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音はDACチップではなく“料理”で決まる!? LUXMANの挑戦的USB DACアンプ「DA-250」

 様々なメーカーから発表されるUSB DAC内蔵ヘッドフォンアンプ。数もさることながら、サイズは超小型から据え置き型まで、価格も1万円以下から数十万円と多種多様だ。PCから伝送された音楽データを、ヘッドフォンやラインから出力する基本機能は同じなのに、どこに違いがあるのか疑問に思う人も多いだろう。

ラックスマンのUSB DAC内蔵ヘッドフォンアンプ「DA-250」

 違いを調べようと各社製品の仕様を見比べると、DACチップの欄に目がいく。「ESSの◯◯」、「バーブラウンの◯◯」、旭化成の……項目として比較しやすいので、ついCPUを見ながらパソコンを選ぶような感覚で、「このDACチップが高性能だから、それを搭載しているUSB DACが良さそう」と判断しがちだ。だが、実際にUSB DACを開発しているメーカーに聞くと、そう単純な話ではないようだ。

 DACを含め、パーツや技術はどのように搭載されていくのか? ピュアオーディオメーカーの老舗ラックスマン(LUXMAN)が11月20日に発売した「DA-250」を、そんな切り口で紹介したい。17万円とUSB DACとしては比較的高価な部類だが、ラックスマンの製品としてはリーズナブルだ。2010年に発売され、大きな話題となった「DA-200」の後継モデルと言えばわかりやすいだろう。デザインに大きな変更は無いが、中身はかなり面白いモデルに進化している。

販売してみたらヘッドフォン利用が多数

 前モデルの「DA-200」が発売された2010年と言えば、96kHz/24bit対応だ、こちらは192kHz/24bit対応だと、対応データの豊富さを各社が競っていた時期。そして、小規模メーカーが開拓したUSB DACやPCオーディオ市場に、ラックスマンのようなピュアオーディオメーカーが本格的に参入し始めようと動き出した時期でもある。

 「DA-200」は約15万円と、ラックスマンとしては低価格なモデルとして登場。PCMは96kHz/24bitまでの対応で、DSDにも非対応だったが、音の良さで話題となり、人気モデルになった。なんと、発売から1年ほどは受注残、つまり注文を受けたが品薄で納品ができない状態が続いたというから驚きだ。

下段が従来モデルのDA-200、上段がDA-250
筐体のサイズは同じだが、ディスプレイが2段表示になり、ボリュームやセレクタのツマミもより回しやすいタイプに進化している
DA-250は電源ボタンまわりがくぼんだデザインに
開発本部本部長の長妻雅一氏

 ポータブルオーディオやテレビなどのAV機器と違い、高価なモデルを少量販売する事が多いピュアオーディオメーカーにとって、沢山の注文が殺到するというのは珍しい事だ。「日々、沢山の箱が出荷されて、営業マンがお店にうかがうたびに“今日は何個”と注文をいただけるというのは新鮮な経験で、会社にとっても良い刺激になりました。“大量生産・大量販売というのは、きっとこういう感じなんだろうなぁ”という気持ちが味わえました」と笑うのは、開発本部本部長の長妻雅一氏。以前も開発現場で音へのこだわりを伺った、“ラックスマンの音を担う”マイスターだ。

 注文が殺到したという事は、ラックスマンが従来からメインターゲットとしている、専用オーディオルームにフロア型スピーカーをドンと設置するような、いわゆる“ピュアオーディオファン”ではない層にも広く受け入れられた結果だ。ユーザー層の拡大という意味では万々歳だろう。しかし、それゆえ想定外の事も多くあったという。

長妻氏(以下敬称略):DA-200はヘッドフォンアンプも備えたUSB DACですが、使われ方としては、オーディオシステムに単体DACとして組み込む、ライン出力がメインになるだろうと考えていました。比率としては単体DACとしての使用が7割、ヘッドフォンが3割程度と予想していたのです。

 しかし、蓋を開けてみれば真逆、なんと約7割のユーザーがヘッドフォンアンプとして活用。フジヤエービック主催の「ヘッドフォン祭」では、若いヘッドフォンファンがラックスマンブースに集まり、以降ヘッドフォンまわりを中心に、様々な要望が寄せられる事になったという。

長妻:DA-200の後継モデルを開発しようと1年以上前から動いていましたが、こうして寄せていただいた沢山の要望に応えていくだけでも、まったく別物になるくらいの変更点がありまして(笑)。苦労しましたが、DA-250はかなりユーザー様の期待に応えられるモデルになったと自負しています。

開発スタート前に作成された、ユーザーの要望に応える「マインドマップ」

デバイス自体より“料理の仕方”が大事!?

 気になるDACから見ていこう。DA-200は、TIのバーブラウン製「PCM1792A」を搭載していたが、新モデルのDA-250では「PCM1795」に変更された。PCM1795は、入力データを内部で352.8/384KHz、32bitにアップコンバートして処理するチップだ。

DA-250

 DACに詳しい人はご存知だと思うが、PCM1795は最新チップというわけではなく、グレードも高級パーツというわけではない。いわゆる“定番モデル”で、悪く言うと新鮮味が無い。だが、長妻氏は「それでもあえてPCM1795を選びました」と胸を張る。

長妻:我々は近年、バーブラウンのDACを多く採用していますが、必ずしもバーブラウンしか使わないというわけではありません。旭化成さんやESSさんのDACも、もちろんテストし、検討はしています。それでもあえて(PCM1795を)採用したのは、我々がデバイス自体よりも、“そのデバイスの料理の仕方の方が音への影響度が大きい”と考えているからです。

 2014年に発売した、ディスクプレーヤーのフラッグシップモデル「D-08u」(110万円)には、DACに「PCM1792A」を搭載している。長妻氏は「このモデル以降も1792系を採用してきており、我々が狙っている音を達成するために、系列は揃えたいというのがまずあります」と語る。

 その上で、D-08uの思想を受け継ぎつつ、今年の6月に発売された「D-05u」(35万円)には「PCM1795」が採用された。後にDA-250に搭載される事になるのと同じチップだ。

長妻:D-05uの開発時、PCM1795の音をテストしました。何もしない状態では「このグレードのDACだと、このくらいだろうな」と思わせる、音場に“枠”のようなものが感じられました。低域の押し出し感も、少し弱い印象がありました。しかし、DACの使いこなしを追求していくと、その限界を打ち破って、「1795でもこんな音が出るのか!!」と驚くような結果が得られたのです。そのノウハウを、DA-250にも投入しようと考えました。

USB DAC搭載SACD/CDプレーヤー「D-08u」
USB DAC搭載SACD/CDプレーヤー「D-05u」

 そのノウハウとは、具体的にどんなものなのだろうか?

長妻:例えば、1795は電流出力型のDACですので、後段でI/V変換が必要になります。その後にローパスフィルタが続く、2段構えのような構成です。SN比を良くするためには、一段目でゲインを抑え目にして、二段目でゲインを稼ぐというのが基本的なやり方なのですが、そのゲイン配分のパターンをいろいろ試しました。

 その中で、I/V変換時のゲインを“上げ目”にした方が、むしろ結果が良くなるポイントが見つかったのです。枠組みが小さいと感じていた1795の音が激変し、スケール感が大きくなり、今まで聴いた事のない音になりました。こうした経験がありましたので、DA-250でも1795を使えば良い製品が作れると考えたわけです。

 DA-250のUSB DAC部は、PCMが192kHz/32bit、DSDは5.6MHzまでに対応している。DSD 11.2MHzに対応していないのが消費者からすると気になる点が、それも音質を重視した結果だという。

長妻:11.2MHzに対応させようとすると、現時点ではDACをESSさんか旭化成さんのものに変更するというような選択肢になります。ハイエンドではない、下位モデルからDACを変えていくと、ラインナップとしての音の統一性が崩れてしまいますし、何より今まで蓄積してきたノウハウが活かせなくなります。そこで、DA-250に関しては11.2MHzを諦め、PCM1795を選びました。もしDACを他メーカーのものに変えるとなれば、また次世代のハイエンドモデルから……という展開になるでしょう。

 しかし、デジタルオーディオインターフェイスは最新のものを選びました。具体的には、上位機種と同じバーブラウンの「PCM9211」です。これは非常にジッタの圧縮率が高く、音質的にも非常に効果があります。他社のインターフェイスもいろいろテストしましたが、このチップが一番定位がハッキリし、音場感も正確に出ていました。

LECUAとは何か

 音質やで重要なのはDACまわりだけではない。操作性に直結するボリュームも、音にも大きな影響があるパーツだ。

長妻:DA-200はヘッドフォンと組み合わせて使われるユーザーが非常に多く、ヘッドフォンアンプとしての音質も評価されてのヒットだったと考えています。しかし、ヘッドフォンで聴かれる方が多かった事で、我々が思っていたよりも“ギャングエラーをさらに改善して欲しい”という要望が多く寄せられました。

 ギャングエラーとは、小音量時に知覚される左右のボリュームレベル偏差の事だ。静かな環境でヘッドフォンを装着して、無音の状態から少しずつボリュームを上げていくと音が出るが、その際に片方のチャンネルだけ先に音が出たり、右と左で音のレベルが僅かに違ったりする現象だ。スピーカー用アンプでも発生するものだが、耳とユニットが近く、本当に小さな音まで聴こえるヘッドフォンで、特に気になりやすい現象だ。

長妻:DA-200は“27型”と呼ばれる、レベル偏差の少ない高性能な大型ボリュームを搭載していますが、それでもギャングエラーに関する要望がだいぶありました。これを根本的に解決するためには、超大型のボリュームにするか、電子制御にするしかありません。PCまわりでも使いやすいよう、筐体を大型化しないためにはさらに精度の高い大型ボリュームは搭載できませんので、DA-250では抵抗列構成の電子制御アッテネーター「LECUA」(Luxman Electric Controlled Ultimate Attenuator)を採用しました。

 ボリュームとはとどのつまり、可変抵抗の事だ。ラックスマンは、沢山の抵抗パーツを用意して、つまみを回す事でその組み合わせを切り替えて抵抗値を変えて音量を操作するアッテネーターという方式を採用し、このボリュームという機能に特にこだわりのあるメーカーでもある。

 昔のオーディオ機器に詳しい人はご存知かもしれないが、ラックスマンは'80年代、ボリュームを含めた様々なパーツを手掛けるアルプス電気と資本提携していた。当時より、音量調節にはとことんこだわっており、その行き着いた先として、フラッグシッププリアンプ「C-10」には、超弩級の大型アッテネーターが使われていた。

フラッグシッププリアンプに搭載されていた超弩級アッテネーター

長妻:このアッテネーターは、かなり時間をかけて開発したものです。ロータリースイッチで4連、72接点をガチャガチャと切り替える“力技”のような構造が特徴です(笑)、1つ1つの抵抗列をハンダ付けできる職人さんが1人しかおらず、工賃も高く、サイズも大きいのでフラッグシップモデルにしか搭載できませんでした。

 小型化するためには電子制御化する必要があった。そこで2003年に発売されたプリアンプ「C-70f」に搭載されたのが、下の写真のボリュームだ。歯車のついた円形パーツに穴があいており、その穴を光が通る構造になり、光源の反対側に受光部がある。ボリュームを回すと円形パーツもまわり、光が通る穴が変わり、光が当たる受光部も変わる。そこから角度情報を得て、それに見合った抵抗列がONになるというものだ。

長妻:これを実現するためには、FETのスイッチを接点数分綺麗に配列し、フルバランスの場合は4連で構成する必要があります。電子制御と言いながら、パーツの規模としては全然小さくなっていませんでした(笑)

電子制御化され、「C-70f」に搭載されたボリューム
歯車のついた円形パーツに穴があいており、その穴を光が通る
多数のFETが並ぶボードが、沢山連なっている。穴を通して受光部に当たると、それに見合った抵抗列がONになる

 この電子制御ボリュームが、DA-250で採用されたLECUAのベースと呼べるものだ。世代が進むとコンパクト化され、アンプ回路とLECUAを同じ基板上に配置できるようになった。

長妻:ボリュームをアンプの直近に設置できるというのは、音質面で大きなメリットがあります。ボリュームのノブそのものは筐体前面の近くに配置しますが、背面の入力端子からそこに向かって信号が流れ、音量調節をして、また戻っていく……その経路が短ければ短いほど、音質的にもSN的にも有利になります。

アンプとLECUAを同じ基板上に配置できるようになった

 こうして進化してきたLECUAには、搭載する製品のグレードによってソリッドステート型とディスクリート構成の2種類が存在するという。小型化も追求されており、例えば、従来は100接点作ろうとすると100個の抵抗列を切り替える必要があり、物理的に小さくならない。これを2段階アッテネーターとする事で、10×10のような構成で代替えできるようになった。

 そうすれば、20個の抵抗列で構成でき、大幅に小型化できる。この方式は「LECUA-WM(ウエイティングマトリックス)」と名付けられ、8ch対応のマルチチャンネルプリ「CU-80」に初搭載された。コンパクトにできるだけでなく、コストも低減できるのが特徴だ。

DA-250の内部基板。2段構成になっているのがわかる

 こうした経緯があるため、DA-250のようなフルサイズより小さい筐体にもLECUAが搭載できるというわけだ。ちなみに、ヘッドフォンのバランス駆動(BTL駆動)に対応したヘッドフォンアンプの上位モデル「P-700u」には、このLECUAが4ch分搭載されている(バランス対応であるため)。

 DA-250は、ヘッドフォンのバランス駆動には対応していない。筐体内部の空間にも余裕があるのだろうと内部を見せてもらうと、予想に反してギッシリと基板やパーツが詰め込まれている。聞けば、「P-700u」を超える6ch分ものLECUAが搭載されているという。これはどういう事だろうか?

上がDA-250、下がDA-200の内部。DA-250の方がギッシリ詰まっており、さらに2段構成となっている

 DA-250は、ヘッドフォンのバランス駆動には対応していないものの、背面にXLRのバランスライン出力を備えている。長妻氏によれば、ヘッドフォンアンプ用に2ch分、そして背面のXLRバランスライン出力用に、ヘッドフォンアンプ用とは別に4ch分のLECUAを搭載したという。

DA-250の背面。XLRバランスとRCAアンバランスの出力を備えている

 つまりDA-250は、ヘッドフォンとライン出力では理論上音量が別々に制御できるというわけだ。ライン出力は固定(FIX)と可変(VARIABLE)が選択でき、これを“可変”にして、例えばアンプ内蔵のアクティブスピーカーとDA-250を直接接続すると、DA-250からスピーカーの音量を調節できる。DA-250をプリアンプとして使える事になるので、デスクトップオーディオでPCと組み合わせ、ヘッドフォンとアクティブスピーカーのどちらも楽しみたいという人には便利な機能だ。

長妻:ヘッドフォンの出力とラインの出力は完全に別れているという事です。DA-200のユーザーさんには、ヘッドフォンとライン出力を同時に使われる方が思いのほか多くいらっしゃいました。DA-200は出力回路を共有していたため、負荷がぶら下がる側とそうでない側で、音質的な影響が出てしまう仕様になっていました。

 また、組み合わせるアンプによっては、電源を切った際に入力をショートする製品もあり、そうしたものと接続するとクリップするというクレームもありました。DA-250は、どんな機器と接続しても、ヘッドフォンとスピーカーを同時出力してもネガティブな要素は何もありません。

 なお、ライン出力のバランス端子は3番ピンがHOTになっているが、これを切り替える機能もDA-250には新たに搭載されている。これも、DA-200のバランス出力を活用するユーザーが多く、手軽にピンアサインを変えたいというユーザーの意見を取り入れた結果だ。

ディスクリート回路は適材適所

 ヘッドフォンで聴くユーザーが多かった事から、ヘッドフォンアンプも強化された。新たにディスクリートバッファ回路を追加する事で、駆動力を大幅に向上。DA-200は40mW×2ch(16Ω)、80mW×2ch(32Ω)、130mW×2ch(600Ω)だったが、DA-250では200mW×2ch(16Ω)、400mW×2ch(32Ω)、130mW×2ch(600Ω)となっている。

長妻:ディスクリート回路は適材適所で使っています。例えば電流出力DACの後にあるI/V変換はオペアンプで受けています。DACまわりは信号経路を小さく作るメリットが大きく、オペアンプで受けてしまった方が現時点ではSN比や歪が良くなるという判断です。全てディスクリートで構成すればいいというわけではありません。

 一方で、ヘッドフォンアンプ部分は、オペアンプとディスクリートバッファを組み合わせています。DA-200の時はヘッドフォンがメインで使われると想定していなかった事もあり、オペアンプだけで作っており、オペアンプが壊れないように出力に抵抗を入れていました。

 しかし、抵抗を入れると音への影響が大きくなるため、DA-250ではそれをやめ、オペアンプ+ディスクリートバッファという構成にしました。市場で人気があり、各社に採用されているパワーICも検討、試聴しましたが、音がちょっと詰まってしまう印象を受け、C-900u(2013年発売のハイエンドプリアンプ)で使用したバッファ回路を、規模を変えてDA-250に搭載しました。

 ヘッドフォンのゲイン切り替えの部分にもDA-200ユーザーの意見をフィードバックしています。厳密にいうとゲイン切り替えではなく、アッテネーターの位置で切り替えていますが、一段階の切り替えを9dBとしています(ゲイン:High時)。ヘッドフォンの感度に合わせて音量を調節しやすくなっています。

 使い勝手の部分では、リモコンも新たに付属します。単体DACとして使った場合の利便性を高めると共に、PCMとDSD再生時に、2種類の音色を切り替えて楽しめるフィルタの選択もリモコンからできるようになりました。ボリュームのつまみも、より回しやすいものになっています。

付属のリモコン。離れて操作できるのは、単体DACとして使う際にも便利だ

音を聴いてみる

 どのくらい音は進化したのか? DA-200とDA-250をパソコンと接続、SHUREのヘッドフォン「SRH1840」で、まずはヘッドフォンの音を聴き比べてみた。

 DA-200は、ラックスマンらしい開放的で伸びやかなサウンド。音が広がる空間に枠のようなものが感じられず、余韻がどこまでも広がるような感覚が楽しめる。開放型ヘッドフォンはもとより、密閉型ヘッドフォンと組み合わせても閉塞感を感じない再生ができるだろう。音の色付けも少なく、ニュートラルなサウンド。かといってモニターライクなキツ目の音ではなく、高域を中心に質感描写に優れたしなやかなサウンド。USB DACのスペックこそ一昔前のものになったが、音はまだまだ一級品だ。

 DA-250に交換すると、驚くことに開放的な音場再生が、さらに広く感じる。特に奥行き方向が深く、ヴォーカルの余韻が遠くまで見えるようだ。細かな音と音の間の空間も広く、鮮明になっており、SN比が良くなった事がわかる。

 低域も変わった。音圧がアップし、沈み込みも深い。「山下達郎/希望という名の光」で聴き比べると、ベースの張り出しの迫力や、地鳴りのように沈む「ズズン」という低音の振動もDA-250の方が格段に上だ。

 スピーカーと接続して聴き比べても、大まかな進化の方向は同じ。「宇多田ヒカル/First Love」の音場はDA-250が格段に広くなり、左右どころか、背後まで広がって包み込まれるようだ。

 音像周囲のノイズが減り、中央に定位するヴォーカルの実在感が増している。同時に、全体の音の解像度もアップしているので、立体的な音像の描写がさらに細かくなり、結果として“目の前にアーティストがいるかのよう”というリアリティが向上した。こうした音の変化は、ヘッドフォンや書斎の机の上など、どちらかというと小さな空間で再生する事が多い機器としては大きな利点と言えそうだ。

価格を抑えたチャレンジ製品

 6ch分のLECUAや、ディスクリート回路など、独自の技術やパーツを多数投入し、基板構成もDA-200がメイン1枚+小さい基板1枚だったのに対し、DA-250では大型の2枚構造になっている。可変出力対応で、アクティブスピーカーなどと組み合わせる際のプリアンプとしての機能もアップした。

 筐体サイズは同じだが、中身は完全に別物と言っていい。長妻氏は「基板の設計担当と喧嘩をしながら、それでもなんとかこの筐体に収める事ができました」と笑う。個々のパーツだけでなく、それらを接続する内部配線のケーブルを“よじって”音をまとめるテクニックを使わず、ストレートな状態のケーブルで開放的な音を目指すなど、以前レポートした独自のテクニックも駆使されている。

内部配線のケーブルを“よじって”いないのがラックスマンの特徴。よじって音作りをせず、ストレートな状態で音を追求する事で、開放的なサウンドを実現している
筐体のスペースに収まるよう、特注で作られたコンデンサが並ぶ。基板を2段構成にするため、背が低くなっているのだ

 音は大幅に進化しているが、当然コストも増加。価格はDA-200の148,000円から、DA-250は17万円にアップした。しかし、新たなユーザー層を開拓するためにも「利益率はDA-200からさらに低下しています(笑)。正直に言って、我々にとっては相当チャレンジをしている製品です」。

 USB DACヘッドフォンアンプの価格帯としては、10万円以下がボリュームゾーンだ。長妻氏も「そこ(10万円以下)に行けば、もっとお客さんは多くなると思います」と語る。しかし、「あえて狙わないというわけではなく、求めるクオリティをギャランティすることが“できない”というのが我々のスタンスです。サイズについても“より小さくして欲しい”という要望は頂いていますが、我々のこだわりや独自技術を投入するには、どうしてもある程度のサイズが必要になります。そのこだわりこそが我々のアイデンティティなのです」。

 (協力:ラックスマン)

山崎健太郎