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グーグル株式会社(Google)は25日、展開している動画共有サイトYouTube 日本版サービスの事業説明会を開催。現状のパートナーシップや著作権問題への対策、今後の展開についての説明を行なった。
■ 広告/マーケティングツールとしての機能強化 Googleのコンテンツ担当副社長であるデービッド・ユン氏は、2007年6月19日の日本版サービス開始以来、100社以上とパートナーシップを結び、公式コンテンツの配信や広告ツールとして活用されてきたこと。著作権管理団体であるJASRAC、イーライセンス、ジャパン・ライツ・クリアランスとの契約を結んだことなどを振り返り、「パートナー達の“自分達でネット上のコンテンツをコントールしたい”という要求に応えてきた」と説明。 さらに、利用者が動画のどの部分に注目しているか、どの地域のユーザーに見られているかなど、細かい統計情報を閲覧できる「YouTubeインサイト」サービスも紹介。マーケティングツールとしての有効性をアピールした。
著作権保護の部分では、既に導入が開始されているコンテンツIDシステムを紹介。事前にコンテンツホルダからオリジナルの動画を提出してもらい、そこからIDファイルを作成し、データベースとして蓄積。YouTubeに投稿された動画と照らし合わせて類似性をチェックし、問題があれば権利者へ報告し、判断を委ねるというもの。 権利者は、投稿された問題のある動画が、公開される前に連絡を受けることができ、その動画を公開禁止にする「ブロック」、ブロックはせずにトラフィック情報などを詳細に取得して動向を見守る「トラック」、マッチしたユーザー動画に広告などを表示して広告収益を受け取る「マネタイズ」の3つの行動が起こせる。
ユン氏によれば、現在300以上のパートナーがこのシステムを利用しており、オリジナルファイルとの類似性が認められた動画の90%以上で、「マネタイズ」が選ばれているという。 ユン氏はこうした動きについて「人気のある動画の大部分は、パートナーの企業などが公式にアップロードしたものよりも、ユーザーが投稿した動画の再生回数が多い傾向がある。例えば、ユーザー投稿動画をマネタイズすることで、公式動画の50倍の再生回数と収益を達成したケースもある」と一例を交えて説明。広告メディアとしての可能性ど同時に、「利用者がどのような動画を“興味深いと感じているか”を理解する手助けにもなるだろう」と語った。 今後の展開としては、クリックレートが通常の広告の8~10倍あるという動画再生前に表示する動画広告「In-Video」や、前述のIDシステムと組み合わせて、コンテンツホルダが動画に関連した本やDVDなどの販売サービス(amazonやiTunes)へのリンクを設けるシステムなどを紹介。「今後もこうした収益の向上策に取り組むほか、グローバル展開を見据え、コンテンツホルダがどの地域に向けて配信したいのかを選択。その地域に向けてキャプションを翻訳するサービスなども提供していきたい」と展望を語った。
■ 活用事例 続いて、参入している各社が、展開しているサービス事例を効果と交えて紹介。角川デジックスの代表取締役社長の福田正氏は、違法動画の判定基準として「DVD発売以降にアップさっれた本編動画は、公開の継続を許可せず、広告も載せない」、「角川が権利を持つ映像のみをベースとしたMADムービーは公開の継続を許可し、広告なども掲載する」、「その映像があらかじめ承認している素材だった場合はユーザーへの還元も行なう」「愛が無く、作者が嫌がるMADは不許可」など、10個の想定ケースを作ったことを紹介。 それをもとに、何十万という掲載コンテンツをチェック。「“公認になって、作品の紹介に役立てるのは嬉しい”など、多くの暖かいメッセージをいただいた。認定したコンテンツの再生も10月24日の段階で約62倍、30秒以上再生された“エキシビジョン数”も約49倍になった」という。
ほかにも、YouTubeで角川のWalker系チャンネルとのコラボレーションも実施。タカラトミーが発売する「フラワーロック2.0」の広告展開でこのコラボを活用したところ、フラワーロック関連動画数が10月30日の時点で9本、再生数が20,435回だったものが、11月14日には50本、88,466回と徐々に増加。さらに、同日に前述のinVideo広告を掲載したところ、翌15日には52本/14万5,640回と急激に再生回数が増加。11月21日の時点では101本/44万6,116回と、YouTube上での盛り上がりが確認できたという。 角川グループホールディングスの代表取締役会長兼C.E.O.の角川歴彦氏は、日本のコンテンツホルダとして、ネットワークの活用に積極的である理由として、「YouTubeは下田にやって来た黒船のようなもの。つまり、黒船だけが問題なのではなく、その背後にある米国やロシア、ヨーロッパなどとどう接していくのかが問題になる。我々は明治維新の政府がとった外交戦略をなぞらえただけ」と、世界的なコンテンツ流通の変革を、日本の開国となぞらえて説明。「土足であがってきて、そのまま侵略するのなら、そういうものとして対応するしかないが、YouTubeは“Think Global, Act Local”を実践しれくれた。そこに敬意を表したい」と語った。
参入を決めたばかりのエイベックス・マーケティングからは、取締役で、アーティストマーケティング本部本部長である前田治昌氏が登壇。Mondo Grossoの大沢伸一氏、Fantastic Plastic Machineの田中和之氏、m-floの☆Taku氏が手掛けるプロジェクト“ravex”を発表した。 エイベックスの創立20周年と、手塚治虫生誕80周年を記念して作られた物で、「ダンスミュージックとJ-POPの新しい融合」を掲げており、本格的なプロモーションビデオの配信や、スタッフが片手間に撮影したようなライヴ感のある映像も区別なく、YouTube上で配信していく予定。今後はオーディションなど、アーティスト育成の場としてもYouTubeを活用していくほか、既に動画を発表しているクリエイターに、逆にエイベックス側が声をかけるなど、柔軟な思考で様々なビジネスへの展開を模索していく姿勢を強調した。
パナソニックAVCネットワークス社、映像・ディスプレイデバイス事業グループ商品企画グループの和田浩史グループマネージャーは、「見るテレビから使うテレビへと、テレビの進化における第5の波が来ている」と語り、業界初のYouTube対応テレビ「42PZR900」を紹介。「9月の発売以来、販売店の感心が高く、ユーザーからもご好評を頂いている」と、現場の声を紹介した。
■ 著作権について
著作権については、社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)の菅原瑞夫常務理事が解説。「動画の配信サイトと共有サイトを違う物として議論する人も多いが、コンテンツが集まり、一般の人達に配信するというシステムに違いは無い」とし、動画共有サイトとのライセンス契約が珍しいものではないことを説明。 「一般の人からの投稿があるという点が違うポイントであり、理想としてはその投稿をした人がライセンス許諾を依頼するべきだが、何万人から依頼され、我々がその都度判断してライセンスを出せるかといわれると無理がある。そこで、“動画共有サイト全体を1つの空間”と考えると、その場がすべてライセンスの中に収まっていればいいと考えられる」と、JASRACとしての動画共有サービスのとらえ方を説明。
YouTubeとのライセンス契約については、「動画の大半には音楽が使われている。例えばエイベックスさんがYouTubeで公式に新しいビジネスを展開したいと言っても、音楽面でJASRACのライセンスが結ばれていないとNGになってしまう。そういうことがないよう、コンテンツホルダの方々のビジネス展開のベースとなる環境を整えることがJASRACの役割だ」と語った。
□Googleのホームページ
(2008年11月25日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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