小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

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恥ずかしげもなくつまみをめいっぱい回せ! Roland「JC-01」

すでに発売されてずいぶん時間が経っているのだが、そう言えばずっと品薄な為にすっかり忘れていたのが、Roland JC-01である。Rolandとしては初の音楽リスニング向けBluetoothスピーカーだ。

今年2月に発売されたRoland JC-01

昨年から今年にかけて、Bluetoothスピーカーはレベルがグッと上がってきた。すでに低価格商品が中心と言えるほど普及が始まったジャンルであるが、上を見ればハイレゾ対応や、サイズ感からはあり得ないレベルでの低音が出たり、色々楽しめるジャンルに成長してきている。

そんな中、完全に後発とも言えるRolandが出して来たスピーカーが、ギターアンプそっくりというのには思わず笑ってしまった。昔バンドやっててスタジオに頻繁に出入りしていた人間にとって、これは懐かしい。

今回はこのJC-01をお借りして、じっくり使ってみた。

デビュー40周年を迎えた「JAZZ CHORUS」

今でも現役でよく使われる同社のギターアンプが、JAZZ CHORUSことJCシリーズである。1975年に発売されたJC-120は、60W + 60Wの2スピーカーシステムであった。名前の由来ともなっているが、エフェクターとして「コーラス/ビブラート」を内蔵している。

・Roland JC-120
https://www.roland.com/jp/products/jc-120/

ギターアンプにスプリングリバーブ以外のエフェクターをビルトインしたものは、当時としてはかなり珍しかった。しかもコーラス効果なるものも、それほど馴染みがあるものではなかった。ここに搭載されたコーラス回路を単体で使えるようにしたものが、BOSSの最初のエフェクターで、伝説の名機と呼ばれたCE-1Chorus Ensembleである。

JAZZ CHORUSが頻繁に用いられるようになったのは、70年代後半から80年代に入ってからだろう。パンクブームが終焉し、その反動としてニューウェーブ、ジャズ、フュージョン、ファンクといった音楽が台頭した。ギターサウンドは、激しいディストーションからクリアなカッティング重視に変わっていった頃だ。そうしたサウンドニーズに、JAZZ CHORUSは良くマッチした。

得意のコーラス効果も、空間合成などと銘打っているが、実際にはスピーカーの片方が生音、片方が微妙にディレイ周期を変えた音を出し、それが空中で混ざるだけなんである。だがそれぞれのスピーカーの前にマイクを立てて音を拾うと、絶妙なステレオ効果を得ることができた。

今ではすっかり「歪まないギターアンプ」のような代名詞となってしまっているが、JAZZ CHORUSにはディストーションも搭載しており、普通にディストーションサウンドも出せる。

その後JCシリーズは、小型モデルJC-40、JC-22を輩出し、現在はオリジナルのJC-120と合わせて3モデルとなっている。そしてJCの設計思想を継承して作られたのが、BluetoothスピーカーのJC-01というわけだ。

3バンドEQがポイント

JC-01のデザインは、ギターアンプのJCシリーズそっくりに作られている。サイズは幅187mm、奥行き69mm、高さ97mm。オリジナルを均等に縮小したわけではなく、横に長い感じだ。もしJCシリーズにヘッドアンプがあったら、こんなアスペクト比になっただろう。

オリジナルよりは若干横長

ギターアンプのJCは、木製キャビネットに合皮を貼ったボディだが、JC-01はABS樹脂製で、7時間使えるバッテリーを搭載した割には、重量650gと、かなり軽く作られている。

つまみのサイズもオリジナルよりはずいぶん小さいが、雰囲気は損なわない。音を明るくするBRIボタンがあった部分はスピーカー通話への切り換えボタンになるなど、今風の変化もある。名前の通りコーラスが付かなかったのは残念といえば残念だが、すでに完成した音楽をならすスピーカーとしては妥当なところだろう。コーラスのつまみがあった部分も、パネルのカラーリングは生かされており、そこにBluetoothのペアリングボタンがある。

最大の特徴は、アナログ式の3バンドEQを搭載したところだろう。デジタル技術全盛の時代に、敢えてのアナログ回路である。そう言えば昔のオーディオアンプやラジカセには、イコライザーが付いているのが当たり前だった。中学生ぐらいのころはBASSつまみをめいっぱい回して低音をドッコンドッコンさせ、「すげえ!」などと言って喜んでいたものだ。思い返せば、そうした体験がのちに自分で音を作る、音楽を作るといったクリエイティブな感性を育てたのだろう。

JC-01の3バンドEQは、そういう感覚をもう一度、リスニングの世界に持ち込むものだ。原音忠実とかうるさいことをいうオッサンはほっとけ。気に入ったサウンドになるまでガンガンにつまみを回せ! というローランドからのメッセージであろう。

実際、最近の音楽の聴き方は、アルバム中心からプレイリストスタイルに移っている。しかしプレイリストでランダムに再生される音楽は、サウンドに統一感がない。録音された時代やジャンルによって、ハイが強かったり低音が足りなかったり、バラバラだ。JC-01の3バンドEQは、「ちょっと足りないな」とか「ちょっと多いな」と感じたらサクッとつまみを回せる。音は自分で作る、そういう聴き方をしたい人にも、面白いスピーカーだろう。

EQつまみは0~10の数字があるが、5のところがフラットだ。実際低域が欲しければ、案外MIDDLEを7~8ぐらいまで上げた方が、抜けのいい低音が得られる。それに底支え感が欲しければ、BASSを足していくというスタイルだ。BASSを10まで上げても、ビビリや歪みがない。背面のパッシブラジエータがいい仕事をしている。

背面の大型パッシブラジエーター

逆にEQを全部絞ると、スッキリしたサウンドに化ける。ビートルズなど60年代の音源をBGM的に聞くときには、全部絞ってボリュームを上げると、サウンドのクセがなくなっていい感じだ。

大人になると、妙に「バランス」を取りたくなるものだ。モノゴトを「いい感じに抑え」たくなる。もっとガツンと欲しくても、まあこれぐらいにしとくか、子供じゃあるまいし10まであげるのはどうもな、「わかってる大人」だからなオジサンは、みたいなリミッターが働いてしまう。

NO!NO!NO! ガンガンにつまみを回せ! 欲望を取り戻せ!

JC-01は、そういうこっぱずかしさを捨てていいスピーカーなんである。

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。

コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。

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2016年12月16日 Vol.109 <昨日は中国今日は九州号> 目次

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01 論壇【西田】
 中国での「マイクロソフト・冬の攻勢」を分析する
02 余談【小寺】
 恥ずかしげもなくつまみをめいっぱい回せ! Roland「JC-01」
03 対談【小寺・西田】
 行政書士ってなんだ? (4)
04 過去記事【西田】
 ユーザーインターフェースを「計測」せよ
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。