小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第758回 サンデービデオグラファーには最強! 光学25倍のソニー「DSC-RX10M3」

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

サンデービデオグラファーには最強! 光学25倍のソニー「DSC-RX10M3」

あのRX10もついに三世代目に到達

 ソニーRXシリーズは、レンズ一体型ながら高級路線を追求したラインナップとして人気が高い。RX1シリーズはコンパクトボディに35mmフルサイズセンサーを搭載したフラッグシップ、一方RX100シリーズは1インチセンサーを搭載した高級モデルとして、市場に沢山のフォロワーを生み出している。

 その中間のRX10シリーズは、いわゆる“ネオ一眼”タイプで、1インチセンサーながら大型レンズを備え、コンパクトにこだわらないボディサイズ故に“メーカーができること”を思いっきり盛り込んだ、マニアックなモデルという立ち位置だ。その画質と機能から購入者には評判が高いのだが、サイズ的にはかなり大型のため、なかなか食指が動かないポジションに位置している。

 5月20日より販売が開始された「RX10 III」(DSC-RX10M3/以下RX10M3)は、そんなRX10シリーズの最新モデルだ。店頭予想価格は17万円前後、ネットの通販サイトでもあまり値下がりしておらず、実売16万円台に留まっている。

 最大の特徴は、光学25倍という倍率を誇る新設計のレンズを搭載したことである。デジカメの世界では2014年頃から高倍率ズームの人気が高まっており、同年発売の光学30倍「DSC-HX60V」はかなりの人気モデルとなっていた。レンズはGレンズだったが、今回はRXの名にふさわしく、ツァイス バリオ・ゾナーながらも25倍を確保したところがポイントである。

 もちろん4K撮影にも対応しており、スーパースロー撮影も可能と、意欲的なモデルだ。今回も動画機能を中心に、その性能を確かめてみよう。

フルサイズ並みの大型ボディ

 RXシリーズは、ボディを変えずに中身を変えていくという、デジカメの中では一風変わった戦略を取るシリーズだが、今回のRX10M3は前モデル(RX10M2)とデザインテイストは似ているものの、ボディサイズからしてまったく別の筐体となっている。重量もRX10M2の813gから1150gと1kg越えとなっており、サイズ感としてはもはやフルサイズセンサー搭載の一眼カメラ並みだ。

デザイン的には前モデルと同じに見えるが、かなり大型化したボディ

 今回最大の注目ポイントであるレンズもかなり大口径で、フィルター径は72mm。最近ではフルサイズ用レンズでもあまりみかけない径である。焦点距離は静止画3:2の場合で24~600mm、HD動画で26~630mm、4K動画で28~680mm(35mm換算値)。ツァイス バリオ・ゾナー T*コーティングだ。

レンズも口径を大きく取った設計

 RX10M2は光学8.2倍でF値は2.8通しだったが、今回は倍率も高いので、2.4~4.0となっている。スーパーEDガラス1枚、ED非球面レンズ2枚を搭載しており、これだけの倍率ながらかなり明るいレンズに仕上がっている。また全画素超解像ズームを合わせると、動画撮影時でも約50倍相当のズームが可能になる。なお、RX10M2も併売するそうだ。

ワイド端光学テレ端全画素超解像
テレ端
4K動画
28mm

680mm

680mm×2
3:2静止画
24mm

600mm

600mm×2

 絞りは9枚羽根で、F2.4~F11までほぼ円形の絞りを実現する。なお前モデルには搭載していたNDフィルタは、今回は搭載されていない。

 レンズ側面にはフォーカスホールドボタンが付いたが、ズーム倍率が高い故に、テレ側ではフォーカスのふらつきをこれで抑えろという事だろう。

レンズ側面にフォーカスホールドボタンを新設

 センサーはアスペクト比3:2の1インチで、メモリ一体の積層型CMOSの「Exmor RS」。Exmor RSは昨年発売のRX10M2とRX100M4で搭載されたセンサーで、ロジック基板の大型化により高速処理ができるほか、背面バッファによりスーパースロー撮影を可能にする。今回も最高40倍のスーパースローを実現している。これはあとで試してみよう。

フォーマット解像度フレームレートビットレート
XAVC S 4K3,840×2,16030fps100Mbps
60Mbps
24fps100Mbps
60Mbps

 鏡筒部のリングは3連で、デフォルトではレンズ先端からフォーカス、ズーム、絞りとなっている。絞りリングはクリックあり/なしに切り替えできるようになっている。

絞りはクリックの有無が選択できる

 背面の液晶は上下にチルトするタイプで、4:3の3.0型、約122.8万ドットのエクストラファイン液晶。ビューファインダは0.39型OLEDで、約236万ドットとなっている。

チルト液晶とOLEDビューファインダも健在

 ボディサイズは違うが、ボタンの配置類は前モデルとほとんど同じになっており、操作系で迷うことはない。ズームレバーによるズームは、高速と標準がある。光学領域のテレ端からワイド端まで、実測で高速が2.4秒、標準が3.2秒となっている。

ボタン類の配置はほとんど変わらず
ボディ右側がメモリーカードスロット
左側はマイク入力、ヘッドホン出力、microUSB、microHDMI端子を装備
バッテリはWタイプで、本体充電が可能

 なおテレ端でレンズがいっぱいにくり出た状態だと、レンズフードまで含めた全長は26cmにもなる。撮影時の取り回しには、周囲に対する注意が必要だ。

テレ端では全体が相当長くなる

驚くべき解像感

 ではさっそく撮影である。撮影日は風も穏やかで晴天に恵まれ、なかなかいい絵が撮れた。

 4K動画の場合でも28~680mmと、ワイドからテレまでかなりのストロークが取れる。さらに全画素超解像を入れればもう少し寄れるので、画角のバリエーションで困ることはまずないだろう。これまで撮りたいんだけど寄り足りなくて撮らなかったような被写体にも、楽に到達できる。本来は足で稼ぐべきところを、ズーム倍率でカバーするので、普段運動不足のお父さんでも、その場にいながらあれこれ面白い絵まで手が届く感じが素晴らしい。

発色と解像度を高レベルで実現
木のディテールや木漏れ日の感じも美しい
4K30pで撮影したサンプル
sample_4k.mov(224MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 露出は若干明るい方のラティチュードが足りない感じもあるので、白っぽい被写体の時は露出を-0.3~-1.0ぐらいまで下げるといいだろう。天面に露出補正ダイヤルがあるので、メニュー読み出しもなくすぐに補正できるところもいい。

白っぽい(もしくは背景が暗い)シーンでは少し絞り目のほうがよい

 ボケ味もさすがに9枚羽根絞りを採用ということで、ほぼ円形のボケが楽しめる。発色も自然で解像度も高く、昨今の4K撮影可能デジカメで出色の出来と言えるだろう。今回のセンサーは、4Kの1.7倍の画素を全画素読み出ししており、記録時に4Kにリサイズしている。このオーバーサンプリングが、全体の解像感の高さに繋がっているようだ。

ボケの感じも滑らかだ

 全画素超解像によるズームは、思ったよりも画質劣化が見られなかった。アルゴリズムも以前より改良されているようだ。これなら光学ズームと合わせていつもONで問題ないだろう。

超解像ズームを使用。ひな鳥の産毛も見事に解像している

 ズームレバーによるズーミングも、全域できちんとフォーカスがフォローされる。ズーム中のフォーカスに関しては、静止画用レンズでは鬼門であったわけだが、さすが本体一体で作り込まれたレンズだけあって、ほぼビデオカメラ並みの性能と言っていい。

全画素超解像ズーム動作。途中でいったん止まるところが光学ズームのテレ端
zoom_hd.mov(20MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 また前モデルではズーム中に映像が一瞬ガクッとシフトする現象が見られたのだが、今回はこの現象は見られなかった。フォーカスに関しても得意のフレキシブルポイントが使えるため、遠方の被写体でも不安は少ない。

 手ぶれ補正は、4K動画撮影時には光学しか効かない。一方HD解像度まで落とせば、ソニー得意のインテリジェントアクティブが使える。このあたりの縛りは、画像処理プロセッサの世代が変わらないと難しい部分だが、今回も間に合わなかったということである。

手ぶれ補正比較。補正なしと光学は4Kで撮影
stab_hd.mov(97MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 欲を言えば、もう少し広ダイナミックレンジで撮りたいところだ。木漏れ日の陰影などがHDRで撮影できたら、感動もまたもう一段アップしただろう。本機はS-log2ガンマによる撮影もできるので、それで撮影したあと自分でカラーグレーディングすればいいのだが、一般の方はとてもそこまではできないだろう。コンシューマでも動画がHDRで撮影できる日が待ち遠しい。

静止画で見ると面白みがないが、ぜひHDR動画で撮影してみたいシーン

 もう一つ新たに加わったのは、4Kで撮影した動画から静止画を切り出す機能だ。今回の動画切り出しは、すべてこの機能を使用している。

4K動画から再生時に静止画を切り出すことができる

 この手の機能はすでにパナソニックが「4Kフォト」として実装しているが、パナソニックの場合は写真のアスペクト比に合わせた4K動画を撮影する。一方本機は4K撮影時には16:9しかないため、切り出す静止画も16:9だ。

センサー独自の機能

 ソニーの強みと言えば、業界でダントツのシェアを誇るイメージセンサーだ。特に昨年商品化された1型のExmor RSは搭載製品がまだ少なく、ソニーがこのセンサーをどう使いこなすのかは、多くのカメラメーカーにとっても注目するところだろう。

 今回は、特に強みとして挙げられているわけではないが、α7Sシリーズやα7R IIでは強力なポイントとされている夜間撮影も試してみた。シャッタースピード1/60、絞り解放でISO感度を100から順に倍々に上げて撮影している。

ISO 100から12800まで順に撮影
night_hd.mov(97MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 ISO感度は動画では最高で12800止まりだ。α7S IIのようにISO 409600のようなバケモノスペックではないところからも、暗所撮影はそれほど得意ではないようだ。4KではISO 1600ぐらいまでは普通に見られるので、そのあたりを上限に考えておくといいだろう。

 このセンサーの強みとしては、スーパースローモーション(HFR:High Frame Rate)撮影がある。昨年発売のRX10M2とRX100M4にも同様の機能が搭載されていたが、これはハイフレームレートで撮影した映像をセンサー内のバッファに貯め、それを展開しながらメモリーカードに書き込むことでスーパースローモーションの動画を得るというものだ。なお画質優先では2秒間、撮影時間優先では4秒間の撮影ができる。

撮影
フレームレート
記録
フォーマット
画質優先
解像度
撮影時間優先
解像度
24p/30p/60p
240fps10倍/8倍/4倍1,824×1,0261,676×566
480fps20倍/16倍/8倍1,676×5661,136×384
960fps40倍/32倍/16倍1,136×384800×270

 今回は画質優先の960fpsで、16倍、32倍、40倍を試してみた。960fpsになると読み出し範囲が狭くなるため、解像度的には下がってしまうが、最高40倍のスローは面白い。HD素材として使うとぼんやりするが、オリジナルサイズでネット上に投稿するぐらいなら、十分使えるだろう。

画質優先の960fpsで、16倍、32倍、40倍のスーパースローモーションをテスト
slow_hd.mov(101MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 スポーツや楽器の練習など、工夫次第でいろいろな用途に使える機能である。ただしHFR撮影中はAFが利かないので、動く被写体に対しては絞り込んで使った方が上手くいくだろう。

総論

 ボディサイズも重量も前モデルより一回り増えたため、見た目はもはやフルサイズ一眼並みとなったRX10M3。3世代目ではあるが、過去のモデルと方向性が違うので、得意分野や用途が異なるカメラとなっている。

 静止画ではまた別の評価があるだろうが、動画カメラとしてはまさに“ビデオカメラに代わるもの”となっている。従来デジカメでは弱かった光学ズーム倍率を、ツァイスクオリティで実現した点は大きい。また1インチセンサーの能力を、小型化のために犠牲にすることなくフルに引き出したという点でも、面白いカメラだ。

 16万円台という価格に賛否あるところだろうが、昔のビデオカメラだったらエントリーモデルでもそれぐらいはしたものである。それが静止画も撮れて(当たり前だが)、4K動画まで撮れて、しかもこの画質である。サイズは確かに大きいが、子供撮りなら小学校6年間は十分戦えるカメラだろう。

 外部マイクも使えるほか、写真撮影では電子シャッターを使った無音撮影ができる。音楽会や卒業式といった式典でバッチャンバッチャン言うカメラは迷惑なものだが、これならまず文句が出ることはないだろう。後ろの席でも十分子供が狙える倍率も備えている。

 もちろん、業務ユーザー向けの機能もサポートしている。S-Log2撮影した時に液晶モニターにだけLUTをあてたり、HDMI接続したレコーダに対してRECトリガーを出せたりと、機能的にはα7のIIシリーズとほぼ同等の機能がある。

 今どき運動会や学芸会にスポットを当てたビデオカメラという売り方は時代相応ではないが、そういうニーズにバッチリハマるカメラでもあることは間違いないだろう。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。