トピック

USB DAC搭載で気軽に本格ハイレゾ再生。“HiFiのヤマハ”を日本でも。新プリメイン「A-S801」

鳥居一豊と、“HiFiオーディオメーカー”ヤマハの出会い

 筆者がまだ小学生だった'70年代半ば、我が家に単品コンポを組み合わせたステレオシステムがやってきた。当時はラジカセこそあったものの、ミニコンポのようなものは登場しておらず、本格的なオーディオ装置を揃えるとすると単品コンポによるシステムになってしまうのだ。音楽といえば、テレビで歌番組を見るくらいの両親がどうして、本格的なオーディオを手に入れたのかはわからない。ただ、誰もが趣味としてのオーディオに憧れる時代であったのだけは確かだ。

 そんなわけで、買ったはいいが誰も使わない装置をいじっていたのが僕で、生まれてはじめて自分のお小遣いで買ったレコード「光の天使」(アニメ「幻魔法大戦」の主題歌/なんとキース・エマーソン作曲)を文字通り、レコードがすり減るまで聴いていた(アニメ好きとプログレ好きは不治の病のようだ)。

 そんな自分にとって始めてのオーディオ装置だが、レコードプレーヤー、チューナ、アンプ、スピーカーがすべてヤマハ製。つまり、ヤマハのシステムセットだったわけだが、当時の音を今でも覚えているというわけでもなく、ただただコンポーネントに刻まれた「NATURAL SOUND 〜」というフレーズが不思議と記憶に残っている。

 個人的な回想はこれくらいにして、ヤマハのHiFiコンポーネントの話をしよう。オーディオマニア的には、フルサイズの単品コンポーネントを同じメーカーで揃えるなんてナンセンスと言われそうだし、若い人だと「なぜヤマハ?」などと思う人もいるかもしれない。しかし、その当時のヤマハは、数多くのファンに支持された名スピーカーである「NS-1000M」('74年発売)など、スピーカーをはじめとするオーディオ機器の人気ブランドだったのだ。その後もCDプレーヤーの登場期では、自社開発のデジタル・シグナル・プロセッシング(DSP)技術を駆使した先進的な製品を続々と投入し、その人気を高めていた。

 しかし、今のヤマハはピュア・オーディオというよりもAVアンプを始めとする“ホームシアター”のイメージが強い。これは、'90年代に自社の強みであるDSP技術や、サブウーファなどで採用したYST(ヤマハ・アクティブ・サーボ)技術などを活かすため、国内ではジャンルとして定着しはじめたAV/ホームシアターに注力したため。そのおかげで、AVアンプでは長年トップシェアとなり、各社の混戦が続くここ最近でも今年の上半期はトップシェアを取り戻すなど、有力なブランド力を示している。

 相対的にブランド力が弱まってしまっていたのがHiFiオーディオだ。最近のヤマハのHiFiオーディオというと、スピーカーのSoavoシリーズ(2006年)や、S2000シリーズ(2007年)などで久しぶりにHiFiオーディオに“復帰した“という印象がある。PCオーディオ系の人気の高まりに乗っかって、昔取った杵柄で、再び高級オーディオをやりはじめたのではないか……言い方は悪いが、そんなイメージを持っている人もいるかもしれない。

 しかし、国内がAV/ホームシアターに舵を切った'90年代以降も、HiFiオーディオ機器の開発・生産は、欧州や北米などの海外向けを中心にずっと継続していたのだ。特に、日本に次いで“音質にうるさい国”といわれるドイツでは、ヤマハはAV/ホームシアターではなく、今もHiFiオーディオのトップメーカーとして認知されているそうだ。

 海外ではエントリーからミドルクラスの豊富なラインナップを定期的にモデルチェンジし続けており、技術も蓄積している。決して、昔の老舗ブランドが久しぶりに本気を出したというようなものではなく、世界を舞台にずっと継続してきた製品群であるということはよく知っておいてほしい。“継続は力なり。”なのだ。

A-S801の音決めも行ったという試聴室にて、ヤマハのHiFiオーディオへの取り組みについて話を聞いた

プリメインアンプにDACを内蔵した「A-S801」

 今回紹介するのは、プリメインアンプの「A-S801」(10万円/実売約86,000円)だ。海外モデル「A-S701」をベースとした日本向けのスペシャルチューニングモデルで、DACにESSの「SABRE 32(ES9010K2M)」を搭載し、デジタル入力に加えてUSB DAC機能も備えていることが特徴だ。組み合わせとして、CDプレーヤー「CD-N301」(5万円/実売約43,000円)で聴いてみる。

 A-S801のUSB DAC部は、DSD 2.8/5.6MHzにネイティブ対応、リニアPCMも最大384kHz/32bitに対応。専用ドライバは、最新のASIO 2.3準拠のヤマハ・スタインバーグ製となっている(ASIOインターフェースの策定など、音楽制作の現場やDTMで著名なスタインバーグは今はヤマハの子会社だ)。こうした最新鋭の技術が盛り込まれ、PCオーディオ再生にもマッチする現代的なプリメインアンプとなっている。

A-S801の前面。四角いスイッチやトーンコントロールのつまみが、ヤマハのHiFiの特徴的なデザインを踏襲している。なお、写真は試作機のため、入力セレクターの並びが製品版と異なる
背面。左側にアナログ入力系に加え、上部にはデジタル入力系、中央下段にスピーカー出力。インピーダンス切り替えスイッチはスピーカーに合わせて選択する
デジタル入力部。左から光/同軸デジタル、USB A端子。給電用のUSB B端子もある
スピーカー端子部。金メッキ製の端子は、バナナプラグを使った接続にも対応している
A-S801の側面部。鋼板を折り曲げたスチール製で、天板と一体になっている

 当時の意匠をセンスよく受け継いだ現行モデルには懐かしさを感じる。よく見ると中央下側に入力されたデジタル信号の種別を示すインジケーターがある。なお、写真の試作機では入力セレクターの左下にUSB入力があるが、製品版では上にUSB、OPTICAL、COAXIALと、デジタル入力が3つ並ぶ配置に変わるそうだ。それらが「デジタル入力対応」をアピールする数少ない部分で、前から見ただけでは従来通りのプリメインアンプだと思ってしまうだろう。

製品版のセレクター。上部にUSB、OPTICAL、COAXIALが並んでいる
ヤマハミュージックジャパン AV流通営業本部企画室 広報の安井信二氏

 基本的な作りも、ベースとなったプリメインの「A-S701」にデジタル入力、およびUSBデバイスコントローラーなどを備える基板を追加したシンプルなもの。この基板はAVアンプからの流用かと思ったが、このクラスのAVアンプではESSのDACチップは採用していない。A-S801用に、新設計されたデジタル回路だという。当初は同クラスのAVアンプと同じTI製を予定していたが、DSD 2.8/5.6MHzやPCM 384kHzに対応するため、ESS製に決まったという。

 ヤマハでは、A5000シリーズなどの高級モデルはもちろん、AVアンプでも上位モデルではESSのDACチップを使うことが多いが、他社もそれに近い傾向がある。低ジッタであるとか、特性の良さなどが理由のようだ。とはいえ、ESSのDACにもさまざまな使いこなしがあり、同じDACだから音も同じとは一概には言えないようだ。例えばES9012K2Mは、音質的な傾向として低音を出すのが難しいそうだ。また、内部にクロックを内蔵しているが、これを使うか、別途外部にクロックを置くかなど、使いこなしによって最終的な音はかなり変わるという。

 一方、プリメインアンプとしての基本的な回路設計は、これまでモデルを踏襲しているという。海外主体で継続的に開発されてきた事で、細かな部分の改善が積み重ねられた、信頼性の高い設計だ。

 その一つが、ヤマハ伝統と言える設計思想の「ToP-ART(Total Purity Audio Reproduction Technology)」。左右対称のコンストラクションや、信号経路の最短化・ストレート化を追求したレイアウトを採用。パワーアンプ回路基板には、独自の特殊樹脂フレーム「アートベース」を配した振動対策を行なうなど、音楽信号の流れに忠実であることを目指した設計思想だ。

シンメトリカル&ダイレクトのToP-ART思想を導入

 A-S801では、ハイレゾ音源に対応ということもあり、さらに振動対策も徹底している。「アートベース」とスチールフレームを組み合わせたシャーシは、底面のシャーシを二重構造とし、フレームの中央部には補強のサブフレームを組み合わせることで剛性を強化。リアパネルの制振も行なっている。

A-S801の底面。放熱口部分にはリブを設けて強度を高めている
インシュレータは樹脂とゴムを組み合わせたタイプ。効率良く振動を遮断する
付属のリモコンは、CDプレーヤーなども操作可能なタイプ。入力切り替えも各入力をダイレクトに選択できる

 現代のプリメインアンプとして、欠かせないのがノイズ対策だ。今やプリメインアンプでも、入力セレクターなどは電子式で、ボリュームもリモコンで使える電動式だ。これらを制御するマイコンなどと、アナログ回路系は電源を分離。不要なノイズの流入を抑えている。

A-S801の内部
ヤマハミュージックジャパン AV・流通営業本部 企画室 プロダクトマネジャー HiFiコンポ担当の岩本祐太郎氏

 同様にデジタル入力やUSB DAC部の回路基板がある点も、デジタルノイズの発生がありうるという意味で音質的な影響を気にする人もいるだろう。この点については実にシンプル。アナログ入力系を選んだ場合、デジタル入力部の回路への電源がオフになるという仕組みだ。

 パワーアンプ回路はオーソドックスなパラレルプッシュプル構成で、これも長年熟成された設計となっているという。A-S801では、これに加えて徹底した音質チューニングが行われる。チューニングのポイントは、「音楽を聴いて楽しいか?」だという。

 たとえば、シャーシの設計が十分に剛性が高いため、ガチガチに固めてしまうのではなく緩めることも必要だった。脚部のインシュレーターも金属製では音が硬くなってしまうため、あえて樹脂製を選んだそうだ。剛性を追求しすぎると、音の硬さや抑圧感が出てしまうという。ポイントを抑えて緩めることで、開放感やのびのびとした音楽的な鳴り方になる。

CD再生に加えて、ネットワーク再生も可能なCD-N301

 組み合わせるCDプレーヤー「CD-N301」も簡単に見ていこう。HiFiオーディオのラインナップでは、ローエンドに当たるモデルだが、単なるCDプレーヤーではなく、ネットワーク再生機能も備えている点が特徴だ。電源ボタンやディスク操作のためのボタンは四角形で、基本的なデザインはアンプと共通している。ディスクトレイも薄型でスマートかつシンプルな印象だ。

 DACはバーブラウンの192kHz/32bit対応のものを採用。CD系とネットワーク系回路で電源を独立したダブル電源構成など、相互の干渉を抑えた設計になっている。ネットワーク再生では、192kHz/24bitのWAV/FLAC形式のハイレゾ音源をサポート。このほか、iPhoneなどのiOS機器などとのネットワーク再生が可能な「AirPlay」、インターネットラジオ「vTuner」機能も備える。

CD-N301の正面。一般的なCDプレーヤーと比べて操作ボタン類が多めなのは、ソース切り替えや、ネットワーク再生の楽曲選択用のジョグダイヤルを備えるため
ディスクトレイの右にあるイジェクトボタン。ディスクトレイと幅を揃えた細長い四角形状となっている
右側にある再生操作ボタン。大きめの丸いツマミは、ジョグダイヤルで再生リストのスクロールが可能。押し込むと決定となり再生が始まる

 CDドライブ部も、シャーシに面で固定して剛性を高めたほか、再生時の不要な振動を抑え込む独自の高剛性ローダーサポートを採用する。光学系は現在では珍しいCD専用の光学ピックアップを使用するなど、比較的安価なモデルながらCDの高音質再生をしっかりと追求したモデルだ。

CD-N301の側面。こちらも鋼板を折り曲げた天面と一体型の構造。高さを抑えたスリムなサイズであることがわかる
CD-N301の背面図。アナログ音声出力、デジタル出力(光/同軸)に加えて、ネットワーク端子を備える
CD-N301に付属のリモコン。A-S801と同じデザインで、ダイレクト選曲用の10キーなどのボタンを配置している。下部にはプリメインアンプの基本操作ボタンもある

 フルサイズのコンポとしてはスリムであり、A-S801も高さを抑えている。日本ではフルサイズのコンポは今や大きすぎると感じる人が多いので、なるべく高さを抑えるようにしているという。ちなみに欧米ではフルサイズコンポはごく普通に受け入れられていて、逆に日本で人気が高まっているハーフサイズ以下の小さなコンポは珍しいそうだ。

CD-N301とA-S801を並べたところ。CDプレーヤーと比べるとプリメインアンプはどうしても背が高くなるが、一般的なアンプと比べるとコンパクトなサイズだ

CD-N301+A-S801、スピーカーはB&W「CM5 S2」で聴いてみる

 試聴では「CD-N301」と「A-S801」にペアに、B&Wの新モデルである「CM5 S2」(ペア18万円/ウォールナット仕上げ)を組み合わせてみた。これまでのCMシリーズで採用されてきた技術を総括し、ラインナップを一新した新CMシリーズの1モデルだ。2ウェイブックシェルフ型のCM5は、ダブルドーム型となった新ツイータをフローティングマウントで搭載。ウォーブン・ケブラーコーンの165mm径ウーファは従来と同じだが、エンクロジャーへのマウント方式を変えたほか、振動板の中央に防振プラグを備えた。ネットワーク回路に使用するパーツもグレードの高いコンデンサを採用するなど、中身も一新している。

B&WのCM5 S2。一見すると従来モデルと大きな変化を感じないが、ツイータ周囲のプレートが小さくなるなど、細かな違いは随所にある
保護用のグリルカバー。磁石で取り付けられており、取り外すための磁石ツールが付属している
グリルカバーを装着した状態。トウィーター振動板は薄いため、子供のいる環境などではグリルを装着しておいた方がいいだろう
背面。バスレフポートは後方に装備。スピーカー端子はバイワイヤリングに対応している
バスレフポートを付属のアクセサリで塞ぐことも可能。置く場所に合わせて低音を調整できる
A-S801、ノートPCと組み合わせた状態。この組み合わせでPCオーディオが楽しめる。ブックシェルフ型なので、フルサイズとはいえ、ちょっとしたスペースがあれば、十分に設置可能だ

 これらを自宅の視聴室に設置して試聴を行なった。試聴機はいずれも決して大きくはないので、設置は比較的スムーズ。数日ほど鳴らし込みを行ってから、試聴に臨んだ。

CM5 S2を設置した状態。両端に見切れているのは常用のB&W マトリックス801 S3。スピーカーの間隔は2m弱となっている

 まずは、CD-N301とA-S801をアナログ接続で組み合わせ、CD再生を試してみた。試聴ソースは、サイモン・ラトル指揮/ベルリン・フィルによるシューマン交響曲全集より「交響曲第2番の第4楽章」だ。このパッケージは、ハイレゾ音声を収録したBDM、2枚組のCD、そして、ハイレゾ音源(192/24bit、96kHz/24bit)のダウンロード権がセットになったパッケージで、さまざまなソースによる音の違いを聴き比べるのにもぴったりのセットだ。

 CDの音は、低音の充実した安定感のある再現で、各楽器が一斉に音を出したときの雄大さが力強く再現された。ベルリン・フィルハーモニー・ホールの爽やかな音の響きや各楽器の音色の美しさも丁寧に描くが、音の粒立ちの良さやキリリとした音色の立ち方が強まる感じだ。

 ボーカル曲は「アナと雪の女王」の「Let it go」(劇中版)を聴いたが、伴奏のピアノの低音がパワフルで、リズムも力強い。声はクリアでしかも高域の伸びも綺麗だ。CD音源らしい輪郭の立ったキレの良さがあるせいか、低音の力感がしっかりと感じられ、パワフルで聴き応えがある。

ラックに置いたCD-N301。すっきりとしたシンプルなデザインのせいもあり、スマートな佇まいだ

 今度は同じ音源を、ネットワーク経由で聴いてみる。素材はCDからリッピングした44.1kHz/16bitのもので、基本的な違いはCDドライブ再生かNASに保存したWAVデータの再生かという違いだ。再生操作は、iOS用の専用アプリ「NETWORK PLAYER CONTROLER」を使用。わかりやすい操作画面でブラウズもしやすく、快適に操作できる。

 基本的な音調はCD再生と同様。低音がしっかりと伸びた安定感のあるバランスだ。違いは音場感で、奥行きがしっかりと感じられ、各楽器の配置も立体的になる。個々の音は粒立ちの良いクッキリとした再現なので、音場感が豊かになるといっそうベルリン・フィルハーモニー・ホールの臨場感が増してくる。特徴的なヴィンヤード(ワイン畑)型のホールが頭に浮かぶ開放感のある音だ。

 「アナと雪の女王」でも、声がよりしっかりと前に出て、ステージ感がはっきりと出てくる。伴奏やリズムの力感、歌声の力強さがよく伝わる音だ。

 厳密に聴き比べると、音場感や空間の広がりが豊かになるネットワーク再生の方が音の点では優位ではあるが、12cmディスクを高速で回転させるという不利を背負ったCD再生でも肝心の音色や細かいニュアンスなどをしっかりと再現できているのは良かった。

 続いて、ネットワーク再生でハイレゾ音源を聴いてみた。楽曲はさきほどの「シューマン/交響曲第2番第4楽章」で、ダウンロードしたハイレゾ音源を同じNASに保存して聴いている。

 96kHz/24bitでは、音のエッジが滑らかになり、感触がやわらぐ。ステージもぐっと奥行きを増し、ホールの美しい響きもあって、客席から聴いているような感じが増す。音像の配置はやや遠くなったと感じるが、個々の楽器の音色の明瞭さや微小なニュアンスはさらに豊かになっており、より鮮明な演奏になる。

 192kHz/24bitになると、楽器の音色のみずみずしさが増す。ニュアンスは極めてきめ細かく、表情が豊かだ。こうしたハイレゾ音源の聴き比べでは、エッジの効いたCD音源に対し、192kHzは上品で繊細になり過ぎて、ちょっと華奢な感じになることが少なくないが、この試聴では、低音感の力感やしっかりとした音の芯が保たれているため、繊細さと力強さが両立した質の高い演奏を楽しめた。

 「CM5 S2」も決して大型とは言えないサイズながら、しっかりと低音が伸び、コントラバスのような低音楽器の音も非力さを感じさせない。音源の情報量が増えるほどに音色の精細感やニュアンスの再現性が増えてくるのは、スピーカーの解像感の高さもあるだろう。非常に質の高い演奏を満喫できた。

 CD-N301とA-S801は両方で15万円ほどになる組み合わせだが、実力はかなりのものだ。特にA-S801の約10万円という価格は中〜上級コンポの範疇だが、音はそれ以上の実力があると感じる。「CM5 S2」は、S2となって実力が大きく向上しているが、非力なアンプだと実力を発揮しにくい手強さはある。それをしっかりと駆動するドライブ能力は見事だ。

 定格出力は100W×2ch(8Ω/20Hz〜20kHz/0.019%THD)だ。出力値自体は標準的なものだが、注目すべきは( )内の数値。これは高調波歪み率(THD)を示したもので、20Hz〜20kHzで高調波歪みが0.019%含まれるという意味だが、音色のチューニングだけでなく、こうした特性の改善にも力を注いでいるという。日本向けにチューニングしたモデルというだけあり、かなり真面目に作り込まれたモデルというわけだ。

ピュアダイレクトにCDダイレクトアンプ、音質をさらに高める機能も

 A-S801の「ピュアダイレクト」と「CDダイレクトアンプ」機能も試してみた。「ピュアダイレクト」は、多くのオーディオ機器に搭載されているが、基本的にはトーンコントロール、ラウドネス、バランス等の回路をバイパス、音質調整のための回路を経由せずにソースの音をそのまま再生するもの。A-S801も同様だ。

 「CDダイレクトアンプ」は、それをさらに推し進めたもので、入力セレクターもパスする。回路上ではCD入力に接続された信号を差動増幅のバッファアンプを介してボリューム回路へ直結する。違いとしては、「ピュアダイレクト」はすべての入力で使用できるが、「CDダイレクトアンプ」はCD入力のみ使用できる機能という違いがある。

 先ほど聴いたハイレゾ音源で試してみると、「ピュアダイレクト」は多少音の明瞭度が上がった気がするものの、大きな違いはない。その理由はもともとトーンコントロール類の調整を行なっていないため。信号経路が短くなる良さはあるが、歴然とした差は少ない。

配線の都合で、A-S801は床置き。写真からは見えないが、10mm厚の大理石のボードを敷いて床からの振動の伝播を防いでいる

 今度は「CDダイレクトアンプ」にしてみたが、S/N感が向上し、ステージの広がりがより豊かになったと感じた。ハイレゾらしいステージ感がより明瞭になるし、音の粒立ちも良くなる。表現の豊かさを存分に味わえる音だ。単に回路をバイパスするだけでなく、入力端子とボリューム間を直結する経路の違いが効いているのだろう。入力端子が限定されるので決して使いやす いものではないが、CD入力には手持ちの機器の中でも特に音の良い機器を組み合わせ、「CDダイレクトアンプ」で聴くのがベストな使い方と言えそうだ。

 興味深かったのはデジタル入力。CD-N301とA-S801を同軸デジタルで接続、比較用にアナログ接続と同軸接続を両方行ない、セレクターで切り替えながら聴いてみたが、アナログ入力からデジタル入力へ切り替えると、一瞬音が途切れ、わずかな間があって音が出てくる。この理由は、アナログ入力時はデジタル系の回路への電源がOFFになっているため。デジタル回路が動作して音が出るまでに少しのタイムラグがあるわけだ。

 こうした比較試聴をしなければ、気付かないレベルの現象だし、実用性が劣るものではないが、前半でも触れたアナログ入力を使っている時は純粋なアナログアンプとして動作しているということが実感できる挙動だった。

 デジタル入力に切り替えると、それまでの低音のしっかりとした安定感のある音が、音の粒立ちや解像感が際立つ、より鮮度の高い演奏になった。S/Nも大きく向上するようで、微小な音の響きの消え際や、音色の透明感などがより豊かになる。これまではヴァイオリンパートのメロディという感じで、楽器群として聴こえていた音が“いくつかのヴァイオリンで弾いている”とわかるような写実的な表現になる。

 低音の伸びや、引き締まった力強さは変わらないのだが、デジタル入力では、より解像感や細かな音の表情の違いが際立つ。個人的な印象としては、CD再生などはアナログ入力の方がパンチの効いた音で楽しいと思うし、ハイレゾ音源の、今回のようにクラシック演奏を聴くならばデジタル入力の方が好ましかった。ただし、ハイレゾ音源でもアナログ入力で「CDダイレクトアンプ」を組み合わせたときの音も捨てがたいものがある。これはなかなか楽しい悩みだ。ぜひ自分のよく聴く楽曲で音の違いを聴き比べてみてほしい。

PC+A-S801で再生。DSD音源も聴いてみる

 最後はPCとUSB接続し、USB DAC機能を試してみた。PCは自前のWindows 8.1マシンを使用し、ヤマハ・スタインバーグの専用ドライバーをインストール。再生ソフトは「Foobar2000」としている。DSD音源はもちろん、192kHz/24bitのWAV音源などもきちんと再生できた。

 ここまで聴いてきた「シューマン/交響曲第2番第4楽章」(192kHz/24bit)を再生。音の粒立ちの良さや解像感の高さなどはデジタル入力に近い感触だ。1つ1つの音がストレートに出ている印象で、多くの楽器が一斉にクレッシェンドで音を出すような場面でも、細かな音が混濁することなく鮮明に描き出される。ホールの響きや細かな美しい音色もしっかりと繊細に描かれるなど、出てくる音のリアル感が高まる。もちろん、ややタイトながらも低音も力強く出て、広いホールを埋め尽くすような雄大さもきちんと再現できる。

 CD-N301では再生ができないDSD音源を聴いてみた。曲は愛聴盤のひとつでもあるジム・ホールの「アランフェス協奏曲」(DSD 2.8MHz版)。ギターの奏でる表情豊かなメロディーが実に生々しい。DSDの持ち味であるニュアンスの豊かさやなめらかな感触がよく出た音で、高解像度ではあるがデジタル的な硬さの感じないしなやかで自然な音色が楽しめた。DSD 5.6MHzのボーカル曲なども聴いてみたが、音の鮮度の高さや実体感の音など、DSD音源らしい自然な表現を満喫できた。

 A-S801を、初のハイレゾ再生対応機器として購入する人もいると思われるが、そんな人にマッチする「ハイレゾ音源プレゼントキャンペーン」も実施されるそうだ。名前の通り、ハイレゾ配信サイトで3,200円相当の楽曲をダウンロードできるコードがもらえるというもので、対象モデル(A-S301/CD-N301/A-S501/A-S801)のいずれかを購入し、特設サイトに必要事項を入力すると、メールでコードが送付される。詳細は専用ページに記載されている。

音楽を美しい音で楽しめる注目モデル

 特に、海外でのヤマハの音への評価に「YAMAHA Beauty」というものがあるそうだ。これは美しい音を褒め称えるだけの表現ではなく、「美しいがやや弱々しい」という意味も含まれているという。現在のハイエンドモデルの開発では、こうした評価に対し、美しい音というヤマハの持ち味を活かしつつ、音楽を支える低音の再現性にもこだわってきたという。こうした音作りやノウハウが、当然ながらA-S801やCD-N301にも受け継がれている。

 ヴァイオリンやピアノの美しい高音の響き、女性ボーカルの透明感はとても美しく、しかも伴奏の刻むリズムもしっかりと力強い。言わば、新しい境地に到達した「YAMAHA Beauty」を身につけたと言っていい。

 CD-N301とA-S801の組み合わせだけでなく、CD再生からネットワーク再生、USB DACによるPCオーディオと、さまざまなスタイルがに対応できるのも大きなポイントと言えるだろう。A-S801の実売は約86,000円と、入門機と言うにはちょっと高価ではあるが、現代のオーディオのスタイルをすべて網羅できる点を考えると、「本格的なオーディオ装置を揃えよう」と思い立った時に、ちょっと背伸びをしてでもこの組み合わせを選べば、よりオーディオを楽しめると思う。

 ハイレゾの盛り上がりをきっかけに久しぶりにオーディオをやってみようという人や、普段はヘッドフォンとポータブルプレーヤーで聴くが、スピーカーを使ったオーディオにも興味が出てきたという人には、お薦めできるモデルだ。

(協力:ヤマハ)

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40〜60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。