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本田雅一のAVTrends

2008年末の注目製品をピックアップ
【前編】テレビ、BD、音楽プレーヤーなど


 新製品を人に“おすすめする”というのはなかなか難しい。新しい分野のデジタルグッズがたくさん生まれてきた時代ならいざ知らず、今やほとんどの分野がデジタル化され、それぞれに進歩した。単に性能が良ければ、機能が多ければ良いというものでもなく、自分の利用スタイルや好みに合っているかどうかが重要なのだと思う。

 たとえば、どんなにコントラストが高く高画質でも、視野角が狭ければ家族で楽しむテレビとしては適切ではないだろう。一方で独身者の映像マニアならば、多少の視野角の犠牲があっても絶対的な画質が欲しいという人もいるはずだ。同じ製品でも使う人によって評価は異なる。

 つまり、製品の“善し悪し”ではなく、自分に向いている製品なのか、好みに合う製品なのかの方が、よほど重要なのだと思う。

 そうしたことを意識しながら、“おすすめ製品”ではなく、“注目製品”という切り口でいくつかの製品を紹介していこう。なお、必ずしも年末商戦に投入された製品だけではなく、今年後半に発売されたもの、発売予定のものからピックアップした。


・テレビ

 薄型テレビに関しては多くの情報があるので、年末に購入したいという読者は、ほとんどの情報をご存じのことだろう。

KDL-55XR1

 もし、今年もっとも高画質な製品を購入したいというのであれば、ソニーのBRAVIA XR1シリーズを選べば良い。LEDアレイによるバックライトを局所制御することでコントラストを向上させるという、実に不自然な機能を実装し武器にしていながら、それを全く感じさせない。ここ数モデルに渡って改良し続けてきた映画用モードの的確な色再現とガンマカーブも素晴らしい。

 静止画写真を閲覧するためのフォトモードは、シャープネスがかかりすぎ、せっかくの情報量を失わせているように思うが、それ以外の画質モードは妥当なもので、バックライトの局所制御の程良い動きと合わせ、久々に映像のソニーたるところを見せてくれたように思う。

 実は開発の初期段階では、もっとドラスティックにバックライトを動かし、真っ暗な部屋で見ても全く黒浮きを感じさせないほどだったそうだ。しかし不自然な動きが目立ったため、程良い制御幅に最適化していったという。

 ただ、XR1は素晴らしい画質だが、VA型液晶の宿命である視野角の問題は解決できていない。一人で正面から常に映像を見るのであれば、その実力を発揮させることもできるが、自由な位置から、あるいは家族全員で見るテレビとしては、少々、視野角が気になることもあった。また、せっかくの素晴らしい映画用モードだが、シアターボタン一つで切り替えが可能とはいえ、ユーザーの意志が介在しないと利用されることがない。一番、時間をかけて作っている画質モードが使われないのでば、実にもったいない。

 これらのテーマに、ソニーは何らかの答えを用意しなければならないだろう。

KDL-46XR1 映像を切り、バックライトのみを表示したデモ

REGZA 46ZH7000

 BRAVIA XR1がディスプレイとして優れたテレビなら、家族で楽しむテレビとしては東芝REGZAをチョイスしたい。春に初めて導入して以来、やっと定着してきた“おまかせドンピシャ!”の良いところは、テレビが置かれた環境と見ている映像の種類に合わせて最適な画質へと自動調整してくれること。

 年末商戦向けにはメタブレイン・プレミアムと称して、地上デジタル放送の映像をフルHDに超解像する機能を前面に押し出しているREGZA。もちろん、その点も良いのだが、画像モードを選択したり、細かな調整をする人は稀なため、ほとんどの家庭でテレビが持っている本来の実力を出し切れていないことを考えれば、やはりおまかせドンピシャ!が、REGZAを評価する上でもっとも重要な点だと思う。

 IPS液晶を採用している42インチモデルはコントラストこそVA液晶採用モデル(REGZAでは46インチ以上がVA型になる)よりも落ちるが、視野角の広さを買って、あえてIPS液晶採用の42インチを個人的には選びたい。


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・Blu-ray

パナソニック「DMR-BW930」

 シャープ製BDレコーダの値下げに追従する形で、BDレコーダの価格が下がっている。特に500GB以下のHDD搭載モデルの安さが目立つ印象だ。機能面に関しては好みもあるだろうが、画質という点に関してはパナソニックのDMR-BW930がダントツでいい。

 ただ、BW930はやや高い価格帯に留まっている。BW830でもいいのでは?と思う方もいるだろうが、実は両者の画質は意外なほど違う。デジタル部の違いはあまり大きなものではないのだが、電源まわりの設計や使っている部品の品位の違いが影響を及ぼしているのだろうか? とはいえ、お買い得度を重視するならBW830が良いという結論になる。

 ソニーも今年はがんばった。特にBDZ-X100の音質は昨年より大きく上がっており、ライバルのBW930と比較すると画質面ではややフラットで情報量が少ない印象を受けるが、音の品位ならばパナソニックよりも優れている。もっとも、パナソニックのBW930もさほど悪くないだけに微妙な差ではあるのだが。

 また、両メーカーだけでなく、今年の年末はすべてのメーカーがBD 1.0時代のカートリッジ型BDの再生をサポートしなくなってしまった。いわゆる“殻付き”BDの再生が行なえる現行機種は、ソニーのBDZ-A70がわずかに残るのみ。実に腹立たしいのだが、出ないものはしかたがない。殻付きユーザーは以前のレコーダを先に処分してしまわないように気をつけよう。

 一方、プレーヤならばパイオニアのBDP-LX71が一番勧めやすい。この製品は15万円で売っていてもおかしくないデキだが、実際の販売価格は約10万円。もちろん、上の価格帯にはソニーBDP-S5000ES(294,000円)などもあるが、価格クラスは2つほど違う。やや音質面は心許ないが、それでもレコーダよりはいい。絶対的なお買い得機種だ。

ソニー「BDZ-X100」 パイオニア「BDP-LX71」


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・音楽プレーヤー

 昨年はパイオニアのPD-D9をコストパフォーマンスの良いSACD/CDプレーヤーとして紹介したが、今年発売された中ではマランツのSA-15S2が素晴らしい仕上がりだ。型番末尾の“S2”とは“シリーズ2”のこと。つまり、シリーズ1があったのだが、ドライブメカも電源もアナログ出力のラインアンプも、すべてが新しい。

マランツ「SA-15S2」

 同じ型番だが、中身は全く別の新規設計と考えていいだろう。実はこの製品、メーカー希望小売価格は15万円となっているが、海外ではおよそ2,000ドルで売られているもので、企画や設計段階でも日本円で20万円ぐらいを想定していたという。つまり5万円ほど想定より安い値段が付いている。

 国産メーカーだからというのもあるだろうが、日本では値段を下げて可能な限り多く売りたいと考え、営業的な判断から低価格になったとのこと。

 しかし、中身はというと2,000ドルでも十分にコストパフォーマンスが良いというデキ。SA-15S1は、やや薄く表情に乏しいフラットな演奏に聞こえる点が個人的には好みではなかったのだが、S2になってガラリと印象が変わった。

 厚みとコシがあり、表情が深い陰影で描かれ、音場が濃い。実に王道と言える進歩……というよりも、生まれ変わりを果たしている。やや中低域が演出的に元気よく聞こえる傾向も感じるが、ケーブル類やセッティングでどうにでも調整できる範囲だと思う。

 個人的にはパソコンやネットワークを使いこなしている方には、リン・ジャパンのDSシリーズにも挑戦して欲しいとは思うが、ローエンド製品でもやや価格は高いと感じると思う。ともかく手元のディスクを良い音でということなら、PD-D9とともにSA-15S2を勧める。

SA-15S2の内部 LINN「Sneaky DS」

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・ホームプロジェクタ

 薄型テレビの大画面化に伴い、陰に隠れがちのホームプロジェクタだが、もし高画質で見たいコンテンツが主に映画なのであれば、是非ともスクリーンで見て欲しい。あくまで個人的な趣味だが、プロジェクタを使う理由は大画面を手軽に得られるという要素もあるにはあるが、むしろ映画をより映画らしく見るための道具として、テレビとは別に切り離して考えた方がいいと思う。

 50万円以上の高価な製品が高画質なのは当然のことだが、今年は比較的購入しやすい価格帯のプロジェクタが、格段に高画質になっている。

 ライバル関係にあるエプソンのEH-TW4000、パナソニックのTH-AE3000は、両機種とも昨年モデルからの改善が著しい。

エプソン「EH-TW4000」 パナソニック「TH-AE3000」

 コントラストは両者とも上がっているが、絶対的な黒の沈みはTW4000の方が上手だ。映画視聴時の主となる画質モード・シアターブラック1やシアターブラック2では、動的なアイリス制御も行なわず、ネイティブコントラストで勝負している。透過型液晶パネルであることは、もう意識する必要はないだろう。

 一方のAE3000は、コントラスト向上に伴って、同社が目指していたシアター1モードの絵作りが、やっと花開いた。また、動的アイリス制御の巧みさに定評あったのがさらに改善され、黒が沈み、さらに白側も明るさが伸びて、さらにディテールのエンハンスが実に良い塩梅になってきた。レンズの圧縮効果で奥行き感を演出している場面などで、ピンのある位置から距離の違いごとのボケ方といったところが、とても自然に見える。

 これまでコントラストの向上ばかりに注目が集まりすぎていたせいもあるだろうが、本当の意味で"画の質"が熟成されてきたのがこの2モデル。

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 そしてもう一つ。反射型液晶プロジェクタの価格を大胆に下げたソニーVPL-HW10の存在も忘れてはならない。上記2製品よりもさらに低い価格帯で、昨年までのミドルレンジ機種と同等の画質を手に入れることができる。絵作りの完成度ではAE3000に一歩及ばないと思うが、この価格なら……と思わせる。

 低価格という観点で言えば、三菱電機のLVP-HC5500にも注目したい。この製品は昨年の主力機だったLVP-HC5000の性能を引き継ぎつつ、レンズのシフト量とズーム倍率を抑えることで低価格にしたもの。アイリス制御も進化している。設置条件は厳しくなるが、もし条件に合うならばコストパフォーマンスは高い。

ソニー「VPL-HW10」 三菱「LVP-HC5500」

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(2008年11月18日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]


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AV Watch編集部

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