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「レミーのおいしいレストラン」の発表イベントが開催された10月30日、松下電器はパナソニック・ハリウッド研究所(PHL)を会場に、BDプレーヤー「DMP-BD30」の発表を行なった。 実はDMP-BD30と新UniPhier搭載のDIGAシリーズは、同じシステムチップを共有する親戚関係にある。特に画質関連の技術は、一部分を除いて全く同じだ。そして、その“画質関連の技術”のうち、もっとも大きな違いを生み出している技術の出自がPHLだ。 また、世界的なプレーヤー/レコーダビジネスの動向についても、松下電器産業パナソニックAVCネットワークス社ネットワーク事業グループ・ビデオビジネスユニット長(AVC社におけるプレーヤー/レコーダビジネスのトップ)の杉田卓也氏にも話を伺った。 ■ 映像の質を“元から”改善したPHLのクロマ処理技術
会場で発表されたBD30は、DMP-BD10Aの後を受けた後継モデルで価格は499ドル。アナログ5.1チャンネル出力を持つが、BD10Aが対応していたドルビーTrueHD、DTS-HD ハイレゾリューションオーディオのデコード機能は省略されている。その代わりにTrueHD、DTS-HDのストリーム出力には対応。さらにPinPなど、時限措置として対応が求められていたBDプレーヤー規格Final Standard Profileのフル機能を搭載した。 もっとも、BD30の日本での発売予定はない。しかし、アナログ音声出力を除けば、プレーヤーとしての基本機能や性能は日本で発売されているブルーレイDIGA、DMR-BW700/800/900とほぼ同等だ。 ただし、画質という観点で見ると、HD映像のI/P変換処理をUniPhierで行なっているBD30に対して、Marvel社製チップを用いているDMR-BW800/900という違いはある。比較視聴していないため断言はできないが、UniPhierでI/P変換を行なった方が解像度が若干高く見える。
なぜPHLで発表会を行なっているのかと言うと、PHLで開発された技術がBD30、そしてBW700/800/900にも含まれているからだ。それがPHL リファレンス・クロマ・プロセッサーと呼ばれるマルチタップのクロマアップサンプリング技術である。 クロマアップサンプリングとは、色情報を各画素ごとに予測補完する処理のこと。デジタル放送、市販映像ディスクに使われている映像はRGBではなく、輝度と色信号を分離したYUVで記録されているが、データ量を減らすために色信号を削減している。 ビデオキャプチャなどをしたことがある人は、4:4:4といった表記を見たことがあるだろうが、これは輝度と色信号の対比を表した数値。4:2:2となると色信号は2画素に1つしか記録されず、4:2:0では4画素に1つしか記録されていない。放送や市販映像ディスクで使われているのは4:2:0である。 人間の目は輝度情報に敏感だが、色情報のに対しては鈍感で多少の情報欠落があっても解像感が失われないという特性を利用したものだが、もちろん、まったく情報が落ちないわけではない。 DVD黎明期はクロマ(色)情報をべた塗りで単純補完する手法が取られたが、色が滲んだり、格子状に色が付くなどのエラーが多く、その後、アップサンプリング技術が普及した。前後の走査線を参照しながらクロマ情報を決定する2タップ方式のアルゴリズムだ。BDプレーヤーに限らず、HD DVDプレーヤーなど、世の中に存在するほとんどの民生機器は2タップのクロマアップサンプリング処理を行なう。 映像出力がデジタルになれば、どの機種でもたいして画質は変わらないと考えている人も多いだろうが、実際には違う。デコード後の後段には映像調整のための回路が入ることが多いからだ。ハイビジョンI/P変換の手法によっても、見え方が異なる面は大きい。 とはいえ、クロマアップサンプリング技術は、そうした後処理の違いによる画質差などではなく、まさに“元から”異なる情報量を引き出しており、後処理による味付けを大きく超える良さがある。
■ ディテールが深く、グラデーションも滑らかに PHL謹製のクロマアップサンプリング処理は、元々、PHL副所長でMPEG-4 AVC High Profileの開発も行なった柏木吉一郎氏が、圧縮した映像を評価するためのリファレンス機材向けに書いたアルゴリズムだ。 絵の違いが圧縮による変化によるものなのか、ピクセルフォーマットの変換によって引き起こされているのかを正確に切り分けるため、クロマ処理による絵の変化を極力抑えたリファレンス品質のクロマアップサンプリングフィルタを開発した。 何度かPHLに足を運んでいるが、PHLのシアターでの、柏木氏のクロマアップサンプリング技術が使われる、HDDからの圧縮映像再生と、民生用BDプレーヤーからの画質があまりに違うので驚いたことがある。前者は非圧縮マスターとほとんど変わらない印象になるが、後者はコントラストも解像感も落ち、階調も少なく見える。 今回のUniPhierに搭載されたクロマアップサンプリング技術は、柏木氏がソースコードをそのままUniPhier開発チームに渡し実装を進めたものとのことで、PHLのリファレンス環境と全く同じクロマ処理が、家庭向け機材でも施されることになる。 その成果は明白で、主に以下のような効果を確認できる。これはBD30だけでなく、BW700/800/900でも同じだ。ただし、BDビデオソフトの再生時のみにしか働かないため、デジタル放送、あるいはその録画再生では恩恵を受けることはない。 まずコントラスト感が上がる。「パイレーツ・オブ・カリビアン2」のオープニング。水面がキラキラと光るシーンでは、波頭がより浮き立って見える他、黄色いタイトルロゴの色が濃く、デッドマンズチェストのサブタイトルが明るく描写された。人物のアップでもディテールが深くなり、肌の微妙な凹凸や産毛が明瞭になり、色の乗りもグッと増してくる。単に彩度を上げたのではなく、滑らかに階調が繋がる。 またクロマ演算の精度が上がったためか、煙の中にある浅いコントラストの情景で、色相が転ぶような不安定さがなくなり、階調の繋がりも改善している。たとえばパイレーツ・オブ・カリビアン1の冒頭、霧の中に船が浮かび上がってくるシーンなどは顕著で、従来機では階調が飛んでマダラになっていた部分が、きれいにつながっていく。さらに北米で発売されている、BD版「2001年宇宙の旅」を見ると、星の数が増えていることに気付いた。 このほか、違いを挙げればキリがないが、デジタルのハイビジョン映像を見始めて、これほど大きく画質面で進歩したと感じたことはかつて無かったほどだ。 元々、色信号帯域の制限が少ないBD-ROMであるからこそ、色信号処理でこれだけの画質差を生み出せた訳であり、改めてBD-ROMの画質優位性が確認できた。そう考えると今までDVDやデジタル放送の画質を基準に考えられてきた映像信号処理方式を更に見直す事によって、まだまだBD-ROMの画質進歩が期待できる訳で、今後が楽しみになってきた。 ■ 録画機能だけでなく、BDビデオの再生品質にもこだわっていく
発表会と前後して、BD30だけでなく、DIGAシリーズ全体のビジネスについて責任を持つ松下電器の杉田氏に、松下電器の今後のBDビジネスについて話を聞いた。 -- BD30を発表しましたが、これまでは北米の販売店でも松下製BDプレーヤーはあまり見かけませんでした これまで、松下電器はBDのビジネスに関して軸足を国内のレコーダに置いていました。海外では、録画機よりも再生専用機の要求が高く、特に映画をハイビジョンで楽しみたい要求が高まりつつある米国で、我々もプレーヤーのビジネスに力を入れなければならない。BD30に関しては性能、画質の面でも気合いを入れていますが、同時にビジネスの面でも力を入れていきます。 -- そもそも、北米だけを考えればプレーヤーしか市場がないのではありませんか? デジタル放送の時代になり、ATSC規格でHD放送が行なわれるようになれば、内蔵ATSCチューナを持つレコーダにもチャンスが出てきます。北米でも徐々に映像アーカイブのニーズは出てきていますので、将来を見据えて北米でもBDレコーダに取り組んでいきます。ただ、その前にBDプレーヤーにも取り組んでいかなければなりません。 -- BDプレーヤーは500ドル以下が当たり前になり、HD DVDプレーヤーに至っては200ドル以下で売られていること(米Walmartでは旧型のHD-A2を98ドルで発売)もあるようです。ここまでの急峻な低価格化で、ビジネスは成立するのでしょうか? 各社ともビジネスを正常に行なう価格ではなく、戦略的な値付けになってきていますね。これはフォーマット戦争の影響が大きい。HD DVDの場合は特にそうで、低価格で売るだけでなく、東芝製テレビのおまけにタダで配られたケースもあります。 こうした製品のバラマキ状態になるとビジネス的には当然、苦しくなってきますが、BD30からはUniPhierによるシングルチップ化に成功したためコストは劇的に下がってきました。もちろん、それぞれの単価は異なりますが、DVDプレーヤーもBDプレーヤーも、ドライブ、メインチップ、メモリという3要素だけで、内部的な構成は同じになってきています。BD10の世代では、多数のチップが混在して複雑化していますが、今後は、UniPhierによるLSIの集積をさらに進め、コストを下げていけます。BDプレーヤーの価格低下が予想値よりも早いのは確かですが、想定していた範囲を超えているわけではありません。 -- BD30は日本では売らないという認識でいいのでしょうか? 国内でも主にマニアの方々から、プレーヤーを望む声を頂戴していますが、今回のDIGAの中で、特にBW900については、BD30以上の再生品質を搭載しているので、再生品質の観点ではそういう層の方々にもご満足いただけると思います。 -- 今後10年といった大きな枠で考えたとき、フォーマット戦争による影響でビジネスの成算が立たなくなる可能性はありませんか? 商売にならないとなれば、その分野に戦略的な投資を行なえなくなる可能性もあるでしょう。 まだまだ、これからだと思います。確かにDVDプレーヤーのように、数10ドルのビジネスしか残らないとなると辛くなりますが、DVDとBDでは明白に画質が違いますし、技術的にもCブランド(低価格製品メーカー)が手を出しにくい領域であることもあって、長期的に見て利益を上げていくことができると考えています。コスト競争力を付けて、戦略価格ではなく公正価格で、安価なDVDプレーヤーとも戦える状況にまでコストを追い込みたい。DVDプレーヤーに関しても、紆余曲折はありましたが、現時点ではなんとか商売として成り立っていますから、BDプレーヤーでも同様にコスト競争力は付けられると考えています。 その鍵となるのがUniPhierと自社開発のBDピックアップです。全力で最高のシステムチップとBDピックアップを開発したので、あとはこの戦略コンポーネントをいかに多数生産し、技術競争から設備産業に持ち込んでいけるかです。ここまでの開発費はすさまじい金額ですが、今後、設備産業として数を生産していけばコスト負担を希釈することができます。 ライバルは映画スタジオとの共同プロモーションや、プレーヤーのディスカウント販売に巨額を投資していますが、我々は製品メーカーとして、同様の巨額投資をLSI開発やピックアップ開発、基礎となるソフトウェアの開発に投資してきました。ライバルに比べ、フォーマット戦争を戦う戦略的な投資が少ないのではないかと言われることもありますが、メーカーとして製品を改善し、継続的に商品を出していくために、将来、メーカーの血となり肉となるキーコンポーネントに対して戦略的な投資を行なっているのであって、投資をしていないわけではありません。 -- 松下電器としてDVDからBDへ、主要なビデオ商材が変化していくターニングポイントはいつ頃になると考えていますか? 日本はすでにターニングポイントを迎えています。今年春頃まで、レコーダ市場におけるBD/HD DVDレコーダの比率は1%ぐらい、9月末で1.8%ぐらいの数値です。しかし、10月28日の速報値では、まだ予約販売の段階にも関わらず、急激に伸びて8%にまで達しました。このうちのほとんど(次世代レコーダ内のシェアで97%以上)はBDレコーダです。来年度はさらに価格的にも、バリエーション的にも拡がっていくでしょうから、急速にBDレコーダが伸びると考えています。 -- DIGAシリーズにはAVCRECによるDVDへのハイビジョン記録機能もあります。これがBDレコーダ普及のブレーキにはなりませんか? 従来のDVDレコーダは、ハイビジョンでHDDに記録はできるのに、それを残せないという意味で不完全な製品でした。今年のDVDレコーダでは、まずその不完全な状態を取り除きたかった。また、DVDを用いたハイビジョン記録を使うことで、ハイビジョンのまま記録しておけることの良さをユーザーに広く知ってもらうという、種まきの意味もあります。今後のブルーレイDIGAは、すべてAVCREC再生をサポートしていきますから、まずは10万円以下のレコーダでも、HDで記録することに馴染んで欲しい。それに今年年末商戦ではブルーレイDIGAのテレビ宣伝をガンガンやるので、その心配はないと思いますよ。 -- デジタルハイビジョンレコーダは国内にしか市場がなく、商品として厳しいという声もありましたが、レコーダに軸足を置くということは、ワールドワイドでのBDレコーダビジネスにも勝算アリということでしょうか。 デジタルハイビジョンへと放送が移行する中で、BDレコーダビジネスを拡大していけると考えています。まずはオーストラリア、欧州はフランス、イギリスの順でBDレコーダビジネスに取り組んでいきます。すでに欧州では、放送をHDDに記録できるDVD/HDDハイブリッドレコーダが売れています。また、来年開催されるサッカーのEuro Cupに合わせてハイビジョン放送とHDテレビが普及すると言われていますし、もともと欧州ではレコーダビジネスがあり、市場のタイプは日本と似ていますので、2008年の本格的なHDデジタル放送の開始によって市場は徐々に動くでしょう。 □米Panasonicのホームページ(英文) ( 2007年11月6日 ) [Reported by 本田雅一]
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