小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第631回:動画向き“イチガン新世界”。キヤノン EOS 70D

“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第631回:動画向き“イチガン新世界”。キヤノン EOS 70D

新開発デュアルピクセルCMOS AFの実力は?

画期的センサー登場

 「EOS 5D Mark II」が動画撮影のトレンドをまるっきり変えてしまって以降、各社ともデジタル一眼の動画撮影機能に力を入れてきた。ただそうは言っても、動画の専門家からすればちょっとここが……と突っ込むと、いやいやこれはあくまでも写真がメインですから、と必ず逃げを打たれてしまっていた。

 しかしようやく最近、動画撮影でも満足のいくモデルが出始めている。これまで多くのカメラをレビューしてきたが、やはりビデオカメラ部隊と一緒になって開発できるメーカーに強みがあるようだ。まあその結果、従来型のビデオカメラというジャンルが大きく衰退することになったわけだが。

搭載されたデュアルピクセルCMOS

 さて、今回とりあげるキヤノン「EOS 70D」は、製品発表が7月2日と結構前だったが、予定通り8月29日より発売が開始された。価格はオープンプライスで、ボディ単体の直販価格は129,800円だ。目玉はなんといっても、撮像CMOSだけで位相差AFを実現するという、「デュアルピクセルCMOS」の搭載である。

 位相差AFは、高速で行ったり来たりのない一直線のAFが可能な技術だが、この方式のメリットを引き出すには、専用のセンサーを用意する必要があった。キヤノンのiVISシリーズではレンズ脇に小さいセンサーを装備していたし、ソニーは一眼でこれをやるために、ハーフミラーで光を分けてAFセンサーに送るという「トランスルーセントテクノロジー」を開発した。

 一方撮像素子の中に位相差AF用の画素を埋め込むという考え方は、2010年から富士フイルムがコンパクトカメラ(FinePix F300EXR/Z800EXR)で実装してきた。最近ではX100Sのようなハイエンドモデルにも搭載してきている。

デュアルピクセルCMOS AFによるフォーカスと撮像の仕組み。1画素を独立した2つのフォトダイオードで構成し、信号の差(ズレ量)からレンズの駆動量を算出する。これにより各画素を位相差AFセンサーとして使用できる

 撮像素子面でやる位相差AFを「像面位相差AF」と呼ぶが、デュアルピクセルCMOSもこれを実現するための機構である。詳しい仕組みに関しては、キヤノンの専用ページを見ていただきたい。

 さて、この仕組みでメリットがあるのは、常時ミラーアップしている状態での撮影ということになるので、ライブビュー撮影か、動画撮影という事になる。今回はこの新技術が動画撮影にどのような効果があるのかを試してみたい。

 なお今回もいつものように動画機能しかテストしていないので、静止画機能に関しては僚誌デジカメWatchのレポートをご覧頂きたい。

割と大型のボディ

ボディは意外と大きめ

 まずボディ側のポイントから見ていこう。APS-C機だが、グレード的には中級機ということで、ボディは35mmフルサイズ機ほどではないにしても大型の部類に入るだろう。外形寸法は139×78.5×104.3mm(幅×奥行き×高さ)で、本体のみの重量は約675g。新開発のデュアルピクセルCMOSは約2,020万画素のAPS-Cサイズで、撮像面のアスペクト比は3:2。静止画での最大記録画素数は、約2,000万画素(5,472×3,648)となっている。

 ボディ背面から見て左側には、HDMIミニ端子とマイク入力、リモート端子がある。上に空いている穴はスピーカーだ。ボディ右側は大きなグリップ部となっており、SDカードスロットがある。スロットの上にある白い三角は、SDカードのアクセスランプだ。

アクセサリー端子類は左側に集中
右側にSDカードスロット

 外部マイク入力は最近のカメラにはだいたい付くようになっているが、その割にはイヤフォン端子がない。外部マイクで一番気になるのは、音がどのように録れているかということなので、イヤホン端子がないというのは同録するカメラとしてはいささか厳しい。

 内蔵ステレオマイクは、アクセサリーシューの両脇にある。この位置にマイクを付けたのは、比較的珍しい。動画の録画ボタンは液晶上のボタンだ。切換スイッチを動画側に倒すと、動画撮影モードになる。

マイクはシューの両脇に
録画モード切り換えと録画ボタンは背面
静止画用にはかなりのモードがあるが、動画では実質3モード

 上面にはモードダイヤルがあり、真ん中のポッチを押して回すスタイル。A+(シーンインテリジェントオート)からSCNまでが「簡単撮影ゾーン」、PからBまでが「応用撮影ゾーン」に分けられる。

 ただ動画撮影では、簡単撮影ゾーンのモードではすべてA+での設定に、応用撮影ゾーンのP、Tv、Av、Bの時はすべてPと同じ設定で撮影される。つまり動画では、実質A+かPかマニュアルの3モードしかないという事である。

 マニュアルモードでもISO感度はオートが使用可能なので、ある程度の範囲では絞りとシャッタースピードを自由に変えても、露出を自動追従させることができる。逆にISOも指定したい場合は、マニュアルモード以外ではできない。

 ISOの自動追従範囲は、基本的には100~6400まで。ISO感度範囲設定の上限を12800/Hに設定すると、12800相当まで使える。ただし「高輝度側・階調表現」をD+に設定すると、200~6400に設定される。

ISO感度はマニュアル撮影時のみ変更可能
感度範囲の上限を上げればISO 12800まで使える
タッチパネル式のバリアングル液晶

 液晶モニタは3型約104万画素のバリアングルとなっている。またタッチパネルなので、液晶画面をタッチしてAFの追尾指定などができる。

 動画記録はMPEG-4 AVC/H.264のVBRで、MOVフォーマットとなる。フルHDではフレームレートが30pまで、720pでは60p撮影が可能。また特徴として、全コマをイントラフレームで記録するALL-Iモードに対応している。ファイルサイズは相当大きくなるので、長時間記録には不利だが、編集点の劣化は抑えられる。

解像度フレーム
レート
フレーム間
圧縮
ビットレート
(実測)
サンプル
1920×108030ALL-I87Mbps
MVI_0043.mov
(118MB)
IPB30Mbps
MVI_0044.mov
(40.1MB)
24ALL-I87Mbps
MVI_0045.mov
(117MB)
IPB30Mbps
MVI_0046.mov
(41.5MB)
1280×72060ALL-I77Mbps
MVI_0047.mov
(116MB)
IPB26Mbps
MVI_0048.mov
(38.7MB)
640×48030IPB9Mbps
MVI_0049.mov
(14.7MB)

 
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

やわらかく追従するAF

 ではさっそく撮影してみよう。今回一緒にお借りしているレンズは、キットレンズにもなっている「EF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS STM」のほか、単焦点の「EF 40mm F2.8 STM」、「EF 50mm F1.2L USM」の3本である。これらはいずれもデュアルピクセルCMOS AFの特徴が発揮できるレンズだ。対応レンズ103本の情報は、キヤノンのページに記載されている。なお、キヤノンでは他者の互換レンズでの位相差AFについては保証していないという。

軽量ズームレンズ、EF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS STM
パンケーキレンズ、EF 40mm F2.8 STM
Lレンズ、EF 50mm F1.2L USM

 EF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS STMは今年4月に発売されたばかりの新しいレンズで、ボディが樹脂製ということもあり、ズームレンズの割にはものすごく軽い。ステッピングモーター採用の静音タイプである。また光学手ブレ補正機能も搭載している。

 EF 40mm F2.8 STMはいわゆるパンケーキレンズで、ステッピングモータ採用の小型軽量レンズだ。EF 50mm F1.2L は以前からもよくお借りしているが、端正な描画の大口径高級レンズである。

 撮影日は台風接近に伴い、途中からかなり暗めの曇天となったのがやや残念であったが、単焦点レンズがかなり明るいので、S/N的には問題ない撮影ができたと思う。

フォーカスモードは3種類

 まず注目の像面位相差AFから試してみよう。動画モードでは、AFはフェイスキャッチ+追尾優先AF、ライブ多点AF、ライブ一点AFの3つが使える。

 静止画ではさらにもう一つ、「クイックAF」というのが使える。これはライブビュー時でも、シャッターを半押しするとすばやくミラーダウンしてファインダー撮影時同様のAFを行ない、またミラーアップするというモードだ。動画ではミラーダウンすると使いにくいので、外してあるということだろう。

レンズの駆動音は入るが、映像的には良好
af1.mp4
(50.2MB)
※編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 注目はやはりフェイスキャッチ+追尾優先AFなので、いつものウォーキングテストを行なった。撮影レンズはEF 50mm F1.2L USMなので、小さくAFの追従音が入っている。ただ結果は良好で、細かくフォーカスを動かしているものの、映像的にはなめらかに追従しているように見えている。

 AF速度も、別センサーを用いたビデオカメラ「iVIS」のような位相差AF機と比べればゆっくりだが、カーレースなどを接近して撮るようなケースを除けば、実用範囲だと言えるだろう。合焦の仕方も、位相差AFらしく、フォーカスポイントに向かって一直線に合焦していく。レンズの駆動音も、外部マイクを使えばだいぶ軽減されるだろう。

対物からフェイスキャッチに切り替わると難あり
af2.mp4
(88.9MB)
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 ただ、チルトアップを撮影した時には、最初は対物で途中からフェイスキャッチすることになるが、フェイスキャッチしたとたんフォーカスがズレるという現象が起こった。レンズを変えても同じだったので、レンズに起因するものではないようだ。おそらく顔のすぐ脇に明るく飛んだエリアがあるので、そこからの影響があるのではないかと思われる。フェイスキャッチはコントラストAFを使っているのだろうか? キヤノンによると「顔の位置をDIGICがライブビュー映像から検出し、そこにフォーカス枠を設定。そのフォーカス枠で位相差AFを使っている」とのことだ。

 レンズ交換時は、レンズを外すと自動的にミラーが下がってセンサーを保護するので、ミラーレス機よりも安心できる。

派手には効かないが、効果は確かにある
stab.mp4
(43.3MB)
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 EF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS STMの手ブレ補正性能もテストしてみた。元々動画撮影専用レンズではないので、ビデオカメラ並みの補正幅は期待していなかったが、補正結果はかなり自然に見える。70Dとの組み合わせとしては、動画も撮りやすいレンズである。

 描画としてはさすがに中級機クラスということで、発色やコントラストもなんだかシネマっぽいしっとり感がある。湿度まで写ってる……と言うと大げさだが、台風前の湿った空気感を感じさせる描画力だ。

EF 50mm F1.2L USMはさすがの説得力
なんとなく温度や湿度を感じさせる
動画サンプル。ALL-Iで撮影したが、編集後は25Mbps VBRでエンコードしている
sample.mp4
(188MB)
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水面の偽色は残念なところ

 ただ、水面には偽色が発生しているのは残念というか、現状では仕方がない部分だろう。静止画では出ていないので、動画用に画素を間引き読み出しする段階で発生しているものと思われる。縮小アルゴリズムを変えれば、技術的には偽色なしの縮小も可能だが、画像処理エンジンは動画用のDIGIC DVではなくDIGIC 5+なので、そういう後処理には向いてないということかもしれない。

撮影補助機能も充実

 液晶モニタの右上には、クイックメニューボタンがあり、ここを押すと動画撮影に関するパラメータの変更ができる。ピクチャースタイルもそのまま動画撮影で使用可能だ。

 特にモノクロ撮影では、カラーフィルターによる特定の光線のカットや色調をのせることもできるので、なかなか凝ったモノクロ撮影ができそうだ。ただ基本的には、ミラーレスやコンパクト機のような遊びの要素は少ないカメラだと言えるだろう。

クイックメニューからピクチャースタイルも選べる
モノクロではフィルターによる光線カットも可能
ろうそくの光だけでISO感度を上げながら撮影
iso.mp4
(92.7MB)
※編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 ISO感度は最大で100から12800まで可変可能なので、高感度撮影してみた。使用レンズはEF 50mm F1.2L USMで、すべてF1.2 1/30sで撮影している。

 こうしてみると、まあシーンにもよるだろうが、夜景ならばISO1600ぐらい、光がよく回っていれば3200ぐらいまでは使えるのではないだろうか。

 動画撮影中に静止画も撮れる機能があるのも、以前はビデオカメラでよく搭載されたものだが、一眼レフクラスではあんまりなかったような気がする。撮影される静止画は16:9になってしまうが、最大5,472×3,072ドットとセンサー能力いっぱいを使っており、いわゆる動画切り出しとは違う機能である。

 静止画処理中は、動画の方は1秒ほど絵が止まった状態になる。ただこの止まった瞬間の絵は、静止画よりも1フレーム前の絵のようだ。撮影された静止画でモデルさんが目をつぶってしまっているが、動画の方はつぶる前である。

動画撮影中に静止画を撮影
still.mp4
(16.7B)
※編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
この時撮影された静止画
タイムコードも実装

 もし動画の止まった絵でも目をつぶっていたのならNGに気がついたのだが、これでは動画撮影を止めて静止画を開いてみるまで、結果がわからない事になる。これがシビアに問題になるケースは少ないかもしれないが、同時に撮影しようと思っている人は、このことを頭の隅に置いておく必要があるだろう。

 動画撮影用として、タイムコードを記録する機能もある。開始時間の設定は、Rec Run、Free Runといった標準的な機能も備えている。

 ただ最近は編集もノンリニアになったので、あまりタイムコードの出番がなくなった。マルチカメラ撮影では、他の機器とのタイムコードスレーブ機能がないとあんまり意味がないし、4KやCanon RAWで撮れるわけでもないので、編集データをEDL(Edit Decision List)で書き出して受け渡しするようなケースもないだろう。

 最後にHDMI出力だが、動画のライブビューにはどうしても枠が載ってしまうのと、画面全体から一回り小さく映像が出てしまうので、外部レコーダを使った撮影はできないようだ。まあ手軽に動画撮影というところが本機の狙いなので、そういう使い方までは想定していないということだろう。

総論

 新開発のCMOSにより、ついにキヤノンのカメラもライブビューで像面位相差AFが可能になった。静止画モードではかなりのスピードで合焦ポイントに向かっていくが、動画での追従性は若干ゆっくり目に動く。これを丁度いいとするか、遅いとするかは意見の分かれるところであろう。

 そもそも像面位相差AFのメリットは、一眼レフではなくミラーレス機のほうが恩恵が受けやすい。デュアルピクセルCMOSはまだ作り始めたばかりでそこそこ製造コストがかかるはずなので、中級機から搭載するしかなかったのだろうが、量産効果が表れてくるに従って、ミラーレスに載せてくる可能性は高いと思われる。

 そう言えばキヤノン初のミラーレス「EOS M」も、早いもので発売されてからもうまもなく1年となる。発売当時不評だったAFは、ファームアップでかなり改善されたと聞く。これもそろそろ新モデルの声が聞きたいところだが、次期モデルは果たして従来通りの「ハイブリッドCMOS AF」で行くのか、それとも「デュアルピクセルCMOS AF」なのか。

 70Dのキャッチコピー、「イチガン新世界。」が「イチガンレフ新世界。」でなかったことからも、ミラーレスも視野に入っていると睨むのは、考えすぎだろうか。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。