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「2001年宇宙の旅」がHDRで見違えるほど鮮明に。19日発売UHD BDを観た
2018年12月12日 18:28
スタンリー・キューブリック監督の不朽の名作「2001年宇宙の旅」が、まもなく12月19日に4K Ultra HD Blu-rayで発売される。UHD BD版はDolby VisionのHDR映像で収録されており、AVファンにとっては見逃せない。発売を前に、Dolby Japanの試聴室でその効果を体験した。
UHD BD版「【初回限定生産】2001年宇宙の旅 日本語吹替音声追加収録版 <4K ULTRA HD & HDデジタル・リマスター>」(3枚組)は6,990円。製作50周年を記念して新たにプリントされた70mmフィルム版を元に作られている。また、2K BDも用意され、価格は4,990円。
製作上の都合で当初の11月21日から約1カ月発売を延期した、待望のUHD BD版がついに国内で発売となる。
Dolby Visionの特徴
UHD BD版に採用されているDolby Visionは、映像のダイナミックレンジを広げ、コントラストや色表現力を高める映像技術。光の当たった場所や影のディテール、滑らかな色調の表現力が豊かになり、一段とリアルな描写を可能にする。
輝度0.005nits~1万nitsという広大なダイナミックレンジを表現する「PQカーブ」というガンマカーブを採用。メタデータを使って、シーンに合わせて輝度を動的に設定でき、より細かく制御する場合にはフレームごとでもメタデータを持てる。そのデータをLEDバックライト制御などに活かし、映画の様々なシーンにおいて、正確かつ効率的にダイナミックレンジを広げられる。
SF映画の金字塔である「2001年宇宙の旅」のUHD BD版では、そうした特徴がどのように活かされるのだろうか? 今回、Dolby Vision対応のLG製77型有機ELテレビ「OLED77C8PJA」で実際に映像を観た。試聴室は暗室のため、テレビの表示モードは「シネマダーク」を選んでいる。
UHD BDプレーヤーはLG「UP970」、AVアンプはデノンの「AVC-X8500H」を使用。音声は英語がDTS-HD Master Audio 5.1chで、1968年公開当時の音を再現した「シアトリカルオーディオ」を7.1chサラウンドシステムで再生。なお、UHD BDには日本語吹替も収録され、テレビ朝日放送版にカットシーンを追加収録したWOWOW放送版で、ドルビーデジタル2.0chモノラルとなる。
見違えるほど色鮮やかで高画質。隅々まで観たい
約148分の本編から、Dolby Visionの効果が分かりやすい複数のシーンを観た。いずれも色や質感が豊かで、階調も広く、人やモノがアップで写るカットは驚くほど鮮明。「公開当時の映像と音の再現」を追求してプリントされた、70mmフィルムが持つ情報量の多さは、国立映画アーカイブの特別上映を観た時にも感じたが、UHD BDの映像でもしっかりと活きているのを改めて実感した。
有史前の類人猿とモノリスが出会うシーンでは、類人猿の黒い体毛の毛並みや、それが細かな砂で汚れた感じがよく分かる。明るいオレンジに燃える夕景と影にのまれた大地が一緒に写ったシーンや、この後の月面発掘現場のシーンなど、暗い所から明るい場所まで同時に写るカットも、色が潰れずしっかり描写。フィルムグレインの見え方も目障りではなく自然で良い感じだ。
Dolby VisionによるHDRらしさを特に感じたのは、劇中で地球や月の近傍、そして木星に向かって飛ぶ様々な宇宙船の姿だ。真空の宇宙空間では、太陽の強い光が当たる場所と暗い影の部分の差がはっきりしており、それが無骨で巨大な船体の細かな凹凸や輪郭を際立たせる。影の部分も黒潰れせず、ほんのりと明るく見える。地球や月の反射光で照らされているかのようで、「監督はこんなところまで宇宙のリアルさの表現にこだわっていたのか!」と感動した。
宇宙船の内装も、客席の艶やかなシートからコクピットの硬質な操作コンソール、各種ボタンに至るまで素材の質感がリアルで、計器毎の色の違いも良く出ている。こんな宇宙船に乗ってみたいという思いが強まる。ヘイウッド・フロイド博士らを乗せた月着陸船が月面に降りるシーンでは、赤いコクピットの中にいるパイロットの顔立ちが陰影で分かるほど。取材時に「あれ、そんな細かいところまで見えたかな?」と疑問に思い、自宅でBlu-ray('09年発売)を引っ張り出して同じシーンを観たが、パイロットの姿は赤い色に沈んでよく分からず、改めてUHD BDの高画質さを感じた。
映画では赤い色が至る所で印象的に使われているが、その色の表現の幅が広がっているのも、HDR映像ならではの特徴。たとえば、木星に向かうディスカバリー号に搭載されている、HAL9000コンピューターの不気味に光るカメラレンズ部やその中枢メモリーバンク、故障した(と報告された)アンテナを直すために船外活動に出るフランク・プール副長の艶やかなヘルメットまで、赤味の微妙な違いを映し出す。
有名なスターゲート・シークエンスでは、空間転移の色とりどりの光の筋がぼやけずくっきりしていて、従来のBD映像では白く飛び気味だったカットも色が残っていて鮮やかだ。船外活動ポッドの中のデビッド・ボーマン船長のヘルメットや瞳に映る反射光も綺麗で、これが50年以上前に撮られた映像とはとても思えなかった。
映像とは関係ないが、面白かったのがディスクのメニュー画面。ディスカバリー号の船内居住区にあるHAL9000のカメラやモニターが並んだパネルを模したデザインが使われている。写真でお見せできないので伝わりにくいと思うが、従来のBDとはまったく違うメニュー画面に驚くとともに、制作陣のこだわりを感じ、思わずニヤリとしてしまった。
人間の活動をサポートするAIや長期間居住可能な宇宙船など、描かれる題材は公開から50年経った今、現実味を帯びてきており、その意味でも観た人と色々語り合いたくなる要素が盛り沢山。取材しながら、何が何だか全然分からないけれど深い感銘を受けたブラウン管テレビでの初鑑賞時のことを思い出した。個人的にも思い入れの深い作品で、モノリスが人類を宇宙へと導いて進化を促すという、本作の隠れた主題である“人類進化論”の奥深さに惹かれ、小説版シリーズは「3001年終局への旅」までほぼすべて読み通した。筆者の好きなアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」や、「ゼノギアス」から「ゼノブレイド2」まで一連のゼノシリーズRPGにも、この映画から大きな影響を受けたであろうと思われる描写や背景設定が多々見受けられ、現代の作品や文化に与えた影響力の大きさは計り知れない。
HDR化によって生まれ変わった「2001年宇宙の旅」の映像は、圧倒的な美しさが魅力。UHD BD版はiTunes Storeの4K配信版よりも高いビットレートで記録されているとのことで、Dolby Vision対応機器と組み合わせれば一段上の画質で観られる。高画質なUHD BDで画面を隅々まで眺め、トリビアなネタ探しをするマニアックな楽しみもできそうだ。手元に届く日が待ち遠しい。