小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第630回:発想の大転換、自分撮りに特化した「iVIS mini」

“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第630回:発想の大転換、自分撮りに特化した「iVIS mini」

“踊ってみた”に最適!? アクションカムと違う発想&構造

ミニカメラの時代?

 昨年から、いわゆるアクションカメラは、急速に時代を切り開いた感がある。海外ではGoProやContour、日本ではJVCケンウッド、ソニー、パナソニックが参戦し、様々なスタイルを提案している。

 もちろんメインはスポーツ撮りということで、耐衝撃や防水といった機能が求められてはいるが、これらカメラの隠れたキーワードは、実は「自分撮り」なのではないかと思っている。自分のかっこいいところを映像に収めたいという欲求が、新しい市場を生んだと考える事もできるのではないか。

 さて、そういう事がわかってくると、なにもアクションだけが自分撮りではない。じゃあどういうカメラがいいのか? そう考えたのかどうかわからないが、キヤノンが提案する新スタイルのカメラ「iVIS mini」は、従来のスポーツカム的な発想とは違った自分撮りの世界を広げる商品となっている。

 アクションカムがスポーツシーンで何かに取り付けて撮影するのに対し、iVIS miniは床や机の上など、どこかに置いて、離れた位置で自分のパフォーマンスを撮影するというスタイルだ。アクションカム自体は既に飽和状態となりつつあるが、ミニカメラという新ジャンルを築くiVIS miniを、さっそくテストしてみよう。

薄型、という斬新

 iVIS miniはニックネームというわけではなく、正式な製品名である。他に型番とかもないので、後継機を出す時は名前どうすんだとか余計な心配をしてしまう。

 カラーはブラックとホワイトがあるが、今回はブラックをお借りしている。現在キヤノンのオンラインショップのみでの発売となっており、10日に確認した限りでは、9月10日予約開始、9月17日お届け予定となっている。直販価格は税込みで29,980円。

レンズカバーを閉じた状態のiVIS mini
自分撮りスタイルにセット
現物は結構小さい

 店頭ではおそらく展示がないと思うので、現物をご覧になる機会が限られると思うが、写真で見るよりも現物は小型である。どうも見た目が業務用プロジェクタっぽいので大きいイメージがあるが、シャツの胸ポケットに入る程度のサイズ感である。

レンズは単焦点、左右にステレオマイク

 レンズ部は使わない時はカバーされており、横のスライドスイッチが、カバーの開閉兼電源スイッチとなっている。レンズは単焦点で、焦点距離2.7mm/F2.8。焦点調整は通常モードで0.4m~∞、マクロモードでは0.21mからのパンフォーカスとなっている。

 動画では対角160度(35mm換算で16.8mm)、静止画では170度(同15.4mm)の広角レンズ。動画は静止画から上下が切れるだけで、横幅は同じである。撮像素子は1/2.3型 約1,280万画素のCMOSセンサーで、静止画では最高4,000×3,000ドットの撮影ができる。

 またこの高画素を利用して、画素切り出しによるアップ撮影も可能だ。動画では35mm、静止画で32.1mm相当となる。残念ながらズームではなく1段階のアップのみだが、動画では1,920×1080、静止画は1,920×1440ドットを使うことになるため、いわゆる電子ズーム的な拡大が行なわれるわけではない。なお録画前のプレビュー画面だけは拡大表示になるため、画面上の画質が落ちるが、録画開始すると正規の画質で表示される。

モード35mm換算の
焦点距離
サンプル画像
ワイド16.8mm
アップ35mm

 これまでのアクションカムでは、電子ズームを備えたものはあったが、画質が悪く、実際に使うのは厳しかった。ワイド端では広すぎるというケースもあるので、これに対応できる点はなかなかいい。ただ録画中に切換できないのは残念だ。

 手ぶれ補正はないが、元々これだけの広角だと手ブレしてもほとんどわからない。そもそもコンセプトとしては手持ちではなく、どこかにカメラを置いて使うというものなので、不要ということだろう。

 動画記録はMP4(MPEG-4 AVC/H.264)で、フレームレートは30pもしくは24pの選択式。画質モードは以下のようになっている。音声はAAC 2.0ch。

ビットレート解像度サンプル
24Mbps1,920×1,080
MVI_0869.mp4
(31MB)
17Mbps1,920×1,080
MVI_0870.mp4
(21.9MB)
4Mbps1,280×720
MVI_0871.mp4
(5.57MB)

 液晶モニタは、2.3型/約23万ドットのタッチパネルとなっており、畳んだ状態では液晶画面が表面に露出したままとなる。多くのビデオカメラでは、液晶面が内側になるが、最近はスマートフォンの普及で保護ガラスも丈夫になり、画面が出たままという状態でも違和感がなくなった。

 またこの液晶モニタは、前向きにも後ろ向きにも回転できるようになっており、誰かを撮影する場合と自分撮りの場合の両方に対応できる。液晶表示は向きに応じて自動で上下反転する。

液晶モニタは前にも後ろにもフレキシブルにフリップする

 正面から見て右側には、静止画撮影用のシャッターボタン、カバー内にはSDカードスロットとミニUSBコネクタがある。左側のカバー内にはHDMIミニ端子と電源端子がある。再生モードへの切換ボタンも左側だ。ストラップホールが両脇にあるのもユニークだ。

右側のカバーを開けたところ
左側のカバーを開けたところ

 背面のカバーはバッテリースロットだ。バッテリーパックは同社コンパクトデジカメIXYシリーズで採用の多い「NB-4L」で、連続使用時間はおよそ65分となっている。

 底部は三脚穴があるのは当然として、平置きしたときに角度が付けられるよう、スタンドが内蔵されている。スタンドは90°まで開くが、液晶を開いても後ろにひっくり返るようなことはない。

バッテリースロットは背面
底部には収納型スタンドがある
スタンドで角度が付けられる

 付属品としては、USBケーブル、ストラップ、バッテリ充電器が同梱されている。ACアダプターはなく、外部電源で長時間撮りたい場合は、別売のACアダプタが必要になる。本体のUSB端子からは、充電やバスパワー動作はできない。

中味はiVIS?

 では早速撮影、と行きたいところだが、その前にメニューなどソフトウェアの中味を見てみよう。

本機のホームメニュー

 iVIS miniは、キヤノンのビデオカメラシリーズそのままの名前が付いているわけだが、中味は同社カメラのメニューとほとんど同じだ。

 例えば「こだわりオート」で23パターンのシーンモードに自動的に切り替わるほか、新たにスポーツ、グルメ・ファッション、マクロモードが追加された。音声のタイプによって自動的にモードを切り換える、オーディオシーンセレクトも搭載している。

フェイスキャッチによる露出追尾も可能

 露出はプラスマイナスの補正ができる程度で基本はオートなので、シャッター優先や絞り優先モードはない。さらにフォーカスもパンフォーカスでAFはないが、フェイスキャッチで適正露出を行なう機能はそのまま入っている。画像処理エンジンはDIGIC DV4なので、同じ事ができるわけだ。

 つまり、本機はレンズ周りが簡素化され、録画フォーマットがAVCHDからMP4になったぐらいで、中味は従来のiVISとほとんど同じという事だ。他社のスポーツカムが、機能が極端に簡素化されたMP4カメラの延長線上にあるのに対し、本機は従来型ビデオカメラからどんどん割り切っていってこのサイズにまとめた、という方向のように見える。

 では実際の撮影だ。今回は自分撮り機能重視ということで、モデルさんに色々な形で自分撮りして貰っている。もちろん普通のビデオカメラとしても使えるので、一応普通にも撮ってみた。

自分撮りも含めた動画サンプル。元の動画ファイルは以下のリンクから
sample.mp4
(99MB)
※編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 液晶画面は、録画開始までは静止画画角のフルサイズを表示しているが、動画撮影では上下が切れる。したがって事前に液晶画面でアングルを決めておいても、せっかくうまくいったのに顔が切れてたということもありうる。ガイド表示で動画用の画角を示すモードがあるので、それを常時表示させておくといいだろう。

 画素切り出しによるアップ撮影は、やはりdot by dotなので解像度は多少落ちるものの、デジタルズームのような荒れはない。テレビ画面で見れば違いはわかるが、ネット動画としてアップすれば違いは少なくなるだろう。

ワイド
アップ
音楽演奏のサンプル
audio.mp4
(159MB)

 また音の集音性をテストするために、自宅でピアノ演奏を撮ってみた。あいにく生ピアノがなく電子ピアノになってしまったが、オーディオシーンを「音楽」で集音したので、そこそこよく録れている。自分の演奏をYouTubeにアップ、といった用途にも使えるだろう。

 なおこの曲は筆者が20年ぐらい前に、ジョージ・ウィンストンのような曲を書いたらモテるんじゃないかと思って作った曲なので、著作権については(CC BY 2.1 JP)として公開させて頂く。

特殊撮影機能とシェア機能

 本機にはインターバル撮影機能もあるので、これもテストしてみた。このモードで動画を録画すると、半秒ずつの動画が5秒に1回撮影される。こういうタイプのインターバル撮影はあまり見かけないので、使い方を工夫すればなかなか面白いコンテンツになりそうだ。一方で同じモードで静止画撮影ボタンを押すと、普通に静止画の連番ファイルが撮影される。

動画でインターバル撮影
laps2.mp4
(19MB)
静止画でインターバル撮影したものを動画にまとめたもの
laps.mp4
(4.43MB)

 そのほか1/2倍、1/4倍スロー撮影、2倍、4倍のファーストモーション撮影機能もある。

1/2倍スロー
MVI_0107.mp4
(99MB)
1/4倍スロー
MVI_0106.mp4
(99MB)

 記録系でユニークなのは、反転機能だ。例えばモニターの見やすさから、上下逆向きにカメラを取り付けるというケースもあろうかと思うが、カメラが回転状況を自動で検知して、上下逆に記録してくれる。すなわち、再生時にはちゃんと正対した映像で記録されている、というわけだ。

レッスンに最適な左右反転モード

 また左右反転記録モードもある。これは特にダンスの振り付けのレッスンなどで重宝される機能で、先生の動きを左右反転で撮っておけば、左右が逆ということを意識せず、鏡に映ったかのように同じ動きをすればいい事になる。また普通に撮影した場合でも、再生時に左右反転することができる。

 最近は運動会だけでなく、小学校でも体育の授業にヒップホップが導入されるなど、学校でダンスを教える機会も多くなっている。そういうニーズに応えた機能と言えそうだ。また楽器練習でも、ギターやベースなどの運指を参考にするために左右反転で撮っておけば、これもすぐ真似しやすくなる。レッスンビデオにも使えそうだ。

 さらに昨今のトレンドとして、Wi-Fiによる様々な機能拡張が行なわれる傾向があるが、本機もWi-Fiに対応している。

 身近なところでは、モニタとレコーディングのリモート機能がある。iOSとAndroidアプリの「Camera Access Ver2」を使えば、遠隔でのモニタリング以外に、ワイドとアップの切換のほか、動画撮影のリモート操作が可能だ。またセルフタイマー機能があるので、録画ボタンを押した瞬間を撮影せず、パフォーマンスを開始できる。

カメラをリモコンモードに設定
AndroidアプリのCamera Accessで操作

 さらには、リモート操作しているスマホやタブレット側に記録する機能もある。解像度は640×360ドットに限定されるが、スマホから直接ネットにアップするのであれば、最初からその程度の解像度で十分であろう。

 そのほかiOS向けには、Webサービスにアップロードするための「Movie Uploader」というアプリも提供される。これはiVIS mini側に記録した映像を選んで、スマホ経由でYouTubeとFacebookに直接アップロードするものだ。

iOS版のMovie Uploader
iPhone経由で各サービスにアップロード可能

 またカメラ側にも、Wi-Fiアクセスポイントに接続する機能がある。カメラからキヤノンが提供するWebサービス「CANON iMAGE GATEWAY」を経由して、動画URLを記したメールやTwitterに対して投稿したり、こちらもYouTube、Facebookにアップロードできる。

 「CANON iMAGE GATEWAY」を経由しての投稿は、以前「PowerShot SX280 HS」でテストしているので、そちらを参考にしていただきたい。

総論

 これまでのスポーツカムは、音の集音にはあまりこだわっていないものも多かった。三脚に固定するにはハウジングに入れる必要があり、ハウジングに入れると音が入らない、という製品も未だにある。また本体だけを直置きして使うというニーズにも、あまり応えられなかったのではないだろうか。

 その点で本機は、防水や耐衝撃性能はないが、カメラは落ち着いた場所に置ける、というシーンによくフィットする。なお、オプションで「スプラッシュプルーフケース」(SP-V1/11月発売/10,290円)というのも用意されているが、アクションカメラ的な使い方は想定されていない。

 実はこれまでも個人的に、アクションカムを取材や記者発表会の記録などに活用してきた。ただ音の収録に難があったり、角度を付けるためにミニ三脚を用意したりと、結構手間がかかった。また画角が超ワイドしかないので、説明用に表示されているPowerPoint画面に少し寄っておきたいという時にどうにもならなかったりと、ベストとは言いがたい状況であった。

 だがこのカメラは、自分撮りももちろんだが、上記のような難点をすべてクリアする。会議メモなどにも手間なしで、かなり便利に使えるはずだ。

 ただ最大の難点は電源周りである。バッテリが連続で65分は、ちょっと短い。元々ネットにアップする数分のパフォーマンスを撮りましょう、というのならそれぐらいで十分かもしれないが、バンドの練習とかは2時間ぐらいスタジオを押さえるので、それをずっと記録するというニーズには応えられない。外部給電方法が、特殊コネクタによるACアダプタ(CA-110)しかなく、しかもそれが別売で8,000円もする点も残念だ。

 Wi-Fi経由でスマホからアップロードできるのもいいが、それをやるとみるみる本体バッテリーが無くなってしまい、途中で電源が落ちてしまった。再開するにはバッテリの充電が終わるまで1時間半待たねばならない。そうまでしてスマホ経由でアップしたいかというと、微妙である。できることも沢山あり、やらせたいことも沢山あるのだろうが、電源周りがこれでは、結局メディアを抜き挿しするのが一番確実とという事になってしまう。

 ちなみにバッテリパックのNB-4Lは、容量が760mAhしかない。気になったので、各メーカーのコンパクトデジカメでほぼ同サイズと思われるバッテリーの容量を調べてみた。

メーカー型番容量
キヤノンNB-4L760mAh
ソニーNP-BX11,240mAh
パナソニックDMW-BCM131,250mAh
ニコンEN-EL121,050mAh
カシオNP-80700mAh
オリンパスLI-90B1,270mAh
リコーDB-651,250mAh

 キヤノンとカシオは、バッテリーのトレンドに遅れすぎだ。

 多くを望むタイプの製品ではないのは知りつつも、せめてUSB給電に対応していれば満点を差し上げることができたのだが、その点だけが残念である。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。