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iPodは“衰退”した? iPodの歴史から考える音楽プレーヤーのこれから

 一時期は話題に乏しかったポータブルオーディオ市場が盛り上がりを見せている。ウォークマン「NW-ZX1/F880シリーズ」やiriver Astell&kern「AKシリーズ」など、「ハイレゾ」ブームもあり、かなり高価なプレーヤーやヘッドフォンが販売好調。新規参入も続いている。

 そんな中で元気が無いように見えるのが、ポータブルオーディオの代名詞的存在といえる「iPod」だ。2014年の新製品としては、リアカメラが復活した第5世代iPod touch 16GBモデルが発売されているが、これは2012年9月発売の第5世代iPod touchのマイナーチェンジ。同じ'12年9月時に発表の第7世代iPod nanoも現役で、実質的にほぼ2年モデルチェンジが行なわれていない。

iPod touch 16GBモデル

 もちろんiPhoneをはじめとする「スマートフォン化」という大きなトレンドの中で、オーディオプレーヤーカテゴリが縮小しているのはわかる。'14年度第3四半期の販売台数はiPodの293万台に対し、iPhoneは3,520万台だ。

ウォークマンNW-ZX1

 ただし、それはiPodやApple製品に限ったトレンドではない。同じくスマートフォンXperiaを手がけるソニーのウォークマンは、'13年にハイレゾ対応を強化し、高音質、高付加価値を武器に人気を集め、Sシリーズなどハイエンド以外でもしっかりシェアを確保し、存在感を高めている。マニアの中ではデファクトスタンダードとも言えるiriverのAKシリーズは、そもそも初代のAK100の発売が'12年10月27日なので、iPod新製品が出なくなってからの2年弱で、現在の地位を築いたことになる。

 iTunes Storeという最大規模の音楽配信サービスと、優れた製品で人気を集めてきたiPodだが、この2年ほどは、大きなムーブメントを起こせておらず、相対的にiPodの魅力は低下していると感じているのは筆者だけではないだろう。

 そこで今回はiPodのこれまでの販売台数などをデータの面で振り返ってみた。

 iPodは、第1世代製品が2001年に発売されているが、Appleでは2003年度第4四半期から決算発表時にiPodの販売台数を公表している。このデータを2004年度から2014年度(第3四半期まで)並べたのが以下のグラフだ。

2004年から2014年のiPod販売台数推移
初代iPod

 販売台数のピークは2008年の5,483万台で、2009、2010年は5,000万台を維持していたものの、新製品の少なくなった2011年から大幅に減少。2012年は2,000万台とピークの約半分となっている。

 iPodの販売という点では、2008年から2010年が黄金期といえるが、ピークとなった2008年は第2世代iPod touchと第4世代iPod nanoが発売され、翌2009年、2010年と、iPod touchとnanoをリニューアルしている。

 もちろん、iPhoneやiPadといった製品は大幅伸長している。販売台数では、iPhoneに'10年第4四半期に抜かれ、以降は差が広がるばかり。iPadにも'11年第3四半期に抜かれている。'14年度第3四半期の台数構成比は5.7:68.5:25.8(iPod:iPhone:iPad)。

iPod、iPad、iPhoneの販売台数推移(単位:千台)

 さらに、売上高を見てみると、'09年第3四半期でiPhoneがiPodを超え、iPadにも'10年第3四半期の市場投入直後に抜かれている。'14年度第3四半期の金額構成比を見てみると1.7:75.7:22.6(iPod:iPhone:iPad)。

iPod、iPad、iPhoneの売上高推移(単位:百万ドル)
約30万円のAK240

 特に売上高を見れば、Appleがより単価の高いiPhoneやiPadに集中し、iPodに力が入らない理由もよくわかる。だが、一方で7万円を越えるウォークマンや30万円に迫るAK240のような高付加価値製品がAppleから生まれなかったのも事実だ。高いブランドイメージや高付加価値製品に強いAppleが、iPhone投入以降に「音楽プレーヤー」としてのiPodの魅力を訴求できていない一例といえる。

 一方で、音楽を取り巻く状況は、ハイレゾのような高付加価値、高音質を求める方向だけでなく、海外で顕著なようにSpotifyに代表されるような定額制(サブスクリプション型)音楽配信サービスが伸長しており、iPod/iTunesという製品やエコシステムが踊り場を迎え、難しい舵取りが迫られているようにもみえる。

 Appleで久々の音楽関連トピックといえば、初夏にヘッドフォンで有名なBeatsを買収した。今秋に噂されるiPhone 6とともに音楽サービスの新展開についても様々な憶測が聞こえてくるが、今一度、「音楽のApple」を感じさせるような、オーディオ製品やサービス提案を期待したいところだ。

(臼田勤哉)