シャープ、液晶堺工場10月に稼働。新経営戦略を発表

-液晶/太陽電池を海外生産。「シャープの本質は生産技術」


片山幹雄社長

4月8日発表


2008年度通期連結業績予想を下方修正

 シャープ株式会社は8日、経営戦略説明会を開催。2008年度の通期業績予測を下方修正し、売上高は前回(2月)発表時予測比500億円減の2兆8,500億円、営業損失は300億円増加し、600億円の赤字。純損失は300億円増加し、1,300億円となった。

 これに伴い、緊急業績改善策を発表。液晶工場の再編を進め、中小型液晶の三重や天理工場の一部を閉鎖。大型テレビについては、堺と亀山に集約。建設中の堺工場については10月に稼働開始することを決定した。

 総額2,000億円の経費削減も発表。さらに、液晶パネルや太陽電池などの生産について、従来の国内一貫生産から、海外の有力企業などと協力して現地生産する新しいビジネス展開に取り組み、積極的に「地産地消」を行なう方針を片山幹雄社長が発表した。

 

■ 3月までにTV/パネル在庫を圧縮。堺工場10月稼働を決定

2月の発表からの下方修正要因

 片山社長は、2008年の連結業績予想の修正理由と、ビジネスモデルの転換について説明。「経済環境が大幅に悪化した2008年下期の環境が続いても、収益確保できるような経営体制へ変革を図る」という。

 2月の第3四半期決算発表時から、さらなる下方修正が行なわれたこととなるが、大きな要因としては、「液晶テレビ、液晶パネルにおける流通在庫適正化の対策強化」、「事業構造改革費用、固定資産除売却損の追加計上」、「投資有価証券評価損の増加」が挙げられた。

 液晶テレビ/パネル在庫については、「2009年4~6月期はさらなる環境悪化が予想され、3月までに徹底した調整を行なった」としており、テレビで約200億円、パネルで100億円の対策を行ない、総額約300億円の損失増となった。これにより、2008年9月に米国で3.3か月、日本で2.1カ月だったテレビの在庫は、米国では2月に0.7カ月、日本では3月に0.8カ月まで削減できたという。

 構造改革費用は、液晶を中心に約90億円、電子デバイス事業において約40億円の特別損失を計上。有価証券については、64億円の評価損増加を計上している。

現状認識。外部要因だけでなく、従来のシャープのビジネス転換の必要も

 今回の損失拡大について片山社長は、経済環境の急減速や為替変動、デジタル商品の価格下落などの外部要因に加え、従来のビジネス構造に起因する内部の課題もあると言及した。

 内部の課題とは、「液晶中心の先行投資型ビジネスが鈍化」、「液晶旧工場における競争力の低下」、「液晶テレビ、携帯電話など垂直統合型商品の価格下落と成長鈍化」の3点に加え、これらの鈍化によるキャッシュフローの悪化が挙げられるという。そのため、「2008年度下期の環境が続いても収益が確保できる体制を目指し、経営体質のスリムダウンを図る『緊急事業改善対策』と、『新しいビジネスモデルの構築』の両面から経営の見直しを図っていく」とする。

 業績改善策の一つ目は、液晶工場の再編。中小型液晶を製造していた三重工場と天理工場の一部を閉鎖。テレビ向けについては、製造効率の高い亀山第2工場で集中生産するとともに、40型以上でコスト競争力の高い堺の液晶工場を10月より稼働。工場集積による効率化と、堺工場稼働により、2009年の市場拡大と収益拡大を図るという。

液晶 堺工場を10月稼働液晶工場の再編について

 堺工場は「進出する関連企業と連携し、21世紀型の垂直統合事業を展開する」という。「今後、戦略的パートナーを中心に堅調な受注が予想されるが、液晶テレビ/パネルの流通在庫の圧縮により、亀山第2工場はフル稼働になっている。今後の旺盛な需要に対応するため堺工場の10月稼働を決めた。事業環境はしばらく予断を許さないが。最も競争力が高い工場を一日も早く稼働させることが、大きな武器になると期待、確信している」と、早期立ち上げの理由を説明した。

 投入能力は月72,000枚(稼働当初は36,000枚)で、第10世代マザーガラスを用いて、40/50/60型製品を量産する。なお、ソニーとの液晶合弁については、「2010年春に合弁会社を立ち上げ、そのために6月には契約という方針は変わっていない。10月(の堺工場)はシャープ単体の立ち上げになる」とした。

 人員体制についても大幅に見直し。国内では太陽電池などの重点事業や、営業部門に人員を約1,700人シフト。B2Bビジネスの拡大にも取り組む。また、非正規社員約1,500人を削減する。海外については中国における携帯電話ビジネス強化など、新興国向け販売を強化する。マーケティングについても現地拠点化を進めるという。

 役員や管理職の年収についても減額。固定費は人件費約450億円をはじめとし、総額1,000億円削減。広告宣伝などの変動費も1,000億円の合計2,000億円を削減する。

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■ 「液晶パネルが本質ではない。生産技術がシャープのコア」

 また、ビジネスモデルについても大幅な転換を図る。パートナー企業と協力し、液晶や太陽電池の製造などの海外生産体制を構築する「エンジニアリング事業」に取り組む。

工場の生産技術などをまとめて“プラント”を輸出するという「エンジニアリング事業」に取り組む

 「今まではオンリーワン技術を核に、自社の投資で国内に生産拠点を作ってきた。しかし、今後は海外の現地の有力企業とアライアンスを組み、現地に製造工場を建設していく。同時に、部材調達から生産販売までを消費地域内で完結させる『地産地消』を進めていく。シャープは独自技術やノウハウを提供し、その技術指導料やロイヤリティ、合弁会社の配当などで回収する(片山社長)」という。

 この方法をとることで、自社投資の最小化と投資効率の向上、為替リスクへの対応、経済のブロック化への対応を図れることが利点とする。

 この戦略を「プラントを利用したエンジニアリング事業」と位置付け、太陽電池において、独立系発電事業への参入を計画しているイタリアEnel(エネル)との合弁会社がこの第1弾となる。液晶パネルについても、同様の考え方で海外展開することを計画しているという。片山社長は、「日本からの輸出はもはや最先端の産業であっても困難という認識。従来のオペレーションを抜本的に見直していく」と言及した。

 従来、液晶テレビについては、日本でパネルを生産し、日本を含む世界5極「北米(メキシコ)、欧州(ポーランド、バルセロナ)、アジア(マレーシア)、中国(南京)」でテレビを製造する体制を整えてきた。

 「従来の垂直統合ビジネスからの転換か?」との問いに、片山社長は「ビジネスモデルを変えるということ。我々の従来の垂直統合モデルとは違う。また、為替が安定するという期待を今後しないことにしたが、そのためには地産地消が必要。一番投資額が多い前半行程を、日本でやっていたものを消費地、現地企業とのパートナーを見つけてやりたい。太陽電池を世界展開、液晶の5極についても今後この考え方に基づいてやっていく」と回答した。

 ただし、最先端の工場については今後も国内に設置していく方針。「生産技術そのものをビジネスとして最大活用するエンジニアリング事業は、太陽電池や液晶といった長年ノウハウを培ってきた事業でしか通用しない。競争力を今後も維持していくことが重要。そのため最先端技術については、引き続き日本国内に保持していく。堺コンビナートなどの最先端工場をマザー工場として、徹底的にものづくりを極めていき、そこで培った技術を『地産地消』の考え方でグローバル展開していく」という。

エンジニアリング事業で「工場ノウハウ」を輸出。地産地消を進める従来の投資スキームと、新しいビジネスモデルの違い。初期投資負担を大幅に抑制最先端のマザー工場は国内に

 エンジニアリング事業については。協力企業との密接な連携が必要で、文化の違いなどの困難も想定される。片山社長は、「シャープ自身が大きく変わらなければいけない。自分のお金で工場をつくるのであれば調整は楽だが、日本で作って世界に送るというやりかたが、今の状態(2008年度決算)を引き起こしている。これが反省点で変えなければいけない。だから、文化が違う相手とやっていけるかなどは、乗り越えていかなければいけないチャレンジ。ただ、シャープは世界で最初に第6世代工場を立ち上げた。設備は全部設備、材料メーカーと一緒に設計開発した。第8世代もそう。つまり、製造技術については世界で一番詳しい会社だ。液晶パネル、テレビを作ることが本質でなく、シャープの本当のコアは生産技術。この生産技術をもとに世界でのパネル展開ができれば、従来と違った強みができる」と言及。

 さらに、「従来は東アジアの電子メーカーが部品を世界中に売っていた。これはある意味、為替、人件費、国の補助金などの構想環境においてハンディキャップを背負っていたが、それをとんでもない生産技術、技術力で闘っていた。しかし、結果として今回の決算の数字になった。われわれが同じ土俵に立てば技術力で勝てる。みずからが進んで世界に出ていくことで、競争相手も世界に出てくるだろう。今回のエンジニアリング事業は新しい試みであり、一民間企業としては大きなチャレンジだ。だがすでに自動車メーカーはやっていること。エレクトロニクスメーカーとしてもクリアしていきたい」と、意気込みを語った。

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【2008年11月28日】シャープ、イタリアの電力会社と合弁で電力事業に参入(家電)
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■ 太陽電池にも積極的に取り組む

携帯電話事業の取り組み

 携帯電話事業は、グローバル展開で、各地にあった事業を行なう予定。特に中国ではシャープのブランドイメージが高いことから、ハイエンド/ミドルクラスを積極的に投入するだけでなく、比較的安価な製品も出していくという。欧米ではスマートフォンの伸長にあわせて、光センサなどの独自技術を生かした端末を投入する。

 健康関連については、プラズマクラスター技術やソーラー応用商品、LED照明などを強化。プラズマクラスターは空調事業の核として自社製品だけでなく法人ビジネスにも展開。「空気のあるところにプラズマクラスターイオン」を合言葉にグローバル展開する。LEDも民生用への応用などを検討していく方針。


プラズマクラスター事業の取り組みLED、ソーラー事業の取り組み

 太陽電池については。欧州では金融危機の影響により、需要停滞するものの、日本では住宅用補助金の復活やフィードイン・タリフ制度の導入検討などで、前年比で約1.7倍に拡大。米国でもグリーンニューディールなどの政策や税控除などの影響で前年比約3倍に拡大すると予測し、積極的に強化する方針。また、世界中でメガソーラー発電所建設が予定されており、長期の信頼性や技術力、実績など、「日本メーカーの優位性が武器になる」とする。

 一方で、現在の太陽電池普及は各国の政策に依る部分が大きい。そのため、「太陽電池の拡大には早期にグリッド・パリティー(発電コストが電力料金以下になること)の実現が必要不可欠となる。結晶系太陽電池だけでなく薄膜系太陽電池の両輪で事業の拡大を図る」とし、両方式で、生産体制強化や変換効率向上などを図り、グリッド・パリティー(発電コスト23円/kWh)の実現を目指すという。なお、太陽電池の堺工場立ち上げについては、「少なくとも来年の3月までには量産できると考えている」とした。

太陽電池は欧州は市場縮小が見込まれるが、日本、米国は急拡大太陽電池は、結晶と被膜の両輪体制で臨む。それぞれの変換効率を向上

(2009年 4月 8日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]