。これはHDDが一杯になったら、古い番組から自動的に削除して新しい録画を続ける機能だ。両方を併用すれば、少ないHDDでもかなり効率的に録画することができるだろう。
ただそうは言っても、今HDDは相当安くなっており、ベアドライブであれば1TBで6,000~7,000円、2TBでも1万数千円で入手できるようになっている。自分で外付けケースを買って入れるぐらいの工作は、昔自作PCをいじった人ならなんてこともないはずなので、巨大容量の簡易レコーダが合計3万円程度で「自作」できてしまうことになる。
USBハブを経由して同時に4台までHDDを接続できるので、余ったHDDを根こそぎ繋ぐも良し、奮発して数TBの容量を用意するも良し、PCに強い人にはなかなか面白い状況である。
一方でテレビのREZGAと違うのは、NASに対しての録画機能がないことだ。
■ デジタル環境でもメリットあり
テレビのREGZAからは、レコーダとして認識する |
次に、HDMI連携機能を見ていこう。HDMIに接続すると、自動的にD端子出力はOFFになり、両立はできないようだ。2台のテレビへの分配を考えていた人には、残念である。
筆者が使っているテレビはREGZA「37Z3500」なので、いつもテレビ番組はNASに対して録画している。ただしシングルチューナなので、時間の重複している番組予約はできない。しかしD-TR1を繋いでレグザリンク機能を使うと、あたかもダブルチューナのような動きになる。例えば一つの番組をNASへ録画予約し、同時間帯の番組の録画先をD-TR1に変更すれば、一元的にダブル予約ができる。
もちろんテレビはテレビで予約録画して、D-TR1はD-TR1で番組表を出して予約録画すれば同じ事であるが、これを一元的にテレビのREGZAの番組表の中でやってしまえるところがミソである。
視聴する時も、テレビのREGZA側で操作機器を変更するだけで、NASの番組もD-TR1の番組も視聴することができる。できれば機器ごとに選択するのではなく、全部の機器に保存されているコンテンツが全部一度に見られれば一番わかりやすいだろう。本来そういうことを実現するのがDLNAであったはずだが、まだ本当に普通の人が何も考えなくても使えるまでには至っていないのは残念だ。
「映像を見る」画面でUSB接続のHDDかSDカードかを選択する |
また、SDカード内の写真もスライドショーで表示することができる。最近のテレビでは取り立てて珍しい機能ではないものの、これらの機能を持たないテレビもまた沢山家庭内には存在するわけで、新しくテレビを新調するまでもなくこれらの機能が使えるようになるというのは、ある意味デジタル技術の恩恵であろう。
SDカードにAVCHDで撮影した映像も再生できる | 写真のスライドショー再生も可能 |
■ 総論
D-TR1は、多段階の利用フェーズが想定された製品であるように思える。アナログ放送が完全に停波してから、デジタル放送の録画機器を考えようという人も少なくないだろう。デジタル放送受信のサポートに使うのにHDMI端子があることが不思議に思えるが、テレビ録画機能のないテレビにも、本機を使えば簡単に録画機能を付加できる。D-TR1を録画機として利用するというのが第1フェーズである。
さらに発展系として、モバイル視聴前提でワンセグ録画する、というのが第2フェーズだ。以前ワンセグ録画専用のチューナも出たことがあるが、アナログ放送用レコーダが全盛の頃には、まだちょっと早かった。しかしもはやデジタル放送オンリーとなることが既定路線となった今、モバイルでのタイムシフト・プレイスシフト視聴は、フルセグからの再エンコードでセキュアになんとかしてくれる系か、ワンセグ録画系の2通りしか道がない。
そしてアナログ放送が停波したあとに、使えなくなったテレビのサポートに回すというが、第3フェーズである。多くの5,000円チューナが第3フェーズ用途にしか使えないのに対して、D-TR1はデジタル機器ユーザーにとっても使い道がある点で、普通のデジタルチューナとはまた違った価値を持っている。
東芝はHD DVD撤退以降、レコーダでは今のところパッとしないが、REGZAチームが考えたチューナは、ある意味「テレビのSTB」とも言える商品に仕上がっている。欧米ではテレビによる直接受信が少ないのだが、日本でも欧米型スタイルがこのような製品を契機として拡がるかもしれない。