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「ビンタされるような音を目指した」ビートルズ「ホワイトアルバム」新エディションを聴く
2018年10月4日 07:50
ザ・ビートルズの「ホワイト・アルバム」発売50周年を記念し、全曲の新ステレオ・ミックスと、5.1サラウンド・ミックスに加え、未発表音源も収録した「ホワイト・アルバム」ニュー・エディションがユニバーサル ミュージックより11月9日に発売される。リリースに先駆け、試聴会が開催。ジョージ・マーティン氏の息子である、プロデューサーのジャイルズ・マーティン氏も来日した。各パッケージの価格や収録内容は後述する。
「ホワイト・アルバム」は、1968年11月に、ザ・ビートルズ通算9作目であり、初のダブル・アルバムとして発売された「ザ・ビートルズ」を指す。自身のレーベル、アップル・レコードからの第1弾でもあるこの作品は、後に“ホワイト・アルバム”と呼ばれるようになり、リリースから50年経過した現在でも親しまれている。
ビートルズのアルバムのニュー・エディションとしては、2017年に発売された「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」も記憶に新しいが、それに続いて「ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)」が50周年記念エディションとして複数フォーマットで発売される事になった。
新ステレオ・ミックスと、5.1chサラウンド・ミックスを収録しており、これらは、ビートルズ作品のプロデューサーとして活躍したジョージ・マーティン氏の息子であるジャイルズ・マーティン氏と、ミックス・エンジニアのサム・オケル氏が担当している。
アルバムの楽曲に加え、「イーシャー・デモ」と呼ばれる、ジョージ・ハリスンの自宅で収録されたアコースティック・デモの全27曲も収録。1曲目から19曲目が「ホワイト・アルバム」に収録されたナンバーで、アルバムと同じ順番で収録。20曲目から27曲目はアルバム未収録ナンバーとなる。
4枚目~6枚目は「セッションズ」と呼ばれるもので、全50曲収録。「ホワイト・アルバム」スタジオ・セッションからの音源で、そのほとんどが未発表のものとなる。4トラック、および8トラックのセッション・テープから全曲新たにミックスされた。
「頬をビンタされるようなサウンドを目指した」
ザ・ビートルズの楽曲を活用した、シルク・ド・ソレイユの公演「Love」の音楽監督として、ビートルズに関わるようになったジャイルズ・マーティン氏は、以降、父親に代わって、ビートルズ作品のリミックス、リマスタリングなどを手掛けている。
マーティン氏は今回のホワイト・アルバム ニュー・エディションを手掛けた事について、「引き受けた事を光栄に思っている。世界で一番の宝物の、新しい歴史のページを作っている。偉大なジョージ・マーティンの息子として、“アビーロードの鍵を託された”と感じている。まるで当時の、1968年の世界に流れ落ちるような感覚で作業できた。(新作を通して)皆さんとその世界を共有したい」と語る。
アルバムの魅力については、「1967年に、父はビートルズと深くコラボし、サージェント・ペパーズが生まれた。父はサージェント・ペパーズ以降、ビートルズはもっと違う方向に進むだろうと思っていた。しかし、ビートルズはビートルズなので(笑)反乱を起こし、サージェント・ペパーズとはぜんぜん違う作品が生まれた。それがホワイト・アルバムだ。当時、ある意味、ビートルズにとって“先生”の立場であったジョージ・マーティンに対して、生徒であるビートルズが暴動を起こしたような状態。それによって生まれたホワイト・アルバム、直感的で、エネルギッシュな作品になっている」という。
新ステレオ・ミックス、5.1chサラウンド・ミックスのサウンドについては、エネルギッシュなアルバムである事を踏まえた上で、「直感的な、まるで頬をビンタされるようなサウンドを目指した。それでいて、美しいサウンドでなければならない。例えば、ディア・プルーデンスという曲のギターの入り方は、ステレオ・ミックスでより美しくなった。ジョン・レノンもこういうサウンドを目指していたのではないかと思う。手法としては、彼らが使ったのと同じ機材を活用した。決してレトロを目指したのではなく、彼らのサウンドに“何が必要なのか”を理解していたからだ」。
生まれ変わったサウンドについて、「聴いてもらったポール・マッカトニーとリンゴ・スターから、“まるで、昔のレコーディングセッションの時に戻ったような気持ちになった”と言ってもらえた。今回のプロジェクトで、本当に光栄な事だった」という。
また、「父からは“サウンドだけ、耳から入った音だけではなく、聴いた時にどんな気分になるのかが大切だ”と教わった」と語り、父の教えも活かした結果、生まれたアルバムである事を紹介した。
実際に数曲、試聴すると、中低域の押し出しがパワフルで、非常にエネルギッシュなサウンドに仕上がっている。それでいて音の純度は高く、“鮮烈な音”と言っていい。キレがよく、押し出しが強いだけでなく、細かな音も分解能豊かに描かれる。余韻が広がる奥行きも見やすい。
マーティン氏は、ビートルズのサウンドの激しさについて、「ヘルター・スケルターが生まれた時の話だが、ザ・フーがロンドンでライブをする際に、“今までのどんな曲よりも激しい曲だ”と書かれた記事をポールが読み、“もっとラウドな曲を作るぞ!”と生み出したのがヘルター・スケルター。これがヘビーメタルの始まりと言ってもいい」と語る。
なお、ミックス作業で最も時間がかかった曲は「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」だったという。「あまりにも美しいサウンドの曲であるため、全体を“重々しく”しないように慎重に作業する必要があった。ミックスは、全ての作業が、全ての音に影響するため、ベースの音を重くすると、天から降りてきたようなジョージの歌声が損なわれてしまう。聴いた時に“心にどう響くか”を指標に決めていった」という。
5.1chサラウンドの試聴は行なわれなかったが、その出来栄えについてマーティン氏は、「レボリューション9の、完成した5.1chサラウンドは非常に音が怖いので、聴く時は部屋の明かりをつけたままにしておいてください」と笑い、インパクトの強い仕上がりになっている事をアピールした。
“当時のビートルズ”の雰囲気までわかる
ホワイト・アルバムは、メンバー間の関係がギクシャクした状態で作られた作品とされている。しかし、マーティン氏は「古いテープを聴き返してみると、ビートルズにとって充実した、ハッピーな時間だったのだろうと感じる。当時の彼らはシャンパンの中身がコルクを押し出して、溢れ出るような状態にあった。サージェント・ペパーズ時代は全てが事前に用意され、父が建築家のような役割を果たしていたが、ホワイト・アルバムでは、プラン無しで、アルバムを1つ1つ組み立てていこうとしていた」と分析する。
一方で、「父とアビーロードのエンジニアにとっては過酷な時間だったようだ。それはレコーディングが長時間に渡るためで、例えば夜の11時から、翌朝の6時までレコーディングするなど、イギリスではそういう働き方はしないし、若くなければ付き合えなかっただろう。107テイクまである曲もある。それだけ膨大な素材がある事で、最良の形が得られる。今回は50のアウトテイクも加えている。“曲がどのように発展していくのか”もわかる」という。
当時の空気感という面では、ジョージ・ハリスンの自宅で収録されたというアコースティック・デモである「イーシャー・デモ」も注目だ。自宅録音であるため、リラックスした雰囲気で、しばらく歌った後で「もうちょっと速い方がいいかな」と、中断して歌い直したり、後ろで他のメンバーがテーブルをドラムのように叩いて参加したりと、聴いていると楽しいトラックばかりだ。
マーティン氏は、「何曲からブートレグ(海賊盤)で出回っているが、ここまで高品質なサウンドは今までに無いと思う。また、27曲も収録している。4トラックのレコーダーで録音されたと言われているが、どの機材を使ったのかはわからない。ポールにも聞いたが、“覚えていない”と言われた(笑)」。
「彼らは長い間、AMPEX製の4トラックレコーダを使っていたはずだ。でも、イーシャー・デモのほとんどは2トラックだった。聴いてみると、左と右に別れ、片方で1人がギターを手に歌って、もう片方で他のメンバーが歌っている。4トラックの曲もあるが、(2トラック以外から)他のメンバーの音は聴こえない。全てジョージの家で録音されたのでもないのだろう。ジョージの家で見つけたテープは恐らく、オリジナルではなく4トラックに変換されたものだろう。オリジナルがどうなったかはわからない」という。
一方でマーティン氏は、イーシャー・デモも含め、演奏の合間の会話などから伝わってくる雰囲気について、「とても解散寸前のバンドとは思えない。確かにホワイト・アルバムでは、ジョンとポールが別々に作業をして曲を作るようになるなど、今までと変化していた。その中で、素晴らしいソングライターに育ったジョージが、自分の意見を言うのが難しい状況だったのだろう。だからこそ、ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープスの全体セッションに、世界一のギタリストであるエリック・クラプトンを連れてきたのは、“クラプトンを連れてこれるくらい、僕だって凄いギタリストなんだぜ”というメッセージだったのだと思う」。
「ホワイト・アルバムは、それぞれが好きなように曲を作り、レコーディングできる環境を構築したとも言える。だからこそ、ロング・ロング・ロングでのリンゴのクレイジーなドラミングなどが実現した。スウィート・リトル・シックスティーンのあるテイクでは、ジョージが“どこまでやっていいのかな?”と聞くと、ジョンが“君の好きなようにやってくれよ”と答えるなど、まだ信頼関係があった事が伺える。だからこそ素晴らしい音楽ができたのだろう」と分析した。
最後にマーティン氏は、「父はとても謙虚で、“僕たちの仕事というのは、リスニング体験のお手伝いをしている、音楽に恋に落ちるお手伝いをしているだけだ”と語っていた。それこそが大切な事だと思う。こうしてビートルズの信頼を受けていることが信じられないですが、そこに喜びを感じています」と締めくくった。
各ソフトの詳細
価格は、スーパー・デラックス・エディションが19,500円、3CDデラックス・エディションが3,600円、4LPデラックス・エディションが14,300円、2LPエディションが6,429円。
スーパー・デラックス・エディション(品番:UICY-78856)は、CD 6枚に、音源収録のBlu-rayをセットにしたもの。豪華本付ボックスも付属。
CDの1枚目、2枚目が「ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)」の2018ステレオ・アルバム・ミックス。3枚目がイーシャー・デモ。4枚目~6枚目が「セッションズ」。なお、日本盤のみSHM-CD仕様となる。BDは音源のみ収録で、以下のトラックが楽しめる。
- 2018アルバム・ミックス(ハイレゾ・ステレオ)
- 2018 DTS-HDマスター・オーディオ 5.1 アルバム・ミックス
- 2018ドルビーTrue HD 5.1 アルバム・ミックス
- 2018モノ(オリジナル・モノ・ミックスからのダイレクト・トランスファー)
シリアル・ナンバー入りで、貴重な写真資料や膨大な文字資料等が掲載された164ページの豪華本や、ポートレート写真などのグッズも付属する。
3CDデラックス・エディション(品番:UICY-78857/9)は、CD 3枚組でSHM-CD仕様。CD 1 & 2枚目は「ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)」2018ステレオ・アルバム・ミックス、3枚目はイーシャー・デモ。デジパック仕様で、24ページ・ブックレット付属。メンバーのポートレート写真、ポスター、英文ライナー翻訳/歌詞対訳も付属。
4LPデラックス・エディション(品番:UIJY-75096/9)は、アナログ・レコードの4枚組。完全生産限定盤となる。LPの1 & 2枚目は「ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)」2018ステレオ・アルバム・ミックス、3 & 4枚目はイーシャー・デモ。
LP 1 & 2は、オリジナル盤を忠実に再現したゲートフォールド・ジャケット仕様。LP 3 & 4もゲートフォールド・スリーヴに収録する。4ページのブックレット、ポートレート写真なども付属。
2LPエディション(品番:UIJY-75094/5)は、直輸入盤仕様、完全生産限定盤。アナログの1 & 2枚目は、「ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)」2018ステレオ・アルバム・ミックスを収録。ゲートフォールド仕様となる。
ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム) スーパー・デラックス ・エディション 限定盤 6SHM-CD+Blu-ray | ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム) 3CDデラックス ・エディション 限定盤 3SHM-CD |
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ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム) 4LPデラックス・エディション 限定盤 アナログ | ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム) 2LP 限定盤 アナログ |
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