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映像配信にリアルタイムの価値を。「dTVチャンネル」が目指すスマホテレビ
2018年2月9日 07:00
スマートフォンなどで約30の専門チャンネルを視聴できる映像配信サービス「dTVチャンネル」が1月30日にスタートした。その名称からもわかるように、NTTドコモの定額制映像配信「dTV」との兄弟分ともいえるサービスだ。ただし、dTVがユーザーが見たい番組を選んで再生する「オンデマンド」型であるのに対し、dTVチャンネルは放送中の“チャンネル”を選ぶ「リニア」(リアルタイム)型の映像配信となる。つまりテレビのチャンネルを選んで、テレビ番組を見るように視聴するサービスだ。
料金は、ドコモ回線のユーザーが月額780円、それ以外は1,280円。また、dTVと併用した場合は月額980円(ドコモ回線契約者以外は月額1,480円)、dTVとDAZN for docomoを加えたセットは月額1,760円(同3,030円)と、他のドコモのコンテンツサービスと連携した料金プランの採用も特徴だ。
HuluやdTVなどの映像配信サービスでも「FOXチャンネル」などのチャンネルのリアルタイム配信が人気を集めているし、AbemaTVもリニア型のサービスといえる。近年映像配信の中でも、リニア型に注目があつまる中、ドコモがdTVチャンネルで狙うものとはなにか? NTTドコモ コンシューマビジネス推進部 担当部長の山脇晋治氏に聞いた。
スマホユーザーに“リニア”の魅力を伝える
まず、なぜドコモが「dTVチャンネル」を始めるのだろうか? 山脇氏は「スマホを意識したリニア型サービス」、「dTVの価値向上」という2つの理由を挙げる。
山脇:オンデマンド(VOD)型の映像配信の世界では、NetflixやHuluなど、競合がひしめいており、スマートフォンでもとてもよく見られています。一方、リニアでの映像配信となると、モバイル向けに強みを持つサービスは意外と少ない。これまでのリニア型のサービスは、家のテレビで多チャンネルを見る、というものが主流でした。調査をしてみると多チャンネルに興味があるユーザーは概ね2,000万世帯ぐらいで、そのうち約半分はスカパーさんやCATVなどを利用されている。しかし、固定網のサービスは月の単価が4~5,000円からで、さらに専用チューナなどの手間がかかるので、『興味があるけれど見てない』という人が相当数いる。であれば、ドコモのようなモバイルの会社が、スマホさえあれば映像がみられるサービスを展開すれば、そのニーズに応えられる。これが1点です。
もう一点がdTVとしての価値向上です。dTVとdTVチャンネルという2つのサービスですが、あたかも一つのように利用することで、コンテンツのラインナップが広がります。VODのサービスでは、機能や買い付けコンテンツでの差別化は難しくなっています。ですから各社はオリジナルコンテンツに投資しています。dTVも同じですが、VODのオリジナルに加え、リニア(チャンネル)という独自性を加えることで、より魅力的なdTVブランドのサービスが作れると考えました。
dTVに新たな付加価値としてリニア型のサービスを追加するのであれば、dTVを機能拡張すればよかったのでは? という疑問も出てくる。少々わかりにくいのだが、実は既存のdTVと、新たなdTVチャンネルは、運営母体が異なっているという事情がある。それぞれ、NTTドコモのサービスとして展開しているが、dTVはエイベックス通信放送が運営、dTVチャンネルはひかりTVのNTTぷららが運営している。なぜ、こういったサービス形態になったのだろうか?
山脇:NTTぷららのひかりTVは、多チャンネルが主流のサービスで、多くのノウハウを蓄積しています。エイベックスは、dTVを6年間やっており、VODやオリジナルコンテンツ制作に長けている。それぞれの良さを生かしたサービスを作ろうということです。
また、ぷららの「ひかりTV」をベースにしたドコモのサービスとして「ひかりTV for docomo」も提供予定です。
多チャンネルが特徴となるdTVチャンネルは、31チャンネルを用意している。
主な配信チャンネル
ソニー・チャンネル、映画ザンマイ!、ディズニージュニア ライト、dアニマックス、BOOMERANG、ニコロデオン、プリプリ☆キッズステーション、プチフジ、TBSオンデマンドチャンネル、エンタメ~テレ☆バラエティ SELECT、MEN'S NECO、ファミ劇Neo、ひかりTVチャンネル+、Kawaiian for ひかりTV、iBEYA、MTV MIX、& MUSIC、KBS World、あじどらはん~韓流・華流・エンタメTV~、Kchan!韓流TV、囲碁プラス、将棋プラス、ダンスチャンネル by エンタメ~テレ、MONDO麻雀TV、タビテレ、釣りビジョンPlus、ナショナル ジオグラフィック、ヒストリー、Discovery TURBO、TBSニュースバードEverywhere、euronews
チャンネル数は多いが、ラインナップとして“推し”のジャンルや番組がなかなか見えずらい印象もある。どういう狙いで、チャンネル編成を行なっているのだろうか?
山脇:ドコモショップには若い方からシニアな方まで幅広い世代が集まりますし、ご興味の範囲も相当広い。アニメ、エンタメ、趣味など、「幅広くそろえてほしい」とお願いし、(ひかりTVの)固定網でも人気の高いチャンネルを厳選していただきました。
また多くのチャンネルが、dTVチャンネルのオリジナル編成となるのも特徴。CS放送などと同一内容(サイマル)のチャンネルは、「KBS」と「ユーロニュース」、「ナショナルジオグラフィック」の3チャンネルのみ。そのほかのチャンネルは、dTVチャンネル用のオリジナル編成となっており、「モバイル向けのサービスとして、『らしさ』を番組編成でも意識している」という。
最近の映像配信サービスでは、「オリジナルコンテンツ」が差別化要素となっているが、この点はdTVのオリジナル作品に加え、独自チャンネルとして「ひかりTVチャンネル+」を編成。スキマスイッチのライブなど、dTVチャンネルのイチオシコンテンツを展開していく。
dTVは、一時期は「キャリアフリー」を強く打ち出していたが、dTVチャンネルとdTVのセット割などの施策からも最近は“ドコモ色”を強く打ち出しているように見える。販売施策はどう考えているのだろうか?
山脇:ドコモユーザー、キャリアフリー問わずに使っていただきたい、という思想は変わりません。ただし、モバイルや光回線などトータルのドコモサービスとして使ってほしいという思いはあります。契約数では、ドコモ回線のユーザーが圧倒的に多い。ただ、ドコモショップの加入者はもちろんドコモの回線ですが、Webからの加入者はドコモユーザーと、キャリアフリーがほぼ半々です。
dTVとdTVチャンネルのキャリアフリーで合計1,280円という価格も、市場から見れば「安い」と考えています。ただし、「お客様」から見たときに、加入しやすい価格ということで、1,000円を切ることを目指しました。だからドコモユーザーはあわせて980円。これを、ドコモの回線や光の契約にも活かしていきたい。
リニア型でもテレビは重要。dTVの魅力を高める
モバイル対応をアピールしているdTVチャンネルだが、テレビやPCなどでの視聴も重視している。スマートフォン、タブレット、PC、Chromecastに対応するほか、専用STBの「ドコモテレビターミナル」を発売(直販価格15,600円)する。さらに、各社のテレビやFire TVやApple TVなど、「dTVで対応しているものは対応していく考え」とする。
山脇:テレビでの視聴では視聴・接触時間が長くなり、“視聴習慣”が根付きやすい。それは、dTVの実績でも明らかですから、dTVチャンネルでもテレビ対応は重視しています。手が回っていない部分はありますが、順次対応機器も増やしていきます。
またテレビで見ていただくための工夫もしています。例えば、「ドコモテレビターミナル」のUIの一番上にはレコメンド枠を設けており、視聴履歴から、dTVチャンネルとdTVテレビ、dアニメストアなどのおすすめ番組を紹介するなど、スマホにはないテレビならではの見せ方をしています。入り口としてはスマホを推していますが、それだけでは満足しない方、大きな画面で見たいという方のために、テレビでも魅力をアピールしていきます。
また、一部の番組は見逃し視聴にも対応。番組の途中でも、[先頭]のアイコンを押すと、番組の冒頭から再生してくれる。さらに、番組表から配信済みの番組を選んで再生することも可能で、レコーダのように「タイムシフト」ができる。単に放送を配信に変えただけでない、新たな利便性も訴求していくという。
一方、スマホを軸にしたリニア型のサービスとしては「AbemaTV」が人気を集めている。有料(dTVチャンネル)と無料(AbemaTV)という違いはあるが、約30チャンネルのリニア型サービスという点では、dTVチャンネルによく似ているようにも見える。その影響をどう考えているのだろうか?
山脇:AbemaTVは、無料なのでビジネスモデルは異なっていますが、優れたインターフェイスでユーザーも多い。ドコモには、広告モデルでサービス提供するという歴史があまり無いというのもありますが、対価をいただきながらコンテンツ原資として回していくほうが安定的とは考えていますし、AbemaTVがあるからdTVチャンネルが難しいということはない。また、ドコモショップなどの販売チャンネルや光やモバイル回線などの商材、ほかのドコモサービスとの連携など、我々ならではの提案を行なっていきます。
例えば、「もっと多くのチャンネルを見たい」というニーズに対して、我々は(50以上の専門チャンネルを持つ)「ひかりTV for docomo」を用意しています。「もっと多く」、「テレビでよりじっくりと楽しみたい」、「もっと高画質に」といった方には、そこにあわせた提案ができます。
ひかりTV for docomoは、ひかりTVとdTVのコンテンツを統合し、50以上の専門チャンネルと16万本のVODが楽しめるサービス。ドコモ回線利用者の月額料金は3,500円。2年割の場合は月額2,500円。ドコモ回線利用者以外は月額4,000円。
dTVチャンネルはHD解像度のサービスとなるが、ひかりTV for docomoでは、4K/HDR配信を予定している。両サービスの違いはどう位置付けるのだろうか?
山脇:やはりスマホをメインと考えたときには、4Kの違いが分かりにくい。テレビで見て初めてその素晴らしさがわかる。dTVチャンネルもテレビで見られますが、ひかりTVは確実にテレビで見るサービスになる。だからテレビの高画質化をお求めの方には、ひかりTV for docomoを提案していくという考えです。
また、dTVチャンネルは個人向けのサービスと想定しているが、ひかりTV for docomoは、1契約で最大5人までが見られるなどファミリーを意識したサービスと位置付けている。スマホ重視のリニア型サービスの入り口としてdTVチャンネルを、よりリッチに多チャンネルを求める人には、ひかりTV for docomoを提案していくという。
dTVの会員数は448万人('17年12月末時点)と国内最大クラス。dTVチャンネルの追加で、その会員数をどれくらい拡大すると見込んでいるのだろうか?
山脇:始まって1週間程度ですので、まだ詳しく分析できていませんが、会員がしっかり増えて、良いスタートが切れています。dTVの付加価値を高めるという点においては、まずは既存のdTVの会員にその良さを体感してほしい。実際に、dTVには“なかった”コンテンツが見られているようです。それが結果的に解約の防止に繋がると期待しています。会員数の拡大はもちろんですが、リニア型の魅力をお伝えし、サービスの付加価値をプラスすることで、映像配信は、金額ベースでまだまだ伸びると考えています。