西田宗千佳のRandomTracking

第652回

XREALの「Project Aura」実機体験。軽量ながら「空間コンピューティング」を実現

Google I/O会場内の「アンドロイド関連技術」ブース

今年もGoogleの開発者会議「Google I/O」の取材にきている。

イベントとしては、検索の刷新やエージェンティックAI時代への移行が大きなテーマだ。ただ、AV Watchとしてはやっぱり「目で見て耳で聞く」ものじゃないとちょっと面白くない。

ということで、会場で、XREALが2026年中に発売を予定している「Project Aura」の実機を体験することができた。

昨年のGoogle I/Oで、GoogleはAndroidを使ったXR向けプラットフォームである「Android XR」を発表。その中に、Project Auraの名前もあった。昨年もXREALのシュー・チーCEOに直撃し、狙いや概要を聞いている。

だがこれまで、グラス部以外はベールに包まれ、実機の公開も体験もできない時期が長く続いた。

今年1月のCESでの展示。まだこの時はベールの中で、形状などは確認できなかった

今回は実機が会場に持ち込まれ、短時間だが体験もできた。また、XREAL・チーCEOにもインタビューしている。彼の言葉から、製品の位置付けについて探ってみたい。

XREALのシュー・チーCEO。持っているのは「Project Aura」実機

同時に、Googleはディスプレイ非搭載の「Intelligent eyeware」も発表している。こちらの体験は追って記事にするが、ここではProject Auraと比較しつつ、製品としての位置付けも確認していきたい。

Computuing Puckとセット。メガネ型で上位製品に迫る体験

まず実機をご覧いただきたい。

これは、製品版のパッケージ内容とほぼ同じものだという。ケースの中には、これまでのXREAL製品に近いイメージのサングラス型ディスプレイと、スマートフォンのような形状をした「Computuing Puck」が入っている。

ケースに入ったComputing Puckとグラス

よく見ると、サングラス型ディスプレイには左右と中央にイメージセンサー、さらに中央に赤外線センサーと思われるものが搭載されている。これで自分の位置把握(いわゆる6DoFのポジショントラッキング)と、操作のための手の認識(ハンドリコグニション)を実現する。

XREALの製品は、ポジショントラッキングなどの処理をするために、グラス側に独自のプロセッサーである「X1」シリーズが内蔵されている。Project Auraの場合には「X1S」が搭載される。これはチーCEOによれば「SはスピードのS」だとか。従来よりも高度な処理をする関係上、処理速度を上げたバージョンを採用しているのだという。

Computuing Puckはスマホと同じようなサイズ。しかしディスプレイはついておらず、少し軽い。ポケットにクリップで挟んでつけても、さほど重みは感じない。

Computing Puck。少し小さいスマホくらいの大きさで、ディスプレイはない。グラス部とつなぐので当然

こちらは「Qualcommのプロセッサを使っている」こと以外は、近日中に予定されている正式な発表まで秘密だとか。

Computing Puckを使うというアプローチは、開発をスムーズにして重量やコストを抑える目的では採用されやすい。メガネに処理系を搭載すると、本体が重くなって嵩張りやすい。価格も上がる。そこでXREALとしては、ケーブルで接続するというマイナスはあるものの、「グラス部が軽くなって快適になる」選択を重視した。

「もし2年前にAppleが『Vision Pro』ではなく、1,500ドル程度のこのフォームファクタ(形状)の製品を発売していたら、すでに大成功を収めていたでしょう。 他のメーカーが大きなヘッドセットや日常使いのグラスの開発に忙殺される中で、私たちはその中間にあるカテゴリーを見出しました」

チーCEOはそう自信を見せる。

筆者も体験してみたが、確かに軽量。これまでのXREALの製品に近いサイズだが、体験はかなり異なる。

実機を体験する筆者。グラス部のサイズはこれまでとあまり変わらず。手にしているのがComputing Puck

実機で表示されている画面をお見せできないのでわかりづらいところがあるが、Android XR搭載機としてアメリカ・韓国で昨年秋に発売された「Galaxy XR」のUIに非常に似ている。

以下の画面は、サムスンがGalaxy XRのプロモーションに公開している動画からの引用。ビデオシースルー方式のGalaxy XRと、透明なディスプレイに映像を映すProject Auraでは見栄えが異なるものの、イメージとしてはほぼそのまま、と言っていい。

参考に、Galaxy XRのUI。画像はSamsungの解説ビデオより引用

手を認識しており、人差し指から出ているビーム状のポインタを操作。指先をタップする・ドラッグするなどの動作で、アプリ起動や画面サイズ変更なども行なえる。ポインタ操作に少しクセを感じたが、すぐに慣れるレベル。動作にも重さはなかった。

今回試すことができたのは、YouTubeアプリと、ウェブベースの3Dペイントアプリ。どちらも画質・動作とも良好だ。

重要なのは、他のXREAL製品よりもかなり視野角(FoV、Field of View)が広いことだ。

各製品のFoVは、XREAL Airが46度、XREAL 1Sが52度で、XREAL One Proが57度だ。それに対し、Project AuraのFoVは「約70度」だという。そのため、一見して視野が広い。

他のXR機器のFoV(Vision Proが約90度、Galaxy XRやMeta Quest 3が約110度)に比べると低いものの、メガネ型でこれだけの広さがあれば、実用性は十分に思えた。この光学系は、XREALが「自社の工場で一貫して設計・製造した」(チーCEO)ものだという。 画質・FoVともに、短期間の体験としては良好。しかも、空中に置いたYouTubeアプリのウインドウは、自分が動き回ってもその場所に固定され、あまりズレることがない。

従来のXREAL製品は「ディスプレイを仮想空間内に持ち込む」機能が中心だった。いわば「ベターディスプレイ」である。

一方でProject Auraは、光学シースルー式ではあるものの、Vision ProやGalaxy XR、Meta Questに近い「Mixed Reality機器」であり「空間コンピューティング・デバイス」だ。

有線ではあるが「メガネサイズ+外付け」でここまでできるようになった、というのはかなりのインパクトがある。このくらいのサイズなら、好きなところに持っていって映画やゲームなどのコンテンツを楽しみ、アプリも使える。

今年は「Intelligent eyeware」に注力

一昨年前の年末にGoogleは、AndroidをベースとしたXR機器向けプラットフォームである「Android XR」を発表した。

その最初の製品が、アメリカ・韓国で発売されている「Galaxy XR」だ。まったく同じとは言えないものの、4Kの高解像度ディスプレイを使った「ビデオシースルー型のXR機器」という意味では、Vision Pro対抗と言える。

昨年発売の「Galaxy XR」。撮影は昨年のGoogle I/Oで行なった

他方で、今年のGoogle I/Oでは、Galaxy XRタイプの製品も、Project Auraもアピールはされていない。

昨年は「ディスプレイ付きのスマートグラス」の試作モデルが公開され、今年は2026年秋に「ディスプレイ非搭載のオーディオグラス」を発売する、と発表した。

これら4種の製品はすべて「Android XR」プラットフォームに属する。しかし方向性は異なり、今年は「Android XR」という言い方自体がトーンダウンしているように思えた。 今回発表した「ディスプレイ非搭載のオーディオグラス」タイプの製品の狙いは、スマホと連携し、音声でスマホ+クラウド上のAIを活用する「Intelligent eyeware」を提示することだ。

今年はオーディオグラスを「Intelligent eyeware」として訴求
韓国のアイウェアブランド「GENTLE MONST ER」「WARBY PARKER」とコラボ。製造はSamsungが行なう

カメラ・マイクからの情報をAIで使うという意味では、日本参入を果たしたMetaの「AIグラス」に近い。

Googleは「AIグラス」呼称を使わなくなっているが、なにか意識するところはあるのだろうか

AIの進化がスマートグラスの価値を高める

AIを活かしたメガネ=スマートグラスの訴求という意味では、今回Googleはかなり積極的だった。

多くのAIグラスは、カメラで映った映像に「これはなに?」「翻訳して」といった作業をさせるところからスタートしている。それ自体は重要なことだ。

だがGoogleは、Intelligent eyewareの中で「エージェンティックAIの利用」を強く推した。

エージェンティックAIと通常のAIの違いはなにかというと、エージェンティックAIは「人間の命令を理解した上で、それを実現するために自律的に動く」という点だ。そのためには推論を大量に繰り返すので演算負荷は大きくなる。詳しくは筆者の書いた以下の記事をご覧いただきたい。

「メガネに話しかけると作業を代わりにやってくれる」という姿は、より未来的だ。Googel I/Oの基調講演では、スマートグラスに話しかけてコーヒーを買う作業をする様が公開された。

エージェンティックAIを使ってスマートグラスから音声だけでコーヒーを購入

まさにエージェンティックAIの価値そのものである。当然Metaも、Googleや他のライバルとの対抗上、機能を強化してくるに違いない。

ただ、この記事を書いている段階では、Googleの「Intelligent eyeware」を筆者は体験できていない。「どんなデモをしているのか」は確認できたのだが。別途取材を予定しているので、Intelligent eyewareの詳細は次の記事をお待ちいただきたい。

XREALの担当者は、デモ中に面白いことを話してくれた。

「今見せている3Dのペイントソフトは、AIに命令して作ってもらったもの。ウェブベースの技術でできている。フル機能のChromeが搭載されていて、現在のようにAIによるコーディングが普及してくるということは、3D空間で使うアプリも容易に増やせるようになった、ということです」

もちろん、できること・できないことはあるだろう。

だが、確かに彼のいうとおり、AIの登場と高性能なデバイスの組み合わせがある現在、「ちょっとした3Dアプリを作る」ハードルは低くなっているのは間違いない。

これもまた、AIが「メガネ型デバイス」にもたらす変化の1つだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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