“TVでニコ動”。アプリ開発のキテラスに聞く展望
ニコ生も対応へ。“TV放送にコメント”の可能性は?
左からキテラスの鈴木慎之介代表取締役社長、コンシューマーエレクトロニクス事業部 事業企画セクション 栗栖到担当セクションマネージャー |
9月25日、ついにテレビで「ニコニコ動画」が楽しめるようになった。ドワンゴの子会社QTERAS(キテラス)が、25日にパナソニック「VIERA」向けに、27日にソニーの「BRAVIA」向けに、それぞれ視聴用アプリを提供したのだ。どちらも無料でダウンロードできる。
初音ミクのPVにオーバーレイ表示される大量のコメント。PCやスマートフォンでお馴染みのニコニコ動画が、テレビの大画面で楽しめるのは新鮮だ。また、PCで既にniconicoを楽しんでいる人だけでなく、“テレビから初めてniconicoに触れる”という人も生み出す、興味深い展開でもある。その詳細や狙いについて、キテラスにお話を伺った。
対応していただいたのは、キテラスの鈴木慎之介代表取締役社長、今回のテレビ対応に関する企画を手掛けているコンシューマーエレクトロニクス事業部 事業企画セクション 栗栖到セクションマネージャーの2人だ。
■niconicoをマルチデバイスへ
テレビの大画面でニコニコ動画が楽しめるようになった |
キテラスという会社は今年の2月に設立されたばかりであるため、まだ耳慣れない人も多いだろう。ドワンゴの100%出資子会社で、今回のテレビ向けアプリの他、PlayStation Vita用アプリ「ニコニコ」も手掛けている。
鈴木社長(以下敬称略):ドワンゴの方では現在、ニコニコ動画のPC向けや、スマートフォン向けを主にやっています。我々キテラスでは、“マルチデバイスへの対応”をキーワードに、テレビやゲーム機などを、ニコニコに対応させていくというのを主なミッションとしています。
会社設立の経緯としては、PC向に開発するのと、テレビやゲーム機などを対象としたプログラムを開発するのでは、エンジニアの毛色が違います。QTERASでは後者に強いエンジニアを集め、彼らをより尖らせて、独自に推進して行けるような環境を作るために分社化しました。
2011年6月から提供されている、BRAVIAのアプリキャスト用の4「ニコニコ実況アプリ」 |
――今回のテレビ向けアプリが登場する以前、2011年6月に、BRAVIAのアプリキャスト用に「ニコニコ実況アプリ」が登場しています(※注:テレビ番組の隣に、ニコニコ実況のコメントを表示するウィジェット型のアプリ)。この「ニコニコ実況アプリ」との関係はどうなっているのでしょうか?
鈴木:あのアプリはドワンゴがソニーさんと協力して作ったもので、今回のテレビ向けアプリを作っているキテラスのエンジニアとは、違うエンジニアによるものです。
鈴木社長 |
――なるほど。直接的な関係があるわけではないのですね。キテラスさんが今回リリースしたアプリですが、開発のキッカケとしては、キテラスさん側から各テレビメーカーに話を持ち込んで……と言う流れなんでしょうか?
鈴木:我々からどうですかと持ち込んだケースと、メーカーさんからお話を頂いたケースと両方ありますね。他の取り組みについて話し合いをしているうちに、「こういうの作りましょうよ」という話になったというのもあります。
――経緯としてはメーカー毎に違うんですね。となると、気になるのはソニーとパナソニック以外のテレビへの対応なのですが……。
栗栖マネージャー(以下敬称略):まだ具体的にお知らせできる段階ではないのですが、メーカーという面では今後も広げていきたいと考えています。また、先ほど鈴木も申しましたように、テレビだけでなく、ゲーム機やセットトップボックスなど、他のデバイス、マルチデバイス全部に広げていきたいと思っています。
――ディスプレイがついていて、ネットワークに繋がれば全部という感じでしょうか(笑)
栗栖:全国民をニコ厨化したいですね(笑)
――今回のアプリの開発は全てキテラスさんの方で手掛けているのでしょうか?
栗栖:その通りです。各社さんからテレビの仕様を頂いて、我々がアプリを作り、検証段階でまたメーカーさんにご協力を頂いて……という感じですね。
■選べるコメント表示機能
ここでテレビ向けアプリの仕様をおさらいしたい。パナソニックのVIERAでは、アプリなどをユーザーが追加できるプラットフォームとして「ビエラ・コネクト」が用意されているが、そこに今回「ビエラ・コネクト版『niconico』」が提供された。対応機種は、「ビエラ・コネクト」対応のZT5、VT5、GT5、WT5、DT5、ET5、E5、X50、VT3、DT3、GT3、ST3、RB3シリーズだ。
一方、ソニーのBRAVIAでは、テレビ画面と共にアプリで各種情報が表示できるウィジェット機能「アプリキャスト」をプラットフォームとして用意。ここに登場したのが「アプリキャスト版『ニコニコ動画 ~ピックアップ~』」だ。対応機種は2011年以降発売のBRAVIA(KDL-EX52H/EX42H/HX65Rシリーズ除く)となっている。
注目したいのは、2つのアプリの名称や、UIが異なる点だ。
ビエラ・コネクト版『niconico』。全画面が使われているのがBRAVIA用との違いだ | アプリキャスト版『ニコニコ動画 ~ピックアップ~』のメニュー画面。左側にテレビが表示されている。ウィジェット機能の1つとして提供されているv |
――「ビエラ・コネクト版『niconico』」と「アプリキャスト版『ニコニコ動画 ~ピックアップ~』」を見比べると、UIが異なり、用意されたジャンルも違うように見えるのですが……。
栗栖:ジャンルは一緒ですね。ただ、アプリキャスト版は第1階層、ビエラ・コネクト版は第2階層まで表示されているという違いです。ビエラ・コネクト版は全画面が使えるので、ジャンルを全部表示しようと考えました。
基本的には、各社さんのテレビのプラットフォームに合わせて、最適なアプリを作ろうと考えています。今回は、全画面を有効に使うアプリと、シンプルな形のアプリという2種類ですが、まったく違うパターンのアプリも、今後あるかもしれません。一方で、テレビプラットフォームも願わくば統一フォーマットがあるといいなとも思いますね。
――一概に言うのは難しいかもしれませんが、現在のテレビ側のスペックは、ニコニコ動画アプリを動かすのには十分な能力があるのでしょうか?
栗栖:いえ、まだまだスペックは欲しいですね。そうすれば、もっとサクサク動くようになるでしょうし。今回のアプリもここまでもってくるのが大変でしたが、かなり作りこみまして、できる限りのスピードを実現しています。
――コメントのスクロールも滑らかですよね。コメントのデータはPC向けのものと同じと考えていいのでしょうか?
栗栖:NGワードにかかるものは表示していませんが、基本的に同じです。弾幕も表示できますよ。また、コメントの量を減らすモードと、テロップモードも用意しています。
テロップモードでは、映像にコメントを重ねるのは同じなのですが、映像の上部エリアにだけ流すようになっていて、コメントの背景を、少し暗く透過表示するモードです。後のほうで作ったモードなのですが、白いコメントの文字が読みやすく、個人的にはこれが一番良いんじゃないかと思っています(笑)。
ニコニコの文化としては、コメントをいっぱい出したいと思いますが、テレビで初めてニコニコに触れる人には、普通のテレビ番組のテロップの延長のような気持ちで楽しんでいただけると思います。
画面全体にコメントを表示する通常モード、文字を少なめにするモード、さらに右写真のようにテロップのように上部に表示するモードも選べる |
■PC版とコンテンツは同じ?
もう1つ気になるのは、視聴できる動画の数だ。PC版と同じ動画のラインナップを、そのまま見る事はできるのだろうか? 今回公開されたアプリには、キーワードを入力して動画を検索する機能がどちらのアプリにも無く、あらかじめ用意されたメニューやランキング、もしくは自分のマイリストに登録された動画を楽しむ形になっているため、全部でどれだけの動画が用意されているのか、やや把握しにくくなっている。
――テレビ向けアプリで見られるコンテンツの数は、PC向けとは異なるのでしょうか?
栗栖:テレビ向けに変換したものを用意していますので、動画の本数はPC向けより少なくなります。PC向けは現在約830万という数字を発表していますが、テレビ版はそれより少ないです。例えば、100位までのランキングメニューを、20カテゴリ程度用意しておりますので、現在のところは2,000や3,000とイメージですね。
PC向けと比べるとだいぶ少なくなります。我々としては、テレビで見るというシーンを考えると、投稿されている動画の中でも、質の良いものをリビングルームで出すべきじゃないかと考えています。数で勝負するのではなく、質ですね。
PC版をヘビーに使ってくださっている人は、それはそれで良いのですが、今回のテレビ向けアプリは、「ニコニコって何?」、「VOCALOIDや初音ミクという名前は聞いたことがある」という新規ユーザーさんにも使っていただきたいと考えています。
栗栖セクションマネージャー |
――リビングで家族で楽しんだり、子供も見る事を考えると、あまりそうしたシーンにはマッチしない動画もあると思いますが、そうしたものは出てこないようにフィルタはかかっているのでしょうか?
栗栖:はい。我々の中で安心して皆様にご覧頂けるよう、一番強いフィルタをかけています。また、より安心・安全なコンテンツを揃えた「子供におすすめ」というカテゴリも用意しています。
――先ほどテレビ向けに変換するというお話がありましたが、解像度やビットレートはどのくらいでしょう?
栗栖:そのあたりは、PCと同様に、画質は一般会員向けと、プレミアム会員向けの2段階でご用意しております。
――テレビ側が大画面モデルですと、低解像度の映像を引き伸ばすと画質的に厳しい面もあると思いますが……。
栗栖:ええ。我々として、現時点で画質については凄く満足しているという状態ではありません。地デジの画質に負けたくはないので、まずは地デジと同じレベルの画質を実現できるよう、目指していきたいです。
――最近のテレビでは、引き伸ばして表示する際に超解像技術を使って高画質に拡大するモデルもありますが、そのあたりはこのアプリで使えるのでしょうか?
栗栖:我々独自でアプリ側にそうした機能は入れていません。テレビ側の高画質化機能を、アプリでも使えるかどうかは、メーカーさん次第ですね。
■極限まで操作を減らす
栗栖:PCではできない機能として、一般会員/プレミアム会員登録をしなくても、すぐに動画が見られるようになっています。ただし、1日あたり十数分の時間制限があり、それ以降は、一般会員(無料)の登録をしてもらうという形です。
――現在で、会員登録はPCか携帯電話で行なう形になっているようですが、テレビだけで登録までできるようになる予定はありますか?
栗栖:テレビのリモコンでは文字入力などが難しいので、今のところはPCか携帯電話でという形ですね。携帯電話向けにはQRコードを表示して、それを使って簡単に登録ページにアクセスできるようになっていますが、スマートフォンになるとQRコードを使うのが機種によってはアプリの追加などの必要があり、難しくなるので、このあたりの連携は悩ましいところです。
例えば、PC側でテレビ向けアプリの登録を事前にしておいて、そこで認証コードを発行。テレビ側では、リモコンでそのコードを入れるだけで完了するなどの方法も考えていきたいですね。
十字キーの下を押すと現れる操作パネル。十字キーと決定ボタンで大半の操作が可能だ |
――UIデザインについて聞かせてください。テレビではリモコンを使い、画面サイズも家庭によって異なります。苦労した点も多いのではないですか?
栗栖:おっしゃるとおり、パソコンではマウスとキーボードを使い、難しい操作が可能です。テレビでは、リモコンで“いかに簡単に使っていただけるか”を念頭に開発しました。テレビはリモコンの数字ボタンを押すだけで選局できますが、アプリでも極限まで操作を減らす努力をして、十字キーと決定キーだけで大半の操作ができるようになっています。
それゆえ犠牲になった機能もあります。コメントの投稿です。幕張の超会議では技術展示もしたのですが、実際にリモコンでコメントを投稿するのは大変ですので、今回については見送りました。
しかし、コメントの投稿はニコニコ動画の重要なポイントでもありますので、先ほどスマートフォンの話も出ましたが、そちらで入力してテレビに飛ばす……という方法もあると思います。
――確かに、スマートフォンやタブレットであれば、ある程度快適に文字入力できそうですね。
同じジャンルの動画が次々と表示され、頻繁に操作する必要がない |
栗栖:基本的な使い方として、特に操作をしなくても、動画が次々と再生されていくような作りになっています。テレビの放送は、チャンネルを選べば、基本的に後はリモコンに触らなくて良いですが、リビングで楽しむものとして、ニコニコのアプリもそうあるべきだと考えました。
――「Nsen」と似た考え方ですよね(※PC向けに既に開始されているもので、ジャンル別の8つのチャンネルが用意され、そのジャンルにおいて、話題の動画やリクエストされた動画などが24時間365日ノンストップで配信されるもの)
栗栖:そうですね。Nsenのような機能も、できればやりたいですね。
■今後の機能強化は?
――今回のアプリで、テレビの画面で、コメントをオーバーレイ表示したニコニコ動画が楽しめるようになったわけですが、今後、普通のテレビ放送にコメントを重ねて楽しめるようになる可能性はあるのでしょうか?
栗栖:ユーザーニーズは非常に高いと認識しておりますが、テレビ番組にコメントを重ねるのは権利的なハードルがあるため、今後様々な方面で議論が必要になるかと思います。
――アプリの今後のバージョンアップについても、優先順位が高いものを教えてください。
栗栖:今はテレビのリモコンを使っていますが、これをスマートフォンなどから、もっと快適に操作するためのアプリですね。最近はテレビを操作するためのアプリもありますが、そうしたものを上回る、使いやすいものを作っていきたいです。また、これは先程のコメント投稿とも絡んでくると思います。
また、プレスリリースでも発表しましたが、ニコニコ生放送にも対応予定です。実は、今もグレーアウトしているのですが生放送が選択できて、再生はできませんが、番組のリストが見えるようになっています。
テレビと生放送は相性が良いので、画質などを高め、対応させていきます。時期は申し上げられませんが、できるだけ早く対応したいと思っています。
また、生放送と関連しますが、番組表やタイムシフト機能なども、将来的にやりたいですね。
――PC版とほぼ同じ機能をテレビでも実現していく予定でしょうか?
栗栖:出来ればそうしたいですが、リビングでそこまでしたいか? という機能ももちろんあります。やみくもに機能をどんどん盛り込むよりも、リビングで使いやすいものを選びながら、利便性を高めていきたいですね。
――ニコニコチャンネルにおいて、アニメや映画の有料配信もスタートしていますが、これらに対応する予定はありますか?
栗栖:もちろんやっていきたいです。しかし、画質や、課金を行なう大きな枠(プラットフォーム)も必要になるので、まだ先になると思います。
鈴木:「まずはニコニコ動画から」という感じですね。ニコニコ動画はniconicoの原点ですので。
■初めてniconicoを知るアプリに
――テレビで簡単に楽しめるようになる事で、どんな新規層を開拓していきたいですか?
栗栖:やはり「ニコニコって何?」、「初音ミクって聞いたことあるけれど、どんなものか見てみたい」という人達に使っていただきたいですね。
niconicoの登録会員数は2,808万人、20代の89%が使っているというデータもありますが、逆に他の世代ではまだまだ。「子供にあまり見せたくないサービスだ」と思われている事もあります。
テレビのユーザーさんは、30代や40代の男性が多く、お子さんもいらっしゃると思いますので、親子で楽しんでいただきたい。生放送に対応すると、政治の会見や相撲、野球なども見られるので、お年寄りにも使っていただきたいですね。ただ、新しいテレビを買っても、ネットへの接続をご存じない方も多いようなので、まずは認知を高めていきたいと考えています。
鈴木:新規層の開拓と共に、PCで既に利用している“ニコ厨”な人達にも、もちろん使っていただきたい。その際、利便性を高めるために、例えばAirPlayのように、PCやタブレットでニコニコ動画を楽しんでいる時に、テレビが同じネットワーク上にあるとわかると、その映像を指で送る事で、テレビに簡単に表示できるなど、テレビを“画面として利用する”ような機能も実現していきたいですね。
――今後のバージョンアップにも期待しております。本日はありがとうございました。
(2012年 10月 3日)
[AV Watch編集部 山崎健太郎]