プレイバック2016

2万円でこの音! 話題の平面駆動型サウンドに聴き惚れるフォステクス「T40RP mk3n」 by 編集部:山崎

 製品レビューや発表会などで様々なヘッドフォンを聴く機会がある。高価なモデルは、「さすが!」と唸る音質が多いが、高価で音が良いのは“当たり前”でもある。思わず「ムフフ」とニヤけてしまうのは、そこまで値は張らないが、高級機に匹敵するような音質の製品に出会った時。そんなモデルは、ついつい個人的に欲しくなってポチッてしまう。その結果、今年家に届いたのがフォステクスの「T40RP mk3n」だ。

フォステクスの「T40RP mk3n」

 価格は2万円。“低価格”とは言えないが、上を見ればキリがない昨今のヘッドフォン市場に慣れてしまったので、「お、買いやすい」と思えてしまうのが我ながら困ったもの。

 大きな特徴は、近頃話題の「平面振動板」を採用している事だ。型番のRPは“RP”(Regular Phase:全面駆動型)の意味。だが、“流行りに乗って登場したモデル”では決してない。フォステクスは1974年に、日本初の平面駆動型ヘッドフォンとなる「T50」を発売した、言わば平面駆動型の先駆者。そんな長年続くRPシリーズの新しいモデルが「T40RP mk3n」というわけだ。

平面振動板を採用している

 平面振動板の利点は、コーン型と比べて分割振動が発生しにくい。また、両面に駆動コイルを搭載し、高い応答性も実現。繊細な描写が持ち味だが、振幅の幅が大きくとれないので低音や音圧が得にくいといった弱点もある。古くからあるにも関わらず、平面振動板の製品が昨今注目を集めているのは、据え置き/ポータブルの両方で“ヘッドフォンアンプを使ってヘッドフォンをドライブする”という聴き方自体が、ある程度広まってきたためとも言えるだろう。

 一方で、新製品に対してはそうした弱点を各社がどのような工夫で克服しているかが見どころとなる。「T40RP mk3n」の場合は、上下のマグネットを反発させることで有効磁束密度を高め、その間に振動板を挟み込む事で能率をアップさせた。棒状ネオジムマグネットを使う事も、より大きな磁束密度を得る工夫だそうだ。インピーダンスは50Ω、感度 は91dB/mWを実現している。ちなみに再生周波数帯域は20Hz~35kHzだ。

 試しにスマホの「Xperia Z5」に接続すると、フルボリュームで「ちょうどいい音量よりちょっと大きめ」と感じる音量で、「うるさくて聴いていられない」というほどの音は出ない。

Xperia Z5と接続したところ

 ハイレゾプレーヤー、AKシリーズの「AK70」では90%程度のボリュームでもう十分だと感じる音量が、AK300やAK380では80%程度で満足する。基本は屋内でヘッドフォンアンプでドライブするヘッドフォンだが、ドライブ力の高いプレーヤーであれば屋外での利用も可能だ。外部ヘッドフォンアンプがあればよりしっかりとドライブできるだろう。

AK380と接続したところ

 ハウジングは大きめで、ゴツゴツとした“質実剛健”な感じのデザイン。素材はプラスチックなので触ると高級感は無いが、この無骨な感じがまさにモニターヘッドフォンという雰囲気でカッコイイ。黒でまとめられた中で、ケーブル類が蛍光オレンジで超目立つのも個人的にはグッとくるポイントだ。端子はステレオミニだが、ロック機構が端子の根元の突起を使った独特のものなので、コンシューマ用途としてはマイナスポイント。保証は受けられなくなるが、いずれ分解してバランス駆動できるよう改造もしてみたい。

蛍光オレンジのケーブルが目立つ
ヘッドバンドには大きくフォステクスのロゴ
ケーブルはステレオミニで着脱可能だが、根元に突起がある特殊なプラグだ

 音は“素晴らしい”の一言。平面駆動型らしい繊細な描写は、普通のヘッドフォンとひと味違う。女性ヴォーカルなどはゾクゾクするほど瑞々しい。トランジェントも良く、音がズバッと出て、スッと消える様子に無駄がない。低域は派手にブイブイ出るタイプではないが、ドライブ力のあるアンプで駆動すると、音圧豊かで、解像感も高いサウンドが楽しめる。

 描写が細かく、なおかつアンプのドライブ力によって中低域のパワフルさが如実に変化するので、音質チェック用ヘッドフォンとして使えない事もない。ドライブ力の低い製品を何個も試聴するには向かないかもしれないが……。

 ちなみに密閉型の「T40RP mk3n」に加え、オープン型の「T20RP mk3n」と、セミオープン「T50RP mk3n」もラインナップされている。開放的な音場を楽しみたいなら「T20RP mk3n」、低音の力強さも欲しいなら「T40RP mk3n」、間をとるなら「T50RP mk3n」という感じだろうか。

 バランスド・アーマチュアのイヤフォンと、ダイナミック型イヤフォンの音が違うように、ヘッドフォンでも方式の違いで音は大きく変わる。たまには、違う方式のヘッドフォンを聴いてみるのも、新鮮味があって、新しい発見もあって面白い。2017年はどんな平面駆動形ヘッドフォンが登場するか、今から楽しみだ。

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山崎健太郎