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ソニーは1日、2層BD-ROM生産ラインの報道関係者向け見学会を開催した。 公開したのは、ソニー子会社で音楽・映像・ゲームなどの光ディスク生産を手がけるソニー・ミュージックマニュファクチャリング(以下SMM)・静岡工場(静岡県榛原郡吉田町)内に設置された、BD-ROMの生産施設。 静岡工場はCD・DVD・UMDの拠点であり、今回公開されたのも、BD向けに作られたスタンパーから、1層と2層のBD-ROMが製造する、俗に「レプリケーション(複製)」と呼ばれる工程を担当するライン。文字通り、ディスクの生産を行なう部分である。 なお、機密保持上の問題から、工場内での写真撮影は認められなかったため、原稿中の写真はすべてソニー側から提供された写真を掲載している。また、図版は紙データで提供されたものをスキャンして掲載しているため、多少見づらい部分があることをご了承いただきたい。
■ 製造を「スピンコート法」に完全移行
BDの生産ラインは、1ライン分で3.5m×5.5m程度で、CDやDVDの生産ラインとサイズはさほど変わりない。生産ライン内に取り入れる空気をHEPAフィルターで清浄化することで、工場自身はクリーンルーム化することなく運用ができている。 ライン稼働中は、5秒から6秒に1枚の2層BD-ROMができあがる。DVDの場合、SMM・静岡工場では3秒程度でできるというから、まだ若干時間がかかっている。製造工程は完全に自動化されており、1台あたりに必要な人手は、主に監視を行なう一人だけで良い。 このラインの特徴は、「スピンコート法」を使い、1層と2層両方のBD-ROMが生産できることだ。
光ディスクでは、記録面を保護するために「カバー層」が存在する。BD-ROMは、CDやDVDと違い、このカバー層が0.1mmと薄い。そのため、いかに均質で薄いカバー層を低コストに作るかが、ディスク製造上大きな問題となっていた。 BD量産技術の開発を担当する、ソニー・ディスクアンドデジタルソリューションズ社 技術推進部門の岡田隆雄部門長は、 「今後、ソニーのBD量産ラインは、基本的にスピンコート法を採用する」と語る。
実は2年前、ソニーがBD-ROM製造技術を最初に公開した時、同社がカバー層製造に使っていたのは「シート法」と呼ばれる手法だった。シート法とは、カバー層を薄いシートで作り、紫外線で硬化する樹脂(UV硬化樹脂)を使いディスク面に貼り付ける手法だ。 それに対し「スピンコート法」は、ディスク面にUV硬化樹脂を垂らし、ディスクが回転する時の遠心力を使って、ディスク面に均質に「塗りつける」手法である。
後者はCDやDVDのカバー層製造にも使われている技術で、コストも安いが、カバー層の厚みをコントロールするのが難しい。それに対し前者は、決まった厚みのシートを貼り付けるため、厚みをコントロールするのが容易である。そのため同社は、当初はシート式を有望と見て開発をしていたのだ。「しかし、やってみると量産効率がなかなか上がらない。納入メーカー側で、生産ロットが変わるたびにシートの性質が変わり、自社の努力で生産性のコントロールをするのも難しいと感じた」(岡田部門長)という。
そうこうしているうちに、研究所内でスピンコート法を研究しているチームからは、良好な結果が上がり始めた。 「ならば、方針を転換しよう、ということになった。決断したのは昨年末のことだ。まずスピンコート法による1層でのディスク製造ラインを確立し、そこに工程をアドオンする形で2層が実現できる形とした」と岡田部門長は語る。 スピンコート法は、元々松下が力を入れて開発していた手法であり、「松下側からのフィードバックがあったのでは?」との質問もあったが、「実際には両者がそれぞれ開発をすすめていたもの。我々側でも開発の成果がでてきたと考えてほしい」(岡田部門長)と答えるにとどまった。 現在BD用映像ソフトは、すでにアメリカで出荷が開始されている。しかし、そのすべてが1層ディスクだ。そのため、「2層のBDは生産が難航しており、当分出てこない」との観測が流れていた。今回ソニー側が説明会を開いた理由は、2層ディスク製造に関する懸念を払拭する狙いがある。
どうやら2層ディスク製造遅延の理由は、「シート法を捨てる」という決断にあったようだ。 「アメリカに最初に作られた量産ラインはシート法のもので、1層専用だ。早急な投入が必要であったために用意したものの、我々はすでにスピンコート法を主力とする、と決めている。なので、シート法での2層ディスク製造技術確立にコストをかける必要はないと判断してのことである。その後、アメリカにも今回お見せしたスピンコート法の生産ラインを入れ、1層ディスクの生産に入っている。2層はそこから若干タイムラグがあったが、今は問題なく製造ができている」(岡田部門長)という。 右図は、このラインで作られた2層BD-ROMのカバー層の厚みのばらつきを示したものである。しかも、見学中「できたて」のディスクをその場で計測したデータだ。ばらつきは最大でも2μm(0.002mm)程度に収まっており、「厚みの制御が難しい」というスピンコート法の問題はほぼ解決できている、とみていいだろう。
■ ディスクの抜き取り再生テストにもパス ラインの最後では、できあがった2層ディスクをランダムに抜き出し、BD対応のVAIO type Rで再生する、というデモも行なわれ、1層目はもちろん、2層目も問題なく再生できることをアピールしていた。ちなみに、デモに使われたのは映画「戦場に架ける橋」だった。 ソニー側の説明によれば、このラインでのBD-ROMの歩留まりは「1層で85%、2層で80%程度」。同工場でのDVDの歩留まりが90%から95%程度だというから、まだまだ改善の余地あり、というところだろう。 改善の見込みと、それに伴う現状での「生産コスト」について、SMM社の岡部篤代表取締役は、「コストと生産性は、『量産』によって改善されていく。'82年に初めてCDを生産した時、歩留まりは15%だった。それが今のレベルに到達したのは、改善を続けてきた結果だ」と説明する。 また、「DVD生産ラインを流用できるため、コストが安くなる」というHD DVD側の主張については、「DVDの需要はまだ旺盛。DVDのラインを転用することが得策とは限らない。また、すでにあるラインは昔の技術で作られたものであり、最終的には新しい技術で作った新しいラインの方が、効率は良くなるもの」と牽制した上で、「現在のBDのラインは、需要が落ち着きつつあるCDのラインを整理し、その場所に設置している。製造設備こそ転用できないが、電源などの各種設備は流用が効く。DVDやCDのラインを整理するのか、BD向けの工場を新設するかは、今後の動向を見て決めたい」と、今後の方針を説明する。 ソニーは現在、日本・アメリカ・ヨーロッパの3拠点にて、BDの生産体制を準備中。対象となるのは、映像用・PLAYSTATION 3用ゲームソフトなど。当初は月産30万枚の予定だが、ラインを増強、年末までに250万枚を達成する予定。同様に、米国にて月産500万枚、欧州にて月産250万枚を達成し、トータルで1,000万枚分の生産体制を構築する予定だという。
(2006年9月1日)
[Reported by 西田宗千佳]
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