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シャープ、AQUOSを生んだ矢板事業所のテレビ生産を年内終了

 シャープは、国内液晶テレビ生産の主力工場で、テレビの設計開発や生産のマザー工場と位置付けていた栃木県の矢板事業所におけるテレビ生産を12月末までに終了する。また、大阪府の八尾事業所における冷蔵庫の生産も2019年9月までに終息する。

AQUOSを生産する栃木事業所 第1工場

 シャープ栃木事業所(矢板事業所)は、1968年にカラーテレビ専門工場として操業を開始。東京ドームの約7倍となる総面積326,300m2に、液晶テレビAQUOSを開発設計する技術センターと、国内向け液晶テレビの第1工場、さらに第2工場、第3工場、基板製造の第4工場、ロジスティクスセンターを併設し、テレビのマザー工場として運営されてきた。しかし、2018年12月末で同事業所でのテレビ生産は終了となる。なお、テレビの国内生産は亀山工場で継続する。

第1工場でのテレビ生産風景(2015年11月撮影)

 12月末までに矢板事業所のTVシステム事業関連メンバーを、グローバルTVS事業本部の本拠地である堺や、スマートTVS事業本部の本拠地である幕張に集約。より効率的且つスピーディーな事業運営ができる体制の構築を進める。

 なお、矢板事業所は、引き続き物流やサービスの拠点として活用。シャープ戴正呉社長は、「栃木県矢板市にカラーテレビの生産工場を建設してから半世紀、矢板事業所からは、液晶テレビAQUOSをはじめとして、当社の成長を牽引する特長ある商品が数多く生まれてきました。この間、絶えず地元でご支援くださった矢板市、そして栃木県の皆様に、改めて心から感謝を申し上げたいと思います」とコメントしている。

 八尾事業所(大阪府八尾市)については、1960年に冷蔵庫の組立工場が竣工して以来、約60年間に冷蔵庫の生産を行なってきたが、2019年9月までに終息。今後はタイの生産会社SATL等での海外生産に切り替える。

八尾事業所(2017年12月撮影)

 八尾の冷蔵工場が耐震問題を抱えていることに加え、「冷蔵事業の存続にはコスト競争力強化が最重要課題であるとの認識のもと、約2年前から慎重に検討を重ね、今回の苦渋の決断に至った」(戴社長)と言及。「これまで、協力会社の皆様をはじめとした数多くの方々に支えられてきた工場を終息せざるを得ないことは誠に遺憾だが、今回の決断によって、日本市場のみならず、グローバル市場でシェアを引き上げ、冷蔵事業のさらなる拡大を実現していきたい」としている。

 8月3日に社内向けに公開された戴社長のコメントでは、IoT事業の拡大やデジタルマーケティングの強化、お盆休みの運用見直しなどに言及している。以下に全文を掲載する。

“Ambition(野心)”を持って、さらなる成長に挑戦しよう:戴正呉社長コメント

 7月31日に、2018年度第1四半期決算説明会を開催しました。今回の説明会では、説明会開始前に会場のマルチディスプレイで、8Kで撮影したタイ国政府観光庁との共同制作プロモーションビデオを再生、さらに8KやAIoT関連製品の展示・説明を行うなど、決算説明会では前例のない試みを行い、出席者の方々に大変好評でした。

 さて、業績の詳細については、発表資料を確認いただきたいと思いますが、売上高は2016年度第4四半期以降、6四半期連続で前年同期を上回り、利益についても大きく伸長。特に、継続的なコストダウンが着実に成果として表れ、営業利益は前年同期の1.5倍に迫る大幅な増益となりました。この間の皆さんの努力に感謝します。

 一方で、全社としては増収増益を達成したものの、個別の事業単位で見ると、改善すべき点もあります。例えば、アドバンスディスプレイシステムは、流通在庫を勘案し、中国での液晶テレビの販売を抑制したことなどから減収となり、また、IoTエレクトロデバイスは、成長投資に伴う償却費の増加などを背景に、減益となっています。

 現在、当社は、「量から質へ」をキーワードに、これまでの「量の拡大」から、一定の「量」を維持しつつ、高付加価値モデルやローカルフィットモデルの比率を高める「製品の質の向上」、さらには、8KやAIoTを活用して、創意溢れる革新的な商品やサービスを生み出しイノベーションを実現する「事業の質の向上」へと軸足を移し、さらなる成長を目指しています。第2四半期以降は、こうした取り組みをより一層強化し、全ての事業において増収増益を実現しましょう。

1.PDCAの実践

 事業環境が目まぐるしく変化する中で、2018年度の年間計画の達成をより確かなものとするため、第1四半期の着地を待たず、全社でPDCAのサイクルを回しています。

 具体的には、6月29日から7月1日、そして7月7日の計4日間に亘って、全事業本部長、事業部長、及びその他幹部の皆さんと共に、各事業本部の第1四半期の業績や取り組み成果を確認し、これらを踏まえ2018年度計画のレビューを実施。進捗の遅れに対する挽回策を立案するとともに、より高い業績の達成を目指して計画を積み上げるなど、販売拡大戦略を再検討しました。加えて、今一度、経営基本方針を一項目ずつ読み上げ、確実に実践できているか、何が不足しているかを議論するとともに、構造改革の成果と今後の取り組みについても確認しました。

 このように、立てた計画を“有言実現”するためには、常にその進捗に目を光らせ、環境変化や課題に迅速に対応し、軌道修正していくことが極めて重要です。事業本部、事業部、部など、それぞれの組織単位でPDCAを確実に実践し、目標達成に向け取り組んでください。

2.“Mission”&“Ambition”

 先程お話しした「量から質へ」の方針に沿って、日本国内では「事業の質の向上」、つまりビジネスモデルの変革に、一方、海外では、「量の拡大」を進めるとともに「製品の質の向上」に取り組むなど、夫々の市場や事業の特性に合わせた木目細かな戦略を立て、スピードを上げて実行する必要があります。

 しかしながら、これまでは、国内と海外の事業を一つの事業体が担ってきたため、“Mission”や夫々の収益性が不透明となり、重点強化すべき課題への対処の遅れやリソース配分のアンバランスを引き起こしており、結果として、十分な成果が出ているとは言えません。

 こうした反省を踏まえ、健康・環境システム事業本部とTVシステム事業本部を国内と海外に分割するとともに、IoT事業本部と健康・環境システム事業本部の国内とを統合し、国内事業を担う「IoT HE事業本部」「スマートTVS事業本部」と、海外事業を担う「グローバルHE事業本部」、「グローバルTVS事業本部」に再編。各組織の“Mission”を明確化しました。

 さらに、全ての事業において、既存事業の枠から抜け出せず、新規事業の立上げが遅れていることも、早急に対処すべき課題の一つです。今後、各事業本部内に新規事業の立上げを“Mission”とする部門を新設し、取り組みを加速していきたいと考えています。

 しかしながら、このように組織を再編しても、幹部のリーダーシップの下、新たな組織で新たな挑戦に取り組もうという気運が高まらなければ、何も変わりません。全員が、組織の“Mission”をしっかりと理解するとともに、その達成に向け、“Ambition”、つまり、より高い目標、野心を持って仕事に取り組み、大胆な打ち手に挑戦することこそが、事業拡大を実現していくうえで最も大切です。

3.IoT事業の拡大

 当社は、低コストで活用できる独自のデータセンターを堺事業所内に設置しており、このサーバーを活用して社内向けITシステムを刷新し、IT費用のコスト削減に取り組むとともに、業務改革に着手しています。

 具体的には、従来の内線電話システムとは異なり、チャットやテレビ会議、電話会議等にも活用でき、常に最新の電子電話帳にアクセスし、スムーズなコミュニケーションがより低コストで可能となる「内線スマホ」の社内導入を段階的に進めています。

 また、安全なセキュリティ環境の下、LINEやWeChat等と同様のオープンでスピーディーなコミュニケーションができる新たなコミュニケーションツールの開発も進めています。この導入により、組織の活性化や意思決定のスピードアップに繋げていきたいと考えています。

 将来的には、こうしたツールと社内業務システムとの連携を進め、リアルタイムでの販売情報の見える化や、経費処理、出張精算、勤怠管理といった日々の管理業務の効率化等、様々な観点からの改革を進めていく予定です。

 一方で、今後、このような社内向けに構築したシステムを構成する端末やアプリケーション、サーバー、データ通信、保守サービス、クラウドサービス等をパッケージ化し、外販にも積極的に取り組んでいきます。これにより、ITソリューション事業を拡大し、ビジネスモデルの変革を一段と加速していきたいと思います。

 また、当社のIoT事業において、その象徴とも言えるRoBoHoNは重要な意味を持ちますが、販売ルートの見直しや法人向けの展開等により、着実に売り上げが伸長しています。2018年度下期には、現行モデルの新機種の投入やラインアップの拡大も予定しており、これにより、さらなる販売拡大を実現していきたいと考えています。

4.デジタルマーケティングの強化

 7月12日に、タイのSTCLを主会場に、ASEAN、台湾、日本の各拠点をテレビ会議で繋ぎ、「第4回AMC Regional Communication Meeting」を開催。「デジタルマーケティング」をメインテーマに、社外の専門家の方々をお招きし、メディアミックスの考え方やターゲット顧客へのアプローチ手法、動画コンテンツの戦略や展開手法等について、最新情報を説明いただくとともに、各拠点における取り組みの共有を行いました。

 デジタルマーケティングは、今や欠かすことのできない取り組みの一つですが、比較的若年層人口が多く、今後、大きなECビジネスの伸長が予想されるASEANでは、特に重要な役割を果たします。ですから、今後も、ASEANのリードの下、“One SHARP”で議論を深め、お客様との新たなコミュニケーション手法のアイデア創出に繋げていただきたいと思います。そして、一日も早く、ASEAN NO.1ブランドを達成するとともに、そのノウハウを日本や欧州、さらには米州にも展開し、グローバル事業拡大を推進していきましょう。

5.事業推進体制の見直し

 先程お話ししました組織変更の一環として、二つの大きな事業推進体制の見直しを行います。

 一つは、本年12月末までに矢板事業所のTVシステム事業関連メンバーを、グローバルTVS事業本部の本拠地である堺や、スマートTVS事業本部の本拠地である幕張に集約し、より効率的且つスピーディーな事業運営ができる体制の構築を進めていきます。尚、矢板事業所については、引き続き、物流やサービスの拠点として有効に活用していきます。

 1968年に、栃木県矢板市にカラーテレビの生産工場を建設してから半世紀、矢板事業所からは、液晶テレビ「AQUOS」をはじめとして、当社の成長を牽引する特長ある商品が数多く生まれてきました。この間、絶えず地元でご支援くださった矢板市、そして栃木県の皆様に、改めて心から感謝を申し上げたいと思います。

 もう一つは、1960年に八尾事業所に冷蔵庫の組立工場が竣工して以来、約60年間に亘って継続してきた冷蔵庫の生産を、2019年9月までに終息し、今後はタイの生産会社SATL等での海外生産に切り替えていきます。

 これは、八尾の冷蔵工場が耐震問題を抱えていることに加え、冷蔵事業の存続にはコスト競争力強化が最重要課題であるとの認識のもと、約2年前から慎重に検討を重ね、今回の苦渋の決断に至ったものです。

 これまで、協力会社の皆様をはじめとした数多くの方々に支えられてきた工場を終息せざるを得ないことは誠に遺憾ですが、今回の決断によって、日本市場のみならず、グローバル市場でシェアを引き上げ、冷蔵事業のさらなる拡大を実現していきたいと考えています。改めて、関係者の皆様の長年のご支援に深く感謝いたします。

6.最後に

 日本ではまもなくお盆休みを迎えます。従来、当社は、全従業員がほぼ同時に長期休暇を取得していましたが、この制度も見直していく必要があると考えています。具体的には、国内と海外、営業とスタッフ等、担当する地域や業務に応じて、従来以上に柔軟な休日設定を行い、顧客優先の事業活動を展開することで、事業拡大に繋げていきたいと思います。

 早速、今回のお盆休みから、一部事業部門で試験導入したうえで、恒常的な制度化を検討していきたいと思いますが、これは、決して、休日総数を削減することが狙いではありません。いずれにしても、それぞれの夏季休暇を活用して充分に英気を養い、上期業績の着地に向け、全力で業務に邁進していきましょう。

以上