“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第589回:キヤノン初のミラーレス「EOS-M」で動画を撮る

~EFレンズも使えるコンパクト機の実力とは~


■キヤノンミラーレス参入の隠れた意味

 またか、と思われるだろうが、今回もまた動画しか撮ってないデジカメレビューである。静止画カメラのメーカーさんにとっては迷惑な話であろうが、EOS 5D Mark IIの動画が事実上映像史を塗り替えたわけであるから、まあ新しいカメラが出る度に、動画性能でやいのやいの言われるのはある程度覚悟していただかなければならない。

 さて、すでに静止画のレビューやユーザーの感想もアップされ始めているEOS-Mだが、どうもガッカリトーンが散見されるようだ。曰く、AFスピードが遅い、重い、デザインが…、といった指摘が多いようである。

 そうは言っても、キヤノンが久しぶりの新マウントでラインナップを拡充していくわけで、動画カメラとしての実力や、今後の展開も気になるところだ。というのも、ソニーやパナソニックなど、ビデオカメラも出しているメーカーでは、業務レベルで短フランジバックのマウントを使ったビデオカメラを数多くリリースしている。

 そもそも静止画カメラのレンズが使えるビデオカメラというのは、キヤノンが1998年にDM-XL1で始めたわけだから、今後もその方向性がないとも言い切れない。

 そんなことを頭に入れながらEOS-Mを見ると、またちょっと違った意味での興味も湧いてくる。まずは同社初となるミラーレスの実力をチェックしておこう。



■シンプルだが厚みのあるボディ

 EOS Mは、ボディのみ(直販69,800円)、「EF-M18-55mm」付きのズームレンズキット(同84,800円)、「EF-M22mm」付きの単焦点レンズキット(79,800円)、ダブルレンズキット(同109,800円)の4タイプで販売されている。ダブルレンズキットのみ、EFマウントアダプタ「EF-EOS M」が付属するが、これは別売(12,600円)でも購入できる。

ダブルレンズとボディ。APS-Cとしてはコンパクトなシステムだ

 ダブルレンズキットは、スピードライトの「90EX」もセットにして直販価格109,800円だが、ネットの通販サイトでは、8万円台半ばあたりで販売しているところもあるようだ。今回はダブルレンズキットと、EFレンズをいくつかお借りしている。

 まずデザイン面から見てみよう。形状としては凹凸の少ないスクエアなデザインで、デジタル一眼のようなオーガニックな形状ではない。EOS的というよりは、PowerShot的なテイストを感じさせる。

 そうは言っても、右手部分には握りやすさという点で細かい配慮がある。シャッターボタンのあたりを斜めに切り落としているのは、シャッターを前傾させるという狙いもあるだろうが、モード切り換えのダイヤルの表出を大きくするという役割もある。人差し指でダイヤルを回すときに、指がかりが大きくなるよう削っているという見方もできる。

単焦点レンズを付けたところ。シンプルなシルエットだシャッター部の切り落とし部がポイント

 親指部分には、録画ボタンを取り囲むように樹脂製の深い指置きポジションを設けており、なかなかホールドしやすい。

 マウントは、EF-Mマウントという名称で、フランジバックは18mm。マイクロフォーサーズの19.3mm、富士フイルムXマウントの17.7mm、ソニーEマウントの18mmと同程度である。特にソニーとは完全に同じ長さなので、サードパーティも含めてレンズやマウントアダプタで、技術的にもガチンコ勝負になっていくだろう。

背面の指がかりと録画ボタン新規格EF-Mマウントを採用

 撮像素子は有効画素数1,800万画素のCMOSセンサーで、APS-Cサイズ。マウントアダプタで35mmレンズを装着した場合、焦点距離が1.6倍となる。動画と静止画で絵の横幅は変わらず、縦方向だけ16:9サイズになるようクロップされる。

 AFはコントラストAFに加え、CMOSセンサーの上に位相差AFを搭載。互いの弱点を補い合うような形で組み合わせた「ハイブリッドCMOS AF」になっているのが特徴だ。

 現在EF-Mマウントのレンズが2本ラインアップされている。「EF-M18-55mm F3.5-5.6 IS STM」のズームレンズは、レンズ内手ぶれ補正付きだ。一方「EF-M22mm F2 STM」の単焦点レンズには、手ぶれ補正機構はない。

手ぶれ補正付き18-55mm/F3.5-5.6パンケーキ型の22mm/F2

 マウントアダプタは、楕円形の窓がユニークだ。EF-Mマウントの接点は9つ、EFマウント側の接点は8つなので、内部で何らかの変換処理が入っているのかもしれない。底部には三脚取り付け用の台座が取り付けられる。レンズによっては、レンズ鏡筒部がボディ本体よりもはみ出してしまうので、その対策である。

EFレンズ用マウントアダプタ三脚用の台座は取り外し可能EFレンズを取り付けたところ

 映像記録フォーマットはMPEG-4 AVC/H.264 VBRで、MOV形式となる。音声はリニアPCM。記録モードは以下の4モードとなる。

モード解像度fpsビットレート
(実測)
サンプル
1920 301,920×1,08030p約45Mbps
MVI_0352.mov(71.4MB)
1920 241,920×1,08024p約45Mbps
MVI_0353.mov(71.2MB)
1280 601,280×72060p約44Mbps
MVI_0354.mov(65.8MB)
640 30640×48030p約10Mbps
MVI_0355.mov(16.9MB)

 ビットレートがかなり高いのは、かつてのEOS 5D Mark IIを彷彿とさせるが、高画質を狙ったというよりは画像処理エンジンDIGIC 5の都合だろう。720/60pは、ビットレートが約44Mbpsもあるが、画質はそれほど良くない。そもそも動画処理用のエンジンじゃないので、画質面では厳しい部分が残りそうだ。

 背面の液晶モニタは3型のタッチスクリーンになっており、画面上だけでかなりの設定変更が可能だ。加えてボタン類も多く、画面とボタンどちらでも慣れたほうで設定変更ができるようになっている。

 マイクは左肩にステレオで付けられている。間隔は狭いが、意外にステレオ感のある集音ができる。側面に端子類があり、外部マイク入力、HDMI出力、アナログAVとデジタルI/Oの集合端子がある。

タッチパネルだがボタン類も多いマイクの幅は狭いが、ステレオ感はある側面には各種I/O端子が



■発色、解像感ともに良好だが…

 ではさっそく実写である。今回使用したレンズは、ダブルレンズキットのEF-Mレンズ2本と、EFレンズの「EF24-105mm F4L IS USM」、「EF50mm F1.2L USM」、「EF85mm F1.2L II USM」の、計5本だ。

今回使用したEFレンズ3本「EF85mm F1.2L II USM」を取り付けたところ「EF24-105mm F4L IS USM」を組み合わせたところ

 EOS-Mの動画撮影は、ダイヤルで撮影モードを動画に設定しないと、撮影できないようになっている。多くのデジカメが、どのモードであっても録画ボタンさえ押せば撮れるようになっているが、誤って押してしまって録画されてしまうというミスも多い。これに対応するためだろう。

 動画撮影モードでは、露出モードを自動かマニュアルか選択することができる。自動ではかなり絞るアルゴリズムになっているため、EFレンズを使ってもあまり背景のボケ味などは活かせない。


露出は自動とマニュアルの2モード自動露出でEF 50mm/F1.2を使ったところ。F11ぐらいまで絞られるので、殆どボケがないマニュアル露出に変更。F2で撮影してみた

 マニュアルでは、絞りもシャッタースピードも自由に変更できるが、ISOをオートにしておけば感度のほうで露出追従していく。ダイヤルの右ボタンでシャッタースピードと絞りの切り換え、ダイヤル回転で値変更というインターフェースだ。ダイヤル左ボタンはAEロックになっている。同様の操作は、画面上の数値部分をタッチしても行なえる。

 レンズキットのEF-Mレンズは、どちらもワイド寄りなので、深度を浅くとるにはあまり向いておらず、深度の深いかっちりした絵になる。写りにクセのない、素直な傾向を感じさせる。

EF-M 18-55mmのテレ端開放EF-M 22mm開放

 静止画ではあまり目立たないが、動画では背景の水面の波紋に大量の偽色が発生する。5D Mark IIIでは対策がなされた部分だが、こちらには対策はされていないようだ。

 動画撮影モードにしか現われない機能が、画面左下のSERVO AFボタンだ。これは常にAFを動かし続ける機能だ。これをOFFにすると、シャッターボタンの半押し時のみAFが効くようになる。簡易的なAFロックとして使える機能だ。

 撮れる絵は発色が良く、いわゆる写真としての綺麗さを感じさせる動画だ。同じEFレンズを使っても、5D Mark IIIよりは硬質なタッチのように感じた。

マニュアル撮影時のUI。かなりのコントロールが画面内で完結する絵はやや硬調の印象

 気になるAFの追従性だが、歩いてくる被写体への追従性は、EF-Mレンズのほうが優秀のようだ。多少追従の遅れは見えるが、被写界深度がそれほど浅くならないこともあって、結構自然についてくる。

 マウントアダプタを経由してのEFレンズは、AF動作が静音モーターではないので、動作音が入る。また、がんばって追従しようとするが、ワンテンポ遅れる感じはある。

 すべてこの程度で済めばいいのだが、EFレンズは割と難物で、フォーカスが合わない時はどうやっても合わないことがある。せっかく合ってるのに、なぜか突然明後日の方向にAFを合わせてそのままになってしまうこともあった。

【動画サンプル】
af.mp4(172MB)
【動画サンプル】
af2.mp4(68.1MB)

前半がEF-Mレンズ、後半がEFレンズの動作せっかく合ってるのに突然外れて帰ってこないことも
編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
モデル:ジュデイ(スーパーウイング)

 手ぶれ補正に関しては、EF-M 18-55mmとEF24-105mm F4Lの両方でテストしてみた。どちらもテレに行くに従って大きく効くタイプなので、昨今のビデオカメラでのトレンドのように、ワイド側で派手に効く感じはしない。ただAFに関しては、平行して歩いているのでそれほど距離が変わっていないにも関わらず、わざわざ余計な動きをしてフォーカスを外す傾向が見られる。

 合焦さえしていればシャープで雰囲気のある絵になるだけに、惜しい。動画においてはAFロックを多用する必要がありそうだ。

【動画サンプル】
stab.mp4(108MB)
【動画サンプル】
sample.mp4(309MB)
【動画サンプル】
room.mp4(107MB)

手ぶれ補正はそれなりに効いてはいるが、フォーカスの外れ具合のほうが気になる屋外撮影サンプル室内撮影サンプル。レンズはEF-M 18-55mmで、露出モードはオート
編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
モデル:ジュデイ(スーパーウイング)



■スピーディな設定変更が可能

Qボタンで変更可能なパラメータが一度に表示される

 各種動作モードの変更は、いちいちメニューボタンを押して中に入る必要はない。ダイヤルセンターのQボタン、もしくは画面右上のQの字をタップすると、現時点で設定変更可能なパラメータが一度に表示される。

 変更したいものを画面上でタップして変更するというスタイルだ。特にAFモードは頻繁に切り換えて最適なものを探す必要があるので、素早いレスポンスは助かる。

 画質モード切り換えも、多くのカメラは切り換えに時間がかかるものだが、EOS-Mでは画面がブラックアウトすることもなく、その場で簡単に切り替わる。画質モードは頻繁に変えることは少ないかもしれないが、あらゆる動作が高速で動くのは好感が持てる。

 液晶モニタの発色は良好だが、日中の屋外では標準設定のままだと暗すぎてよく見えない。周囲の明るさに合わせて自動補正するような機能がないので、自分で設定を変更する必要がある。

【動画サンプル】
pic.mp4(150MB)

ピクチャースタイルによるトーンの変化
編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
モデル:ジュデイ(スーパーウイング)

 本機は、静止画ではソフトフォーカスや魚眼風といった「クリエイティブフィルター」が使える。だが残念ながらこれらのフィルタは、動画モードでは利用できない。

 一方ピクチャースタイルは動画でも使えるので、サンプルとして撮影してみた。全部デフォルト設定だが、パラメータとしてシャープネス、コントラスト、色の濃さ、色あいが設定できる。ユーザープリセットも3つ使用できる。




■総論

 AFに難ありと評されることが多いEOS-Mだが、一瞬のチャンスを逃さず、という写真的特性から考えれば、不満を感じる人が多いのも宜なるかなという気がする。EF-Mマウントレンズはさすがに専用として設計されただけあって、それほど大きく外すことはないが、マウントアダプタ経由のEFレンズの場合、遅い、というだけならまだしも、テレ側では迷ったあげくどっか行ってしまうような事が起こるのは、さすがに厳しい。

 どんなレンズで何を撮るかで、評価が分かれるところだろうが、いろんなカメラで経験を積んだユーザーがサブ機として使うならともかく、コンパクトデジカメからこれにステップアップした人にとっては、使いづらいと思われるかもしれない。

 まあ今回はいつものように動画しか撮ってないので、このような評価はすべきではないかもしれない。ただ動画も半分ぐらい撮るようなユーザーからみれば、それほど使いやすいカメラではない。

 同じフランジバックのソニーEマウントでは、純正のマウントアダプタの中に位相差AF用の機構をぶち込んで爆速かつ外れなしのAFを実現したことを考えると、デフォルトで位相差とコントラストAFが入っているはずの本機は、もうちょっとアルゴリズムの見直しなどで改善できる余地もあるように思える。

 ミラーレス初参戦なだけに、市場ニーズを掴み損なったところもあるかもしれないが、EF-Mマウントのリファレンス機となるモデルであるが故に、厳しい目で見られるのは仕方がないところだろう。今後のファームアップなどで、まだまだ潜在能力があるところを証明して欲しい。


Amazonで購入
EOS M ダブルレンズキット

(2012年 10月 24日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。

[Reported by 小寺信良]