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DVDレコーダの普及に伴い、「タイムシフト」というテレビの視聴スタイルが広く認知されるようになった。いまや放送をライブで見るより、録画した番組を視聴している時間の方が長い、という人も珍しくない。 そうした中、薄型テレビとレコーダの世界では、HDMIのCEC機能を使った「HDMIリンク機能」に注目が集まっている。テレビからケーブル一本接続するだけでレコーダの制御を行なうことで、使い勝手の向上を図るというアプローチで、年末商戦でも「VIERA Link」の松下電器と、「AQUOSファミリンク」を擁するシャープがレコーダ市場でシェアを伸ばした。 一方、日立製作所と東芝は、HDMIリンクでなく、テレビにHDDレコーダ機能を内蔵し、より手軽な「タイムシフト視聴」を訴求している。特に日立のWoooシリーズは、「録画もできないプラズマなんて」という刺激的なキャッチフレーズとともに、テレビCMでHDD録画機能をアピール。実際、同社のプラズマテレビ販売台数の約7割がHDD内蔵モデルとのことで、Woooシリーズの大きな差別化ポイントとなっている。 さらに今回このWoooでREC機能を進化。250GBのHDD(組込み型のiVDR-S)に加え、リムーバブルHDD「iVDR」に対応し、HDDの拡張を可能とした。なお、新Woooで採用したiVDRはデジタル放送録画に対応した著作権保護機能「SAFIA」に対応した「iVDR-S」で、今後、iVDR-S対応した機器が発売されれば、Woooで録画したデジタル放送番組を再生することもできる。 今回は、37型フルHDパネルを採用した液晶Woooのフラッグシップモデル「L37-XR01」を試用した。実売価格は35万円前後。37型フルHDで初の倍速駆動に対応した新モデルで、HDDレコーダを内蔵しながら、インチ1万円を切っている。 なお、テストした機材は量産試作機のため、実際の製品とは異なる場合がある。 ■ 120Hz駆動の37型フルHD液晶とiVDRを採用
一見するとオーソドックスな液晶テレビだが、HDDを内蔵しているため115mmとやや厚め。ただし、薄型テレビの場合では自明なことだが、設置時にはスタンドの奥行きのほうが33.6mmあるので、普通に設置する場合にディスプレイ自体の奥行きを意識することはないだろう。 パネルはIPSアルファテクノロジ製で、同社初の37型/1,920×1,080ドットのフルHD IPSαを採用。残像低減が可能な120Hz倍速駆動にも対応する最新パネルで、同パネルを採用した液晶テレビは「L37-XR01」が初となる。37型で購入を検討している人にとっては非常に魅力的なスペックで、仕様面では現在最高峰とも言える充実振りだ。 右側面にはチャンネル切替ボタンや、各種入力端子を装備。ビデオ入力のほか、HDMI 1系統、USB 1系統を装備。さらに、下部にはiVDR-S用の専用スロット「iVポケット」を備えている。 なお、iVDRカートリッジは別売で、日立マクセルから「ハードディスク アイヴィ」として発売されている。80/160GBの各容量が用意され、実売価格は80GBが19,800円前後、160GBが34,800円前後。価格下落の進む2.5インチHDDの相場からすると高価にも感じるが、このあたりは実際の製品の普及次第で、通常の2.5インチHDDの価格に近づいていくだろう。
背面には2系統のHDMI入力を装備、側面と併せて3系統となる。HDMIはいずれも1080p入力に対応する。 さらに、D4入力×2や、S映像入力×2、コンポジット入力×2、モニター出力×1、光デジタル音声出力×1、Ethernet×1、ヘッドフォン出力×1、電話回線接続端子×1、IRコントローラ×1などを装備。i.LINKも備えており、D-VHSや同社のハイビジョンレコーダ「Wooo」シリーズのi.LINK搭載モデルとも連携可能だ。 チューナは地上/BS/110度CSデジタルと、地上アナログを各2系統装備する。アンテナ入力としては地上デジタル/アナログ用と、BS/CSデジタル用を各1系統ずつ備えている。スタンドを含む外形寸法は927×366×683mm(幅×奥行き×高さ)、重量は26.8kg。 付属のリモコンは。放送波切替やチャンネル、ボリュームなどのテレビ用ボタンに加え、番組表や録画番組確認ボタン、録画ボタンなど、録画系のボタンも装備している。
■ 倍速駆動の効果は絶大。ゲームモードも装備
電源投入から映像が出画までの時間は、約2秒程度。HDD内蔵による起動時間の遅れなどは無さそうだ。地上デジタル放送のチャンネル切替は約2秒。
液晶パネルは前述の通り、IPSアルファテクノロジ製の「フルHD IPSαパネル」を採用。輝度500cd/m2、コントラスト7,000:1を実現する。さらに120Hz駆動と独自のスーパーインパルス駆動により、残像感の改善を図っている。動画解像度は600本。 また、映像エンジンも1080p信号に対応した「Picture Master Full HD」を内蔵。映像の解析/処理能力を高速、高精細化し、画質の向上を図っているという。120Hz駆動で初の37型フルHDということもあり、画質面でも注目される。 まずは、地上デジタル放送中心にテレビ番組を視聴してみた。ハイビジョン映像視聴時のアスペクトモードはフル1/フル2/ズーム1/ズーム2の4種類が用意される。 今回視聴したのは、最終製品にかなり近い段階の試作機だが、標準映像モードのスタンダードではソニーの「KDL-40X2500」と比較すると、緑や黄色の発色が派手で、コントラストが強く感じた。 映像モードは、スーパー/スタンダード/シネマティックの3種類を用意する。スーパーは非常に明るく、スタジオ風景などでは派手目な色作りとあいまってかなりきつい印象だ。日の当たる部屋での日中の利用や、スポーツ観戦など向けで、一般的なリビング利用ではやや明るすぎるだろう。
スタンダードはバランス良く、一般的なテレビ視聴だけでなく、映画視聴時でも基本的にはこのモードを使いたい。シネマティックは色温度と低く抑え、輝度もかなり控えめとなる。部屋の明かりを落として映画を鑑賞するためのモードで、フィルム素材の映画などにはフィットするだろう。 フルHDパネルを採用しているだけあり、解像感は非常に高い。HD DVD「The Phantom of the Opera(オペラ座の怪人)」の劇場内の細かな装飾やステンドグラスのディティールはしっかり見通せる。ハイビジョンコンテンツを余すことなく体験できる。また、HD DVD「ワイルドスピードX3 TOKYO DRIFT」のギラギラしたカスタムカーの塗装の質感など、強烈な色が印象的。 BDビデオ「Black Hawk Down(北米版)」は、フィルムグレインの多いディスクだが、余計なモスキートノイズが付くことなく、独特の緑がかった風景をハイコントラストに楽しめた。 120Hz駆動の新パネルを採用したことで気になる「残像感」だが、結論から言うと非常に少ない。近年の液晶ディスプレイでは、パネルの応答速度改善などで、見かけ上の残像感は以前より低減されつつあるが、それらよりも確実に数段上の効果を感じる。既存の液晶テレビだと、どうしても残像が知覚できてしまうが、L37-XR01では「液晶」を意識させられるシーンが非常に少ない。 サッカーを観戦しみても、自然で違和感を感じることはない。残像感は皆無ではないが、「いま液晶を見ている」と気づかされるような違和感が無いのだ。特にスローでのリプレイなどで感じるホールド感は大きく低減されているようだ。また、倍速駆動により、映像が破綻を起こしたと感じさせるようなこともなかった。 同社の液晶テレビではすでに1,366×768ドットモデルなどで倍速駆動のノウハウを積み上げているのだろうが、フルHD初対応ながら完成度はかなり高いといえそうだ。 また、普段液晶テレビを使っていて残像が気になるのは、動きの多いスポーツよりも「ゆっくりとカメラがパンして建物全体を映す」など、緩やかな視点移動を伴う場合。そうした際の「残像酔い」のような感覚もないので、安心して見られるし、見ていて疲れない。総じて、残像低減の効果は高い。
37-XR01では、メニューの[各種設定]-[映像モード]-[各種設定]-[映像]をから、[動画モード]のON/OFFが選択可能となる。これで120Hz駆動のON/OFFとなっているようで、試しにOFFにしてみると、横スクロールする文字などでは、かなり残像を感じるようになる。 もちろん通常のテレビ視聴や映画視聴時には、わざわざOFFにする必要がない。だが、120Hzの倍速駆動に注目が集まったことで不安視されている、ゲームプレイ時のフレーム遅延。ユーザーがインタラクティブ/リアルタイムな操作を行なうアクションゲームのプレイ時などにフレーム遅延があると、ゲームが楽しめない。 倍速駆動では、中間フレームを生成するための演算を行なうため、そこで数フレームの遅延が発生する可能性がある。もっとも、倍速駆動を行なわない、通常の液晶テレビでも映像エンジンでの画像処理を介して画像表示を行なうため、フレーム遅延は発生するが、より演算量が増えることでさらなる遅延が不安視されるというわけだ。 37-XR01では動画モードのOFFに加え、外部入力に対してゲームモードの適用をすることで、こうした遅延を抑えることができる。ゲームモードは、[各種設定]-[初期設定]の[外部機器接続設定]から、各外部入力端子に対して適用できる。 PLAYSTATION 3の「リッジレーサー6」やXbox 360の「ロストプラネット」などのタイトルでゲームモードのON/OFFや動画モードの効果を試してみたが、個人的には倍速駆動のまま(動画モードON/ゲームモードOFF)でも違和感を感じずにプレイできた。プレイするゲームや、個人のスキルにもよるだろうが、ともあれこうした選択肢が用意されていることは歓迎したい。 そのほか、24フレームの映画フィルムをソースにする映像を滑らかに表示する「なめらかシネマ」などの高画質化機能も搭載している。
■ iVDRならではの録画機能を搭載。i.LINKも装備
iVDRの搭載により注目されるレコーダ機能だが、250GB HDDを本体に内蔵。さらに、iVDRでHDD容量を拡張できる。
内蔵HDDだけでなく、iVDR-Sへの直接録画も可能となっているおり、家族用に本体HDD、自分の保存用にiVDRといった使い分けもできる。また、HDDやiVDR上でフォルダ管理も可能で、フォルダ名称も変更できるので、家族それぞれでiVDRを管理する、などの利用方法も考えられる。 テレビのリモコンから番組表を呼び出して、任意の番組を指定するだけで録画予約が行なえる。録画予約機能の基本的な流れは、同社のレコーダ内蔵「Wooo」や一般的なDVDレコーダなどとほぼ共通だ。録画予約時には、画質モードや毎週予約設定、任意のフォルダへの録画、HDD/iVDRへの直接録画などの設定が可能だ。ただし、アナログ放送については、EPG予約ができず、時間指定やGコード予約になる。 録画モードは、TS/TSE/XP/SP/LP/EPの6つを用意。TSはデジタル放送はストリーム録画、TSEは、HD解像度を維持したまま、記録容量を約半分程度まで圧縮するモードだ。ViXSのHD映像トランスコード技術「XCodeHD」を採用し、横解像度を1,440に抑えるほか、データ放送などの情報をカットすることで、地上デジタル放送の場合通常の約半分のHDD容量でHD映像を記録できるというもの。 TSEモードでは通常のストリーム録画(TSモード)の約2倍、500GB相当の録画が可能となっている。そのほか、XP/SP/LP/EPの各モードはSD解像度の記録モードとなる。
TSEモードはWoooの大きな特徴の一つ。TSモードとTSEモードの画質を比較すると、近づいてよく見れば違いは確認できる。解像感も若干落ち、TSEモードでは輝度変化の大きな映像の境界や、映像の消え際に大きめのブロックノイズが発生。また、細部には若干のモスキートノイズが感じられる。 ただし、SD解像度のXPモードなどと比較すると、解像感の違いは一目瞭然だ。ニュース映像やバラエティ番組など、ライブラリ化はしないが、HD品質で見たいという番組は数多い。特にL37-XR01はせっかくフルHDパネルを採用しているだけに、HDD容量を気にしてSD解像度で録画するのももったいない。非常に意義のある技術だけに、Woooシリーズのレコーダや、他社製品でも是非こうしたトランスコード機能を積極的に導入して欲しい。
録画した番組は、リモコンの[録画番組]ボタンから呼び出し可能で、サムネイル/リスト表示で一覧できる。録画番組画面では、HDDとiVDRの録画コンテンツの検索ができるほか、リモコンの[べんり]ボタンから、編集機能やダビング/ムーブ機能を呼び出しできる。 録画番組の再生時には、リモコンで早送りや一時停止などが可能で、30秒スキップや10秒バック機能も備えている。ただし、30秒スキップ用のボタンに[番組検索](テレビ視聴時に番組検索ボタンを呼び出し)と刻印されており、10秒バックは[HDD/iVDR]ボタン(同HDD/iVDRの残量確認)に割り当てられているなど、リモコンを見ただけでは機能がわからない。使い勝手を左右する重要なボタンだけに、もう少し親切な表示なり、独立したボタンなりを用意して欲しい。
58分の番組をiVDR-Sにムーブしたところ、9分強で終了。ただし、ムーブ中は録画番組の視聴ができないほか、予約録画の実行が行なわれないので注意が必要だ。また、TSモードで録画した映像を、TSEやXP/SPモードなどに変換し、そのままHDDに保存したり、iVDRにムーブできる。TSで録画しておいて、画質はそこそこで保存したい、といった場合には重宝しそうだ。なお、TSからTSEに変換を行なう場合は、番組の実時間がかかる。 また、iVDRから内蔵HDDへのムーブも可能で、一度iVDRにムーブした番組を、再度HDDに書き戻せる。今のところ、Blu-rayやHD DVDなどの光ディスクでは、一度書き出したコピーワンス番組を再びレコーダのHDDに書き戻すことができないので、iVDRではHDDをメディアに採用したことで、光ディスクでは実現できない使い勝手を実現できたというわけだ。 例えば複数のiVDR機器を所有していれば、家庭内の異なるiVDRレコーダで録画した歌番組などを1つのiVDR機器でライブラリ化、最終的にi.LINKを用いて、対応のBlu-rayやDVDレコーダなどに出力し、光ディスクに書き出すといった利用も可能となる。対応機器が増えることで、さまざまな可能性が生まれてくるだろう。
なお、iVDRから内蔵HDDへのムーブ(書き戻し)については、iVDRへの書き出し時に比べて、若干時間がかかるようで、前述の58分番組を書き戻したところ約14分でムーブ終了した。 そのほか、i.LINKも備えており、同社のi.LINK搭載レコーダやD-VHSへのムーブが可能。なお、編集部で松下電器のブルーレイDIGA「DMR-BW200」へのムーブを試みたが、「このi.LINK機器にはダビングできない」旨のメッセージが表示されて、転送できなかった。 また、Woooシリーズの特徴である、電動スイーベル機構も搭載しており、リモコンで左右に向きを変えられるのも便利だ。
■ 最高スペックの液晶テレビ。iVDR対応機器の拡大に期待
世界初のiVDR対応HDDレコーダを内蔵するなど機能面のみならず、画質面でも新映像エンジンや、倍速駆動対応の37型フルHD IPSαパネルを採用するなど、現在期待される液晶テレビの最高スペックを盛り込んでいるといえる。 倍速駆動対応による残像低減の効果も大きく、iVDRレコーダも従来の「WoooでREC」のコンセプト上に、「拡張できるHDD」と位置づけており、第1弾ながら完成度は高い。画質の好みなどの違いはあれど、売れ筋の37型/フルHDで最高のスペック/機能を求めるのであれば、最有力の選択肢となるだろう。 テレビの内蔵HDDレコーダ機能という点では、同時期に発表された東芝の「REGZA H3000シリーズ」も、eSATA接続の外部HDDを利用したHDD拡張を実現している。ただし、規格に準拠した製品であれば、持ち運んでさまざまな機器で利用できるiVDRとは異なり、基本的に録画したREGZAでのみしか再生できない。このあたりは業界標準化されたiVDRの大きなアドバンテージといえるだろう。 ただし、現時点では80GBで2万円、160GBで3万5,000円とiVDRカートリッジはやや高価。一方、REGZAは汎用的で大容量なeSATA接続の3.5型HDDが利用でき、320GBでも25,000円程度。WoooにはXCodeHDによるトランスコード機能もあるので、一概には言えないが、それでも、拡張HDDの容量あたりのコストパフォーマンスではREGZAが上回っているともいえる。 もっとも、iVDRは現時点では「拡張できるHDD」という位置づけだが、光ディスクとは違いコピーワンス番組の書き戻しもできるなど、「iVDRならでは」という要素も多い。さらにWoooでは、i.LINKによる最終的な光ディスクへの出力の道も用意されている。対応機器の増加やパートナーの拡大により、iVDRの輪を拡大していくのはもちろんだが、Blu-rayレコーダの投入などで、さまざまな選択肢に対応して録画環境のさらなる充実を図っていくことを期待したい。
□日立製作所のホームページ (2007年4月13日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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