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北京オリンピックや夏商戦を控え、ソニーがブルーレイレコーダのラインナップを強化した。それが新シリーズの「BDZ-A70」だ。 2007年11月に発売された「BDZ-T50/T70」や、「BDZ-L70」、「BDZ-X90」と基本的な設計は共通。テレビ放送を録画して家庭内のテレビで見る、という機能についての大きな変更点はない。 だが、A70は、「アクティブなユーザー向け」の先進モデルと位置付けられている。その理由は、ポータブルデバイスへの動画持ち運びを強化したことだ。 ソニーではDVDレコーダ「スゴ録」の時代から「おでかけ転送」という名称で、PSPなどへの動画転送を強化してきた。A70では、この機能をさらに強化し、転送専用ボタンの搭載や録画設定の改善などにより、使い勝手の向上を図るなど、ポータブル機器でのビデオ鑑賞に向けた機能強化を図っている。さらに、6月に導入が予定されている、新録画ルール「ダビング10」における対応も気になるところだ。 店頭予想価格は約17万円で、同社のBDレコーダでは、ビデオカメラ連携を強化した「L70」と、ホームシアター向けの最上位モデル「X90」とほぼ同価格帯となる製品だ。今回は、新BDレコーダ「BDZ-A70」のPSP/ウォークマン転送機能を中心に、その実力を検証した。
■ 基本機能は2007年年末モデルを踏襲
外見は一見するとBDZ-X90などと共通しているが、ボディカラーがブルーを基調にしたものから、ブラックに近くなった。前面パネルなどもデザイン変更され、パネル右脇には「ワンタッチ転送ボタン」を備えている。 HDD容量は320GB。L70やT70シリーズと共通だ。AVCの標準モードであるLSRモード(6Mbps)を利用すると、約100時間の録画が行なえる。チューナは地上/BS/110度CSデジタルを2系統、地上アナログを1系統備えている。 出力端子は、HDMI×1、D4×1、S映像×2、コンポジット×1、アナログ音声×2、光デジタル×1を装備する。入力端子はS映像×3、コンポジット×3、アナログ音声×3。Ethernetを備え、DTCP-IP対応のDLNAサーバー機能「ソニールームリンク」を搭載。i.LINKも1系統装備し、HDV/DV映像をHDDにコピーできる。 消費電力は67W。外形寸法は430×334×95mm(幅×奥行き×高さ)、重量は6.5kg。
基本的なレコーダとしての機能はBDZ-X90などと共通だ。ただし、ファームウェアのアップデートにより、クロスメディアバー(XMB)の操作レスポンスが大幅に向上しており、昨年試用した時より操作面での不満を感じる点が減っている。地味だが、こうして着実に使い勝手を強化している点は、ユーザーにとってはありがたいところだ。
チューナは地上/BS/110度CSデジタルを2系統、地上アナログを1系統装備する。デジタル放送のストリーム記録(DRモード)に加え、MPEG-4 AVC/H.264形式で録画/ダビングできる。AVC記録はXR/XSR/SR/LSR/LR/ERの6モードが用意される。 XR/XSR/SR/LSRは1,440×1,080ドットのAVCエンコード、LR/ERについてはSD解像度でAVC記録する。ダブルチューナのうち、片方のチューナ[録画1]のみがAVC録画対応で、[録画2]についてはDRモードのみの対応となる。 GUIはソニー製品おなじみのクロスメディアバー(XMB)で、番組表などの機能も基本的には2007年発売のBDレコーダを踏襲している。興味あるジャンルやタレントの名前を登録して条件にあった番組を録画する「x-おまかせ・まる録」や、人名や地名などのキーワードにマッチした番組を瞬時に検索できる「気になる検索」も備えている。基本的な録画機能については、BDZ-X90と共通なので、同機種のレビューを参照してほしい。
■ 良く作りこまれた「おまかせ・おでかけ」機能
最大の特徴といえる「おまかせ・おでかけ」転送の使い勝手は、非常にシンプルだ。 XMBの設定メニュー[ビデオ]の[おでかけ転送高速転送録画]を[入]に設定し、AVC録画が可能なデジタルチューナの1系統[録画1]で録画するだけで、自動的に「おでかけ用」の番組を作成する。 つまり、レコーダ用の録画番組に加え、もう一つ解像度320×240ドットのAVC動画ファイルをおでかけ用として録画するのだ。XMB上では通常の録画番組として管理され、そこにおでかけ用番組も収められている。 転送対象機器は、PSPとウォークマンの2種類が選択できる。対応機器はPSPとウォークマン「NW-A820シリーズ」。また、アナログ放送番組については、ドコモの905i/904i/705iシリーズの一部でも転送可能となっている。なお、録画予約時に[ワンタッチ転送]を[入]にしておくと、前面のワンタッチ転送ボタンを押した際に番組を自動的にウォークマンやPSPに転送。また、視聴後のウォークマン/PSPの番組を自動的にレコーダに書き戻す「おかえり転送」も同時に行なう。 転送対象機器としてPSPを選択すると、MPEG-4 AVCのMainProfileで、ウォークマンを選択するとBaselineProfileで録画される。また、画質モードとして、384kbps/768kbps/自動が選択できるようになっている。自動にしておくと、通常は768kbpsで録画するようだ。 なお、番組ごとにPSP用やウォークマン用といった指定を変更することや、ビットレートの変更などはできない。
おでかけ用に録画した番組の転送には2種類の方法が用意されている。 ひとつの方法は、XMBの[ビデオ]の項目から、任意のビデオを選択して[おでかけ転送]を呼び出すか、XMB最上部の「おでかけ転送」の項目を選択して、おでかけ転送用のタイトル選択画面を表示するというもの。ここで、おでかけしたい番組を選択して、決定する。複数の「おでかけ番組」を一度に指定できる。 なお、「おでかけ」した番組は、A70上で[おでかけ中…]と表示され、おかえり転送するまでは、再生できなくなる。
もうひとつの転送方法は、本体前面の「ワンタッチ転送ボタン」を利用する方法だ。これは[最新3日間分]、[最新1週間分]、[最新2週間分]の指定の期間中の録画番組を、ボタン一つでA70とウォークマン/PSPとの間で同期させる機能だ。 録画予約時に[ワンタッチ転送]を[入]にしていると、その録画番組がワンタッチ転送の対象番組となる。例えば[最新1週間分]とした場合、ボタンを押すと、1週間分のおでかけ録画番組のうち[ワンタッチ転送]の対象とした番組を自動でPSPなどに転送する。 一方、PSP/ウォークマン側で視聴した番組については自動的に[おかえり転送]される。おかえり転送された番組はA70からも視聴可能となる。このあたりの作り込みがよくできており、使い勝手は非常に良い。
おでかけ番組の転送時間は、768kbpsの30分番組の場合、2分弱で完了する。夜に録画したドラマを朝起きてテレビを見ながら同期して、家を出る際に取り外すなど、運用方針さえ決まってしまえばストレスなく、常に最新の番組を持ち運べるだろう。 ただし、[録画2]で録画した番組や、ウォークマン用として記録した番組をPSPにおでかけ転送する場合などは、転送時にAVCに再エンコードしなおす必要がある。その場合は再エンコードが伴うため、30分番組であればほぼ30分の変換時間が必要となる。再エンコードを伴わない、高速転送可能な番組については、おでかけ転送画面で[高速]と表示される。
また、[録画1]で録画を行なっている場合は、おでかけ転送できない。まさに外出しようとしているその時に[録画1]が録画中という場合、録画をあきらめるか、転送をあきらめるかを判断しなければいけない。ソニーのBDレコーダの特徴である「x-おまかせ・まる録」機能を使っている場合は、ユーザーの興味に合いそうな番組をかなりの頻度で[録画1]で自動録画し続けている。そのため、x-おまかせ・まる録機能を使っていると、「いざ転送!」というときに、転送できないということが多い。
つまり、A70の特徴である、「x-おまかせ・まる録」と「おでかけ・おまかせ転送」の併用が難しいのだ。この点は、今後のレコーダでは、ぜひ改善してほしいポイントだ。 ユニークなのは、A70で再生したポイントを記憶し、おでかけ転送時にその部分から転送できる点。特に再エンコードを伴う番組の場合では、転送時間を短縮できるため、かなり重宝する。また、PSPやウォークマンを接続していない場合、レコーダの空き時間を使って、おでかけ用ファイルをエンコードすることも可能だ。
■ 画質差はあまりないが、PSP/ウォークマンの共用は難しい PSPやウォークマンに転送した動画の再生もシンプルだ。基本的には両機器のビデオ再生画面から任意の番組を選択して再生できる。なお、A70で転送機器をウォークマンに指定している場合は、PSPに転送できない。もちろん、その逆もできない。
PSP用おでかけ番組はAVCのMainProfile、ウォークマン用はBaselineProfileとプロファイルは異なっている。しかし、ウォークマン用の動画作成ソフトで作成したAVCファイルは大抵PSPで再生できる。そのため、ウォークマン用として記録しておけば、PSPでも使いまわせるのではないか? と考えていたのだが、デジタル放送のコピー保護などがあるからか、通常のAVC動画とは勝手が違うようだ。 画質は非常によい。PSPへの768kbps番組のおでかけでは、4.3型の液晶でしっかりディティールが見渡せ、ノイズなどはほとんど感じられない。元が1080iのHD映像なので当たり前ではあるが、安定した環境のワンセグ受信と比べても、その差は明らかだ。 PSPの384kbpsではブロック歪みが増え、精細感の減退が感じられるほか、特にアニメの単色の背景の切り替わりや、ワイプなどエフェクト効果の後に引っかかりが感じられる。それでも字幕などが大きく崩れることはなく、実際の視聴に問題になることはほとんどない。
ウォークマンでは、液晶が小型ということもあり、768/384kbpsの差はより小さくなる。メモリ残量に余裕があれば768kbps、そうでなければ384kbpsとしたい。PSPについては、メモリースティック自体が安くなっているので、できれば768kbpsで録画しておきたいところだ。
また、ワンセグ放送と比較すると画質差は大きい。もちろん安定したフレームレートからうける、ボケのない印象は格段の違いだ。もちろん、「ライブ視聴」というワンセグならではの魅力があるわけだが、ワンセグの場合、安定した視聴や録画が難しいという問題がある。普段録画した番組を通勤通学時などにみる、といった用途であれば、A70とPSP/ウォークマンの併用のほうが満足度は高いだろう。
ウォークマンへの転送時で便利なのは、A70の録画時に自動生成される「おまかせチャプター」に対応すること。ウォークマンの方向キーで、チャプタの送り/戻しが可能なのだ。チャプタの作成精度も高いので、CMスキップなどには非常に重宝する。また、PSPでもL/Rボタンで、チャプタ送り/戻しが可能となっている。 なお、おでかけ転送した番組は、PSPやウォークマンに拡張子.MGVのファイルとして保存される。ただし、これらのデータをPCに取り込んで、拡張子を変更しても再生はできない。このあたりは、コピー保護の問題ということなのだろう。 おまかけ・おでかけ転送を搭載したことで、ポータブルプレーヤーへの書き出しは大幅に向上しているのは間違いない。ただ、前述のとおり、[録画1]利用中に転送できない点だけは、やはり物足りなく感じてしまう。
【訂正】
■ ダビング10で変わる「おでかけ・おかえり転送」 さらに、6月に予定されている「ダビング10」導入後には、おでかけ・おかえり転送にも大きな変化が生じる。ディスクへのダビングと同様に、おでかけ・おまかせ転送においても、10回までのダビングが可能となるのだ。 つまり、現在はPSPやウォークマンに「おでかけ」した後に、A70のHDD上のコンテンツの再生は不可となっているが、ダビング10以降は、PSPやウォークマンに転送した後も、HDD上のコンテンツの再生を可能となる。また、最高10回までのダビングが可能となる。 なお、10回目のダビングを行なうと、コンテンツはムーブされる。10回目のダビングの後は、A70上のコンテンツは再生不可となるが、おかえり転送を行なうことで再びHDD上で再生可能となる。いままではコンテンツが一対一で紐づけられていたが、10個までのダビングが可能となることで、たとえばPSP用やウォークマン用の転送に加え、BDディスクの作成してもダビング回数は余るわけで、使い勝手はさらに高まるのは間違いないだろう。 いまでも十分に便利な、「おでかけ・おかえり転送」ではあるが、たとえば家族皆で使っている場合は、「おでかけ」で一人が番組を持ち出してしまうと、残された家族はドラマを見られない。こうした問題を避けるためにも、ダビング10に期待したいところであり、おでかけ転送が本領を発揮するのは、ダビング10以降といえるかもしれない。
■ 魅力的な「おでかけ転送」 レコーダに「おでかけ転送」機能を搭載し、新しく便利なポータブルAV環境を実現した「A70」。普段はおでかけ転送機能を使わなくても、長期出張や旅行など、長時間の移動を伴う時のため活用するのでも、十分魅力的な機能だと思う。ライブ視聴にこだわらなければ、ワンセグに対して画質面でのアドバンテージもある。今後、さらなる対応ポータブルデバイスの拡大にも期待したい。 ただ、おでかけ転送機能そのものが非常に良くできているだけに、録画1利用時の各種動作制限などが気になってしまう。この魅力的なポータブルAVソリューションをさらに発展させるためにも、レコーダそのもののマルチタスク動作を改善してほしいと感じる。 ともあれ、ダビング10導入以降のさらなる使い勝手向上も期待される。こうした新しい提案によるポータブルAV環境の充実を今後も推進してほしい。 □ソニーのホームページ (2008年4月25日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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