小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。金曜ランチビュッフェの購読はこちら(協力:夜間飛行)

YASHICAブランドのスマホ向け高級レンズを試す

最近は展示会取材の写真は、ほぼiPhoneで撮影している。展示会の場合は、ブツに寄れないというケースはほとんどないため、望遠はあまり必要ないのに加え、被写界深度の浅さも必要ない。それよりも製品全域にバッチリフォーカスが合っていた方が有り難いのだ。

以前は頑張ってミラーレス一眼で撮影していた時期もあったが、急いで撮影していると、フォーカスを確認している暇がなく、肝心なカットが今イチボケていたりと痛い目に合ってきた反省もある。だいたい急いで撮った写真のほうが、後々重要になってきたりするものだ。ナントカの法則というヤツであろう。

ただしiPhone一発では、ブースの全景といった広い絵が撮りづらい。そこで以前からスマホ用の広角レンズを色々と試してきた。

実はこの手のレンズは、高級品というのがあまりない。安いものは数百円から、高いものでも3,000円程度である。高いからいいレンズかというと、そういうわけでもない。複数のレンズが付属することで高くなっている場合もあり、実際に試してみないとなかなかいいものに出会えないのが正直なところである。

今回は2年ぶりのCES取材という事もあり、いいレンズが欲しいなぁとネットを物色していたところ、YASHICAブランドでスマホ用レンズを出しているのが目にとまった。クラウドファンディングで2017年頃から販売が始まったもののようだが、売れ行きが良かったのか、一般販売も始まったようである。

今回購入したYASHICAブランドのクリップレンズ

価格はAmazonで4,800円と、一般的なスマホ用レンズより飛び抜けている。この価格がただのブランド代だったイヤだなと思ったが、ものは試しと言うことで買ってみた。今回はこのレンズと、歴代使ってきたクリップレンズを比較してみたいと思う。

豪華な箱に入っている

ケラレと歪みのない描画

今回比較するのは、数年来愛用しているKenko「リアルプロクリップレンズ 接写+広角120°」、ShiftCamの「RebolCam」、そしてYASHICAのレンズである。

今回テストしたクリップレンズ。左からKenko、ShiftCam、YASHICA

まずは水辺にて細かい木の枝がある風景を比較撮影してみた。上から順に、iPhone XRそのまま、Kenko、ShiftCam、YASHICAだ。以降のサンプルもこの並びである。

iPhoneオリジナル
Kenko
ShiftCam
YASHICA

まずKenkoとShiftCamでは右上に若干のケラレが発生しているのがわかる。ただこれは、iPhone XR登場以前のレンズであるため、レンズユニットの出っ張りの大きさや焦点距離が従来のiPhoneと違うため、仕方がないところである。

周辺部の流れ具合などは、Kenkoはさすがにもう描画が古い。発売された2016年当時は一番高いレンズだったのだが。ただし最新モデルは2018年に「リアルプロ シネマティック4K HD ワイド0.6x」というのが発売されている。こちらも機会があれば試してみたいところだ。

ShiftCamはあまり気にならないレベルではあるが、それよりも周辺の光量落ちの方が気になる。少しトリミングしないと、そのままではつらいだろう。

一方YASHICAは、レンズの口径が大きいのでケラレはさすがにない。ただ四隅の流れは多少感じるところだ。

もう一つ、レンズによる歪曲の度合いを図るため、平行垂直の多い絵を撮影してみた。

iPhoneオリジナル
Kenko
ShiftCam
YASHICA

左の電柱を見て貰えばわかりやすいと思うが、YASHICAが一番湾曲が少ないのがわかる。さすが、ちょっと高いだけのことはある。

マクロ撮影での違い

この3つのレンズは、マクロレンズにもなる。KenkoとYASHICAは、マクロレンズとワイドレンズを2連で重ねて撮影するとワイド撮影ができるが、ワイド側を外すとマクロ撮影ができるのだ。一方ShiftCamは、一度装着するとあとはロータリー式でレンズを変える事ができるので、ワイドとマクロはレンズごと切り換えになる。

ワイドレンズだけ外すと、マクロレンズが残る
YASHICAも同じ作り
ShiftCam「RebolCam」はレンズを回転させて3レンズを切り換える

元のiPhoneレンズのままではここまでの近距離はフォーカスが合わないが、マクロレンズを使えば撮影できるわけだ。

実はKenkoだけは同じ距離ではどこにもフォーカスが合わなかったので、少し近づいて撮影している。これだけ飛び抜けて倍率が高いわけではない。

iPhoneオリジナル
Kenko
ShiftCam
YASHICA

本当にクローズアップするならKenko一択だが、花程度の撮影であればShiftCamとYASHICAぐらいの倍率のほうが使いやすいだろう。実は普段あまりiPhoneでマクロ撮影をする機会がないため、これまであまり使っていなかったが、描画としてはどれも特徴があり、使い分けしても面白い。

総合的にはYASHICAが優れているとは言えるが、一つ注意点がある。本来この手のレンズは、スマホのカバーなしで装着するのが原則である。だがYASHICAレンズの場合、レンズ自体が重いので、裸のiPhoneにつけると、自重で滑ってセンターがズレてしまう。これでは撮影もままならないので、シリコンケースの上から装着する必要があった。ただしあまり厚手のケースを使っていると、光軸がズレてきちんとした特性が得られない可能性もあるので、注意していただきたい。

iPhoneを始め、スマートフォンで4K以上の解像度が撮影できるようになって久しい。クリップレンズも、それに合わせたグレードアップが必要なはずだが、なかなかそれに応えてくれるレンズが少ない。

そんな中、YASHICAレンズは良い選択と言えそうだ。ただカメラに詳しい諸氏はご存じだろうが、八洲精機株式会社として創業した株式会社ヤシカはとうになく、現在はYASHICAという名前だけが商標として転売が繰り返されている状況にある。往年のカメラファンには親しみやすい名前ではあるが、ブランドによってクオリティが担保されている状況ではないので、製品ごとにしっかり評価する必要があることを申し添えておく。

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。

コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。

家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。

--
2019年1月25日 Vol.206 <書いて話して考えて号>
--

01 論壇【西田】
CESでみた「プラットフォーム戦争」2019
02 余談【小寺】
YASHICAブランドのスマホ向け高級レンズを試す
03 対談【小寺・西田】
小寺・西田のCES2019総まとめ (2)
04 過去記事【西田】
プラットフォームはどうやって「死ぬ」のかーPalmを題材に温故知新
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。