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株式会社エフエム東京や株式会社ニッポン放送、三井物産株式会社など17者は、アナログテレビ放送が終了する2011年以降に、空いたVHF-LOW帯(VHF 1~3ch)で実施されるマルチメディア放送サービスのイメージを明確にし、運用規定策定を目指す「VHF-LOW帯マルチメディア放送推進協議会(仮称)」を2月20日に設立する。略称は「VL-P」(ブイローピー)。設立に先立つ10日、都内で設立説明会を開催した。
空いたVHF-LOW帯の利用に関しては、現在、情報通信審議会情報通信技術分科会放送システム委員会が、そこで実施する「携帯端末向けマルチメディア放送方式に関する技術的条件」について検討を行なっている。この帯域を使ったサービスの実施については、フジテレビやNTTドコモなどが設立した「マルチメディア放送」が、地上デジタル/ワンセグで利用しているISDB-T(Integrated Services Digital Broadcasting-Terrestrial)方式を拡張してたISDB-Tmm方式を用いた放送サービスを希望。 一方で、社団法人デジタルラジオ推進協会(DRP)が推進するデジタルラジオも、既に空いているVHF帯域を用いて実用化試験放送を実施。同じくISDB-Tをベースとした、ISDB-TSB方式を使用している。また、クアルコムが推進する「MediaFLO」も、マルチメディア放送方式への採用を目指して活動を続けている。
既報の通り、「VL-P」は、デジタルラジオと同じISDB-TSB方式を採用したマルチメディア放送の運用規定策定やサービスイメージの明確化を目的としており、これらの争いに参戦する形となる。しかし、「VL-P」の発起人となる17者の中には、エフエム東京(TOKYO FM)、TBSラジオ&コミュニケーションズ、日本放送協会(NHK)、エフエム大阪、FM802、朝日放送、ニッポン放送など、社団法人デジタルラジオ推進協会の主要会員が多く含まれており、デジタルラジオの試験放送を行なっている放送局もある。
デジタルラジオとの違いについて、NHK総合企画室の黒田徹統括担当部長は「マルチメディア放送の中で“どういうことをやっていくのか?”を考えるというのが我々がVL-Pの立場」とした上で、「デジタルラジオとVL-Pの両方に関わっているNHKとして言わせていただくと、現在のデジタルラジオの試験放送では、その制度が(試験放送の免許が切れる)2011年7月以降、どのように移行していくかが明確に担保されているわけではない。VL-Pでは今後の議論の中で、デジタルラジオの試験放送で行なわれていたサービスが、2011年後も継承されることを担保していくための検討もしていきたい」と言う。
つまり、“2011年後のデジタルラジオを内包していく事を想定した新放送”ともいえる。しかし、デジタルラジオと完全に同じではなく、より高機能な放送方式を提案しているのが特徴であり、それがデジタルラジオという枠から出て、「VL-P」という新しい団体を発足させた理由でもある。
VL-Pが一例として紹介しているサービスイメージでは、ワンセグやデジタルラジオの簡易動画放送と同様に、MPEG-4 AVC/H.264を使った動画を規定している。解像度はQVGA(320×240ドット)。しかし、フレーム数をワンセグやデジタルラジオの15フレームの倍となる、30フレームまで対応させることを想定している。 データ放送はワンセグやデジタルラジオとの互換性を持つデータ放送を採用するほか、多チャンネル編成を可能とした規定も用意。ほかにも音声面で低レートでも実現できる5.1chサラウンド放送の導入や、放送波を使った楽曲ファイルなどのコンテンツのダウンロード配信、IP伝送機能を使い、ネット上のコンテンツをそのままマルチメディア放送の電波を使って配信するといった技術も検討されている。
だが、こうした高度なサービスの実験や規格への取り入れが、デジタルラジオの協議会やビジネスフォーラムなどの枠内でできないのか? という疑問もある。現に映像放送の30フレームを除き、こうした高機能な放送サービスの実現は、デジタルラジオでTOKYO FMが特に力を入れて取り組んでいたものだ。しかし、データ放送を使った楽曲配信や、それに伴う課金システムなどの実験をTOKYO FMらが希望していたが、DRPが持つ試験放送免許では有料課金サービスの実験は行なえないなどの問題があり、既報の通り、2008年8月にTOKYO FMがデジタルラジオの試験放送を休止するという事態も引き起こしていた。
そうした実験を行なう場として総務省は、福岡のユビキタス特区での実験をTOKYO FMに対して許可。説明会の冒頭、挨拶に立ったTOKYO FMの黒坂修常務取締役は「福岡のユビキタス特区で、ダウンロード機能やサラウンド放送などの実証実験を考えており、機器の設置を進めているところ」と説明した。
一方で、2011年まで残された時間が少ないという問題もある。情報通信審議会は7月に答申を出し、2010年の初めには免許方針が示され、中ごろにはサービス事業者選定が行なわれる予定。その頃にはVL-Pとしての運用規定を固め、承認を目指さねばならない。よって、デジタルラジオを内包しつつ、サービスの多様さ、高機能化を進め、なおかつ“どのようなサービスを実施していくか”という運用規定の策定に向け、時間的危機感を共有しながら早急に話し合いを進めていこうという意思を持った有志が立ち上げた団体が「VP-L」と言えるだろう。 そのため、2011年後にVL-Pが推進する放送方式がマルチメディア放送に採用された場合でも、ユーザーから見ると「(実用化試験放送の)“デジタルラジオがそのまま続いていたのね”と思われるかもしれない」とNHKの黒田氏は語る。しかし、前述の映像やデータ配信などを使った多様なサービスも盛り込まれるため、そうした技術を取り入れた放送を2011年から開始する事業者のサービスを視聴した場合は「(デジタルラジオと)まったく違う放送になったと思われるかもしれない」(黒田氏)という。 黒田氏は2011年後の「VL-P」像についてBSデジタル放送を推進していたBS-P(BSプラットホーム)協議会が、放送立ち上げに伴い、BSデジタル放送推進協会(BPA)となり、その後に地上デジタル推進協会(D-PA)と統合。デジタル放送推進協会(Dpa)となったことを例に上げ「マルチメディア放送が立ち上がった場合は、そうした組織へ移行するかもしれない」と語る。しかし、例えば発起人17者が必ず2011年以降のマルチメディア放送に参入するかどうかは定かではなく、「VL-Pはあくまでも、マルチメディア放送の普及を早期に図るために運用規定策定等を行なう団体であり、放送免許の取得とは一切関係ない。発起人17者が新しい放送にどのような形で参画していくかは、独自判断されるもの」という。
また、DRPとの今後の関係については「現時点でVL-Pとして、DRPが実施している実用化試験放送の電波を使用し、試験放送を実施することは想定していない」とした。
■ VL-Pの概要
VL-Pは任意団体となっており、入退会に関しての煩雑な手続きを不要としているほか、会員に格差は無く、全ての会員が平等の権利を持っているのが特徴だという。放送事業者として参画を期待する全国の事業者に向け、広く参加を募っている。
今後は各作業班が定められた項目を検討していくほか、試験電波を使った各種試験も実施。JEITAや携帯キャリア、自動車メーカーなどとも連携をとり、希望する放送サービスを伝え、それを受信できる低廉な受信機開発を要請。セミナーや説明会を開いて、一般ユーザーにマルチメディア放送のサービスイメージ浸透を図るといった活動をしていく予定。
□VL-Pのホームページ
(2009年2月10日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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