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「CEATEC JAPAN 2007」の基調講演において、「デジタルコンバージェンスが切り開く新しい生活」をテーマに、最新デジタル機器による新たな生活シーンを提案したのが、シャープ代表取締役会長の町田勝彦氏だ。CEATECの主催者である電子情報技術産業協会(JEITA)の会長も務める町田氏は、「デジタルコンバージェンスは、産業革命に匹敵する大きな潮流」と位置づけ、デジタルコンバージェンスに関わる最新動向や、取り組むべき課題などについて触れた。 町田氏は、デジタルコンバージェンスの定義を、MITのニコラス・ネグロポンテ氏が標榜した「デジタル技術や通信技術の発達によって、放送、通信、出版などの異なるメディアがひとつに統合されるメディアの収束を表すもの」との言葉を引用し、その最たる例が携帯電話であるとした。 「携帯電話は、通話の機能だけでなく、デジカメ、ビデオ、オーディオ、電子マネー、GPS、テレビといった様々な機能が搭載されている。デジタル化によって、過去の時代には存在しなかった製品やサービスが生み出されている好例」とした。
また、テレビの世界におけるデジタルコンバージェンスについては、「デジタル化とともに、大画面、高精細といった動きが促進される一方、アクトビラのような、ネットワークに接続された環境での新たな視聴が始まっている。地デジチューナを搭載したテレビは、1,000万台に達しており、すでに世帯普及率は20%に達した。電気製品の場合、普及が加速するクリティカルマスへのポイントが20%と言われており、その観点からも今後、急速な普及が期待される。今年末には40%の世帯普及率に到達するだろう。また、この流れは日本だけでなく、全世界で見られる大きな潮流だ」とした。
■ 家庭のデジタルコンバージェンスのリーダーはテレビ さらに、町田氏は、家庭におけるデジタルコンバージェンスのリーダー的役割を果たすのはテレビだとし、大型化、薄型化、高精細化という3つの観点から、テレビの進化を紹介した。 大型化では、シャープの液晶パネル生産の経緯を振り返りながら、2004年度には、畳一畳半程度の第6世代の液晶パネル生産だったものが、2006年8月には約2倍のサイズとなる第8世代に進化、そして、2010年にはさらに1.6倍となる5畳規模の第10世代になることを説明。大画面テレビによって、生活シーンが大きく変わることを示した。 「シャープブースには108インチの液晶テレビを展示しているが、これを使えば、等身大の表示が可能で、遠く離れた友人も、距離感ゼロで見ることができる。また、スイスの雄大な風景を映し出せば、まるでスイスのホテルにいるような錯覚を覚えるほど。さらに、画面を細分化して表示することもでき、ニュースや天気、今日のスケジュールなど、必要な情報を見られるようになる」など、生活シーンの変化の事例をあげた。
薄型化では、シャープが厚さ20mmの次世代液晶パネルを開発したことを紹介しながら「業界をあげて、薄型化への取り組みが始まっている。壁にかけたり、インテリアの一部として利用できるなど、テレビの使い方が変わることになる」とした。 高精細化では、4,096×2,160ドットのスーパーハイビジョンへの取り組みが始まっていることを示しながら、大画面化と同時に、高精細化に対する技術進化が重要であるとした。
さらに、テレビのデジタルコンバージェンスを加速させる要素として、「NGN(次世代ネットワーク)」が欠かせないとして、「通信と放送の融合によって、家庭のポータルは大きく進化する。日本はブロードバンドが最も進んでいる国であり、NGNで世界のリーダーシップを取ることができる」などと語った。
□関連記事 ■ デジタルコンバージェンスに求められるT型人間
デジタルコンバージェンスの進化は、モノづくりそのものを変化させることにもつながる、と町田氏は語る。 「デジタルコンバージェンスは技術の融合が大切。技術や組織、企業、国を越えた開発体制が必要になる」とし、「シャープでは、緊急プロジェクトとして事業本部や研究所といった枠を越えた、社長直轄型のモノづくりに挑んでいる。最近では、AQUOSケータイがその成功例であり、AQUOSのブランドに恥じない微妙な色合い、自然な色調を実現するために、AVや液晶の技術者が参加した。また、横位置に画面をスライドしてテレビ画像を見るために、機構設計の技術者も参加した。商品開発は、結局は人に帰結する。こうした人が融合して取り組んでいくことが必要」とした。 町田氏は、かねてから「I型人間」、「T型人間」という言い方をしているが、今回の講演でもこれに触れ、「様々なことができる、多能工たれ」と訴えた。 I型人間とは、専門領域に特化した人を指すが、一方でT型人間とは、深い専門領域を持ちながらも、幅広い領域の知識を持った人間のことを指す。町田氏は、デジタルコンバージェンスの時代こそ、こうしたT型人間が必要であり、「技術者は放っておくと、I型人間の集団になってしまう。会社は意図して、ローテーションや研修制度の導入を行なっていく必要がある。Tの横に広がったノリシロの部分が、他の人とくっつくことで、化学反応が起こり、新たな製品や技術を生み出せる」とした。 サッカー日本代表のオシム監督が語る「ポリバレント」という言葉を持ち出し、「超一流のサッカー選手でも、世界で戦うためには、複数のポジションをこなし、攻撃も守備もできなくてはならない。デジタルコンバージェンスの商品企画には、ポリバレントなT型人間が求められる」と語った。
■環境の観点から買い換え促進をPR だが、一方で、「エレクトロニクス産業は、電気を使い、CO2を排出する製品を作っている産業である。しかも、デジタルコンバージェンスが進展すればするほど、環境は、センシティブに対応しなくてはならない問題になる」とも指摘した。 シャープでは、32インチのブラウン管テレビの消費電力を、液晶テレビの投入によって、同等サイズで半分に減らし、同じ消費電力量では52インチまで拡大することができたという。さらに、最新の液晶パネル技術を利用することで、現在の32インチ液晶テレビと同じ消費電力で、52インチの液晶テレビが製品化できるという。 「むしろ、買い換えてもらった方が、CO2の排出量を抑えることができる。業界として、環境の観点からの買い換えを促進するようなPRをしていく必要もあるだろう」と語った。
また、NGNを利用することで、移動系のコミュニケーションから、非移動系のコミュニケーションが増加することを指摘。これにより、移動によるエネルギーおよび時間を抑制できるとした。 「ニューヨークと東京を飛行機で往復すると、1人あたりの1.9トンのCO2が排出される。日本の国民1人あたりの年間CO2排出量は10トンであり、これに照らし合わせると、ニューヨークの往復だけで年間の5分の1のCO2を排出する計算になる。これが52インチのテレビを設置して、12時間会議をすると0.001トンで済む。NGNによって、環境対策が実現する」などと語った。 さらに、家庭のCO2削減という観点では、DC(直流)エコハウスを提案。家庭内で交流で使われている環境を直流にすることで、デジタル商品の多くで直流を使っているという点での効果のほか、交流と直流の変換の際に発生する無駄が排除できるとし、「電機メーカーにとって、直流化は理にかなっている。家庭から地域へと発展させ、ソーラー発電や蓄電施設なども直流とし、そこに超電導を利用すればロスはゼロになる。社会制度を変えるのは大変だが、こうしたところから取り組んでいかないと、日本の政府が取り組んでいるCool Earth 50の達成は難しい」と断言した。
□関連記事 ■デジタルコンバージェンスの4つの課題
一方、町田会長は、デジタルコンバージェンスには、4つの課題があるとした。 ひとつめは、Securityだ。ネット社会の進展により、ネット犯罪が増加。同時に手口の巧妙化や、リアルワールドと同様のリスクが顕在化している。デジタルコンバージェンス時代に即したセキュアな環境構築が必要とした。 2つめは、Copyrightだ。アナログとは異なり、コピーしても劣化しないこと、様々な機器で利用できること、ネット経由で全世界を駆けめぐるといった特性を持つデジタルコンテンツを、いかに著作権者の権利保護と、ユーザーの利活用促進のバランスを取るかが課題とした。地上デジタル放送のコピーワンス問題については、「問題解決の方向に向かっている」とし、「放送分野だけの基準で考えるのではなく、通信分野の考え方や、国際連携といった観点からの議論も必要」と語った。 3つめは、Software。アナログテレビからデジタルテレビへの転換によって、組み込みソフトの容量は約500倍に増加したが、デジタルコンバージェンスが進展するに従い、さらにソフト容量は増加するのは明らか。数千倍規模に拡大するなかで、この開発工数にどう対応していくかが課題になると語る。
そして、最後に、International Tradeである。例えば、IT商品であるPC用モニターは非関税であるのに対して、非IT商品であるテレビは有関税商品。だが、DVI端子付きのPCモニターは、この中間のグレーゾーンに入る。「デジタルコンバージェンスによって、商品のカテゴリーの壁がなくなる。デジタルコンバージェンスの世界に対して、制度をいかにハーモナイズさせるかが課題だ」とした。 町田氏は、「これらの課題解決には、アナログのフレームワークで作られた制度、インフラを、大局的見地から見直すべき」と語る。続けて、「加速度的に変化していくなかで、産学官の連携強化を指すInter-Sectora、複数の産業をまたがる連携と技術開発を意味するInter-Industrial、全世界が一体となったInter-Nationalの観点が必要である」とし、「JEITAとしても取り組んでいきたい」とした。
□CEATEC JAPAN 2007のホームページ ( 2007年10月2日 ) [Reported by 大河原克行]
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