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【ドローン空撮入門】世界中に広がるドローン空撮ブームと国内の現状

 「ドローン」という言葉をニュースで見る機会が増えている。事故や事件になるケースもあり、不安視する声も高まっている。そんな状況だからこそ、ドローンのオーナーは正しい知識とマナーを持って空撮を楽しもう。

ドローン空撮入門

ドローン空撮入門

この記事の内容は、6月19日発売のムック「ドローン空撮入門」(インプレス刊 2,000円/電子版1,800円)から一部を掲載したものです。

話題の「ドローン」といわれるマルチコプターは、これまで撮影できなかった場所や高さから、動画や写真撮影を楽しめるホビーグッズ。大空に飛ばす楽しさにプラス、「絶景写真」が自分の手で撮影できる! 本誌はこの「ドローン」の基本知識や選び方、ルールやマナー、飛ばし方に加え、空撮方法を丁寧に解説。DJI社の最新ドローン「Phantom 3」を使い、動画や写真を撮影する方法が初心者でもわかるように解説! 「安全に」飛行させるための基本操作は、DVDビデオでも解説。今からドローンをはじめる入門者必読の1冊。

ドローン空撮入門(エディトル 編著)
http://book.impress.co.jp/books/1114102049

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ドローンを飛ばすということはどういうことなのか

 今、世界は空前のドローンブーム。各社から本格的な空撮ができる機体が登場し始め、YouTubeには空撮動画が数多く投稿されている。

 これまでもヘリタイプなど、空撮用のラジコンは存在していたが、多くは非常に高価なうえに機材が複雑で、飛ばすためには高い操作スキルが必要だった。その敷居の高さ故に、限られたコミュニティーや業務の中でのみ利用されていたためあまり注目されていなかったという側面がある。

 ところが、コントローラー付きで組み立て不要の、いわゆるドローンと呼ばれるマルチコプターが販売されてから状況は一変した。各種センサーにサポートされたホバリング機能は、手を離しても空中で停止しているほどの安定感を備え、高性能なカメラを搭載しているので、すぐに本格的な空撮が可能になった。この手軽さによって、世界中でユーザーが一気に広がった。実際に撮影してみると、空撮の楽しさは格別で、ぜひ多くの人に体験してもらいたいと思うガジェットだ。

ドローンによる事故の増加とユーザーマナーの向上の必要性

 しかし台数の増加により、ラジコンヘリがもともとはらんでいた危険性も無視できないものになってきた。米国のホワイトハウスでの墜落事故に端を発し、日本国内でもいくつかの事故や事件がニュースとなって、その存在が一般に知られるようになった。

 空中に飛ぶものは落ちる可能性がある。簡単に100m以上の高度まで飛ばせるドローンがもし墜落すると、車や家屋を破損して損害賠償を支払ったり、人に当たればケガでは済まない危険性がある。カメラが付いているのでプライバシーの侵害も心配だ。そういったリスクがある以上、それに合わせてルールが策定されるのは必然と言える。政府を始め、各自治体や公共スペースの管理事務所などもさしあたりの対処としてルール決めを行なっている最中だ。方向性としては、ドローンの操縦を明確に禁止するところが増えている。

 そもそも以前から、特に日本ではラジコンヘリなどを飛ばせる場所は非常に限られていたため、以前にも増して窮屈な思いをする人は増えたはずだ。一部の心ないユーザーの影響で、すべてが規制されてしまうという状況に不満や不安を抱える愛好家は多い。

 このようなニュースが飛び交う中でもドローンはより高性能化し、新しい使い方も提案されていくはずだ。今はまさに過渡期にあり、今後の高いレベルでのルール策定に期待する一方で、ユーザーのマナー向上も必要とされるだろう。ドローンのオーナーであれば、こういった現状を理解したうえでルールを守って楽しんでほしい。

ドローンに関する事件と政府や自治体の対応

1月26日 米国ホワイトハウスの敷地内で落下したドローンが見つかる
3月9日  ドローンの利用拡大を受け、総務省がドローン専用の周波数を割り当てる方針を固める
4月22日 首相官邸の屋上で落下したドローンが見つかる
4月23日 DJIが同社のドローンの飛行禁止区域に首相官邸と皇居周辺を設定
4月28日 東京都、都立公園と庭園、および海上公園へのドローンの持ち込みと操縦を禁止
4月28日 総務省、ドローンで撮影した映像のネット上での公開に対してプライバシーおよび肖像権を侵害するおそれがあると注意喚起
5月18日 つくば市にドローンの試験飛行場が開設
5月21日 ドローンを飛ばすとネット上で予告し、威力業務妨害の疑いで、15歳の少年を逮捕
5月27日 民放連がドローン規制法に対して「報道活動に配慮した規定がない」とした意見書を提出
5月30日 千葉県が県立の14公園で、無許可でのドローン使用を禁止する看板を設置
6月4日 長野市が、市が管理する公園・遊園地の全707カ所で、当面の間ドローンの飛行の自粛を求める方針を発表

必ず知っておきたい最新ドローンの常識

 何かと話題に上がることの多いドローンだが、そもそもラジコンヘリとの違いはどこにあるのだろうか? ここでは、ドローンの基本的な仕組みと特徴をおさらいしていこう。

 本来、ドローンとは遠隔操作が可能な無人航空機全般を指す総称だ。そのため広義では、軍事用途の大型無人機から、ホビー用のラジコンヘリまでを包括する意味になる。しかし、一般的に認知されているドローンの定義は、これとは少し異なり、「コンピューター制御によって自律飛行する無人航空機」とされているのが実情だ。本誌でも、後者の定義に基づくすみ分けのもと、ドローンとラジコンヘリを区別して論じていきたい。

 では、ここで言うドローンとラジコンヘリの違いは具体的にどこにあるのか。まず、ラジコンヘリがすべてをラジオコントロール(無線操縦)で制御するのに対して、ドローンはGPSやセンサーで自機の位置を捕捉することで自律飛行を可能としている。そのためドローンはラジコンヘリよりもホバリング性能に長けており、高い操縦スキルを必要としない分、幅広い分野での利用が期待されている。

 また、ラジコンヘリの多くはメインローターと機体後尾のテールローターによって飛行を可能としているが、ドローンは複数のローターを搭載したマルチコプタータイプが主流となっている点にも注目したい。たとえば、DJIのPhantom 3の場合は、ローターそれぞれの回転数を変えることで、前進や後進、旋回などの微細な動作を実現している。

 手ごろな価格帯の製品も増え、広く浸透してきたドローンだが、その用途は多岐にわたる。たとえば産業分野だと、アメリカのAmazonがドローンを使った配送サービスの運用を発表し、大きな話題を呼んだ。そのほか、農業分野では農薬散布専用ドローン「ザイオンAC940」なども活用されており、空撮や測量に限らず人が立ち入れない場所や配送サービスでの活用に注目が集まっている。

配送サービス 「Amazon Prime Air」
農薬散布専用ドローン 「ザイオンAC940」
特徴1 ドローンが自律飛行できるのはなぜ? →GPSとセンサーがさまざまな環境での飛行をサポート

 ドローンの自律飛行を可能としているのは、GPS捕捉システムと各種センサー類だ。たとえばPhantom 3は、複数のGPSを捕捉することで自機の位置を把握し、多少風にあおられても現在位置上でホバリングし続けてくれる。また、機体下部の超音波センサーとカメラによって、GPSが届かない屋内でも安定したホバリングが可能となっている。これらのセンサー類によって、ドローンはあらゆる環境下での飛行を実現しているのだ。

Phantom 3は、GPSが届かない室内でも機体底部のカメラとセンサーで周囲の情報を検知することで、安定したホバリングを実現している

 ただし逆を言えば、何かしらの要因でGPSやセンサー機能が効かない環境に置かれた場合、本来の安定した飛行も損なわれるということになる。ドローンの操縦が簡単なのは、あくまで機体の性能による部分が大きいことを念頭に置き、無理な飛行は控えたほうが賢明だ。

Phantom 3の「DJI Pilot」アプリのセンサー設定画面。機体のセンサーで感知した数値を確認できる
【特徴2】ローターが複数あるのはなぜ? →複数のローターで機敏な飛行を実現

 ラジコンヘリがメインローターの回転面を傾けながらテールローターを回転させて機体の進行方向を決めるのに対して、複数のローターを持つドローンは、それぞれの回転数を変化させることで進行方向を決めている。機体右側のローターが回転数を上げれば、その部分の揚力が上がり、その結果機体は左方向へと傾く仕組みだ。

ドローンは、隣り合うローターを逆方向に回転させ、各モーターの回転数を制御することで安定した飛行を実現している

 さらにドローンは、隣り合うローターを逆方向に回転させることで機体の自律安定性を高めている。ここにGPSや各種センサーによる自動制御システムが加わって、従来のラジコンヘリ以上に安定したホバリング性能と機敏な飛行を実現しているわけだ。

旋回や停止の動作が機敏なため、動く被写体の撮影にも活躍する。機体が傾いても3軸ジンバルによってカメラは水平に保たれる
【特徴3】ドローンを使うメリットは? →高性能なカメラで空撮ができる

 飛行性能の高さや、手軽な操作性もさることながら、ドローン最大の魅力は、やはりカメラを積載できることだろう。DJIのPhantom 3 ProfessionalやInspire 1は4Kカメラを標準搭載しており、プロの現場でも通用する美しい空撮映像の撮影が可能となっている。

Phantomシリーズに並ぶ人気機種のInspire 1には、専用の4Kカメラが備わっている
DJIの上位機種であるSシリーズのジンバルには、GoProや一眼レフカメラを搭載できる

 これらの機体はカメラの付け替えができないモデルとなるが、同社の上位機種であるS900やS1000になると、GoProはもちろん、一眼レフカメラを搭載することもできる。機体のサイズや俊敏性もさまざまなので、飛ばしたい場所や用途に応じて最適なモデルを選ぶといい。

【特徴4】機体やカメラの設定方法は? →専用アプリで簡単に制御できる

 市販のドローンの多くは、スマホやタブレットに接続して専用アプリで簡単に制御できる。コントローラーを使わずにアプリだけで飛行操作を行なえるものもあり、カメラで撮った映像がリアルタイムで映し出されるFPV(ファーストパーソンビュー)視点で操作できるメリットもある。さらに専用アプリでは、カメラの露出やフォーマット設定のほか、機体の最大高度などの設定を行なうことも可能だ。安全に飛行するうえでは欠かせないサポート機能が充実しているので、ラジコンヘリの操縦経験がないユーザーでも安心してフライトに臨める。

「DJI Pilot」では初心者モードが用意されており、飛行時には高度制限や距離制限をかけられる
Parrotのドローンを制御する「FreeFlight 3」の画面。機体の最大高度、最大斜度を設定できる

【特徴5】墜落の危険はないの? →自動帰還機能で墜落リスクが激減

 正しく運用すればドローンの墜落リスクはラジコンヘリよりも低いと言われている。DJIのドローンには、離陸地点をホームポイントとして記録し、緊急時に自動で帰還してくる「リターントゥーホーム」という機能が備わっている。これはあくまで緊急時の最終手段であり、過信は禁物だが、いざというときには頼りになるはずだ。飛行距離が長く、FPV視点での操縦ができるとはいえ、目視できないほど遠くまで機体を飛ばしてしまうのは非常に危険な行為。ここのところ墜落事故のニュースが目立つのも、そんなモラルやスキルのないユーザーが後を絶たないからだろう。

Phantom 3には、離陸した場所を記憶して自動帰還する「リターントゥーホーム」機能が備わっている
機体がローバッテリー状態になると自動でリターントゥーホームが起動し、ホームポイントへ帰還してくる

ドローンが利用するのはWi-Fiと同じ2.4GHz帯

 安定した飛行性能と高度な映像転送機能を併せ持つドローンだが、注意しなければならない難点もある。国内で飛行が許可されているドローンは、制御に2.4GHzの周波数帯を使用しているため、同一周波数のWi-Fiや無線通信機と混信するリスクをはらんでいるのだ。多くの人が集まる都市部やイベント会場などでドローンを飛ばすことは原則的にNGだが、仮に土地所有者や運営者から撮影許可や飛行許可を取った場合であっても十分に注意しておく必要がある。また、混信を避けるために、無許可の周波数でドローンを飛ばすことは違法なので、絶対にやめよう。

「DJI Pilot」アプリでは、機体の映像転送品質をチェックできる。混信が気になる場合は確認しておくといい

 この問題に伴い、総務省では2015年度末に取りまとめる答申を踏まえて2.4GHz帯と5GHz帯の隣接周波数を拡大することが検討されている。この制度改正が実現すれば、近い将来には混信のリスクが軽減される日が来るかもしれない。ひとまず今後の動きに注目しつつ、利用環境が整うまでは安全な場所での飛行を心がけよう。

●5GHzでの屋外飛行は×
5GHzの周波数帯もサポートする「Bebop Drone」。ただし国内では、5GHz帯での屋外飛行が禁じられているので注意しよう
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