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日本放送協会(NHK)が、東京・世田谷区にあるNHK放送技術研究所を一般公開する「技研公開2008」。開催は5月22日から25日までだが、公開に先立って20日にマスコミ向けの先行公開が行なわれた。入場は無料。
ここでは折り曲げ可能なフレキシブルディスプレイの開発状況や、有機撮像デバイスを使ったスーパーハイビジョン用小型カメラ、視聴者が番組制作できる「TV4U」、番組制作用の最新技術などを紹介する。
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■ フレキシブルディスプレイ 薄くて軽く、折り曲げも可能なフレキシブルディスプレイの開発を目指し、フィルム液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、およびそれらを駆動する有機TFTの研究が進められている。2007年は液晶/有機ELとも、64×64ドットのパネルに動画表示を実現していたが、今年は大型化や多画素化を実現。さらに、有機ELのカラー表示も可能にした。 一般的に、プラスチック基板は耐熱温度が150度と低いため、作製プロセス温度が数百度になる低温ポリシリコンやアモルファスシリコンTFTを適用することが困難である。有機TFTは作製温度が低いため、プラスチック基板上に直接作成でき、なおかつ柔軟性にも優れており、フレキシブルディスプレイの駆動素子として注目されている。 今年はゲート絶縁膜の表面処理による有機半導体の結晶性改善や、TFTの短チャンネル化などにより、高い電流変調特性と高速動作性を実現。光を利用して微細なパターンを形成するフォトリソグラフィ技術を用いて微細化/多画素化も実現し、5インチ、160×120ドットの有機TFTアレイが試作された。 これを用いて、高速動作の強誘電性液晶材料を使った、5インチ、160×120ドットのフィルム液晶ディスプレイと、高効率リン光材料を3色(RGB)に塗り分けてカラー表示を可能にした、5.8インチ、213(×3/RGB)×120ドットの有機ELディスプレイが展示されている。今後も大型/高精細化を行なうため、塗布形成が可能な新規材料の開発や、インクジェット法などを用いた制作プロセスなどの要素技術も開発していくという。
■ 有機撮像デバイスで小型スーパーハイビジョンカメラを スーパーハイビジョンの撮影が可能な小型カメラの開発では、有機膜が注目されている。現状のスーパーハイビジョンカメラでは入射した光をRGBに分けて、それぞれを撮像デバイスに通している。有機撮像デバイスでは、RGBのそれぞれの色にだけ感度を持つ3枚の有機膜と、そこから信号を読み出す3つの透明な回路を交互に重ねた単板カラー撮像デバイスとなっており、プリズムや複数の撮像デバイスが不要になることから、カメラの小型/軽量化ができるという。 ブースでは有機撮像デバイスや試作機のカメラを展示。研究はまだ初期段階だというが、光の利用効率が高いため、将来的に3板式カラー撮像デバイスと同等の画質を得ることは可能だという。今後は有機膜から信号を読み出す透明な回路である酸化亜鉛TFTの高集積化を図り、解像度を向上させていくという。
■ 視聴者が番組制作に参加 「TV4U」は、視聴者がテレビ番組を制作し、発信するという新しいメディアを目指して開発が進められているもの。実際の番組制作で使っているCGキャラクターデータなどをユーザーに提供。ユーザーがテキスト台本を書いて合成音声を使ってキャラクターをしゃべらせたり、怒る、笑うなど、用意されたキャラクター動作パターンを指定するなどして、番組を作っていくというもの。制作した番組は専用ブラウザで再生でき、他のユーザーに公開することもできる。 今年の展示では、ハイパーリンク機能が追加。これにより、自分の番組内に、他ユーザーの番組や、自分の他の番組を「紹介VTR」のように取り込むことができ、自分の番組から他ユーザーの番組へジャンプすることも可能になる。さらに、その番組に視聴者がコメントを追加できるなど、ユーザー同士のコラボレーションを可能にする機能が盛り込まれている。
「AdapTV」は、視聴者の年齢や嗜好などに合わせた放送を行なうための技術。放送内のそれぞれのシーンの意味や目的、内容の難易度、登場人物やその位置などをメタデータで放送局が放送と一緒に提供。受信機側で実現する機能で、送られてきたメタデータを元に、例えばニュース番組全体の中から政治とスポーツの部分のみを抜き出し、繋げて再生するなど、利用者の嗜好に合ったダイジェスト番組を受信機が自動作成することができるという。 また、表示するテレビのサイズや解像度などの情報もプロファイルとして受信機側で作成。サッカー番組を表示する場合、大型テレビではピッチ全体が見渡せるようなアングルでも、携帯電話のワンセグで視聴すると、選手が集まっている部分をトリミングして表示し、小さな画面でも内容をわかりやすくすることもできるという。 ただし、高機能な「AdapTV」を実現するためには、放送局側が詳細なメタデータを提供する必要がある。「例えばサッカー選手の個々の立ち位置がメタデータで提供されれば、特定の選手のみを追って表示することも可能だが、データ作成のコストがかかり過ぎるので難しい。そのため今回の展示では“人が集まっている部分を認識して、そこを中心にトリミングする”という技術で携帯端末用画面をデモしている。メタデータに頼らない技術も織り交ぜながら、より一人一人に適応するテレビを作っていきたい」という。
メタデータを使ったサービスとして「CurioVieW」(キュリオビュー)も注目を集めている。視聴中のシーンのメタデータを手がかりに、関連する番組や情報を自動的に検索し、ユーザーに推奨するというもの。例えば動物番組では、登場している動物がキリンだった場合、同じくキリンが登場している番組を画面右側に子画面で表示したり、狩りをしているシーンでは、他の動物番組の狩りのシーンを多数表示するといったことが可能。野球中継でホームランのシーンを抜き出すこともできる。 HDDレコーダに蓄積した番組を効率的に再生することを目的としており、メタデータはEPGやデータ放送、字幕、外部からの配信データなどを使用。関連動画としてネット上の動画を提示することもできるという。インターネット検索のようにキーワードを打ち込まずに関連動画が楽しめるのが特徴。番組説明情報を元に、ドラマ登場人物の相関図をHDDレコーダ側で自動作成することもできるという。
■ リアルタイムCG合成が手軽に 大型ブースでは、実際の番組制作現場を再現。そこで「協調撮影ロボット」が無人撮影を行なっている。これは、スタジオ内の出演者やセットの状況、ほかのカメラの撮影内容などから、自ら撮影ショットを決定。他のロボットとも協調しながら自動撮影を行なうというシステム。 例えば人間のカメラマンが操るメインカメラが出演者全員を写そうと、引きの映像を撮影すると、ロボット達のサブカメラがそれを検出。自分達は出演者へズームし、ロボット同士の撮影対象がかぶらないよう協調するなどの動作が可能。ショットは熟練したカメラマンの撮影技法を分析した結果に基づいて決定しており、パン、チルト、ズーム、フォーカス、ドリーを同時に制御し、本物のカメラマンでは困難な撮影も可能だという。
「IRマット」技術は、スタジオの照明条件や被写体の色に影響されず、CG合成が手軽に行なえるというもの。一般的なクロマキーでは、背景に青色などのスクリーンを用意し、その青色を検出することで被写体と背景を分離。青色の部分にCGをはめ込んでいる。この場合、スクリーンを均一に明るくする照明が必要だったり、被写体が背景と同じ色の服を着ているとそこも背景と誤認識されるなどの問題があった。 「IRマット」は、微小なガラスビーズを使った再帰性反射材で作られており、通常のテレビカメラで写らない近赤外光を照射すると、人間に当たった部分は拡散するが、スクリーンに当たったものはそのまま反射してくる。この投射/反射光の受信装置を取り付けたカメラで撮影すると、通常の映像と同時に、被写体のシルエット映像も同時に撮影可能。背景の部分に容易にCGが合成できるという。 福岡放送局が制作した朗読ドキュメント番組で既に使用されており、「クロマキーの背景スクリーンへの明るい照明が不要なため、省電力化も期待できる」という。
■ その他 NHKの次世代アーカイブ用記録メディアを目指して開発が進められているのは、薄型基板を使った光ディスク。0.1mmに薄型化することで、1.2mm厚の通常のディスクが面ブレを起こしてしまうような1万回転以上の高速回転が可能で、独自の光ビーム位置制御アルゴリズムと合わせ、250Mbpsの記録速度を実現しているという。
最大100万枚/秒の高速撮影が可能な「超高速度カメラ」は、入射光を2つに分割するビームスプリッタを搭載した新モデルを展示。分けた映像を2枚のCCDで切り替えながら撮影することで、従来の2倍となる288フレーム分の撮影記録時間を実現した。光量が低下するという欠点もあるが、「生き物の生態やスポーツなどでは、より長い記録が求められており、今後はCCDの感度向上などで対応していきたい」という。
□NHKのホームページ
(2008年5月21日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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